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48 嵐の前の静けさですね


 私が宮廷道化師として働き始めて一週間。人形劇云々は置いておいて、とりあえずターリア姫とは仲良くなりました。

 歳が近く、性別が同じという事もありますが、それ以上に彼女の本性を知ったのが大きいでしょう。ベッドから起きるや否や、姫はハイテンションで茨鞭を振り回します。


「ふははは……! 我はターリア! この国を守る戦士だ!」

「姫様、お戯れを……」


 姫はぶっ壊れてしまいました。いえ、元々壊れていたところ、本性を現しただけですね。

 私の劇でテンションを上げた後、ずっとこんな感じで暴れています。観察の結果、彼女の一日は寝るか暴れるかの二つ。体力の限界ぎりぎりまで暴れに暴れ、疲れたら死んだように眠る。

 やんちゃな子犬かお前は! ターリア姫は腕を組み、ドヤ顔で自身の夢を語ります。

 

「あたちは聖オルレアンさまのように強く美しい女戦士になりたいぜ! あたちの魔法でこの国を魔王から守るのだ!」

「聖オルレアン?」


 おっと、つい疑問の声が出てしまいましたね。

 私の言葉を聞いたターリア姫はニヤリと笑い、ベッドの上に仁王立ちします。そして私を見下すように、自分の知識をひけらかしました。


「知らんのか! 聖アルトリウスさまと並ぶ五大聖人の一人だぞ! 主の神託を聞いた五人の預言者。聖アルトリウス、聖オルレアン、聖ビルガメス、聖キュクレイン、聖ザイフリート。聖書を読んでいるなら常識だ! ふん、これだから東の奴隷は……」

「流石は姫様。ご教授いただきました」


 う……流石プリンセス。バカそうに見えて博識です。

 私だって自分の身を守るため、聖書は読破しましたよ! ただ、思わぬ名前を聞いて、つい声に出てしまっただけです!

 この国は聖アルトリウス教が普及していて、他の聖人は特別崇拝されていません。まあ、同じ聖人ですから奉られてはいますがね。特に重要ではないのでスルーしましょう。


 少しすると、スピルさんと一人の兵士さんが扉を開けます。

 この兵士はアロンソ・キハーノさん。私が城に来た日からずっと監視としてつけられてます。

 まあ、武器のナイフは携帯していませんし、魔力もゼロですから警戒の必要はないと思いますけどね。一応、念のためという事でしょう。

 そんな彼は私にある報告を行います。


「テトラ殿。国王陛下が姫さまの様子を見たいと仰っている。これより、この部屋に足を運ぶことになるだろう」

「承知しました。無礼のないよう、殿下をご安心させてご覧入れましょう」


 マジですか。王様がここに来るんですか。うへー、面倒ですね。

 それにしても、監視役がアロンソさんで良かったです。私は頬の紋章のせいで周囲から白い目で見られていますが、この人はそういった目で私を見ません。

 かなりの人格者だと分かります。まあ、それは今からここに来られる国王さまも同じですが。


 やがて、部屋の扉を開けてバシレウスさまが御成りします。しかし、そんな彼の姿を見た私たちは驚愕に固まってしまいました。

 彼の服装は何というか……野性的というか……ありのままというか……つまりのところ……


「おお! ターリア! パパが来たぞ!」

「お……お父たまの変態……!」


 パンツ一丁でした。

 そう言えば、このお城には皇族専用の浴場がありましたね。娘の部屋から近いので、そのまま移動してきちゃったんですね。だらしない……

 彼、バシレウス七世さまは絵に描いたようなおっさんです。国務の時はしっかりしているんですが、プライベートの時は非常にだらしない。

 思わず、身分をわきまえずに意見してしまいます。


「国王様! お言葉ながら、パンツ一丁で城を徘徊するのはいかがなものかと!」

「黙れ! これはバカには見えない服だ! バカには見えない服なのだ!」


 子供の言い訳ですか……あの子があってこの親ですよ。

 この一家、全員もれなくぶっ壊れています。たぶん、お妃さまもぶっ壊れているんでしょう。

 護衛も武器も、服すらなくても彼は余裕の表情。このカルポス聖国は武力国家なのに加え、息子も娘も魔法の天才ですからね。

 まあ、このおっさんも相当に出来るんでしょう。パンツ一丁ですけど。


 国王さまのおバカ加減は他にも伝染します。先ほど部屋に入ったスピルさんとアロンソさんは、真面目な顔で論議をしていました。


「え!? バカには見えないの!? 私はバカだから見えないの!?」

「う……うろたえるな! これは国王殿下の言い訳である可能性が高い! 断じて! バカには見えない服などあり得るはずがないのだ!」


 このバカ二人は何を話しているんでしょうか……

 最近、周りが頭おかしくて私が突っ込み役になってきたような気がします。もっと、最初の私は場を掻き回すようなキャラでしたよね? 何で私が他を制止してるのでしょうか……

 なんて、一人ため息をつくのでした。








 王都ポルトカリ、城壁に囲まれたカルポス聖国の中心地。そんな街で私とスピルさんは買い出しを行っていました。

 どこを見ても人人人……フラウラの街とはまるで人口が違います。もう、この街に来て一週間が経ちますが、いまだに位置関係を把握できていません。

 不本意ながら、狂ったコンパスであるスピルさんに頼る以外にありません。


「大丈夫大丈夫! 私がついてるから万事オッケー!」

「そう言って、この一週間で何度迷ったと思ってるんですか……」

「う……」


 大丈夫じゃないです。むしろ危険です。

 でもまあ、一人で行動するよりはマシですかね。ずっとスピルさんがいたから、王都でも心細くなかったんです。彼女を残してくれたベリアル卿に感謝しなくてはいけません。


 ん……? 一人で行動する……? 心細い……?


