表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/248

47 人には裏表があります


 今日は本当に忙しなかったです。

 一日でフラウラから王都に移動し、王様とお姫様に劇を披露しました。当然、外はもう真っ暗で都の観光なんてしていられません。

 本当は色々と街を探索したかったのですが、それは明日にとっておきましょう。


 私は使用人の一人として迎えられ、王宮の一室に案内されます。これから数日間、私は宮廷道化師として働かなくてはなりません。

 でも、部屋はご主人様の家より豪華です。夕食も用意されましたが、普段の生活よりはるかに良いものを出されましたね。

 うーん、これはここで働き続けた方が贅沢をできるのでは……って、いけません! ご主人様を裏切るような真似は出来ません!

 私が一人葛藤していると、誰かが部屋をノックします。「どうぞー」と言いますと、見覚えのある男性が部屋に足を踏み入れました。


「お邪魔しますテトラさん。どうやら上手くいったようですね」

「どうでしょうか。何だか微妙な気もしますが」


 この国の大臣であるベリアル卿。どうやら、お城まで来ていたようです。

 彼は上手くいったと言っていますが、実際は微妙なところ。ターリア姫は怪しい笑みを浮かべただけですし、物語の内容にも納得していない感じでした。

 成功とは言えない気がしますよ。ですが、ベリアル卿的にはこれで良かったみたいです。


「次があれば上出来でしょう。もとより、それほどまでに期待はしていませんでしたし」

「期待してるって言ったじゃないですか!」


 えー、期待されてなかったんですかー。ただの方便だったんですかー。

 なんてショックを受けていたら、ベリアル卿は笑顔で返します。


「冗談ですよ。ところで、成功した場合は専属の宮廷道化師となり、王宮に縛られることになります。それは困りますよね?」

「当然です!」

「でしょうね。きりがついたとき、私が王に話しておきましょう。そうですね……二週間は続けてもらいたい」


 二週間ですか。まあ、妥当ですね。

 実際のところ、ヤベーほどの報酬をすでに受け取っています。完全に引くに引けないところまで来てしまって、困っているところでした。

 タイムリミットが出来てしまいましたが、これでずっとここで働かずに済みましたよ。

 でも、成功はさせますよ。必ずターリア姫の心を掴んで見せます!


 私の意思を察してか、途中から別行動をしていたスピルさんが合流します。どうやら、ベリアル卿は彼女をつけてくれるようですね。


「こちらもスピルさんを残します。彼女の存在は仕事の邪魔……と、ゲルダさんが言っていましたので」

「べ……ベリアルさま……嘘だよね……? いつもの冗談だよね……?」


 あー、ゲルダさん言いそう。私の仕事を見届けたらさっさと帰ってしまいましたし、雪のように冷たいんですよね……

 それとは逆にスピルさんは炎のように熱い人。ベリアル卿の言葉にショックを受けていましたが、続く信頼の言葉で燃え盛ります。


「スピルさん、後は頼みましたよ」

「りょうかい! 私に任せて!」


 本当にこの人、大丈夫なんでしょうか……何だかとっても心配です。

 魔法の才能はあるみたいですが、滅茶苦茶やるのが危険なところ。ちゃんとブレーキをかけないといけませんね。


 話を終えると、ベリアル卿はこの部屋を後にします。そして、帰り際にこんな情報を残しました。


「ああ、そうでした。貴方のお友達もこのポルトカリまで来ているようですよ」

「お友達……?」


 私に友達なんていませんが? まさか、ご主人様……?

 疑問に思っていると、彼の口から意外な名前が出ます。


「モーノさん一行です」

「友達じゃないです」


 友達じゃないです。友達じゃないです。むしろ敵です。

 こっちは盗賊団の一件で辛辣な関係になってるんですよ! アリシアさんの警告も無視しちゃいましたし、今更仲良くできねーですって!

