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42 人形劇を始めました


 あの事件から一週間。私はご主人様の家に戻り、平和な日々を過ごしていました。

 モーノさんの奇襲を警戒していたのですが、まったくその気配はありません。

 彼、私と敵対関係になろうとは思っていないみたいですね。現状はこちらが一方的に敵視しています。

 一応、和解も考えていますし、このままじゃいけませんよね。意地を張っていないで、折れるところは折れないといけません。



 あまりにも平和すぎるので、新しい事にも取り組んでみます。

 今、部屋に用意したのは酒作り用の大きな樽。葡萄酒を作っている職人さんに、古くなったものを売ってもらいました。

  魔石によって暖炉に火をくべ、鍋にはたくさんのお湯を沸かします。そして、沸かしたお湯と井戸水を樽の中に入れ、ちょうどいい温度に調節しました。

 さて、これで完成です。お風呂! どこからどう見てもお風呂!

 意図しない葡萄酒の香りが漂っていますが、ワイン風呂だと思えば許容範囲です!


 早速すっぽんぽんになり、浴槽に足を踏み入れます。

 なんと、温かい! 水風呂じゃなくて温かい! 一気に全身を樽に沈めました。

 し……幸せすぎる……こんなに幸せで良いのかテトラ……!

 しばらく続く至福の時間。しかし、そんな時を邪魔する不届き者が帰ってきます。


「テトラ、今帰……」

「ご主人様のエッチー!」

「ぶは……!」


 思わず、扉を開けたご主人様の顔面にお湯をぶっかけてしまいました。

 びしょびしょになった彼は目を丸くし、混乱した様子で頭を下げます。

 なぜ、テトラは全裸で樽の中に入っているのだろうか。なぜ自分は怒られたのだろうか。そんなご主人様の困惑が手に取る用に分かります。


「す……すまないテトラ……しかし、この突然の仕打ちに若干の理不尽を感じているのだが……」

「すいませんご主人様! 全面的に私が悪かったです!」


 ラッキースケベという様子ではありません。まるで分らないと言った様子です。

 そもそも、なぜ私はリビングでお風呂に入っているのでしょうか? そうでした。外は恥ずかしいですし、暖炉でお湯を沸かせる場所を選んだんでしたね。

 すぐに浴槽から飛び出し、すっぽんぽんのままご主人様の体を拭きます。そして、その拭いた布きれを自分の体に巻きつけました。


「お風呂ですよご主人様! 公衆浴場なんて非衛生的すぎてとても入れません! ならば、私自身でお風呂を作る以外にないでしょう!」

「ふむ、よく分からないが切実なようだな」


 私を気にかけてか、ご主人様は涼しい顔で視線を逸らします。

 これは、まったく女性として見られていませんね。胸か? 胸の大きさか? いえ、ぜーんぜん気にしていませんけど。


 まったくエロくないサービスシーンを終え、私はご主人様の作った服を着ます。相変わらずフリフリのフリルが付いていていて、眩暈がするほどのメルヘン仕様ですね。

 そんなメルヘンご主人様は、浴槽の湯に手を付けて温度を見ています。彼は優れたデザイナーですが、同時に優れた研究者でもあります。私の作ったお風呂が気になっているのでしょう。


「なるほど、暖炉で沸かした湯を水と混ぜ、適度な温度にしているか。しかし、この方法ならば直接火にかけた方が早いのでは? 湯の温度も維持出来るだろう」

「そんなことは分かっています。ですが、室内で魔石を使用するわけにはいきませんし、外ですっぽんぽんになるのは抵抗があります」


 森の中ですけど、時々冒険者やお城からの使者が来ますしね。青空の下で風呂に入るのはきっついものがあります。

 それに、本格的な五右衛門風呂を作るとなると専用のかまどを作る必要があります。手間が物凄いですし、知識のない私が作っても樽が炎上してしまうでしょう。

 大変ですけど、今はお風呂に入れればそれでいいんです。とにかく体を綺麗にしたいですから。

 そんな私の行動に対し、ご主人様は疑問を持っている様子。彼は私の変化にすぐ気づいたみたいです。


「最近のお前は以前よりも清潔さを気にかけるようになった。何か事情があるのだろうか?」

「実はですね。客商売をしているんですよ。ダメ元でやってみたんですが結構受けてしまいまして」


 そう、以前から計画していた人形劇。実はここ一週間で形にしていたんですよ!

