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78 少年冒険隊、出陣します!


 無事、孤児院初めてのお仕事も成功し、街の人たちからの評価を得ることが出来ました。

 旦那様からお給料をもらい、今後も雑用仕事を与えられることになっています。まあ、後は少しずつ信頼を育てていくしかありませんね。

 大丈夫、大丈夫です。保障なんてありませんが、世の中なんとかなるものなんですよ。


 とりあえず、孤児院の問題はそれなりに解決し、私も居心地がよくなりました。

 ですが、そろそろ本題の方に踏み込まないといけません。二番の異世界転生者、ハイドさんと接触しなければこの街に来た意味がないんですから。

 礼拝堂にて、私たちはシスターのミテラさんを問い詰めます。ですが、彼女は数人の子供たちに囲まれ、それどこれではない様子でした。


「角を……! 角をー! 引っ張らないでくださいー!」


 えぐえぐと涙ぐみながら、必死に頭を死守する白髪の女性。完全に子供たちの玩具にされています。

 ミテラさん、優しくて強かですけど深刻なレベルでポンコツなんですよね。彼女がもっとうまく立ち回れれば孤児院の問題も軽減されたのでは? なんて、終わったことをぐちぐち言うのはやめましょう。

 モーノさんはため息交じりで、子供たちを払っていきます。彼らは「ちぇっ」と文句を言いながら、教会の外へと走っていきました。


「なんつーか、そろそろ話を聞きたいんだが……」

「そ……そうでしたね」


 ダンジョン攻略を中断して、モーノさんたちはここで待っています。暇じゃありませんし、早く話を進めてほしいんでしょうね。

 ミテラさんはシスターのベールをかぶり、シャキーンと眉毛を釣り上げます。


「お察しの通り、この孤児院は怪人ハイドさんから支援を受けていました。彼の調査に来た貴方たちを警戒していたのも事実です。ハイドさんはこの街のヒーローなんですよ……」


 ヒーローですか……私たちはそのヒーローを売り渡す外敵って事ですね。

 ですが、ハイドさんの技術は世界線を越えた異文化。必ずしもこの街を幸福にするとは限りません。

 実際にその発明は王の耳にも届いています。ハイドさんが悪魔から知恵を授かった邪教徒と判断された場合、街は戦乱に飲まれてしまうでしょう。

 目の前の幸福に囚われてはいけません。先の崩壊を予見しないと!


