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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第一章 黒猫さんと白猫さんのお話し
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05 この世界は差別に溢れてます


 奴隷市での取引。私という商品の値段交渉。

 日の入らない裏通りの奥で、盗賊さんと商人さんが話しています。私は隣で縛られていましたが、そこで世界の縮図を目の当たりにしました。


「年頃の女だぞ! これっぽっちの値段であるわけがねえだろ……!」


 盗賊の一人が奴隷商人に向かって罵倒を飛ばします。どうやら、彼の提示した値段に納得がいかないようですね。

 自惚れではありませんが、絶賛十五歳の私はそれなりの値段になると思っています。この世界の通貨はGゴールドらしいですが、商人さんが提示したのは10000G。はい、価値が分かりませんね。でもなんか安いみたいです。

 これは完全に足元を見られていますね。相手は盗賊なんですから、取引相手なんて限られています。それに付けこんでこの値段を提示したって感じですか。

 商人さんは盗賊さんたちを見下しながら、差別っぽい言葉を吐き捨てます。


「お前たちのような土人から誰が商品を買う。それとも、今から憲兵に付き付けてもいいんだぞ」

「てっめえ……」


 土人……盗賊さんたちは有色人種。商人さんは白色人種。

 あー、そういう事ですか。この商人さん、ぶん殴ってやりたいですね。つくづく、この世界の思想は理解できません。

 これは乱闘パーティー不可避ですか。そう思ったとき、兄貴さんが部下の盗賊さんを止めます。

 

「待て、余計な問題ごとは起こすな」


 兄貴さんは冷静でした。本当は私以上に怒っているはずなのに、彼はその感情を表に出しません。

 この人の手に掛かれば、目の前の商人さんはイチコロでしょう。ですが、兄貴さんは暴力をかざそうとはしません。

 ここは街中、騒ぎを起こせば自分たちは終わる。それをしっかり理解しているようです。

 でも、部下の盗賊さんは何かを言いたそうですね。分かります。私も言ってやりたいです!


「兄貴……でも……」

「堪えろ……堪えるんだよ……」


 悔しそうな顔をしながらも、兄貴さんは文句を言おうとはしませんでした。自分は犯罪者、その身の程をわきまえているという感じですね。

 クズを更なるクズが利用し搾取する。まったく、反吐が出るような世界観ですね。生まれ変わってもこんな世界には絶対転生したくないですねー。しましたけど。


 相手は悪人。謝る義理はないのですが、お役にたてなくてすいませんと考えてしまいます。

 それは、優しさからでしょうか? 弱者を見下す同情からでしょうか? 

 彼らとここで分かれる以上、その答えは永遠に出ないでしょうね。












 奴隷市場の一角、そこには商品の保管場所があります。

 牢獄の中に沢山の奴隷を溜めこんで、買い手が付くまで飼育しているという感じですか。自分の事ですが、情けねえ境遇になってしまいました。

 私はそんな施設に連れられて、首輪を付けられてしまいます。鎖で商人さんに引っ張られ、何だかエロい感じですね。


「逃げようとしたり、首輪を無理にはずそうとすれば爆発する。無駄なことはするなよ」

「凄い技術ですね。仕組みが知りたいところです」


 減らず口は華麗にスルーされ、私は牢屋の中に放り込まれてしまいます。鉄格子で囲まれた大型の牢獄で、脱出はちょっと厳しいでしょう。完全に詰んでしまいました。

 経費をケチっているんでしょうか、私以外に何人も同じ牢屋に入れられています。みんな死んだ魚のような目をしていて、この世の全てに絶望しているって感じでしょうか。

 私も長くここにいたら、こうなってしまうんでしょうか? それはちょっとやだなあ……

 腐らないよう、気分だけは新鮮に行きましょう。やっぱり、第一印象は大事ですからね!


「みなさん、今日からここでお世話になるテトラです。よろしくお願いします!」


 そんな事を言ってみると、何人か笑いながら頭を下げてくれました。

 まだまだ、全然腐ってない人もいるようです。生きてここから出られる人はそういう人でしょうね。

 こんな首輪をつけられて、鉄格子の中に放り込まれたら絶望もするでしょう。でも、そうなった以上は仕方ないんです。

 今できる最善をするしかないんですから。



 牢屋の中で、私は積極的に動かずずっと停止していました。

 お腹が空いて力が出ないのもありますが、他の奴隷少女から放たれる『話しかけんなオーラ』が一番の原因でしょうね。

 皆さん、特異な環境からこの身分に落とされたんでしょう。人間を全く信用していないような目つきをしています。

 家族全員殺されて、自分一人ここで生きてるってこともあるでしょう。そんな人にかける言葉を私は持っていません。


 嫌な空気です。なんとか晴れる切っ掛けはありませんか。

 そう思っていたときです。


「お前ら夕食の時間だ」


 待ちに待った夕食タイム。勿論、まったく期待なんてしていませんけど。

 牢屋の扉が開かれ、私たちにそれぞれ食事が配られます。出されたのはよく分からない穀物をおかゆにしたものですね。不味そうですけど、お腹がすいているので背に腹は変えれません。

