54 ☆ 王都を舞台演出します! ☆
お城の庭を走り抜け、城門を軽やかに飛び越えます。
気分はまるで悪の怪盗。私は正義の味方ではありませんし、周りからどう思われようが知ったこっちゃねーです。
深夜の街は静かですが、それでも人はチラホラと歩いています。彼らは派手な衣装の私を目を丸くして見ていました。
「なんだあいつ……大道芸人か?」
「おい待て、あいつが抱いてるの姫さまじゃないか?」
「まさか、そんなはずないだろ」
あったみたいですね。この子は紛れもなく、この国のプリンセスです。
仮面をつけているのでやりたい放題できますよ。ターリア姫も私の正体に気づかず、腕の中で懸命に暴れます。
「くっ……放せ……! 放さないのならいっそ殺せー!」
「ダメですよー。姫が死んだら元も子もないでしょ」
新ジャンル、くっころ系プリンセス。バカめ! そっちが護るべき者だ!
冗談はさておき、暴れられるのは厄介ですね。彼女を抱いた状態で何戦か交えないといけませんし、魔力が回復したらまた茨に襲われます。
どこか、安全な場所で正体を明かし、協力を求めるしかありません。お転婆な彼女なら乗ってくれるでしょう。
暴れる姫を抑えつつ、私は街を駆けます。ですが、前方からその進行を阻害する人たちがやってきました。
「いたぞ! 姫を取り返せ!」
『手が早いものだな』
「おあつらえ向けですね」
王都の騎士団、ざっと二十人。通信系の魔法によって連絡を受け、街の外周部から集まってきたんでしょう。
まじーですね。彼らの相手をしていれば、城から追ってくる騎士団との挟み撃ちにあってしまいます。まだまだ戦いは残っていますし、体力は温存したいところですね。
ですが、そんな私の思惑を真っ向から打ち破る一言。それが、隊長格と思われる人から放たれます。
「何としても助けるのだ……! 姫は……姫は……」
厳格そうな鎧の男性。彼は右手を握り締め、続けます。
「姫は我らが国の宝だッ……!」
「ほら、みんな真剣です。まだまだ捨てたものじゃないんですよ」
どの兵士さんも良い目をしています。誰かを打倒するためだとか、自らの出世のためだとか、そんな意思で彼らは動いていません。
彼らはただ純粋に、ターリア姫を『助けたい』んです。
これが見れただけでも、舞台をあしらえた甲斐があったというものですよ。
軽くかわそうと思いましたがやめました。ちょっと相手しちゃいます!
最初に襲い掛かったのは若い騎士。彼は敵を切り捨てようと、片手剣を右方から薙ぎ払います。
ターリア姫を傷つけないためか、足部を狙う低い攻撃。それを縄跳びのように跳んで回避し、そのまま宙返りしつつ後方で着地します。
「姫は宝ですか。それは良い! つまり、私は国の宝を奪ったことになります!」
「なんだと……!」
両手で姫を抱いているため、両足を揃えて地面に足をつけました。そして、そのまま得意の演説タイムへと入ります。
「貴方がた聖国民は周囲の国から搾取し、大切な宝を奪っていったではありませんか。人も、土地も、心すらも奪っていった。だから、私は貴方がたからも奪おうというわけです!」
騎士たちは国への恨みで私が動いていると思ったでしょう。そう、これはテロ行為。加えて、集団によるものではなく個人による犯行。
怯えて声の出ないターリア姫、目の前の敵を『ヤバい』と認識した騎士たち。この場は私によって作り出された偽りの恐怖で支配されています。そして、その恐怖は剣を鈍らせる。
まさに心の異世界転生者。
話しに尾ひれをつけ、嘘によって彩った舞台演出。
首をカクンと倒し、私は仮面の下でほくそ笑みます。
「同じ苦痛、味わってみますか?」
「こいつ……狂っていますよ……!」
「う……うろたえるな! 奴の話などに耳を傾ける必要はないィ!」
行動で示すためか、隊長格の人が先陣をきります。先ほどの若い騎士さんより速い一閃。重い片手剣をこうも簡単に振り回すとはびっくりですよ。
ですが、私は回避しつつ跳躍し、隊長さんの頭の上に足を乗せます。そして、それを蹴り、二人目の兵士さんに飛び乗りました。
何人もの頭に乗り、それを蹴り、私は道を突き進みます。彼らは頭上の私を掴もうと手を伸ばしますが、捕まるわけがありません。
「な……なにをやっている! さっさと捕獲しろ!」
「ダメです……! 動きが読めません……!」
騎士団の頭の上という道を走り抜け、やがて私は地面へと降り立ちます。そして、その勢いのまま更に先へと駆けていきました。
まるで周囲をおちょくるように、遊ぶように私は騎士たちを退けます。言いたいことは言いましたし、これ以上は意味を成しません。
そんな私の様子をご主人様はこう証します。
『テトラよ。お前は実に楽しそうに戦うのだな』
「真剣に楽しむって決めましたから! 私は気まぐれな道化師です」
頭の中に響くご主人様の声。彼は私の気質と戦闘スタイルを分析していました。
『お前の戦いは誰も傷つけない。攻撃を行わないことは手加減の意。本来強くなりえるはずがない。だが、お前の場合はそれが強大な力を引き出している』
腑に落ちない。そんな態度を取りながらも、彼の声は笑っています。
『大いなる矛盾。やはり人とは不思議なものだ』
自分でも不思議です。私はご主人様の糸に引っ張られているだけだと思っていました。ですが、これがどうにもしっくりきて、不思議な感覚を感じます。
私の戦いに見惚れていたのか、ターリア姫はぽかんと口を開けていました。彼女の憧れる冒険者ではありませんが、私もカッコいいとこ見せたんじゃないですか?
