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41 全ては心の問題ですね

一番の転生者であるモーノさんを退け、私とバートさんはペポニの村に身を隠します。

 彼の傷が癒えたこともあり、ここまでの動きはスムーズでした。村人たちは盗賊団の壊滅を知っているようで、その件で大混乱という様子です。

 私としては事が進んで嬉しいですが、バートさんは腑に落ちない様子。まあ、不思議なことがいくつも起きて、納得出来ないんでしょうね。

 

「傷が完治しているが……お前がやったのか?」

「いえ、トリシュさんという大臣補佐の方が魔法で治癒したようです。お礼なら彼女に言ってください」


 まあ、立場が違いすぎるので二度と会えないんでしょうけど。彼女は生粋の貴族。私たちとは天と地の差があるでしょう。

 それにあのノーモーション回復魔法……絶対に何かあります。

 私はポンコツですけど、こういう事には無駄に鋭いんですよね。これもまた、混沌を求める道化が成せる技なのかもしれません。



 血で汚れた服を着替え、村はずれで今後のことを考えます。

 とりあえず、バートさんを匿いつつフラウラの街に戻らないといけません。そこでヴァルジさんに彼を任せ、私はご主人様の家に戻る。丸投げですけど、これが最善策でしょう。

 ですが、行きと同じように馬車を使うのは無理そうです。バートさんの顔が知れているかもしれません。ここはやっぱり草原を歩くしか……

 なんてことを考えている時でした。


「テトラ! 無事だったか!」

「バートの兄貴!」


 私たちの元に、二人の男性が走り寄ってきます。

 一人は冒険者のヴァルジさん、もう一人は逃がした盗賊のアリーさん。どうやら、盗賊さんたちはちゃんと合流できたようですね。

 私が勝手に厄介事を擦り付けたので、ヴァルジさんとしては大迷惑でしょう。

 にも拘らず、彼はアリーさんを助けてくれました。当然お礼を言います。


「盗賊さんの件、ありがとうございます。迷惑でしたよね……」

「ああ、迷惑に決まってるだろ。だが、それで良い。もっと俺を頼れ」


 恩を返せて嬉しいのか、ヴァルジさんは誇らしげに胸を張りました。

 快く私の我ままを受け入れてくれるなんて……やっぱり、持つべきものは友ですよ。


 私がヴァルジさんと話している間、バートさんは複雑な表情をしていました。

 その目線の先には元盗賊のアリーさん。彼がここにいることで、ようやく私の目的を理解したようです。そう、私は本当に貴方たちを救いに来たんですよ。

 ですが、まだバートさんは事実を受け入れていません。目を細めつつ、私のことを睨みます。


「最初からこうなることが分かってたのか……?」

「だから、審判の日が近づいているって言ったじゃないですか。感謝されることはあっても、恨まれる理由はありませんよ」


 いくら疑っても、本当に私は善意で動きました。それは偽りのない事実です。

 とりあえず、バートさんも逃がした盗賊さんと同じコースですね。冒険者としてモンスターを狩り、生活費を稼いでもらいましょう。

 そのためにはヴァルジさんの協力が必要不可欠です。私は彼に向かって、深々と頭を下げました。


「ヴァルジさん、バートさんの事もお願いします」

「ああ、当然だろ。だが、俺に出来るのは冒険者としての仕事を与えるだけだ。こいつらバアル教徒の立場を守ることは出来ねえぞ」


 そうです。砂漠の民は迫害の対象。そんな周囲の目から逃れるために、彼らは盗賊になってしまったんです。

 例え仕事を与えても、差別から逃れることは出来ません。それに加え、主さま以外の神様を信仰することは許されないでしょう。問題は山積みでした。

 ですが、それでも生きてほしいんです。いつか……いつか必ず自由を掴み取れるはずですから。


「信仰をやめろとは言いません。ですが、今は耐えてください。貴方一人で略奪行為を行っても、必ず限界は訪れるでしょう」


 もう、集団で盗賊行為を行えるほどの仲間はいません。少人数で悪行を尽くしたところで、憲兵に捕まってしまうのが関の山ですね。

 貴方は負けました。負けたから、悪行をする選択肢すらも奪われたんです。力でものを言わせた結果、更なる力によって屈服させられたんですよ。


「私は貴方にとって命の恩人。その私からの頼みです。どうか、これ以上の悪行はやめてください。私が、救ったことを誇れるような人になってほしいんです」


 恩着せがましいですよね。でも、これが素直な願いです。

 もし、バートさんが再び死を振りまけば、私は自分で自分を許せない。今まで信じてきたものが打ち砕かれることになります。

 もう、後悔なんてしたくない。彼を信じたいんですよ。


 そんな私に対し、バートさんは口を閉ざします。

 しばらくの沈黙。やがて、彼は複雑な表情をしながら言葉を絞り出します。


「テトラ、お前には感謝してもしきれない。そんなお前を裏切りたくはない……」


 自分に自信がない。だから、真っ当に生きれるかどうかは分からない。そんな感じでしょうか。

 今までの人生もさぞかし拗れまくっているんでしょう。盗賊として、彼らがどれだけの悪行を重ねたか。正直、理解してないんですよね。

