表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/248

66 友達の友達は大体本人のようです


 モーノさんとの戦いが終わって二週間。私はフラウラの街で平和な一日を過ごしていました。

 今日も中央広場に粗末な台を置き、ハイテンションで人形劇を始めます。既に大臣のベリアル卿と国王のバシレウス7世から許可を貰っていまからね。フラウラの街と王都ポルトカリは好きに商売できます。

 初めは子供ばかりだった観客ですが、最近は大人も来てくれるようになりました。


「レディース&ジェントルメン! 本日もテトラの人形劇が開幕します!」

「テトラちゃん、こんにちは。今日も元気だねえ」


 まあ、ご年配の方ですけど!

 お爺ちゃんお婆ちゃんが微笑ましいものを見るような眼差しを向けてきます。声援は嬉しいんですが、学芸会じゃないんですから……

 ですが、彼らのおかげでご主人様のガラクタを売り捌くことが出来ました。王様からの御礼金を含めれば相当の金額を稼いでいます。

 これで、食わせてもらってるだけではないと証明できましたね。第一の目的はクリアしました。


「さて、昨日の続き。黒騎士さまの物語、始まり始まりです!」


 劇もキャラクター商法を取り入れ、シリーズもので観客の心をつかみます。短編より長編の方が商業的に結果を出せるのは、私の世界が証明してますからね。

 ゼロからキャラクターを作るのは困難。なので、私はこの国の英雄を利用させてもらっています。

 今、このカルポス聖国は冒険者モーノ・バストニの活躍に沸いていました。彼をイメージして作った黒騎士さまには人形劇の顔となってもらいます。


「黒騎士さまは姫の危機に颯爽と駆けつけます。彼はこの国のヒーローですから!」


 私はこれから異世界転生者たちの奮闘に巻き込まれるでしょう。そんな彼らの物語を斜め上から見て、こうやって人形劇に出来ればいいと思います。

 まあ、私の劇なんて本物の足元にも及ばない紛い物なんですけどね。観客が喜んでくれるのならそれが一番です。


 そんな感じでモーノさんの戦いを他人事のように扱っていた私。ですが、劇を終えたのと同時に子供たちが口々に叫びます。


「コッペリアの奴が出てない!」

「え……? コッペリア……?」


 コッペリア……どこかで聞いたような……

 私の心の中に響いた謎の言葉。自分自身でもどこから生まれたのか分からない。相手の心を掴むための能力……

 それが再び、今度は現実世界で子供たちの口から放たれます。


「お姉ちゃん知らないの? 姫様をさらって、みんなを困らせた悪い奴!」

「『流星のコッペリアー!』って叫んでたらしいよ!」


 私の声、城壁の下まで聞こえていたんかい!

 これは面倒なことになりましたね。モーノさんが英雄になるのと同時に、私が悪人になってしまったようです。

 こっちだって、王都が明るく楽しくなるように命を懸けて戦ったのに! この扱いはあんまりじゃないですか!

 ふん、良いですよーだ! どうせ悪者になるのなら、芯の通った滅茶苦茶カッコいい怪人になります。


 このテトラ、いいえ流星のコッペリアには正義も悪もありません!

 全ては気まぐれ、トリックスターのように場を滅茶苦茶に掻き回してやります!










 ご主人様の家に帰った私は、今日も地道に人形制作を行っていきます。

 黒騎士さまにお供の従者でもつけましょうかねー。狼の獣人に純粋な剣士、死霊のお姫さまとか良いかもしれません。

 むふふ、だんだん楽しくなってきました。妄想を実現できるように、人形作りの技術も上達させないと!

 私が一人怪しく笑っていると、ご主人様が声をかけます。


「テトラ、今日は一段と楽しそうだな」

「そう見えますか?」

「ああ、誰かと比べずともお前は確かに幸福だ。そこに小難しい理屈などはない」


 相も変わらず、彼はわけの分からない哲学を語っています。

 悪魔という存在は皆さんこんな感じなんでしょうか? 悟っているのか、簡単なことをわざわざ難しく言ってるのか……何にしてもめんどくせーです。


 いまだにご主人様の事はよく分かりません。なぜ、悪魔の彼がここにいるのか。なぜ、私に手を貸しているのか。ジブリールとは何者なのか……

 これ、はっきり聞いちゃって良いんでしょうかね。今までご主人様は私に隠し事を行っていません。ただ、聞かれていないから言わないというだけでした。


 なら、少しだけ歩み寄っても良いですよね……?


「誰かの物語を形にするのは面白いですよ。ご主人様も人形使いなんですし、自分の思う物語を形にしていいんだと思います」

「自分の……物語か……」


 はっきり聞く勇気はないので、遠回しに「話せ」と威圧します。

 ご主人様は目を閉じました。やがて、彼はその場を離れ、二階へと上がっていきます。

 天井からはゴソゴソと何かを探す音が聞こえますね。いったい、何をするつもりなんでしょうか……


 少しすると、ご主人様は三体の人形を持って階段を下りてきます。一体は男性の人形、二体目は女性の人形、そして三体目は陳腐な悪魔の人形でした。

 彼はそれらに糸を繋ぎ、降霊の力を与えていきます。三体の人形は私に向かってお辞儀をし、舞台の開幕を知らせました。 


「今から演じられる物語は、私の友達の友達が体験した事実だ」

「友達の友達ですか……」


 分かりやすっ! それもう本人じゃないですか! ご主人様は嘘が下手すぎです!

