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77 街を彩り、心よ開け!


 今日は晴天、絶好の園芸日和ですねー。

 マイアさんの協力もあって、お花の仕入れは上手くいきました。ぶっちゃけ、この世界の民度は低いので荒らされてしまいそうです。最悪の事態を想定し、森に咲いていた花で十分でしょう。


 後、ミテラさんとジルさんの二人と協力し、それを植えるための道具も用意しました。私の現代知識とジルさんの錬金術があれば無敵ですね。スコップも熊手も見事な完成度です。

 設置場所は旦那様から指示を仰ぐことになりました。何だかんだで彼も世話好きで、私たちのお仕事に付き合ってます。


「勘違いするな。これは監視だ。お前たちがバカな真似をしないようにな」


 あー、はいはい。よく分かりましたー。

 旦那様のツンデレは放っておいて、私は子供たちを率いて戦場に出ます。

 そう、これは街を巻き込んだ大戦争。正しく心と心のぶつかり合いと言えるでしょう。

 さっそく、あちらさんからの攻撃が放たれました。


「ツァンカリスの奴、孤児院の奴らを連れて何をしようとしているんだ……」

「街を歩かせないよう、何度も頼んでいるんだけどな……」


 街の人たちから向けられる視線。皆さん疑心の様子で白い目をしています。

 子供たちは怯え、ミテラさんとジルさんは警戒した様子。あー、ダメダメですね。どっちもダメダメです!

 もっとこう、歩み寄るってことをしないと何も変わりません。私にはそれが出来ます。だって、どちらの事情も関係ない赤の他人ですからね!


「はい、皆さん! ちゃんと街の人には挨拶ですよ! 気持ちの良い一日は気持ちのいい挨拶からです!」

「こ……こんにちわー!」


 子供たちに挨拶を促し、少しずつ人々の心に触れていきます。焦りは禁物。ですが、攻める時はとことん攻めなくてはいけません。

 こちらの挨拶に対し、街の人たちは困惑します。ですが、悪い気はしていないでしょう。

 そうです。これが空気を変えるという事です。

 空気ってのは難しそうに見えて、実はとっても簡単なんですよ。誰でも出来る些細なことでそれは瞬間的に動きます。ようは見極めですね。


「皆さまにご報告です! 子供たちの手によって街にお花を植える。これは領主の指示による正式な社会活動です!」

「そうやって街に入り込み、物を盗む気だろう!」


 誰かが放つ心無い一言。

 演出ありがとうございまーす。こちらの言い分を自然に放てますね。


「な……なんて失礼な! 彼らは教会によって優れた教育を施されています。物を盗んだりなんてしません! みなさーん! 誰か子供たちが物を盗んだところを見ましたかー! はい、挙手をお願いしまーす!」


 誰も手を上げませんし、言葉も止まりました。

 挙手をして目立ってまで、嫌味や不満を放つ度胸はないんでしょう? 人ごみの中で誰にも見られないなら何とでも言えますよねー。

 こちらは事前に子供たちと話し合い、行った悪事の数々を把握しています。いたずらはまあ、多々ありました。ですが、物を盗んだ報告は二、三件しかないんですよ。

 ゼロじゃないですけど十分ですね。証拠も上がっていませんし、涼しい顔で嘘をつきましょう。


「ほら、いないじゃないですか! 彼らは決して物を盗んでいません! 大丈夫です! この私が責任を持ちます!」


 責任なんて持つわけねーです。こっちは最底辺の奴隷ですし、バックレたって痛くも痒くもないんですよねー。

 ですが、街の人たちは何も言い返しませんでした。私が勢いで押し切ってしまったからです。

 全ては道化師の口車。そこに正義なんてありません。

 だから、これは戦争なんですって。ガチのマジで潰しに行きますからね!









