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67 どこで食べてもカップ麺は美味しいです


 劇が終わり、ご主人様の過去が大体わかりました。

 全て纏めると、彼は意外と普通な人です。なんか、思わせぶりなことを言っていたので、もっと神やらなんやらと色々関わってると期待していたんですけどね。


 結局、ジブリールさんは謎のままですし、ただの苦労話で終わってしまいました。

 今でも、ご主人様は悩み続けているのでしょうか? 一応、聞いてみましょう。


「それから悪魔さんはどうなったんですか?」

「今も答えを探している。人とは何なのか、彼女の言う諧謔とは何なのか……」


 だから、人間界の観測者なんですね。

 大きな使命も持っていない。まったく、とんだミスリードでしたよ。

 でも、安心しました。ご主人様は普通の感情を持ち、普通に悩みを持っています。それが何よりも私にとっては嬉しいことでした。

そんな彼は私に問いかけをします。それは、モーノさんに言った今後の目的についてです。


「テトラよ。本気で元の世界に帰るつもりなのか? 転生を果たした以上、元のお前は死んでいる。死者は蘇らないと以前話したはずだ」


 それは分かってますよ。ですが、この世界には魔法というものがあって、理屈じゃ説明できない現象が多々起きています。

 転生した事実、蘇生魔法を受けた事実、スノウさんが存在する事実。この三つは覆せません。


「でも、私は転生に成功し、トリシュさんの魔法によって蘇りました。スノウさんだってゾンビでも生きてるじゃないですか!」

「それらはお前の考える蘇生とは違う。脳や心臓の停止は人間が決めた死の定義であり、私の言う死とは魂の消滅を意味する。トリシュは身体の停止を治癒しただけであり、スノウは魂を強引に繋ぎとめているだけだろう」


 何か難しいことを言ってますが、つまり魂があればいいんですね。

 そんなの簡単なことじゃないですか!


「なら、なおさら希望が持てますね。だって、魂ならここにあるんですから!」


 私は胸を押さえ、魂の存在をご主人様に示しました。

 そうです。私がこうして生きている以上、魂は消滅していません。死者の蘇生という難題は既にクリアしていたのです。

 完全に見落としていましたね。まさに燈台下暗し、元の世界に帰るための手がかりはすぐ近くにあったのです。

 これには考えを改めざる負えません。ご主人様は目を見開き、私の言葉に納得します。


「そうか……魂は消滅していない……! 出来るのか……転生者の帰還は可能なのか……! いや……課題は山積みだ。失った肉体はどうする。時間は? 世界線をどう移動する」

「全部クリアするしかないですね。まあ、のんびり暮らしながら見つけますよ」


 それは僅かな希望。ですが、とても大きな一歩。

 不可能じゃない。無駄じゃない。本当は戻りたくない私からしてみれば複雑な心境です。

 でも、良いんです。もう意地になってますから!


 私が帰還を覚悟したとき、何者かが家の扉をノックします。

 ご主人様にお客さんなんて珍しいですね。王宮騎士団の税金徴収でしょうか? それとも、人形使いの同業者でしょうか?

 とりあえず、外で待たせるのもあれなんで入ってもらいましょう。


「どうぞー、入ってください」


 ご主人様の許可もなく、勝手にお客様を家に入れます。どうせ、接客するのは私なんですから構いません。

 扉をくぐったの女性と男性の二人組。女性は美しいブロンドカラーの髪を持ち、男性の方は頭に赤いバンダナを巻いていました。


「お二人ともこんにちは」

「邪魔する」


 女性は冒険者ギルドの受付嬢、マーシュ・コメットさん。男性の方は元盗賊で砂漠の民、バートさんでした。

 ギルドではよく会いますが、ここまで訪ねてくるのは初めてですね。まあ、御二方の実力があれば森のモンスターなんて楽勝ですし、用件があれば来てもおかしくありません。

 それにしても、男女二人で出歩くって……やっぱりデートですか? 森デートですか?


