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72 転生者はどちらでしょうか?


 教会の孤児院にて、子供たちとお喋りしつつモーノさんを待ちます。

 会話の中でハイドさんの情報を探りましたが、彼らは全く知らない様子。まさに闇の商人といったところですか。捜索は難航を極めそうです。


 それから。なんやかんやとしている内に、人形劇を披露する流れになってしまいました。

 こうなってしまえば捜索も何もないですね。私は子供たちを楽しませるため、ハイテンションで物語を語りました。

 期待に応えるのが道化のサガ。皆さんが私の劇を求めるのなら、私は喜んで披露しますよ!

 なーんて、バカをやっていたらモーノさんに見られちゃいました。はい……


「テトラ、なにやってんだ……」

「あはは……子供たちに人形劇を披露してるんですよー」


 アリシアさんが呼んできてくれたみたいですね。ま、合流出来てなによりですよ。

 とりあえず、劇を終わらせて再び聞き込みへと入ります。もう、ハイドさんの情報は期待できないので、今度はジェイさんに魔法の事を聞いてみましょう。

 彼、大きな蔓のような木を一瞬で生やしましたからね。あれは素人目から見ても異常です。


「あの、ジェイさん。さっき見せてもらった魔法はミテラさんに教わったんですよね?」

「最初はミテラ先生。そのあとジル先生が詳しく教えてくれたんだー」


 ませた雰囲気の少年、ジェイさんはそう答えました。

 話を聞くところ、ミテラさんが教えた基本をジルさんが底上げしたように思えます。それも、常識では考えられないほどのレベルまで昇華してますね。

 この教会を預かってるのはシスターミテラさんで間違いありません。では、ジルさんの役割は? 単なる補佐にしては引っかかります。

 私が疑問に思っていると、モーノさんが代わりに聞きました。


「そのジルって奴は何者なんだ? 相当な知識を持っているが……」

「ジル先生は数カ月前にシスターになったんだよ。傷だらけになって死んじゃいそうだったところをミテラ先生が助けてあげたんだー」


 おーっと、いきなりハードな展開からスタートしましたね。これで何もないわけがありません。

 ジル・カロル、眼鏡をかけたシスターの少女。男口調のサバサバ女子って印象です。

 ミテラさんの影に隠れていましたが、こちらの方が本命でしたか。さらに、ジェイさんの口から驚きの情報が語られます。


「ジル先生、ミリヤ国から逃げてきたんだって」

「なに……! ミリヤ国だと!?」


 まあ、モーノさんが驚いているだけで、私は知らない国ですがー。

 一応、空気読んで声を張り上げてみます。


「知っているのかモーノさん!」

「ああ、ミリヤ国はスノウの故郷だ。魔王に滅ぼされたな……」


 ここでその話が繋がってきますか! 何という巡り合わせです!

 ジルさんがボロボロになって逃げてきたのは、魔族の襲撃を受けたからで間違いないでしょう。全然実感がありませんでしたが、本当に世界は魔王の力に飲まれようとしているんですね。


 魔王とは、魔族を率いる王。この国では彼を悪の親玉のように扱っていますが、私からして見ればただの別人種です。

 ようは戦争ですよ。種族間の溝が引き起こすよくあることです。

 ですが、子供たちにとっては違うみたいですね。本当に恐怖の対象として、魔王という存在を見ているようでした。


「オイラ感じたんだ。あの夜、炭鉱の向こうで凄い魔力のぶつかり合いを……」

「私も見たです。物凄い光……とっても怖かった……」


 銀貨のような瞳をした少女、アステリさんが会話に入ります。やっぱり、聖国にとって魔王は悪の存在なんですね。

 魔王……ミリヤ国……そして、ここまで逃げてきた少女ジルさん。

 これらと二番の異世界転生者、ハイドさんとの関係は……?

