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39 これは宣戦布告です

 一歩、また一歩。

 ゆっくりですけど、私たちは確実に出口へと向かっていきます。

 とりあえず、この洞窟からは速攻で離れるべきですね。まだ、近くにモーノさんがいるかもしれません。速く安全な場所で介保すべきでしょう。

 ですが、そんな時です。私の背中からバートさんが不届きな発言をします。


「もういい女……置いていけ……」


 嫌です。ここまで来て何を言うのですか。

 私は彼の言葉を無視して進み続けます。ですが、この言葉には訳がありました。


「俺には気配を察知するスキルがある。出口に敵が一人……避けられないだろう……」

「そう……ですか……弱りましたね」


 あちゃー、私がここに来たことがバレちゃいましたか。それとも、いったん離れただけでまた戻ってきたんでしょうか。なんにしても、これは最悪な状況ですね。

 私はバートさんをいったん下します。そして、カシムさんから託されたナイフを使い、自分の服を細く引きちぎっていきました。

 作られたのは一本の紐。ご主人様が作った服で構成されているんです。頑丈さは折り紙つきですよ。


 私は再びバートさんを背負い、作られた紐によって二人の体をグルグル巻きにしていきました。これには彼もチンプンカンプンな様子です。


「おい、何をしている……」

「これで貴方と私を縛るんですよ。頑丈にね」


 さて、ご主人様。私の心を読んでいるんでしょう?

 ご覧の通り、いよいよガチでヤバい状況です。出来るだけ自分の力だけで何とかしようと考えていましたが、今回ばかりは流石に限界でしょう。

 ゴブリンに襲われたとき、貴方は助けてくれませんでした。ですが、街を出るときには確かに手を貸すと約束してくれましたよね?


 あの時と違って、ヴァルジさんやシルバーウルフさんのような救世主はいません。

 もう、奇跡は起きないんですよ。今度は私たちが救世主になる番です。


 私の思いを受け取ったのでしょうか。どこから無数の糸が降り注ぎ、手や足に結び付けられます。

 やっぱり、いつでも手助けできる状況だったんじゃないですか。本当にご主人様は意地悪ですね。常に私の覚悟を試しているんですから……


「行きますよ。バートさん」


 絶対に諦めない……

 一度救うって決めたんですから!


 私の体は糸によって引っ張られ、洞窟を一気に駆け出します。

 もう、ここに戻ることはないでしょう。決して振り返ることなく、私は風のようにまっすぐ突き進みます。

 今までの私の努力は何だったのでしょうか。大人一人背負っての全力ダッシュ。これをチートと言わずして何をチートといいますか。

 当然、バートさんは度肝を抜かしています。こうなると説明が面倒ですね……


「女……お前は何者だ……?」

「私はテトラ・ゾケル。それはいつでも変わりませんよ」


 私はチートが嫌いです。でも、問題なのは何を持っているかじゃない。

 何に使うか。それが一番大切なことなのかもしれません。




 ただ、走って走って走りまくります。

 目の前に近づく障害を越えるため、私はさらに加速を続けました。

 やがて、出口の光が私の目に入ります。同時に、正直会いたくない人物とも接触してします。

 外の光に照らされ、洞窟の外に立ちふさがる影。私より身長は低く、ロングヘアーに青いリボンをつけた少女。まあ、一人しかいませんよね。


「テトラお姉ちゃん!」

「……アリシアさん!」


 モーノパーティの女剣士、アリシア・リデルさんですか。さてさて、厄介なことこの上ねーです。

 彼女はモーノさんたちと共に盗賊の討伐を行いました。そして、私の背中にはその盗賊が背負われています。

 これは完全に敵対関係になっちまいますねー。あちら側も臨戦態勢みたいですし。


「止まって! そうじゃないと……お姉ちゃんと戦う事に……!」


 そう言って、アリシアさんは持っていた剣を等身ほどの大きさに巨大化させます。

 これはおっかなびっくり、彼女は自分だけでなく装備までも巨大化できる力があるみたいですね。まあ、それが出来ないと巨大化時に服が破れちゃいますから、納得といえば納得なんですが。


 さてさて、この状況。私は全力でダッシュしてますし、止まったらバートさんが奪われてしまいますし……まあ、答えは一つですよね。


 止まりません。壁は超えるものです。 


「邪魔」


 大きく飛躍し、ぴょんと飛び越えました。


 戦いたくないのはこちらも同じ、付き合っている余裕はないのでスルー安定でしょう。

 あんぐりと口を開けるアリシアさんに、絶句して微動だにしないバートさん。そんな二人を無視して、私は林の中にへと駆けていきました。

 決めていたんです。もし私が強大な力を手にしたら、それは相手を叩き潰すためではなく、軽くあしらうために使うと……


 クールに! スマートに! これぞ新時代の異世界無双!