「お二人でご訪問とは、ラブラブですねー」

「俺は人妻に興味はない。妊婦を戦わせるわけにもいかないから護衛だよ。旦那に殺されたくはないしな」


 バンダナを解きつつ、バードさんがとんでもない発言をします。

 え……? 人妻……? 妊婦……? 旦那……?

 聞いてない! ぜんっぜん聞いてない! 詳細を求めます!


「既婚者ですか……! しかも妊娠中ですか……!」

「はい、だから冒険者をやめたんですよ」


 あー、そういう感じに繋がってくるんですね。王都では妊娠中の助太刀ありがとうございます。

 本当はお礼を言いたかったのですが、そのタイミングを逃してしまいました。なぜなら、マーシュさんが先にお礼を言ってしまったからです。


「王都の一件、ありがとうございます。無事、姫の護衛をするモーノさんはギルドに馴染めました。話してみると結構真面目な天然さんで、皆さんからかって遊んでます」

「メッキが剥がれて本性が出てきましたね」


 頼みごとは上手くいったみたいですね。あの一件から彼、だいぶ丸くなってくれましたから。

 モーノさんを一言で説明するのなら、頭の良いおバカです。頭の使いどころがずれているか、もしくは考えているようで考えていません。

 たぶん、私と違って純粋なんでしょう。真っ直ぐで、正義感が強くて、誰かを守るために必死。


 ま、そんな人たちを私はおバカと言っちゃいますけどー。

 皆さん、どす黒さが足りないんですよ。


「英雄だとか、勇者だとか、そういう面倒なのは彼に押し付けですね。私は悪い道化師になっちゃいましたし、以前と変わらない気まぐれの捻くれで行きますよ」

「太陽が上れば月が沈む。お前ら二人はどこまでも噛み合わないな……」


 バートさんがポエム的なことを言ってますね。

 まあ、確かに私はモーノさんという太陽に照らされる月かもしれません。でも気にしてません。「光をありがとー」って感じでこれからもやっていくでしょう。

 彼が困ったらお礼として少し支えてあげる。間違えそうになったら、ちょっとだけ道を教えてあげる。

 そんな友達なれたらいいなと思います。はい。



 私が起こした事件がきっかけとなり、王都の空気は大きく変わりました。

 今まで、街の人は聖国の拡大を大きく望んでいましたが、姫を守るために現状を維持すべきだという人が出てきます。

 所謂、保守派の誕生ですね。「軍事侵攻を行えば恨みを買われる! ならば、進軍よりも防衛を優先すべきだ!」っていう貴族的な考え方。当然、より良い暮らしを求める貧困層は大反対です。

 結局、それによって今度は内部で分裂が起きる。あっちが立てばこっちが立たない。本当に人とはどこまでも道化ですよ。


 でも、やっぱりそれはこの国の人で解決する問題です。切っ掛けを作ったのは私ですが、もう首を突っ込むつもりはありません。

 だって、私は悪い悪い道化師ですもの。転生者が起こす問題はどうにかしますが、この世界が向き合わなければならない問題は管轄外です。

 今はマーシュさんたち冒険者ギルドと上手くやり、転生者を監視するのが最優先でしょう。また、モーノさんの時のように、異世界無双が世界を歪めてしまうかもしれませんから。


「マーシュさん、私とモーノさん以外に不思議な人はいませんか? ギルドの情報網なら何か分かるかもしれません」

「あ、そうです。それですよそれ。お土産を持ってきました」


 お土産……? いえ、嬉しいんですけど、それと転生者に何の関係が?

 私の疑問なんて無視し、マーシュさんは持ってきた籠から三つのカップを取り出します。作りは木製。ですが、なんだか見覚えがある物体です。これはいったい何なんでしょう……?

