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69 馬車に揺られてまわりみちー


 バシレウス国王への報告のため、私たちは一度王都へと移動します。

 フラウラから王都ポルトカリまではそれほど離れていません。馬車で移動すればすぐなので、モーノさんは頻繁に移動してるみたいですね。

 本来、ターリア姫の護衛である彼は王宮騎士団に分類されます。遥か西にあるキトロン鉱山都市までの遠征は許されないはずなのですが、今回ばかりは特別でした。


「かっぷらーめん……? のことは私も知っている。大臣からその脅威を聞いたのでな。これを作った者は悪魔から知恵を授かった邪教徒である可能性が高いと……」

「大臣……か……」


 玉座の間にて、モーノさんは眉をしかめます。

 国王さまはある大臣から厄介な告げ口を受けていました。十中八九、話を拗れさせているのはベリアル卿でしょう。

 毎度、彼のせいで事態は悪い方向へと向かっているように感じます。もっとも、それによってこちらも動きやすくなりましたが。

 モーノさんの遠征も認められ、一時的にターリア姫の護衛任務から解かれます。当然、姫本人は納得していません。


「裏切り者……! モーノの裏切者ー!」

「姫様、落ち着きなされ。モーノ殿にも事情が……」

「うるちゃい! うるちゃい!」


 玉座の間にて、後ろからターリア姫とアロンソさんの口論が聞こえます。

 デジャビュですね。まあ、分かってましたよ。

 こうなったら収まりませんし、モーノさんはなれた様子でスルーします。そして、同じく謁見途中のスノウさんに言いました。


「スノウ、ターリアを頼んだ」

「はいー、分かりましたよ」


 あ、彼女はお留守番ですか。まあ、あの毒魔法はものっそい使いづらいですし、仕方ないところでしょう。

 そうなると、私たちと同行するのはメイジーさんとアリシアさんですか。どっちも話しやすいので問題はないでしょう。

 もっとも、神経が図太い私は、どんな人とでもそれなりに上手くやれるんですけどね。



 ポルトカリのお城を後にし、馬車乗り場でご主人様に見送られます。

 スノウさんとターリア姫ともここでお別れですね。姫の癇癪も収まり、二人はこちらに手を振りました。

 お姫様二人、まるで姉妹のよう。そんな彼女たちに対し、ご主人様は何か思う事があるようです。

 少し、真剣な表情。彼はゆっくりとスノウさんに近づき、やがてその手に触れます。


「スノウと言ったか、少し待ってほしい」


 これってセクハラですよね……まあ、ご主人様にそんなやましい気持ちはないでしょうけど。

 彼は一応死霊使いです。生きた死霊であるスノウさんに対してなら、その力を有効に使えるでしょう。

 悪魔の手が光り、やがてそれは少女の身体を覆います。今はスランプ状態ですが、やっぱり彼の降霊術は凄まじい力を持っていました。

 僅かですが、スノウさんの瞳に光が戻ります。どうやら、何らかの力を使ったようですね。


「これは……」

「肉体と魂の繋がりを整理した。不慣れな仕事が施されていたが、丁寧に扱われていたのは分かる。よほど愛されていたのだろう。この奇跡を施した者に感謝すべきだ」


 不思議そうな顔をしていたスノウさん。ご主人様の言葉を聞くと、「お父様……」と言葉をこぼします。

 その一言だけで、彼女と父親との強い繋がりが分かりました。今生きていることが奇跡。スノウさんはそんな存在だったのです。

 ご主人様の降霊術によって、スノウさんの寿命はちゃんと延びたのでしょうか?

 私が疑問に思っていると、彼がこちらに向かって歩いてきます。どうやら、何かを渡したいようです。


「テトラ、キトロンについたらこれをナノス・ツァンカリスという者に渡してほしい。著名人故にすぐに分かるはずだ」


 そう言って、ご主人様は一枚の便せんを渡します。

 えー、まさかのお使いですか。一人で飛んで行けばいいのに!

