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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第一章 黒猫さんと白猫さんのお話し
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07 異世界知識が頭に叩き込まれていきます


 奴隷市にて、私は手かせ足かせを付けられて店頭に置かれます。

 まるで動物園の動物のように見世物にされる私。正直、羞恥心がぱねえ状態ですが、徐々に快感になっていくから大丈夫です。


 いえ、違います。私はMじゃありませんから。全然違いますから!

 私の他にも奴隷が並べられていますが、みなさん反抗的な様子で微動だにしません。リラックスしまくってる不届き者は私だけですね。

 他の人たちはプライドが高すぎるんですよ。底辺に落ちたことを受け入れ、前向きに生きていかなくてどうするんですか。魂が弱すぎます。


「そう前向きに! さあ私を買ってください! 出来ればお金持ちのイケメンが買ってください! そして、あわよくば滅茶苦茶にしてほしい!」

「うわ、何だこいつ欲だらけだ!」


 いきなり叫んだら、お客さんを驚かせてしまいました。自分の欲望を前面に出しちゃダメですね。ここは慎重にアッピルしていかないと!

 ですが、手足が拘束されて動くことが出来ません。さて、どうしましょうか。決まっています! 手足が動かないなら口で勝負するまでです!


「お兄さんお兄さん、ちょっと」

「ん? なんだ?」


 気の良さそうなお兄さんに声をかけます。そして、唇をつきだし、懸命に吹く!

 この世界に著作権はありません。自分の好きだったJポップを口笛で吹きまくる!


「ピーピーピピー……」

「おお……!」


 食いつきました! 興味津々といった様子で私を見てきます。

 これぞまさに現代知識無双? いえ、ちょっと違うような……まあ、良いでしょう。

 さあ、今は一人ですけどこうやってコツコツと人を集めていきます。そして、一番良さそうな人に露骨なアピールをして私を買わせる。その人は良い人だから手厚く迎えられます!

 か……完璧すぐる……私って天才だ……

 と思った時、何かが私の頭をひっ叩きました。


「いだっ……!」

「何をやっているんだお前は! 余計な事をするな!」


 商人さんが布きれを叩きつけたようですね。確かに、これなら商品を傷つけずにお仕置きできます。

 ですが、なぜ止められたのか理解に苦しみます。私は商人さんの商売が成功するようにと懸命に行動しただけなのに!

 そうですよ。感謝されても怒られる理由はありません!


「自己アピールですよ。商人さんだって高く買ってほしいでしょう?」

「お前と話していると頭が痛くなってくる……」


 盗賊の兄貴さんに言われたことをこの人からも言われてしまいます。私って頭痛くなりますか? 私の存在がみなさんの頭を痛くしていますか?

 グッドです。むしろベリーグッド。どんどん頭痛くなってください。それは私を理解しようと懸命になっている証拠なんですから。

 はい、フラグ立ちましたね。今ならこの人からも情報を引き出せそうです。


「ところで、相談があるんですけど。商人さんは商人なんですから、お金とかに詳しいんですよね? この国の通貨とか詳しく教えてくださいよ」

「なぜ私が商品と会話せねばならない。時間の無駄だ」


 まあ、当然そうなりますよね。ですが私も引き下がりません!

 上手く丸め込んで見せます。この人は人種差別をして、幼気な少女を売りとばす最悪な人。ですが、それでも一人の人間なんですよ。

 一人で生きれる人間なんていません。仲間のいない人間もあまりいません。ハートをがっしり掴めば、こんな人とでも上手くやっていけるはずです!


「どうせボーっとお客さん待ってるだけじゃないですか。ほら、私に教養が身に付けば商品価値が上がりますって。お客さんも大喜び、高く売れて商人さんも大喜び、ついでに私も大喜び。ほら、みんなが幸せになれるじゃないですか」

「……まったく変わった奴だ。まあ、暇つぶしにはいいだろう」


 ほーれみたことか! 食いついた! 完全に食いつきましたよこれー!