 私は誘わるようにその一つを取り、カップ上部の薄い蓋をめくります。そして、暖炉からお風呂用のお湯を取り、カップの中に注ぎ込みました。

 ここまで全て無言。これにはマーシュさんも驚きます。


「あ、知っていたんですね。随分と手馴れています。これはカップ麺と言って、最近作られた発明なんですよ。どうですか? 怪しいとは思いませんか?」


 私は何も返答をしません。無言のまま三分待ち、カップの中に木製のフォークを突っ込みます。

 中から広がるのは嗅ぎなれた香り、眼に見えるのは縮れた麺と色取り取りの具。

 あとはすくって口に入れるだけですね。ずずずーっと、慣れた口使いですすります。舌に広がるのは懐かしい醤油の味わい。


 ああこれはまるで……まるで……


「なんでカップ麺があるんじゃァァァ!」

「随分と時間のかかる突込みだったな」


 カップ麺は戦後の日本、日○食品が作り出した奇跡の商品でしょ! 中世に近いこの世界でなんで普通に売っとるんじゃァァァ!

 悔しいけどうまい! うますぐる! フォークが止まらない! テンションが上がる!

 って、いやいやいやダメですよ! なんだかよく分かりませんがとにかくダメですよ!


 色々工程をすっ飛ばして、カップラーメンをこの世界で売るのはどう考えてもヤバい!

 おバカな私でも速攻で分かります!


 私が完食するのと同時に、家のドアが乱暴に開かれます。

 いきなり登場したのは転生者のモーノさん。彼は制止するアリシアさんを振り払い、いきなり私に向かって罵声を放ちます。


「このカップ麺を作ったのは誰だ! お前か!」

「違いますよ! 私だって今初めて知りました!」


 流石モーノさん、行動が速かった。いきなり私を疑うのは気に食いませんが、この行動力は感服です。

 ですが、残念。私は全く知りません。それ以前に作る手段がありませんよ。

 ご主人様は二つ目のカップを手に取り、中身を分解して遊んでいます。カップは木で作られていますが、麺の乾燥はいったいどうやって?

 火の魔法を使って油で揚げる。水の魔法で強制的に水分を奪う。やりようがあるのが怖い……知識さえあれば十二分に作れますよこれ!


「私にはとても作れませんよ。ですが、他の異世界転生者なら作れるかもしれません」

「なら、トリシュの奴か?」

「彼女、そんなことする人とは思いませんが……五番さんじゃないですか?」

「あいつもそんなキャラじゃない」


 一番のモーノさんは知らない。四番の私も知らない。三番のトリシュさんはやらない。五番さんもたぶんやらない。

 そうなると、導き出される犯人は一人の異世界転生者……


「つまり、消去法で二番さんですか」

「そうなるな。まったく、五番に殺されたいのか……」


 トリシュさんの時と同じで、モーノさんは五番さんによる奇襲を警戒しています。

 能力は分かりませんが、技の異世界転生者である五番さんに奪われるのはよくない。だって、あの人は幼い女神様を串刺しにしたんですから!

 それに、このまま放っておいたら大変なことが起きる……そんな気がして仕方がありません。

 すぐに、モーノさんが受付嬢のマーシュさんに聞きます。


「マーシュ、こいつの出所は分かるか?」

「キトロンの鉱山あたりから仕入れたらしいですが、詳しいことは……」


 血相を変える私とモーノさんに、彼女は若干引き気味です。まあ、カップ麺の事を知っているのは私たちだけですからね。他の人にはヤバさが分からないんでしょう。

 バートさんは「大変らしいな」と言い。アリシアさんは「みたいだね」と呑気に返す。お前らもっと危機感持て!

 モーノさんは頭を抱えつつ、私に向かって言います。


「いくぞ、テトラ。俺たちで二番を抑える」


 ほーら、結局こうなる。

 また、新しい混沌が始まりそうです。


カップ麺を巡る新たな冒険が始まる!

二番てめえ!

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