 ですがまあ、ご主人様が手紙を渡す人には興味があります。当然、お知り合いですよね?


「ご主人様のお知り合いですか?」

「ああ、古くからの知人だ」


 古くからの知人って……まさか悪魔仲間じゃないでしょうね?

 それとも、人形職人や服職人仲間? ま、どちらにせよ変人でしょう。

 著名人というのも気になりますが、とにかく会ってみる以外なさそうです。たぶん、ご主人様の友達なら良い人。そう思う事にしておきます。










 私と転生者のモーノさん、狼少女のメイジーさん、巨大化剣士のアリシアさん。四人パーティーで馬車に揺られ、遥か西の鉱山都市キトロンを目指します。

 狙うは二番の転生者との和解。大事になる前に忠告をしないと、聖国王が動き出しそうな雰囲気です。

 とっても重大な使命なのですが、私からして見れば知ったこっちゃねーですよ。とにかく楽しむ! それだけです!


「子供四人、まるで遠足ですねー」

「呑気なものね……」


 ルンルン気分で足を動かしていると、メイジーさんに呆れられます。何も考えてないように見えると思いますが、これでも真剣にふざけてるんですけどね。

 まあ、大丈夫ですよ。草原のモンスターなら魔除けのお守りで逃げていきます。道中ぐらいは気を抜いても罰は当たらないでしょう。

 そんな私のことをじろじろ見つめるモーノさん。これは、鑑定眼を使ってますね。


「か……勝手に人を鑑定しないでください! エッチ!」

「エッチなものなのか……? いや、それにしてもだ。本当にろくなスキル持ってないんだな。ステータスも低すぎる」


 ふんだ! そんなもので人の価値は図れませんよ。私の本分は屁理屈とトーク力ですから!

 ですが、冒険者のモーノさんとって私は特異な存在です。女性を放っておけない彼からしてみれば、私は守るべき存在でした。


「やっぱ、同行して正解だったな。俺なしで行動させるのは危険すぎる」

「な……モーノさんだって、私なしじゃ滅茶苦茶やるでしょ!」

「それはお互い様だろうが!」


 はい、私もモーノさんも滅茶苦茶やりますね。とてもレベルの低い口論でした。

 そんな言い争いに対し、メイジーさんが口を挟みます。なんだか彼女もちょっと楽しそうですね。


「はいはーい、喧嘩はやめて頂戴。士気が乱れるから」

「あはは……」


 アリシアさんも同じように笑っています。とってもいい雰囲気で私の興奮も収まりません!

 そして、興奮すればお腹もすきます。こんなちょっと小腹を満たしたいとき、食べたく物がありますよね? 私はあります!

 そう、私たちがキトロンに向かう理由。事の発端。私はそれを有効利用するため、バッグから出しました。


「じゃじゃーん! カップ麺です! 運転手さん含めて五人分用意しましたよ!」

「お前なあ……これからそれを作った奴と戦うかもしれないんだぞ……」

「それはそれ、これはこれです!」


 カップ麺が売ってるのに食べない理由はありません。値段はかなり張りますが、調査の一貫だと思えば安いものでしょう。

 まず、メイジーさんとアリシアさんにこれを食べてもらって、感想を聞くんです。決して、私たち転生者だけの問題じゃありませんしね。

 しかし、カップ麺はあまり携帯食としては優秀ではありません。その大きな理由をモーノさんに指摘されます。


「お湯はどうするんだよ」

「決まってるじゃないですか! はい、入れて」


 しかし、その問題は異世界パワーで解決! 火と水の魔法を使えばお湯は簡単に手に入る!

 か……完璧すぐる……モーノさんの魔法さえあれば、どこでもカップ麺が食べれるじゃないですか。これは便利!

 なんて感じのドヤ顔をしていたら、彼に頬をつままれました。


「いだだだ……!」

「お前、英雄をポット代わりに使った女として伝説に残してやる。覚悟しておけよ!」

「えへへー」


 もう、嫌ですねえ。私はただ、転生者としての力を有効利用しようとしただけです!