 私の演説が功を奏し、お仕事をする環境が整いました。

 これで邪魔は入りませんし、結果を出せば評価してくれるでしょう。あとは完璧に仕事をこなすだけですね。

 とりあえず、ジルさんと私で指示を出します。土を耕して石で囲い、そこに林から取ってきた腐葉土を混ぜ、最後にお花を植える。

 私からすれば簡単ですが、読み書きも微妙な子供に教えるのは大変です。そこはまあ、ジルさんを頼るしかありません。


「良いかい。ゆっくりで良いんだ。ゆっくり、少しずつやり方を覚えよう。僕たちはなるべく手を出さないからね」

「はーい」


 彼女に対して子供たちは素直です。たぶん、頭の良い人が分かるんでしょう。舐められてる私とはちょっと違います。


 ですが、そんな子供たちの中に一人。何とかして仕事をサボろうとする人がいました。

 その人はリーダー格で、周りが引っ張られてしまう危険性があります。釘を指したいのですが、彼の手口は非常に厄介なものでした。


「うっわ、凄え! 土を耕すのは楽しいなー! 楽しいなー!」

「そ……そんなに楽しいの……?」


 大げさに鍬を動かし、花壇の土を耕していくトマスさん。そんな彼をアステリさんは羨ましげに見ていました。

 土を柔らかくするのは結構な重労働です。楽しいとは思いませんけどね……

 どうやら、これはトマスさんの策略のようでした。


「じゃあ、アステリ! 特別に代わってやるよ!」

「あ……ありがとうトマスくん!」


 彼から鍬を受け取るポンコツ少女。アステリさんもアリシアさんに負けず劣らない純粋さですね……

 私はトマスさんの横に立ち、膝をかがめます。そして、彼の肩に馴れ馴れしく手を回しました。


「トマスさーん、なーにしてるんですかー?」

「あ……あはは……いや、アステリの奴が代わってほしいって言うからさ」


 ジェイさんの言ってることがよく分かりました。

 トマスさん、私に似てるな……ろくでもないところが特に……

 彼の行うイタズラによって、孤児院の評判は一層悪くなっています。ミテラさんやジルさんの静止も効きませんし、これは私の担当ですかねー。

 なんか、自分に似てるからこそイジワルしてやりたいんです。貴方の悪巧み、絶対に暴いてやりますから!