ま、正義の味方とは遠く離れた悪い道化師なんですけどね。
そんなこんなで姫の抵抗は落ち着きました。ですが代わりに、彼女はジト目で私のことを観察しています。
あー、そろそろ正体がばれたっぽいですね。一応、男性を演じて低めの声で喋っていましたが、流石に無理が出て来たでしょう。
やがて、ターリア姫は疑いの眼差しを向けたまま、私に問いかけます。
「もしやお前は……」
「待てい! そこを止まれェ!」
彼女の声をかき消す大声。私の前に立塞がったのは白髭の中年男でした。
薄汚れた鎧に盾と鉄槍。彼は走る私を真っ直ぐと見据え、その進行方向で仁王立ちしています。
人数は一人、部隊で動いているようには見えません。恐らく、彼は個人的の意思で戦いへと赴き、その執念によって私にたどり着いたのでしょう。
これは呆れるほどのバカですね……ですが、そのバカは私のお知り合いでした。
「我名は聖国騎士団所属、アロンソ・キハーノなり! 吾輩と一騎打ちをし、即刻姫を解放せよ!」
「アロンソ……! なんで……」
驚くターリア姫。それも当然です。
私の監視役だったアロンソ・キハーノさん。王都騎士団の一人で、結婚に縁のない中年の親父さんです。
正義感が強くて生真面目なんですが、この歳になっても戦場で功績を立てていません。その結果、姫の護衛や客人の監視などの雑務をやらされ、滅多に武器を振るうこともないようです。
いわば、窓際社員。ご主人様の操作を受けた私を止めれるはずがありません。
相手をするだけ時間の無駄でした。
『どうする。跳んで避けるか?』
「いえ、お相手します」
そう、価値はありません。でもやります。私、気まぐれですから。
スピードを一切殺さず、私はアロンソさんに突っ込んでいきます。そして、好敵手を睨み返し、硬い石畳の道を踏みしめました。
ご主人様は私の選択に驚いています。そりゃそうですよね。ずっと戦いを避けていましたから。
『お前が……自らの意思で仕掛けるのか……?』
「私、分かったんです。本当に素晴らしい舞台を作るには、ワンマンショーじゃダメなんだって」
ここで無視すれば、アロンソさんはとても落胆するでしょう。決死の覚悟を嘲笑う行為、それは同じ舞台に立つ者に対する侮辱を意味します。
騎士道を重んじる彼に対し、騎士として勝負を受けるのは当然。そう、これこそが相手に対するリスペクトなんですから。
「時には相手の舞台に上がり、相手のステップに合わせなくちゃいけない時もあります。今がその時です!」
カシムさん……力を貸してください!
私はターリア姫を背負い、左手で抑えます。そして、女神のレリーフが刻まれたナイフを取り出し、右手に握りしめました。
私が前に進むほどに、近づくアロンソさん。当然、彼は迎え撃つつもりでした。
月が笑う街。対峙する騎士と道化師。
やがて、騎士の鉄槍が道化師の頭部を的確に狙います。
本来、槍とは突くものですが、彼の攻撃は殴り。ターリア姫を傷つけない最善の攻撃です。
ですが、だからこそ読める。私はアロンソさんがこの選択肢を選ぶと確信していました。
身体を後ろに倒し、右手の槍を紙一重でかわします。そして、左手の盾を潜り抜け、彼の懐へと入りました。
数メートルもない至近距離。アロンソさんの瞳が仮面から覗かせる私の目を見ます。
僅かに表情を変える彼。同時に、私はその右甲手にナイフを打ち付けました。
「ぬう……!」
『見事』
地に落ちる鉄槍。称賛するご主人様。
ターリア姫に続き、これで二人目の強敵突破です!
勝負はついたので私はアロンソさんに背を向けました。騎士団に追われているので、これ以上のタイムロスは避けたいところ。
ですが、後ろからは敗北した騎士の声が響きます。彼は諦めていませんでした。
「待て! まだ……まだ吾輩は戦えるぞ……! 何度でも武器を拾い、貴殿を止めて見せよう……!」
もう、決して追いつけない。例え追いつけても勝てる見込みはない。それでも、アロンソさんは声を張り上げました。
それは確かな執念。求めるのは勝利か、それとも愛する姫か……
分かりません。ですが、私は彼の思いに答える責任がある。それが勝者の努めです。
私は足を止めます。そして振り向き、深々と頭を下げました。
「お手合わせ、ありがとうございました!」
それはあまりにも無駄な行為。
足を止め、振り向き、頭を下げるという時間のロス。相手に対する敬意がなければまず行いません。
これを見たアロンソさんは、驚愕して固まってしまいます。やがて握りこぶしを解き、肩の力は脱力しました。
悪党に敬意で応えられた。思いもよらない私の対応に、理解が追いつかなかったのです。
『よくもまあ、的確に戦意喪失させる一言を考え付くものだ』
「人聞きが悪いことを言わないでください。私はただ、純粋に応えただけです!」
ご主人様に皮肉めいたことを言われつつも、私はまた走り出します。
彼はそんな私に疑問を浮かべました。
『テトラよ。お前は心が読めるのか?』
「そんなわけないじゃないですか。心が読めたら騙し合い、偽り合いが出来ません。人生の楽しみ半減ですよ!」
嘘つきの私にとって虚偽は尊いもの。本当の感情は仮面の下に隠すものです!
騙すことは利益を得るための策。偽ることは自分をよく見せるための努力。そりゃー、悪いことに使う人もいますが、良い事にも使えるんです!
警察が強盗と人質交換なんてしますか! 騙して人質だけ助けるに決まってます!
だから、私は嘘が好きです。
気に入らないならどうぞ。私を騙しに来てください。
ここからほぼ戦闘。