「街の空気を感じていますか? 皆さん、貴方と同じようにハイドさんを持ち上げ、発明に歯止めが効かなくなっています。彼の作るものはこの世界の物ではないんですよ」

「この世界……? いったい何の話しでしょうか」


 何度目か分かりませんが、ここで異世界転生者に関しての説明スタートです。ここを知ってもらわないと話が進みませんからね。

 ミテラさんは困惑した様子でしたが、私たちの言葉を信じてくれました。流石は神に身をゆだねた聖人です。


「そうですか……何だか大変な話ですね……ですが、私もハイドさんには一度しか会っていませんし、詳しいことは分からなくて……」

「いや、こっちもいきなり悪かった。今の話、頭の片隅にでも入れておいてくれ」


 どうやら、彼女は異世界転生者のことを全く知らないようです。顔には出していませんが、たぶんモーノさんもがっかりでしょうね。

 まあ、気長に調査するしかないでしょう。旧炭鉱のダンジョンも攻略していませんし、手詰まりでないだけマシでしょう。

 話を終え、私とモーノさんは礼拝堂を後にしようとします。ですが、そんな私たちをミテラさんが呼びとめました。


「あ、そうでした。ハイドさんから直接商品を仕入れているお店を知っています。取引の現場を抑えれるかもしれません」

「本当か!」


 おっと、別ルートからの情報がありましたか。こっちの方がよっぽど重要そうです。

 わざわざ敵の本拠地に乗り込まなくても、外出時を狙っちゃえば良いわけですしね。まあ、商品取引は部下に任せているらしいですが、捕まえれば状況も動くでしょう。

 とりあえず、耳を傾けていますか。そう思ったとき、何者かが私の服を引っ張りました。


「お姉ちゃん。ちょっといいー?」

「あ、ジェイさん。はいはい、なんですか?」


 葉っぱで飾ったストローハットをかぶった少年ジェイさん。彼に手を引っ張られ、私は教会の外へと連れ出されました。

 訳も分からないまま、少年とランデブーする私。どうやらジェイさんは私をどこかに連れていきたいようですね。


「ちょっと付き合ってほしいー」

「デートですか? おませさんですねー」


 まったく、もてる女は辛いですよ。私から放たれる大人の魅力に轢かれちゃいましたか?

 でもでも、ちょっと歳が離れていますよ! 私は歳上の方が好みですし、流石にお付き合いするのはちょっと……

 なんて私の妄想をジェイさんはバッサリと切り捨てます。


「トマスの奴が動き出したんだ。お姉ちゃんを呼んでるー」

「あ、デートのくだりはスルーですか」


 ですよねー。まあ、分かってましたよ。

 炭鉱の街を走り、森の方へと向かう二人。さっきから結構走ってますし、子供が出歩くには距離がありますね……


 街を後にし、完全に森を突っ走ります。

 ですが、ちょっと待ってください。貴方の活動範囲はこんなにも広いのですか! 流石にこれは子供の冒険ってレベルじゃありませんよ!

 モンスターも出るみたいですが、ジェイさんは返り討ちにしているみたいです。これ、絶対普通じゃないですよね。

 はあ……息切れもしてきましたし、本当に何なんでしょうか。期待と不安が半々で、私は子供たちのお遊びに付き合うのでした。









 深い森の中、豆の実る蔓の上に木製の小屋が作られていました。

 作りは粗末ですが、それでも人が住むには十分なほどの完成度です。ちゃんと木板によって組まれ、窓やバルコニーまで作られていますね。

 まさか、これってジェイさんが……いえ、絶対そうでしょう! 所々、植物魔法によって接続部が編まれています。なんという技術ですか!


「これ、ジェイさんが作ったんですよね……もう子供のお遊びじゃないですよっ!」

「うん、おいらたちは本気だよ。この秘密基地はトマスとアステリで作ったんだー」


 こんの三バカ! ガチの大冒険を企んでますね……

 ですが、ようやくここに呼ばれるほどの信頼度を手に入れました。秘密基地に招待されたという事は、同じチームに入ったと見ていいでしょう。

 私は小さかったころのわくわくを思い出しながら、ジェイさんの後に続きます。蔓によって組まれた梯子。ぷっつりと切れそうで怖いですが、下を見ないように上っていきました。


「すっご……この梯子、ちゃんと組まれてる……」

「おいらが作ったんだよ。もっと褒めてー」


 のんきに照れていますが、そんなレベルじゃないんですって!

 梯子を上り終え、木のバルコニーに足をつけます。そして、葉っぱのカーテンをくぐり、小屋の中へと足を踏み入れました。

 中で待っていたのはトマスさんとアステリさん。トマスさんは偉そうに腕を組み、葉っぱのソファーでふんぞり返っています。


「よく来たな。ここは俺様たちの秘密基地、トマスさまのツリーハウスだ!」

「わあ、こんなにも素晴らしいお城に呼んでもらって光栄です」


 とりあえず、最底辺の道化師らしい言葉でご機嫌を取ってみましょう。

 単純なのか、おバカなのか。トマスさんは上機嫌で「ふんっ」と鼻を鳴らしました。


「この基地はな。俺様が材料を集め、アステリが絵に描いて、ジェイが魔法で組んだんだよ。この俺様、トマス・ソーヤーさま伝説の第一歩だ!」

「と……トマスくん。勝手に苗字を作っちゃダメだよ」


 懐から木の棒を取りだし、トマスさんが立ちあがります。アステリさんは彼に付きっきりですね。

 そんな彼らを呆れた様子で見ているジェイさん。ですが、彼も楽しそうに見えます。良いトリオなんでしょう。

 ですが、この三人はハチャメチャの悪ガキです。子供がモンスターの出る森に入り、人が住める小屋を作ってるのはやりすぎですよ!