 とにかく、これから語られるのはご主人様の過去という事で良いんですよね? 望んでいた展開なんですが、とっても緊張してきました……

 彼はまず悪魔の人形を右手によって動かしていきます。たぶん、この悪魔がご主人様なんでしょう、彼の謎が本人の口から語られていきます。


「あるところに愚かな悪魔がいた。彼は魔界でも最高位の降霊術師であり、その力によって何百……何千もの死霊を操った。彼は自らこそ、命を支配する神に等しい存在と考えていた」


 ご主人様、昔はイケイケだったんですね……それとも話を盛ってます?

 何にしても、彼は自分の事を『愚か』と乏しました。それはつまりそういう事なんでしょう。


 これから語られることは、ある悪魔の失敗談。間違いありません。


「ある日、悪魔は召喚師によって人間界に呼ばれ、彼と悪魔契約を行った。死後、その魂を支配する権限を代価に、悪魔は男にありとあらゆる力を与えた」


 右手によって動かされた悪魔は、左手によって動く男性を誑かします。

 ご主人様、滅茶苦茶悪魔らしいことしてるじゃないですか。一つの魂を手に入れるのに、一人の人間に尽くしまくるのは非効率では? って、突っ込みはさておいて悪魔らしいです!


「契約を交わしている間、二人は良きパートナーとなった。男は悪魔から富と名声を与えられ、悪魔は男からこの世界のことを聞いた。自身が完全だと思っていた悪魔にとって、男から聞いた情報はあまりにも非合理的だった」


 ご主人様が動かす悪魔と男性。踊るようで、おどけたようで、二人の楽しい日々が伝わってきます。

 悪魔は人に感化され、人は悪魔を信頼している。共に過ごした日々が、相容れない存在同士の友情を深めたのです。

 ですが、そんな毎日も長くは続きませんでした。男性の人形はその場に崩れ落ちます。


「月日が経ち、事件が起きる。男の恋人が不慮の事故で命を落としてしまったのだ。男は私に彼女を蘇らせるように望んだ。死霊使いである私にとって、そんなことは赤子の手をひねるよりも容易い指示だった」


 死者を蘇らせる……?

 いえ、無理ですよね? ご主人様が自分で話したじゃないですか!

 ですが、私は死者蘇生の成功事例を三つ知っています。一つ目は異世界転生、二つ目はトリシュさんの蘇生魔法、そして三つ目はゾンビ娘のスノウさん。これだけあれば不可能と言い切れませんよね?

 実際に、ご主人様は恋人さんの蘇生に成功したようです。


「悪魔は男の恋人を蘇らせた。術は完璧だったはず……しかし、男は言った『何てことをしてくれたんだ……これではまるで人形だ……』。悪魔にはその意味がまったく分からなかった。魂の存在しない空虚な存在であったとしても、彼にとっては同じ人間だったからだ」


 これは……スノウさんと同じパターンですか?

 いえ、違いますね。スノウさんは常人より感情が薄いところがありますが、私を助けようと奮起してくれました。そこには確かに魂があります。

 ですが、彼女は例外中の例外なんでしょう。事実、恋人さんは魂のない人形にしかならなかった。死者の蘇生というものが不可能だと証明しています。


 死とは、魂の消滅。

 魂が残されていればまだ生きている。蘇生が可能だと意味しています。


「女はすぐに壊れた。それを追うように、男もやせ細り死んだ。そのとき悪魔は気づいた。自分の隣に誰もいなくなったことを……」


 一人残された悪魔の人形は、無残に崩れた二つの人形を見つめていました。

 彼は人に感化されすぎたようです。悪魔だからこそ、心や魂に対して無頓着だった。それがこの物語によって変わり始めていたのです。

 よほどトラウマだったのでしょうか、悪魔の心には小さな傷が残りました。


「以降、悪魔は死霊を操れなくなった」


 ご主人様、昔から滅茶苦茶繊細だったんですねー……

 死霊使いなのに人形や生身の人間しか操作していないのは、死体の操作が出来なかったからのようです。うーん……切ない話しのようなめんどくせーような……

 何にしても、彼にとっては真剣でした。


「生まれて初めて絶望した……『死霊使いが死者を操らなければ、その存在に何の価値がある? ただ生けるだけの屍ではないか』。悩んだ末に、悪魔は傲慢を捨てて神に祈った」


 神に仇名す悪魔が神に祈りますか。いえ、彼の言う神とは、恐らく大いなる主のことでしょう。

 天使ですらその姿を見たことがない。他の神々とは明らかに種別の違う存在。そんな神なら、悪魔や同じ神が祈っても不思議ではありません。

 事実、彼にはその祝福があったようです。主の使者が、そこに降り立ったのです。


「やがて、彼の前に一人の天使が降り立つ。その天使はターコイズブルーの光を放ち、背には四枚の翼が携えられていた。彼女は自らをジブリールと名乗っていたな」


 こ……ここでジブリールさんですか!

 ローブの下に隠された四体目の人形。それは美しい青い光を放つ天使さまでした。

 演出ありがとうございます。この結末のために四体目を仕込んでいたんですね……

 悪魔の人形は膝をつき、天使さまから啓示を受け取ります。この啓示こそが、私とご主人様をめぐり合わせた預言。主のお言葉でした。



 彼女は言います。


 貴方は愚かではありません。

 なぜなら、命の尊さを学んだからです。


 主は貴方を見ておられます。

 いずれ、希望をもたらす者が現れるでしょう。


 手を差し伸べなさい。それは廻り廻って貴方のためとなる。

 導きとなりなさい。彼女は進むべき道を迷っています。 


 諧謔の先に、貴方の求める答えが待っているでしょう……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