 私、前進してますよ。この異世界で逞しく成長しているのが分かります。この調子どんどん行きましょう。

 会話のキャッチボールは苦手ですが、会話のドッジボールなら大得意です。まだ、私はゲームオーバーじゃありませんよ。




 少しの間、私は商人さんから商品価値について聞いていきます。

 金の値段、小麦の値段、奴隷の値段。自分の世界での商品価値と比較して、この国の通貨について学んでいきます。

 この国の通貨はGゴールド。あらゆる商品から照らし合わせた結果。1Gは日本円で100円ちょっとの価値だとわかりました。

 つまり、10000Gで売られた私の価値は、日本円で110万の価値です! 貧乏中学生の私からしてみれば十分高い! うれしい! でも、相場より安いらしいですはい。


 さてさて、ここから得られる知識はこれだけではありませんよ。

 110万のお金がポンポン動いているんです。この国の情勢は比較的裕福だと判断していいでしょう。

 グリザさんの村が進軍されたことを考えると、この国は勝ち組。つまり搾取する側の大国で間違いないですね。

 私と同じように売られている女の子たちは敗戦国の別人種。私のような黄色人種も違和感なく混ざれて好都合といえます。

 私、普段はふざけてますけど、マジになったらちゃんとやりますよ? 情報は武器です。私はもっともっと、この世界のことを知らなければなりません。


「数字について詳しく教えてくださいよ。この世界でも0から9で10になったら桁が上がるんですね」

「……何を言っている? まあ、少しなら話してやろう」


 あれ? なんか、話が噛み合っていないような……ものすごーく重要な部分を華麗にスルーされたような……

 そんな疑問を感じていると、商人さんにとんでもない変化が起こります。


「レヌムムアルドヘルノムズリザイスアアーマ」

「ファッ!?」


 突然の謎言語!? なんで!?

 なにが何だか分からないまま、商人さんの謎説明が続きます。私は呆然としながらその話を聞いていました。


 いったい何が起きたのでしょうか。少し考えて、ようやく状況を理解しました。

 私の世界では0から9までが一桁で、10から99までが二桁、そして三桁四桁と数字は増えていきます。それは私の世界が作り出した知識で、こっちの世界は別の数字が発展しています。

 本来は理解できるはずのない異世界の数学事情。ですが、私には【異世界言語理解】のスキルがあります。便利なこのスキルは、複雑な部分を知ってる仕組みで訳してくれたようですね。

 商人さんはこっちの世界の数学を解説しました。その結果、【異世界言語理解】のスキルがバグっちゃったって感じでしょうか。

 便利すぎて逆にカオスなことになりましたよ。今後は触れないようにしましょう。




 少しの時間でしたが、私は商人さんと会話しました。

 彼は遠くの街から出稼ぎに出ていて、そこでは別人種を見下すのは当たり前だったようです。なので、とりあえず注意だけはしておきました。

 商人さんは怒ったり呆れたりしながらも私と会話してくれます。心なしか楽しんでいるようにも感じますね。

 彼が私の御託に付き合った理由。それは教養の高さにあるようです。

 眉をしかめつつ商人さんは聞きます。


「お前……没落貴族か何かか……?」

「え? 別にそんなんじゃありませんけど」


 いきなり貴族と間違われる私。いやですねえ、そんなに高貴に見えちゃいますか? まあ、私ですから仕方ありませんよね!

 なーんてわけではないようです。


「何なんだお前は……やけに呑み込みが早い。なぜここまでの基本教養を身に付けている。おかしいぞ……」

「私はテトラ、テトラ・ゾケルですよ」


 わあ、鋭い商人さんですね。こんな仕事をしているんですから、それなりの修羅場は掻い潜っているというわけですか。

 この世界の人たちは基本的に教養が足りません。一部の貴族以外はまともな勉学をしていないようですね。

 私には中学生までの知識があります。それを披露したのが疑われる原因でしょうか。まあ、別にいいんですけどね。

 商人さんは険しい顔をすると突然こんなことを言い出します。


「……お前に商人の心得を教える。その腐った耳に叩きこんでおけ」

「え……何ですか急に……」


 突然の教育指導宣言。そこまで求めていないんですが……

 ですが商人さんは真剣です。私のことをずっと見下していたこの人が、今は正しい感情で向き合っている。それは胸を打たれるものでした。

 彼が積み重ねた商人としての人生。彼だからこその価値観。それを言葉一つ一つから感じます。


「私は長くこの商売をして色々な人を見てきた。大抵は腐った目をしていたが、事を起こす者は臭いで分かる。少し、面白いものを見たくなっただけだ」


 異世界転生者の臭い。分かっちゃったみたいですね。

 別世界の人間ってやっぱり魅力を感じるのでしょうか? 棚ぼたですが、恵まれた知識は必ず活かしてみせます。


 嫌な人だと思っていた人が私を認めてくれました。やっぱり、言葉というものは人と人を繋ぐ武器なんですね。

 この異世界で何をすべきなのか。また少し、見えてきたのかもしれません。




 日は進み、私の値段は少しずつ上がっているようです。

 奴隷たちは数日この場所に保管され、値段が固まったらその時点で売却される。ここのお店は、ネットオークションのようなシステムで動いているんですね。

 なら、頑張って自分の値段を上げます。私に高額のお金を払ってくれた人なら、例えどんな人でも向き合ってやりましょう。

 評価されたならそれに応える。すきを見せたら逃げてやるのも手の一つ。

 できますよ。やってやります!

商人さん「この世界でも数字は二進法を使っている。だが、お前らの世界に比べてまだ完全に確立されたわけではない」

テトラ「私の世界で二進法が確立されたのは17世紀。異世界を中世として考えるなら、やっぱり数学事情にずれが出ちゃいますね」

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