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57 ☆ 全てはこの時のために! ☆


 イッツショータイム!


 投げられる毒りんごから逃げつつ、私はメイジーさんの元へと走ります。すぐに私の狙いに気づいた彼女は、血相を変えてその場を離れました。

 ありゃりゃ逃げちゃいますか、じゃあアリシアさんのところ行きましょうかねー。彼女、メイジーさんより足が遅いですし、大きくなったら良い的でしょうから。


「ア・リ・シ・ア・さ~ん!」

「はわわ……こ……来ないでよー!」


 当然、すぐに逃げ出す少女。酷いですねー。三人一緒に踊りましょうよ!

 ご主人様の操作もあって、人間のアリシアさんにはすぐに追いつきます。そして、そのまま彼女を巻き込んでの追いかけっこがスタートしました。

 私と並んで走りつつ、少女は仲間に向かって叫びます。


「スノウちゃんストップ! ストップ! 私まで食らっちゃうよ!」

「大丈夫ですよー。あとで解毒剤を使いますから」

「お前の頭ワンダーランドかっ!」


 治るから大丈夫でしょ? 的なゾンビちゃん思考。これはアリシアさんも災難ですねー。

 私の作戦に対して、メイジーさんは呆れた様子。ですが、やっぱり警戒もしているみたいです。


「だ……大混乱……分からない。これがあいつの能力なの……?」

『はーははっ! これは酷いありさまだ!』


 一方、ご主人様は上機嫌でした。安全圏で見るには最高のショーでしょうね。巻き込まれたアリシアさんはたまったものじゃありませんけど。


 さてさて、そんなこんなで上手いこと移動できました。

 私、これでも考えて逃げてますよ。敵は美少女三人だけじゃないんです。こちとら、聖国騎士にも追われてる身なんですから。

 隙を見計らって、私は再び屋根の上へと飛び乗ります。さって、混乱に乗じてこのままあしらちゃいま……


 って、あれ……


『テトラ、どうした』

「あちゃー、やべえです。毒ガスを食らってしまったみたいですね……」


 爆風を何回も受けたので、状態異常の毒を食らっちゃいましたか。直接肉体にダメージを与える魔法と違って、こっちはじわじわと効きそうですね……

 痛みはないですが、頭がくらくらして身体が痺れます。まあ、食らってしまったものは仕方ないですし、こっちもそれに合わせたショーを考えましょう。


「ご主人様、解毒剤を買ってきてほしいです。下で合流しましょう……」

『ふむ、承知した』


 失敗を成功に変えるイリュージョン。魅せてあげましょうか……

 私は両腕を広げ、メイジーさんが上ってくるのを待ちます。彼女の脚力をもってすれば、簡単に屋根まで上がってくるでしょうから。

 やがて、私の予想通りに狼少女が飛び上がります。そして、その目前にシュタッと着地しました。


「苦しそうね。スノウの毒は広範囲に広がるの。だから、近づきたくなかったのよ」

「あはは……苦痛を態度に表わしたら、お客さんに失礼ですよね。私もまだまだです……」


 そんなふざけた態度で言葉を返すと、メイジーさんは目を細めます。そして、鋭い爪を立て、じりじりと迫ってきました。


「すぐにアリシアとスノウも来るわ。笑顔の仮面で涙を隠してるんでしょ? 道化を演じて楽しいかしら?」

「私が隠しているのは涙じゃありません……信念です」


 恐怖なんてとっくに振り切れています。だけど、心に宿る信念の炎は消えません。

 仮面をかぶって、道化を演じて、私は大きな目的を隠しています。モーノさんと戦って、その上で彩る最高のショー。達成するまでは止まりません!


 メイジーさんの言った通り、巨大化したアリシアさんの手に乗り、スノウさんが屋根に飛び乗ります。同時に、アリシアさんも元の大きさに戻って着地しました。

 もう、毒が回って限界……三人に追い詰められて勝てる見込みはゼロ……

 信念の炎は消えないと豪語しましたが、これは流石に無理ですよ……


 もう、諦めて飛び降りるしか……


「こいつ……!」

「テトラさん!」


 私は両手を広げたまま、仰向けの体勢で屋根から飛び降ります。

 三階の屋根から降下する私。身体は痺れて思うように動けませんし、考える元気もありません……


 地面に衝突して、私はもう……



 なーんちゃって!


「ご主人様! 解毒剤、ありがとうございます!」 

「礼には及ばない。絶対に目的を果たすことだ」


 地面に落下する瞬間、私は待機していたご主人様から薬瓶を受けとります。そして、痺れなんて関係ない糸の操作によって、難なく着地に成功しました。

 下で合流するって約束しましたからねー。ずっと、二人でこのタイミングを狙っていたんですよ。

 薬を一気に飲み干します。これで解毒完了! 作戦成功ですね!


 続いて、先ほど飛び降りた建物の壁を一気に登っていきます。さあ、これが最高のエンターテイメント。種も仕掛けもありまくりな奇跡の復活劇です!


「じゃじゃーん! ふっかーつ!」

「は……はあぁぁぁ!?」


 壁から跳び上がり、屋根の上に再び乗ります。これにはメイジーさんたちもびっくり、下に落ちたと思ったら毒が完治してるんですから。

 なにを考えているか分からないスノウさんも、これには驚きを隠せない様子。その顔が見たかった! 仕込みの甲斐あり、ですね!