 ですが、彼らは私を追ったり、探したりしていません。許されたのか眼中にないのか、何にしても現状はノータッチです。

 ベリアル卿はそんな私達の関係が気になるのか、さりげなーく聞いてきました。


「これは失敬。失礼ながら、彼とはどのような関係で?」

「敵視はしてます。商売上、盗賊のような方とも御付き合いしていましたが、それを彼に殺されてしまいましてね。まったく、商売があがったりですよ」


 息を吐くように嘘をつきます。

 転生者云々の話をするわけにもいきませんし、突っ込まれるといろいろ面倒なんですよね。なので、怪しまれないように平然と対応しました。

 そんな私に対し、ベリアル卿は楽しそうに微笑します。そして、全てお見通しといった様子でこう返しました。


「なるほど……いいですね。上手い嘘は好きですよ」

「ぎくっ……」


 一発で見破られます。

 ですがまあ、流石に異世界転生者云々は知りえませんよね……? そもそも、彼にはそんな認識自体ないはずですから。

 嘘は見抜かれましたが、ベリアル卿はそれ以上追及しようとはしませんでした。

 軽く頭を下げ、大臣は私とスピルさんに背を向けます。本当に、彼は曲者中の曲者ですね。要警戒、これからも細心の注意で向き合う事にしましょう。








 使用人部屋の一室、私はスピルさんと共同生活することになってしまいました。

 正直、一人の方が気楽でよかったです。あまり親しくもない人と一緒に生活するなんて、陰キャラの私からして見れば苦痛でしかありません。

 ですが、スピルさんはひたすらに明るくフレンドリーです。まあ、彼女となら一緒でも良いですかね。ちょっとウザったいですけど。 


「部屋で女二人きりって、なんかワクワクしてくるよね!」

「いえ、別に」


 必要に話しかけてくるスピルさんを塩対応で返します。

 私が悪いんじゃありません。こういう会話をかれこれ数十回は繰り返していますから、あまりにもしつこい彼女の方が悪いんです。

 こちらが冷めた対応をしてもスピルさんは絶好調。今度は一つしかないベッドについて話します。


「ベッドが一つしかないから二人で……」

「私、床で寝ますからスピルさん使っていいですよ」


 他人と同じベッドに入るなんて嫌です。ヴィクトリアさんの時は居候の身で断れませんでしたが、今回ばかりはきっちり断らせてもらいますよ。

 そんな対応ばかりしていたら、スピルさんはプーっと頬を膨らませます。そして、私に向かって文句を言ってきました。


「テトラちゃんって、劇をしてない時はあんまり面白くないよね」

「ほっといてください!」


 き……気にしてることを! そうですよ! 私は気分がハイにならないと面白くないんです!

 なにが悪いか! なにが悪いか! そういう仕様だ! そういう仕様だ!

 自分自身に言い聞かせ、気持ちを静めます。

 ご主人様の操作を受けたハイテンションな私。あれは仮面の姿? それとも本当の姿? まったく、自分自身が分からなくなってきましたよ。




 少し部屋で休み、私たちはゆったりと会話します。

 こんな時でも情報収集は欠かせません。私はお喋りなスピルさんから、ベリアル卿の情報を引き出す行動に移ります。


「スピルさん、ファウスト家って何なんですか?」

「私もよく分かんないけど、この国が作られたときからずっと大臣を務めている家系なんだって。どの世代の頭首も頭が良くて、何度もこの国を勝利に導いたらしいよ」


 うへー、大層な家系なんですね。歴史も相当古いみたいです。

 それにしても、あのベリアル卿に前の世代って……いえ、人間なんですから当然親はいるんでしょうけど、何だか想像しづらいですね。

 もしかして、まだ生きているかもしれません。一応、スピルさんに聞いてみましょうか。


「前の頭首はどんな方だったんですか?」

「しーらない。でも、ベリアル卿そっくりだって聞いたことあるよ。お父さんなんだから当然か」


 まあ、怪しい部分は特にないですね。貴族が次の世代に同じ役職を与えるのは当然です。自然と大臣職を何世代も繰り返す家系が出てくるでしょう。

 それにしても、国の誕生からですか。ファウスト家の思想がこの国を勝利に導き、歴史を作っていったんですね。


 待ってください。ファウスト家の思想がこの国を……?

 私の前に立ちふさがる壁。人種の差別……動物とモンスターの区分……周辺国への侵略行為……


 まさか、ファウスト家がそれらの思想を……


 いえいえ、ねーですって! 流石にねーですって!

 ぞっと背筋が凍りますが、すぐにその思考を振り払います。

 いくらファウスト家がこの国を作ったと言っても、世代によって思想は違うんです! まさか、どの世代も同じ人じゃあるまいし、一人の思想で国を作り上げるのは不可能ですよ! はい!








 一日が経ち、私は再びターリア姫に劇を披露します。

 今回はご希望に添えて、王子様が悪いドラゴンをばっさり倒しちゃう物語ですよ。お姫様の趣味ではないと思ったんですが、前回の反応を見るにこっちの方が良いと判断しました。

 さて、いよいよクライマックス。王子様とドラゴンの一騎打ちです!


「王子は聖なる盾を使い、ドラゴンの炎を防ぎます。そこから彼は、一気に敵に向かって走り出し……」

「ドラゴンめ……! あたちが相手だ……!」


 その瞬間でした。

 突如、ターリア姫がベッドから飛び出し、自身の腕に茨の蔓を巻きつけます。そして、それを一気に伸ばし、舞台上のドラゴン人形をがんじがらめに巻きつけました。

 ドラゴンは手人形。動かしてるのは私。当然手に茨が……


「いだだだだだ……! トゲが! トゲがー! 何するんですか!」

「す……すまない……!」


 すぐにターリア姫は茨をひっこめます。そして、しょんぼりした様子でその場に座り込みました。

 完全にテンションが上がっていましたね。やはり、これは私のチョイスが正解でしたか。


「ターリア姫、貴方は戦闘がお好きで?」

「うん、あたちちょー強いぜ……!」


 そう言って茨の鞭を手足のように操り、エアーボクシングをする姫。これはびっくり、彼女はお姫様ながら相当の鍛錬を積んでいるようです。

 普通、国のお姫様にこんな技術を教えませんよね? とりあえず、詳細を聞いてみます。


「素晴らしい魔法の鍛錬。失礼ながら、どこでその技術を?」

「お兄たまが教えてくれたの。お兄たまはずるい……自分だけカエルに変身して城から抜け出すなんて!」


 あのナンパガエルか……あ、王子さまに酷いあだ名をつけちゃいました。

 相当強い人だとは感じましたが、人格はろくでもないですね。妹、しかもお姫様になぜ野蛮なことを教えましたか!

 ですが、ターリア姫は絶好調です。行動だけではなく、言動も野蛮そのものでした。


「このままでは……あたちとお兄たまの差は開く一方……! あのバカップル、潰してやりたいぜ……!」

「お姫様がバカとか潰すとか言っちゃダメ!」


 婚約者のエラさんもターゲットみたいです。やめなさいって……

 昨日はターリア姫の事が分かりませんでしたが、今ここで確信しました。彼女は超体育会系のハッスルお姫様。バトル大好きで夢はドラゴンの討伐!

 あー、自分で言ってて頭おかしくなってきましたよ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