 スプーンがないので、そのままスープのように一口。あ、意外といける。これはあれですね。ダイエット食品のオートミールってやつですよ。味はないですけど。


 なんとか食べれそうなので二口目を口に運びます。ですがその時、私の目にある光景が入りました。

 私よりも少し幼い少女が、何人かの女性によって囲まれているようです。どうやら、少ないご飯の奪い合いか、もしくは陰湿ないじめにあっている感じですね。

 こんなにも栄養が不足している状況で、さらにご飯を奪われたら死んでしまいます。いえ……もしくはそれが目的かもしれませんね。胸糞です。

 そんな中、私はある事に気づきました。


「猫……?」


 いじめられている彼女の頭には猫耳、お尻には長い尻尾がはえています。これは驚き桃の木、どうやらこの世界にはあざとい猫耳少女が生息しているようですね。

 こうやって何度も食べる物を奪われたのでしょうか。他の奴隷よりも痩せ細っています。

 そしてさらに理解。これはあの盗賊さんと同じ、人種差別によるいじめだと推測できました。まったく……この世界に来てから不快なことばっかりです!


 さって、どうしましょうかねー。助ける義理なんてありませんが、このイライラを晴らすためには頑張るしかないようです。

 下手なことをすれば、虐めの標的が私になって孤立するでしょう。でも、それは問題ないですね。元々私は友達が作るのが得意じゃありませんし、弱い者いじめする人に媚びたくありませんから。

 分かっています。分かっていますよ。女は度胸です。ここで出しゃばらなくては、いつ出しゃばりますか!

 ズカズカと歩き、いじめっ子集団の前に立ちます。そして、自分の首に巻かれている首輪に手を付けました。


「ふんぬ!」

「なにこの子……何してるの……」


 ムッとした表情をしながら、私は首輪を引っ張ります。無理に外そうとすれば爆発するらしいですから、あえて無理に外そうとしましょう。一人じゃ寂しいので、いじめっ子たちも道連れです。

 とにかく懸命に引っ張ります。と、取れろー!


「ぐぬぬぬぬ……!」

「ちょ……ちょっと何してるのよ! バカじゃない!?」

「ば……爆発するよぉ!」


 慌てすぎですよ。このぐらいの力じゃ爆発しないですって……たぶん。

 でも、いじめっ子たちは死にたくないのか、すぐにその場から逃げ出してしまいます。せっかく仲良くなろうと思ったのに、恥ずかしがり屋さんですねー。

 彼女たちは去り際に捨て台詞を吐いていきます。


「じょ……冗談じゃないわよ!」

「近づかないで!」


 ここは「おぼえてろー」っていう場面なのに、「近づかないで」だと悪役にならないじゃないですか。まあ、そっちの方が私としては楽なんですけどね。

 完全に私は危ない子扱いされてしまいました。周りが宇宙人を見るような視線で私のことを見てきます。まったく、人の注目を浴びるのは気恥ずかしいものですよ。

 私は流し目でいじめっ子たちを見つめました。どうやら、人をいじめる覚悟が全っ然足りてなかったみたいです。


「肝の小さな人たちですね。魂が弱すぎます」

「はわあ……ケホッケホッ……!」


 そんな私を口をパクパクさせながら見ている猫耳。よっぽど驚いたのか、むせ返って何度も咳をしていますね。

 近くで見てみると分かります。本当にコスプレじゃなくて本物の耳と尻尾ですよこれー。

 どっちも黒い毛です。黒猫の獣人さんですか。何だかピコピコ動いている尻尾が気になって仕方ありません。

 彼女に近づきます。そして、思わずのその尻尾を引っ張ります。

 

「えい」

「ひゃう!」


 特に意味のない行動。完全に衝動によるものです。

 黒猫さんはその場から飛びあがり、「フー!」っと猫のように私を威嚇してきました。ふん、私が恐ろしいですか。私がわけ分かんないですか。

 それで良いんです。世の中は分からない事だらけ、私という存在が分からない事も一つの真理なんですよ。って感じのドヤ顔で返します。


 さって、御託はここまでですね。私は置いてあった自分のご飯を拾います。そして、それを黒猫さんの前に置きました。

 この行動に対して、黒猫さんは目を丸くしていました。状況を分かっていない様子です。


「こ……これは……」

「ダイエットしてますから、ここに捨てておきます。これは捨てた物ですから、好きにして良いですよ」


 このテトラ・ゾケルは一度死んだ身です。本来この世界にいてはいけない存在なんです。

 私なんかより、彼女の方が生きるべきですよね。自分の世界に絶望して、別の世界に逃げてきたのが異世界転生者。そんな私が他人を踏み台に生き残ってどうするんですか。

 ここでのたれ死ぬのも本望です。誰かの役に立っただけ、以前の人生より充実していたのかもしれません。


 じっと見つめる黒猫さん、それを睨み返す私。

 異世界を生き抜く異世界転生者。そんな私の芯になる二人の猫。

 その内の一人が彼女でした。

テトラ「ダイエット食品のオートミールにそっくりな食べ物。これってトオモロコシですか?」

白猫さん「そうだよ、ベースはトウモロコシ。安価で奴隷たちを生かすために、栄養価の高い穀物を食べやすいように煮溶かしているんだ」

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