 トマスさんから鍬を受け取り、危なっかしくそれを振るうアステリさん。

 使い方がまるでなっていませんが、これも勉強です。汚れたくないですし、絶対に手は出しませんからね。

 なんて考えていたら、彼女から何者かが鍬を奪います。それはあまりにも意外な人物でした。


「じれったい……貸せっ! 腰の使い方がまるでなっとらん!」

「は……はい!」


 重労働がまるで似合わない旦那様。手を出したくて仕方がなかったのか、小奇麗な服装のまま土に足を付けます。

 ですが、彼も若くはありません。初めは張り切って土を耕していましたが、すぐに息切れをしてしまいました。

 なぜ体が動かないのか分からない。そんな様子で、旦那様は鍬を動かし続けます。

 見かねた小人のマイアさんが、肩に乗って彼を止めました。


「旦那様! もう若くないんですから。ほら、服も汚れてしまって……」

「はあ……はあ……子供は嫌いだ……若い頃を思い出す」


 鍬をアステリさんに返し、旦那様は花壇から出ます。そして、民家の壁にもたれ掛かり、そこから子供たちを見ました。

 皆さん、生き生きと働いていますね。私を含め、若い人には可能性が溢れています。

 マイアさんは旦那様の肩に座り、そこで足を伸ばしました。


「もう、休んでも良いんですよ。未来を認める時なのかもしれません」

「まだまだ……私にはやるべき事がある……」


 老年の彼はずっと戦い続けています。

 たぶん、彼の戦場は私の戦場と同じ。心と心のぶつかり合いでしょう。


 やがて、旦那様は一人の少年を見つけます。

 その少年は一人で黙々と働き、鮮やかな手付きで花を植えていました。その表情は真剣そのものです。

 やがて、彼はバケツに手を突っ込み、中の水を巻いていきます。そして、土で汚れながらも汗を拭い、「よし出来た!」と笑みを浮かべました。


「テトラお姉ちゃーん! こっちは出来たよー!」


 山高帽子をかぶったジェイさん。彼の前には白と黄色の花が鮮やかに輝いていました。

 私の世界と比べて、花は小ぶりで色は悪いです。ですが、私は初めて花というものを美しく感じたかもしれません。

 そこで、気づきました。


 あ、私も彼らから与えられてるんだなっと。


「ねえ、お姉ちゃん見てよ! 精霊が歌ってる! 街に緑が溢れて生き返ったんだ!」


 両腕を広げ、私の真似をするように街を見渡すジェイさん。ここだけではなく、別れたジルさんの方も花壇が完成したようです。

 土と岩だけの採掘街に色が咲きました。植物が増えれば、その精霊も生き生きするのでしょうか?

 うーん、分かりません! だって、見えませんもの!


「ジェイさん、私に精霊は見えませんよ!」

「見えなくても良いよ! 見えなくても良いんだ!」


 勝手に納得するジェイさん。やっぱり分かりません!

 ですが、私の目にも見えるものがあります。花壇が完成したことによって、一部の人たちがその頑張りを評価しているんですから。

 どこから現れたのか、一人のお婆さんが私たちに拍手を送ります。そして、一言だけ彼女は言いました。


「綺麗だね。ありがとうよ」


 それは本当に些細な行動だったのかもしれません。ですが、お婆さんの言葉は私たちの心に響きます。

 子供たちだけではありません。この場に居合わせた街の人たちにも、彼女の声は聞こえた事でしょう。

 これは最初の一歩です。今日の仕事によって街が変わるはずがありません。


 ですが、確実に動き出しています。

 どうやら私の出番はここまでのようですね。


 それでは占めと行きましょうか。

 私はシスターのミテラさんへと歩きます。そして、右手を前に出しつつ、丁寧に頭を下げました。


「これにて幕引きです。お騒がせしました」

「とんでもありません! 貴方のおかげで私と子供たちは……いいえ、キトロンの街は変わり始めたのですから!」


 ふふふ……お礼などいらないのです。

 ハイドさんの情報を素直に話してくれるのならなーっ!

 慈善事業なんてまっぴら御免です。貴方がハイドさんから支援金を受け取っているのは確実。実はその情報を狙っていたんですよねー。

 ま、片手間ですけども。ほらほら、目的は後からついてくるってこういうことですよー。


「ミテラさん、ハイドさんのことを話してください。支援金を受け取っているのは知っています」

「分かりました……私の知っていることなら……」


 ミテラさんがそう言いかけた時でした。

 突然、赤い影が現れ、彼女が頭に被っていたベールをはぎ取ります。

 神に祈りを捧げるシスターは頭を隠すのが当然。それが神に対する礼儀であり、教会のルールです。

 だからこそ、ミテラさんはシスターに扮していたのでしょう。それが、今の瞬間に分かってしまいました。


「は……わわわ! か……返してください! 角が! 角があああ!」

「狼を騙そうなんて図々しいのよ。か弱い子ヤギさん!」


 ベールをはぎ取ったのは狼少女のメイジーさん。香水で隠されたにおいを嗅ぎ分け、ずっとこの瞬間を狙っていたのでしょう。

 彼女の登場にも驚きましたが、一番驚いたのはミテラさんの頭です。悪魔のように曲がった角にピンッと立った耳。髪は真っ白で、ふんわりと癖毛がありました。

 それを見た街の人、彼らの一人がとんでもない勘違いをします。


「あ……悪魔だ……シスターが悪魔に変異した!」

「違います! 私はヤギの獣人です!」


 顔を真っ赤に染めるミテラさん。

 そこからは大混乱。まさに混沌の一言ですねー。


 ですが、この事件は街と教会を繋ぐきっかけとなりました。旦那様も協力し、ミテラさんがヤギの獣人だと街の人たちに理解してもらったからです。

 当然、メイジーさんはモーノさんにど怒られました。流石にデリカシーがなかったからか、こんなに怒ったモーノさんは初めてですね……


 ハイドさんのことも聞きそびれちゃいましたよ!

 あははー、まったく面白いんですから。困ったものです!



キャラの多さが爆発した。

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