 モーノさんは大きくため息をつくと、私の用意したカップ麺にお湯を注いでいきました。

 前にグリザさんが使った魔法とは桁違いですね。五つ同時、カップの上から雨のようにお湯を瞬間的に注いだのですから。

 確かに凄いけどバカみたいですね……やらしといて何ですが本当にバカみたいだ……



 馬車を止め、運転手さんと一緒にカップ麺を食べます。

 アリシアさんとメイジーさんは初めて食べるものですが、そのご感想は?


「わあ、美味しい」

「私はちょっと臭いが気になるわね」


 二人とも、麺をすすれないのでフォークに巻いて食べています。感想はそれぞれですが、メイジーさんは半分犬なので仕方ないでしょう。

 さって、モーノさん。美味しいですか? 久しぶりのカップ麺は美味しいですか?

 私はニヤニヤ笑いながら、彼の顔を覗き込みます。すると、少年はムッとした様子で素直な感想を言いました。


「悔しいけど美味いよ……だけど、作るならもっと怪しまれないものを作ればよかったのにな」


 そうですよねー。いきなりカップ麺は工程を飛ばしすぎですよね。

 うーん……では、何を作ればよかったのか。

 もっとシンプルで、この世界の人でも普通に考えついて、製造に無理のないもの……


「ハンバーガーとか?」

「良いなそれ。今度、作ってみるか?」

「はい、ご一緒します!」


 パンで挟むだけのハンバーガーなら問題ないでしょう。モーノさんも楽しそうに同意してくれました。

 やっぱり、同じ世界の知識を持った人がいると、毎日が更に楽しく感じられます。同じ境遇の彼と出会ったことで、何だかとても勇気が湧いてくるんですよ。

 一つ心配なのは、モーノパーティーの皆さんから嫉妬されることでしょうか? 先ほどからアリシアさんがこちらの事をじっ……と見つめてきます。

 小悪魔的な笑みを浮かべながら、メイジーさんがそれを指摘します。


「あら、アリシアちゃん。嫉妬かしら?」

「違うよ。なんか、兄妹みたいだなって……」


 兄妹……


 その言葉が私の心に響きます。恋人じゃなくて兄妹……?

 確かにそれなら嫉妬はないでしょうけど……なんで……?

 どうやら、メイジーさんも同じことを感じたようです。彼女もアリシアさんの言葉に同意します。


「確かにね。においもそっくりだし」

「でも、におい以外でも二人って似てるよね。ほら、眼とか」


 眼……?

 私もモーノさんも、呆然としていました。

 そんな事、言われたことがなかった……指摘されたことがなかった……


 そして、ついに決定的な一言がこぼれます。


「何なのかな……ハイライトがないっていうか、人形みたいだよね」

「アリシア……!」


 すぐに、メイジーさんが叫びました。

 アリシアさんは目を見開き、自分の失言に気づきます。こちらは驚いているだけなのですが、彼女は何度も頭を下げました。


「ご……ごめん! また私、デリカシーのないことを!」

「いや、いいよ。気にしてない。少し驚いただけだ」


 モーノさんと同じく、私も気にしていません。

 ただ、ひっかる言葉というのは事実。私とモーノさん、転生者二人が人形のような眼というのは偶然なのでしょうか?

 言われてみれば、トリシュさんも同じような目をしていたような……

 ゾッと背筋が凍ります。やめましょう! この話しは終わり!


 私たち五人の転生者。

 兄弟のようで、鏡合わせのようで、人形のような眼をした五人。


 いったい、どんな関係性があるのでしょうか……?

 答えを知るのは褐色女神様? ピーターさん? それともジブリールさん?

 答えは草原に吹く風の中でした。


モーノが生き生きしだしたのは予期しなかった。

まさにキャラが勝手に動く。

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