「そんな……毒をどうやって……!」

「これぞ、神の奇跡です!」


 人差し指を上に立て、奇跡をアッピルします。まったく、私って本当に嘘つきですよねー。

 私は心の異世界転生者。言葉と動きで相手を翻弄し、嘘と演出で精神的に追い詰める。今、勝利の風はこちら向いています!

 ですが、スノウさんは戦う気でした。私のことを思ってでしょうか……? 本当に優しいですね……

 彼女はりんご爆弾を掴み、狙いを定めます。


 その時でした。


「え……?」

「スノウちゃん!」


 突然、蛇のように長い何かが、スノウさんの体に巻きつきます。

 美しいブロンドカラー、月の光を帯びて輝いた何か。これは……髪ですか。

 ビックリですけど、誰かが長い髪によってスノウさんの動きを止めたんです。当然、これも魔法の一種でしょう。

 私は伸びた髪の根元の方をたどっていきます。すると、そこには見慣れた人が立っていました。


「マーシュさん!」


 ギルド受付嬢のマーシュさん。彼女は隣の屋根から髪を伸ばし、私をスノウさんから守りました。

 髪を自在に伸ばし、触手のように操る魔法。それが、冒険者として名を馳せた彼女の技だったのです。

 マーシュさんは私にモーノさんを救うように言ってました。助けてくれる理由はあります。でも、なんで無言なんですかね。

 私と目を合わさない受付嬢さん。そんな彼女に向かって、メイジーさんが声を荒げます。


「マーシュ、何で邪魔するの。どういうつもりよ!」

「貴方たちこそどういうつもりですか? 聖国騎士が動いた今、冒険者がそのいざこざに手を出すことは禁止されているはずです。これは契約違反ですよ」


 マーシュさんは自らの髪を椅子のようにし、優雅に座ります。スノウさんを縛る髪は収めていません。まだまだ、彼女の髪には余力が残っていました。

 小悪魔的に笑う女性に対し、メイジーさんはぐうう……と唸ります。そりゃー、あんな言葉に納得できるわけないですよね。


「有事の際は別でしょ! 姫がさらわれてるの! 分かる!?」

「でも、そういう契約ですから」


 なんと言われようとも、契約の一点張り。当然、スノウさんを解放する気もゼロ。流石にアリシアさんが怪しみます。


「テトラちゃんと繋がってるの……? 冒険者ギルド丸ごとグルって事?」

「さあ、何の話しでしょうか?」


 こちらに向かってウィンクをするマーシュさん。私、この日に決着をつけることを彼女に話していませんよね? なんでフラウラから王都まで来たのかは分かりませんが、とにかく味方なのは確かです。

 このチャンスを逃すわけにはいきません。アリシアさんがマーシュさんと睨みあっている間、私はその場から走り出します。

 ですが、すぐにメイジーさんが立ちふさがります。なんてしつこい犬っころですか!


「誰の許可でここを通るつもり!」

「俺だよ!」


 ですがその時、メイジーさんの爪を一匹のシルバーウルフが受け止めます。

 こ……こんな街中に狼登場ですか! しかも、獣人とは違ってこちらは正真正銘のモンスター、まだ体が小さくて子供だと分かります。

 まあ、声もしましたし、この子を操る主人は分かっています。


「テトラ、マーシュの頼みで助太刀に来たぜ。お前に味方する奴は少ないからな」

「ありがとうございます。ヴァルジさん!」

「ま、俺だけじゃないがな」


 その時でした。マーシュさんとの会話を放棄し、アリシアさんがこちらに向かって走ります。その手には剣が握られ、ガチで私を止めに来ていると分かりますね。

 私はナイフで彼女に対抗しようと構えます。ですが、その前に何者かが彼女の剣を受け止めました。


「女神バアルよ。千と一夜の物語、その果てになにが待っているか……」

「バートさん!」


 元盗賊、褐色肌で傷だらけの顔をしたバートさん。傷も完治して今は冒険者として頑張っているみたいです。

 そんな彼は私を守るため、アリシアさんの剣を弾きます。同時に、メイジーさんもヴァルジさんから離れ、スノウさんも髪を振りほどきます。

 

 器用に髪を使って屋根を飛び移り、ヴァルジさんたちと並ぶマーシュさん。私を助けるために、彼女たちはここまで来てくれたんですね。

 そんな中、大きなターバンに顔をうずめる人が一人。えっと、私と同い年ぐらいですし、最初に盗賊団を抜けたアリーさんですかね……?

 彼の頭をバートさんが軽くこずきます。


「おい、アリー。なんでお前だけ顔隠してんだよ」

「いや、問題ごとを嫌って盗賊団を抜けたのに、また問題ごとに首を突っ込むのはちょっと……」

「ナチュラルに最低だなお前……」


 アリーさんも怖いのにありがとうございます。やっぱり、持つべき者は友ですよ。

 三人少女に対抗するのは、私が培った絆を持つ人たち。


 長く、美しい髪をなびかせるマーシュさん。

 子供の狼をなで、穏やかに笑うヴァルジさん。

 バンダナを頭に巻き、覚悟を決めるバートさん。

 大きなターバンから瞳を見せるアリーさん。


 そうか……私が頑張ったことって、この時のために繋がってたんだ。

 無駄なことなんてないんですよ。人と人との繋がりは、必ず結果を生みます。


 大丈夫、今の私ならちゃんとやれるよ。

 胸を抑えつつ、私は自分自身に言いました。


テトラ「長い髪に捕まって王子様が……何てロマンティックな……」

マーシュ「このあと滅茶苦茶S○Xした。原作の長髪姫は、よく出来たエロ本なのです!」

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