 点と点が繋がり、線になっていくように感じます。まったく無関係とは言い切れない。だからこそ、私たちはこの街を調査しなくてはなりません。


 とりあえず、子供たちはこれ以上知らないみたいです。

 故郷を滅ぼされたところ悪いですが、もう直接ジルさんに聞くしかなさそうですね。私とモーノさんは教会を見渡し、その姿を探します。

 彼女は意外と近くにいました。ですが、同時にとんでもない光景が映ります。


「くんかくんかくんかくんかくんか……」

「あ……あの……何をしてるんだい……?」


 一匹の駄犬に嗅ぎ分けられる少女。子供たちが不思議そうにそれを見つめています。

 唖然とするモーノさん。そりゃー、これにはドン引きでしょうね……

 主人として止めなければならないと思ったのでしょう。すぐに二人の元へと駆けより、駄犬を軽く小突きます。


「きゃわん!」

「なにやってんだメイジー!」


 赤い被り物をした少女、メイジーさんが懸命にくんかくんかしていました。なんだか卑猥です……

 当然、ジルさんは大迷惑でしょう。人に嗅ぎまわられて良い気がする人などいません。止めて当然と言えます。

 ですが、メイジーさんにも行動理由がありました。彼女はシスターを指さしつつ、牙を見せて叫びます。


「だって……このジルって奴! 香水か何かでにおいを消してるもの! 怪しいわよ!」

「……本当か?」


 獣人対策の香水でしょうか……? 確かに、これなら種族や異世界転生者であることを誤魔化せます。

 ですが、この世界はお風呂の文化が浸透してませんからね。香水で体臭を消すのは不思議ではありません。ましてやシスターなんですから気を使うでしょう。

 明らかにメイジーさんは早とちりしています。彼女の中では犯人確定という様子でした。


「ついに見つけたわ……こいつが異世界転生者! 何だかそんなにおいがするわ!」

「残る異世界転生者は二番だが、それはハイドで間違いないだろう。ハイドは男だと聞いているが……」


 モーノさんも聞き込みを行っていたのか、ハイドさんが転生者だと確信しています。それも、性別が男というのも決定のようですね。

 一番はモーノさん、二番はハイドさん、三番はトリシュさん、四番は私、五番はもっとヤバイ人。ジルさんが異世界転生者なら六人目になってしまいます。

 数が合いませんね……それでもメイジーさんは言い切りました。


「じゃあ、デマ情報だわ! ハイドは女性! このジルって奴がハイドなのよ!」

「ちょ、無茶苦茶ですよ!」


 ジルさん=ハイドさん、これで解決! って、性別がねじ曲がってますよ!

 ですが、メイジーさんの鼻は信用できます。私はジルさんの表情を見て、その心理状態を探っていきました。

 彼女が本当にハイドさんなら、真実を言い当てられて動揺するはずです。ここまで自信満々に言いきられて、無表情で通せる人などいるわけがありません。

 さて、その顔は……


 動揺しています。

 ですが、その動揺の仕方は真実を言い当てられたという様子ではありません。


「い……異世界転生者……? 彼女は何を言ってるんだ……」

「気にするな。こいつ、ちょっとおかしいんだ」


 キョトンとした様子でジルさんは混乱しています。そんな彼女をモーノさんが落ち着かせました。

 なにを言っているか分からない。どうして自分が疑われているのか分からない。ジルさんはそんな表情をしています。

 異世界転生者という言葉に対してもこんな感じですか。これは本当に何も知らないみたいですね。

 モーノさんは確認のために聞いてきます。


「テトラ、どう思う?」

「どうも何も、ジルさんは何も知らないって感じですね」

「だよなあ……まあ、お前が言うならそうなんだろう」


 彼も私の意見に同意。ジルさんは白で決定ですね。

 それでも、メイジーさんは「グルル……」っと彼女を威嚇しています。獣人族にしか分からない何かが、そこにあるのかもしれません。

 私の訪問に対してミテラさん焦っていましたし、白ではなくてグレーですか。モーノさんも疑いを解いたわけではなさそうです。


「だが、俺はメイジーを信じたい。ジルが何かを隠してるのは確実だろう」

「直接ハイドさんと繋がりがなくとも、関係性は見えてくるかもしれません。やっぱり泊る場所は決定ですね」


 何にしても調査続行。どの道、安心に泊れそうな場所はここしかないんですから。


 さって、モーノさんとメイジーさんは教会を探るようですし、私も私で行動しましょうかねー。

 実のところ、気になる人がもう一人います。別に怪しい人と言うわけではないのですが、ご主人様の知人というのがどうしても気になりました。

 それに、ああいう意地悪な権力者にほど、私は気に入られたいんですよ。それこそが宮廷に仕える道化師、ジェスターの生きがいなんですから。


「モーノさん、そっちは任せます。私はツァンカリス卿への挨拶に向かいますから」


 子供たちがひそひそ話をしていた屋敷。あそこがキトロンの領主、ナノス・ツァンカリスの屋敷で間違いありません。

 さって、手土産片手に行ってやりますか。食べ物は毒を疑われるので、使い道のなさそうな置物か何かで良いですよねー。

 そんな軽いノリで、私は領主の屋敷へと向かいました。










 領主さまのお屋敷にて、私は呼び鈴を鳴らして接客を待ちます。

 しばしの間、包まれる静寂。やがて、屋敷の窓から一匹のツバメが飛び出しました。

 彼の背中に乗っているのは、ツァンカリス卿へ使える小人の少女。名前は確か……マイアと呼ばれていましたね。小さくて全然見えません。

 彼女とツバメは屋敷前の柵へと着地し、こちらに向かって頭を下げます。あらま、小さくて可愛らしい。


「旦那様の執事、マイアと申します。貴方はコッペリウスさまのお弟子さまでしょうか?」

「はい、私はコッペリウスさまの従順たる奴隷、テトラ・ゾケルと申します。以後お見知りおきを……」


 右手を前に出し、マイアさんよりもさらに深く頭を下げます。

 私は奴隷であってカースト制の最下位。執事の彼女よりも見下さなければならない存在です。見下された方が取り入るのに都合が良いですからねー。

 さって、門前払いは避けたいところです。最もらしい用件を絞り出さないといけません。


「キトロンの領主、ツァリンカス卿はご主人様の知人とお聞きしています。先ほどのような慌ただしい対面でなく、ゆっくりとお話をしたく訪れました」

「話しをして……どうなさるおつもりでしょうか……?」


 マイアさんが疑いの眼差しで見てきます。嘘を言ったらアウトでしょうねー。

 仕方ありません! ここは一気に賭けに出ることとしましょう!


「ここ最近、ツァリンカス卿の御機嫌が悪いと聞きます。是非、このテトラをジェスターとして雇ってもらいたいのです」


 言ったー! 言っちゃいましたよー!

 くだらないと一笑される可能性は高いです。ツァンカリス卿は生真面目なお方、私のような道化師なんて興味がないように思えます。

 まあ、高確率で追い返されるでしょう。本人に会えない可能性の方が高いぐらいです。


 ですが……ですが!

 イエスと言われたらどうするんですか! もう引き返せねーですよ!


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