 もっとも、現状はストリートパフォーマンスの域ですが、それでも少しづつ認められているはずです。人形を買いたいという人も数人いましたしね。


 今日もフラウラの街に向かいます。

 私の作った指人形で劇を演じ、直したご主人様の廃棄人形を売りつける! 最低限、自分の使うお金ぐらいは稼いで見せますよ。

 いずれは自分で一から人形を作り、指人形以外のものも動かせるようにしたいですね。









 フラウラの大通りにて、私は小さな劇場を広げます。

 集まるギャラリーは主に子供たち。正直、ロリショタはあまり好きじゃないのですが、出し物のジャンルを考えると必然的にこうなります。

 粗末な台を用意し、その上に布を広げます。衣服もお客さんを楽しませるよう、ご主人様に道化師の衣装を作ってもらいました。

 私は奴隷であり、人々の笑いの的になる存在。いっそ、最底辺まで見下された方が、劇を演じる上でメリットになります。


「レディース&ジェントルメン! 本日もこのテトラによる人形劇が開幕します!」

「テトラお姉ちゃんが来たー!」

「テトラお姉ちゃんだー!」


 出だしは順調。始めて一週間も経っていませんが、すでにギャラリーは十人を超えていました。

 自慢じゃありませんが、私は語ることにかけては絶対の自信があります。言葉と動きで人をひきつけ、観客たちをショーに引っ張り込むのです。

 この国は娯楽の文化というものが発展していません。加えて、私には現実世界で得た物語の知識があります。

 少しパクリっぽいストーリーになってしまいますが、引用しないだけマシでしょう。そのままだと、他の転生者に正体がばれてしまいますからね。


「ある王国に一人の姫が住んでいました。彼女は魔女に育てられ、高い塔の上で……」


 布で隠された台の下から、人形をつけた指を付け出します。そして、それらを自在に動かし、速攻で考えた物語を展開していきました。

 右手人差し指にお姫様、中指に魔女。左手の人差し指に白馬の王子さま。悪い魔女と戦い、お姫様を救出するというベタベタなお話です。


 朗読は私の演説技術を上げ、人形を動かすことで身振り手振りの練習になります。野次馬に人形を売ることが出来ますし、上手くいけばパフォーマーとしての立場を確立できるでしょう。

 一石二鳥、いえ一石三鳥! 完璧すぐる……やっぱ私って天才だ!


 この作戦に一切の死角はない!


「そこの貴様! 誰の許可を得て商売を行っている!」


 劇を終えた瞬間、銀色の鎧を着た男性が私を引きとめます。

 はい、完璧じゃありませんでした。王宮騎士による職務質問が開始されます。どうやら、それなりに人を集めてしまったので目をつけられちゃったみたいですね。

 この国は周辺国と戦争を繰り返す大国。私のような娯楽を提供する存在は目障りで仕方ないでしょう。


 さてさて、どうしましょうか。とりあえず謝って、嘘と屁理屈で誤魔化すしかないですね。


「これは申し訳ございません。私は東の国から来た旅芸人でして、この国のルールを把握していませんでした。是非、責任者とお話をしたい所存です」


 媚を売って権利を求めます。せっかくここまでやったのですから、今更諦めるわけにはいかねーですよ。

 ですが、王宮騎士の方は話が通じるような人ではありません。偉そうな髭を携え、見るからに頑固そうな人でした。


「恐れ多い! 貴様のような奴隷にその権限はない!」

「では、貴方様がこの件に関して話をつけて頂きたいです」

「なぜ俺が貴様などの相手をせねばならん! 不愉快だ!」

「どう足掻いてもダメじゃないですか!」

「そうだ、さっさとここから失せろ!」


 このガタブツめっ! こうなったら、イエスと言うまで一方的に粘着してやりましょうか。

 我慢比べだったら私に分があります。なぜなら私は心の異世界転生者! 心臓が毛むくじゃらですし、底辺まで落ちているので恥じらいはありません!

 さあ、覚悟してくださいよ髭騎士! 私は奴隷だからこそ、やりたい放題できるんです!

 などと見苦しいことを考えている時でした。


「待ってください。その話、聞かせてもらいました!」


 赤いメイド服を着たポニーテールの女性。背中には大きな杖を背負っていて、右手の買い物かごにはたくさんの果物が入っていました。

 彼女は私の前に割り込み、騎士のおっさんと向き合います。どうやら、おっさんの方は女性に見覚えがあるようですね。驚いた様子でたじろいでいます。


「貴方は……」

「ファウスト家に仕える使用人。スピル・フォティアと申します。私が大臣様に話しをつけましょう!」


 ファウスト家の使用人? どうやら、高貴なお方に仕えているようですね。

 直接大臣とお話しできるとは、使用人の中でもかなりの技術を持っているに違いありません。きっとこのスピルさんという方は、相当やり手のメイドさんなんでしょう。


 私のことをスルーし、騎士さんとスピルさんの会話は続きます。話を聞く限り、どうやらフラウラの領主は大臣であるファウスト家の方らしいですね。


「領主殿の使用人か。承知した。この件は任せよう」

「ありがとうございます」


 かなりの権限があるのか、メイドのスピルさんが私のことを一任します。その事から、ファウスト家の大臣さんが強大な存在だと分かりました。

 これはやべーことになってしまいましたか。本当はもっと穏便に事を済ませたかったのですが。

 スピルさんはニコニコと笑い、私の顔を至近距離から観察してきます。どうやら彼女は、私とある女性を重ねて見ているようですね。


「キミさ、トリシュちゃんに似てるよね。雰囲気とか何となく」

「トリシュさんって、ベリアル卿の……」

「そうそう、今からそのベリアルさまのところに行くよ。あの人はフラウラの領主さまだから」


 更なる新事実、先日出会ったベリアル卿はここフラウラの領主さまだったのです。

 そういえば、彼は大臣の仕事であの場所に訪れていました。ここ、フラウラからペポニの村までを治めているのなら、色々と辻褄が合ってきます。

 ベリアル卿とは一応知り合いですし、何とかなるかもしれません。


 でもあの人、いい人そうですけど何か引っかかるんですよね……


別に最終章というわけではない

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