 ってわけで、さよならアリシアさん。モーノさんには秘密に……してくれるわけないですよね。はい。











 林の中、そこで私はバートさんを休ませます。

 危険なラインは超えましたが、安静にする必要がありますね。これ以上、猛スピードで振り回すわけにもいかないでしょう。

 脅威は続きます。アリシアさんを突破したところで、根本の解決には至っていません。


 だから、私は戦います。

 だって、私は異世界転生者ですから……


「近寄るな……!」


 私はバートさんを守るように立ち、木々の向こうに叫びました。

 貴方が近づいていることは分かっていますよ。来ないわけがない。貴方は私のことを知りたくて知りたくて仕方がないはずですから……


「モーノさん……貴方にこれ以上踏み入る権利はない!」

「俺も相当嫌われたな」


 黒い衣服を纏った魔法剣士。盗賊さんたちの虐殺を行った張本人……

 たぶん、彼はバートさんの止めを刺しに来たわけじゃない。眼中にないでしょう。それより、この人はご主人様の力を受けた私を危険視するはずです。

 だから、一歩前に出ました。手合わせをするなら、私の方でお願いします。


 こちらの考えを読み取ったのか、彼は大きくため息をつきました。

 前回と違って、剣を収める気配はありません。臨戦態勢のまま、彼は私に向かって疑問を投げます。


「分からないな。あんなクズどもを何故かばう。生かしたところで何の価値もない。盗賊行為を行った時点で死ぬ覚悟は出来ていたはずだ」


 頭が真っ白になりました。

 多分、この人は何も考えていない。貴方が人間の価値を語りますか……? 異世界転生して、二度目の人生を手に入れて、自分の力でもない能力にかまけてる貴方に……!

 その言葉は正論です。ですが、正しくない貴方の言葉に説得力なんてない!


「ええ、貴方は正しいですよ。あ、そうそう。それと全く関係ない話しですけど……」


 私は憐れむような眼差しで言い放ちます。


「私は貴方の事が大っ嫌いです。邪魔してやりたいんですよ。無性にね」


 これは宣戦布告です。

 殺されても文句は言えないでしょう。


 敵対関係になるつもりはありませんが、行い全てを肯定する気もありません。私が守ろうとしているものが危機に瀕しているのなら、当然防衛のために対抗します。

 それにしても挑発的な言葉でしたね。こっちも怒っているので、そのあたりは大目に見てほしいものです。

 ですが、相手は許してくれそうな雰囲気ではありません。完全に敵を見定めたのか、私に向けて手をかざしました。


「そうか……降りかかる火の粉は払わないとな」


 彼の手が赤く、眩い光を発します。


 瞬間でした。

 私の右隣にあったもの全てが、一瞬にして消し飛んでしまいます。


 轟音と爆風、肌を焦がすような熱。それを身に感じたのは全てが消え去った後でした。

 ノータイムかつ詠唱動作もなし、加えて木々全てを消滅させるほどの威力。地面は大きくえぐれ、その攻撃範囲はざっと数十メートルを上回っているでしょう。

 僅かに残った残骸に炎が灯っていることから、攻撃が炎魔法だと気付きます。あまりに威力が高すぎて、何の魔法かも分かりませんでした。


 滅茶苦茶ですね……まるでミサイルでも打ち込んだようです。

 脅しのつもりでしょうか。消し飛んだのはすぐ隣の広範囲だけ、私もその後ろのバートさんも傷一つありません。

 殺すつもりがないのなら、こちらも引き下がりませんよ。私は心の異世界転生者。精神攻撃で勝負を挑むなんて愚の骨頂でしょう。


「酷いことします……今の攻撃に巻き込まれた動植物に千回土下座してほしいものですよ」

「動揺はなしか……」

「地獄ならさっき見ました。あれ以上は当分ありませんよ」


 私は逃げない。引き下がらない!

 死ぬのなんて怖くない。死なれることの方が百億倍怖いんです!


「貴方の力は地形を変えましたが、私の心を変えることは出来ないようですね。世の中は思い通りに行かないものです。ゲームをしたいのなら余所でどうぞ。世界ここは貴方の盤上じゃない!」


 右手を大きく広げ、動きでこちらの意思を表現します。

 薄っぺらい御託を並べても彼は納得しないでしょう。ですが、私にはこの演説力がある。言葉が続く限りはこちらの独擅場なんですよ。

 現状、会話は順調に進みます。モーノさんは私の行動に疑問を抱いているみたいですね。


「あれだけの大魔法見て、普通そこまで突っ張るか?」

「あははー、普通じゃない大魔法を放った人に、普通も語られたくないでしょう」


 私が冗談を言うと、僅かに彼の表情が柔らかくなります。

 やっぱり、この人は悪い人じゃありません。私と思想が違うだけの異世界転生者。武器も魔法も使えない少女を手にかけるほど心は腐っていませんね。

 だからこそ、モーノさんはアリシアさんたちに慕われているんです。彼はまるで説教をするように、私の言葉に対抗してきます。


「あのな……奴らを処分しなきゃ、罪のない誰かが殺される。それに、奴らに殺された奴らも浮かばれないだろう」


 痛いところを突いてきましたね……

 マーシュさんに言われた言葉。私はそれに言い返すことが出来ませんでした。

 今でも答えは出ていません。屁理屈では絶対に負けない自信がありますが、この言葉だけは否定することが出来ない……

 バートさんは見逃してくれるかもしれませんが、言い合いで負けるのは悔しいです。

 ですが、続く彼の言葉を言い返せる自信がありません……


「俺は奪われた奴らの事を考えて……」

「はたして、本当にそうでしょうか?」


 ですが、その時です。

 この場にいない第三者。私ではない誰かがモーノさんの言葉を否定します。


 まるでテノール歌手のような心に響く美声……


 言葉で人を惑わす私だから分かります。

 彼の声は騙し、演説、誘導。それらを難なく行える天性のものだと……


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