 だから、カシムさんに質問したことをバートさんにも聞いてみます。私は命の恩人として、彼の事を知る権利がありますから。


「バートさん、貴方は人を殺したことがありますか……?」

「ああ、今までに二人殺した」


 二人ですか。リアルな数字ですね……

 バートさんは視線を逸らしつつ、その時の状況を語ります。


「一人は年上の男。取っ付きあいになって、死ぬ物狂いで殺した。もう一人は老人。老い先短いだろうと考え、口封じのために殺した」


 情景が生々しく浮かびますね。恐らく、彼はその時の事を鮮明に覚えているのでしょう。

 遠い目をしつつ、砂漠の民は言葉を続けます。


「今でもあの二人の顔が頭から離れない。忘れない……忘れないんだ」


 殺した相手の顔を覚えているか。罪の意識か、あるいは強敵に対する敬意か。殺された相手からしてみれば、どうでも良いことなのかもしれません。

 ただ、死から目を逸らさない。それが、人を殺めたものが背負うべき人道。

 ベリアル卿が言っていた意味。少し分かったような気がします。








 盗賊さんたちはヴェルジさんに任せ、私はご主人様の家へと戻ります。

 森を進んだ先にある木々に隠された小屋。まだ一週間しか経っていないのですが、何だかとても懐かしく感じますね。

 早くご主人様に会いたいです。私はすぐにその扉を開けました。


「ご主人様ー。今、戻りましたよー……って、汚なっ!」


 はい、案の定散らかっていました。

 所々に本が散乱し、埃も少し被っています。まだ一週間もたっていないのに、不届き者の蜘蛛が巣を作っちゃったりしてますね。本当に酷い有様でした。

 森の中という事もあり、汚れるのが早いようです。やっぱり、ご主人様には私が付いていないといけませんね。


「ご主人様! 私がいない間ぐらい掃除したらどうですか!」

「すまない。面倒だったのだ」

「わあ、素直だ……」


 こうはっきりと言われたら引き下がるしかないです。色々あって超疲れているのですが、私はすぐに掃除へと取り掛かりました。



 粗方の片づけが終わり、私は冒険の中で起きたことをご主人様に話します。彼は熱心に私の話を聞き、何度もうなづいてくれました。

 こちらの危機は知っていたのに、何が起きていたのかは知らないみたいですね。このまま謎で終わらせると気持ちが悪いので、思い切って聞いちゃいましょう。


「ご主人様、私の行動をどこまで知っていたんですか」

「ほぼ把握していないと言っておこう。お前の頬に刻んだ紋章、それは契約者の心理状態を感知できる」


 えっと、それはつまり……私が本当に困っている時だけ助けるつもりだったのでしょうか?

 ちょっと待ってください。では、なんでゴブリンに襲われた時は助けてくれなかったんですか! 一度目のピンチと二度目のピンチ、両方の差はなんですか!


「私は今回の旅で二度ピンチになってます。なぜ、一度目は見捨てたんですか?」

「む? 逆に聞きたいのだが、なぜ一度目は本気で救済を望まなかった? お前の心には僅かながらの希望が見えたのだが?」


 こ……これは痛いところを突いてきましたね。

 そういえば確かに、ゴブリンに襲われたときは僅かな期待がありました。「ヴァルジさんなら絶対に大丈夫!」、「シルバーウルフさんは絶対助けてくれる!」。そう、私は思っていたかもしれません……

 いえ、思っていたかな。思っていたような。思っていました。ええ! 思っていましたとも畜生!


「えっと、ご主人様が手を出すのは無粋と思っていました。私には頼れる仲間がいましたし、切り抜けられるって確信があったかもしれません……」

「見た事か。答えは常にお前の心にある。私の操作はお前の心に比例するのだからな」


 じゃあ、全部私のエアーボクシングじゃないですかー!

 恥ずかしい! 穴があったら入りたい! でも、これで色々と分かりましたよ。

 ご主人様の操作は私が本気にならないと機能しない。以前からそうだとは思っていましたけど、今回の事で確信しましたね。

 次に本気なるとしたらそれは……


 転生者と相対するとき……


「ご主人様、私は貴方の力を借りて良いのですか?」

「諧謔を見せてもらえるのならばな。今回の件に関しては、十分すぎるほどの代価を貰った。これを続ければ、私としては大いに満足だろう」


 こっちは心身共にズタボロ状態で、必死に戦いぬいたんですけどね。どうやら、ご主人様はそんな私の頑張りを物語のように楽しんでいるようです。

 なら、遠慮はしなくて良いですよね。私は貴方に諧謔を与え、貴方は私に力を与える。これでウィンウィン、ギブ&テイク、持ちつ持たれずの関係です。

 ご主人様を利用して、私はモーノさんに対抗してやりましょう。絶対に、彼とはまた相反することになりますから。


「実はやべー人に喧嘩を売っちゃいました。助けてください」

「理解した。今度は私の目に見える場所で暴れてほしいものだ」


 不敵に笑いながら、彼はそんなことを言います。ご主人様なりに励ましているのでしょうか?

 正直、まだ盗賊さんたちの死を引きずっています。強制的に体を動かしたこともあり、少しずつ筋肉痛を感じてきましたね。

 もう寝ましょう! 寝て! そのあと考える!

 これが一番でした。


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