 完全に、巻き込まれちまいましたねー。トマスさんは木の棒を私に突き付け、命令を下します。


「テトラ、お前に特別任務を与える! ツァンカリス爺さんが隠してる秘密の部屋を調査してこい!」

「うえー!」


 あっちゃー、私が旦那様の宮廷道化師として働いていることを知っていましたか。それで、上手く利用して財宝の調査をするってわけですね。

 恐らく、トマスさんは冒険気分で旦那様の隠し財宝を盗み出すつもりです。うーん……街の人からの信頼を得るためには盗みはダメなんですけどね……

 ジェイさんが心配そうに私を見ています。ありゃりゃ、やっぱり私が何とかしないとダメですか。そうですか。


「了解ですトマス隊長! 隠し部屋までの経路を確認してまいります!」

「よし! 頼んだぜ!」


 とりあえず請けてみます。まあ、本気で旦那様を裏切るような真似はしませんけどー。

 彼らが屋敷へと盗みに入った場合、孤児院の未来は危うくなるでしょう。後のことは知らないと言いましたが、組み上げた舞台を壊されるのは気分が悪いですね。

 それに、ジェイさんは親友のトマスさんに付き合っていますが、本心では嫌がっています。彼は自分のやりたいことを見つけました。その夢を台無しにされるのもダメです!


 まったく、大迷惑な少年ですよ!

 どうやら、私の戦いは第二ラウンドへと移行してしまったみたいです。












 街に戻り、私は旦那様のお屋敷でいつも通りお話をします。

 最近、旦那様の愚痴は少なくなり、今は老人の話し相手という感じになっていました。そろそろ、私のお仕事も終わりが近づいているようです。

 それは旦那様も分かっているのでしょう。彼は察しが良いので、私がこの屋敷で働きだした理由も知っています。だからこそ、用が無くなったこともお見通しでしょうね。


 仕事を終え、私は旦那様のお屋敷を勝手に歩きます。

 信頼を得ているので、これぐらいのことは平気ですね。自然な顔で屋敷の間取りを確認し、自然な顔でシークレットルームを探しました。

 事前に使用人の小人さんから部屋の場所は聞いています。なので、それはあまりにもあっけなく見つかりました。


「ここがシークレットルーム……」


 見た目はただのドア。他と違いはありません。

 私は平気な顔でドアノブを握り、ガチャガチャと動かします。


「まあ、開きませんよねー」


 当然開きません。シークレットですもの。

 恐らく、鍵は旦那様が持っているんでしょうね。まあ、開錠はジェイさんの魔法で出来るらしいので、ここまでの安全経路を見つければ任務完了です。

 さって、この部屋ですが、中に財宝が無いことは分かっていました。ですが、私はトマスさんを懲らしめるためにも部屋の中を見せるつもりです。

 これは危険な賭けなんですが……


「テトラ様? 何をしてるのですか?」

「どわわっ……!」


 話しかけたのは小人のマイアさん。小さくて全く気づきませんでしたよ……

 まだ何も悪いことをしていませんし、ここは正直に話していきましょう。最も、都合が悪い部分は話しませんけどね。


「シークレットルームが気になって、中を見ようとしました」

「鍵は旦那様が持ってます。でも、面白くないらしいので見ない方が宜しいかと」


 やっぱり、面白くないんですか……

 では、旦那様がため込んだお金はいったいどこに? 領主としてこの歳まで働き、質素な暮らしをすれば莫大な財産が築けるはずです。

 まだまだ、ツァンカリス卿の謎は解けていませんか。子供たちとの遊びを含め、調査続行です!


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