 そう言えば、最初は一人で行動すると思っていて心細かったんですよね。それで、誰かに対して同行するように頼んだような……


「あっ……! ご主人様のこと忘れてた!」


 そうでした。そうでした。ご主人様と後々合流することになっていたんでしたねー。

 ですが、スマホがあるわけでもありませんし、連絡を取り合うことが出来ません。さてさて、どうしましょうか。

 以前、ご主人様はテレパシー的なものを送っていました。合流したいなら、あちらから交信するでしょう。なんて思っている時でした。


「テトラ、探したぞ」

「うわ……! ご主人様!」


 なんという偶然ですか。私がご主人様のことを思い出した瞬間、本人が目の前に現れました。

 って、この広い王都でこんな奇跡がありますかね。なんか、絶対にタイミングを伺っていたような気がします。

 もしかして、この頬の紋章にはGPSのような居場所特定機能があるのでは……いえ、なかったら奴隷に逃げられてしまいますよね。


「ご主人様、居場所は分かっていて、テレパシーで会話も出来たんでしょう。なんで何も言わなかったんですか」

「どうせ私など必要なかっただろう。どうせ私など……」


 めっちゃ拗ねてるー……まあ、助け求めて忘れてた私が悪いんですけどね。

 とりあえず謝ろうと思ったとき、スピルさんが首をかしげます。


「えっと、この人は?」

「私のご主人様。ネビロス・コッペリウスさまです」


 ご主人様はスピルさんの存在に気付き、ペコリと頭を下げました。礼儀正しいのですが、覚えたてのようでどこかぎこちないです。


「私のテトラが世話になった。失礼ながら、そちらの名前は?」

「ファウスト家の使用人。スピル・フォティアといいます。よろしくお願いします!」

「フラウラ領主の使用人か。こちらこそよろしく」


 何事もなく自己紹介を終えます。ポンコツなスピルさんの近くにいたら、ご主人様が変なことを覚えてしまいそうですが……出会ってしまったものは仕方ないですね。

 どうやら、ご主人様はフラウラでも有名らしく、スピルさんもその名前を知っていました。


「そっか、変人で有名なコッペリウスさんの弟子だったんだ。じゃあ、テトラちゃんが面白いのも納得だね!」

「すっげえ失礼です」


 弟子というほどものではありません。単なる主従関係ですよ。

 私はただ、ご主人様を楽しませるためにその技術を吸収しています。今回、国王専属の宮廷道化師になったのも、自立してご主人様を楽させるためですから。




 しばらくの間、私たちは王都で買い物をします。

 どうやらご主人様は人形作りの材料が欲しく、王都には定期的に訪れているみたいですね。スピルさんよりよっぽど街を把握していました。


 やがて、あたりが薄暗くなってきたとき、街の一角で騒ぎになっているのを発見します。

 鎧に身を包んだ騎士たち。彼らは空に向かって魔法や矢を放ち、懸命に何かを仕留めようとしています。どうやら、街に入った時に見た怪鳥を狙っているようですね。

 そんな彼らを見たご主人様は、顎に手を当てて疑問の表情を浮かべます。やっぱり、モンスターが街にいることに引っかかっていますか。


「ふむ、おかしなことだ。あのモンスターはルフ。本来は高地に生息する鳥獣モンスターであり、このような低地を飛行することなどあり得ない。これは一体どうしたことか」

「でも、現に飛行してるよ!」


 スピルさんの突っ込みそっちのけで、ご主人様は何かを考えます。彼の普段見せない表情に、私は思わず身震いをしてしまいました。

 そう言えば、ロバートさんがこの国を出るよう警告していましたね。まさか、これと関係が……?

 いえいえいえ! 確かに僅かな歪みを感じますが、直接的には関係ないでしょう! この街にはターリア姫だっていますし、ヤバい事件は簡便です!


「ご主人様、大丈夫ですよね? 何も起きませんよね?」

「いや、すでに起きていると判断出来るだろう。結果には原因が伴う。この不自然な現象には何らかの事件が関係しており、それがこの結果を生み出したと予測できる」


 哲学的で何を言っているのかよく分かりません。

 とりあえず、今後の事件より過去の事件の方が重要みたいですね。まあ、今が平和ならひとまずは安心です。

 ですが、どうしても嵐の前の静けさを感じてしまいますよ。モーノさんもここに来ているみたいですし、何の事件も起きなければいいんですが……

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