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30 このテトラ、やってやります!


 情報を受け取り、私とマーシュさんは一度冒険者ギルドへと戻ります。

 日はすっかり沈んでいて、とても家まで帰そうもないですね。ご主人様の家までは真っ暗な森、モンスター除けアイテムを持っていても流石に怖いですから。

 ご主人様が心配するでしょうけど、そのあたりは抜かりありません。長話になるのは分かっていたので、すでに今日は帰らないと伝えてあります。彼は放任主義なのであっさり了承してくれましたよはい。


 とにかく、今日はギルドに泊めてもらいます。今後、モーノさんや盗賊さんたちとどう向き合うかは未定ですが、そのあたりは気まぐれに行きましょう。

 どうせ、考えても何も出ませんからね。天啓に従うのが私流です。



 さあ、そんなこんなでギルドにとうちゃーく。さあ、今日はゆっくり休んで、明日に備えましょう。

 まさかまさか、こーんな時間から新たな問題ごとなんて巡ってこないですよねー。例えば、ギルドに傷だらけの人がぶっ倒れているとか、そーんなことないですよねー。

 あるわけねえです。絶対にあるわけねーですって!

 

「ど……どうしたんですか! ヴァルジさん!」

「あったー」


 ギルド前に倒れる冒険者のヴァルジさん。相当酷くやられたのか、回復薬での治療も間に合っていない様子です。

 一体全体、何がどうなってこうなってしまったのでしょうか。こんな街中にモンスターがいるわけないですし、やっぱり冒険者同士の喧嘩事なんでしょうね。

 ヴァルジさんは立ち上がろうと力を入れますが、どうやらそれすらも出来ない様子です。


「なんだマーシュか……なーに、ただの喧嘩だ……」


 そんな彼をすぐにマーシュさんが介保します。彼女は回復薬による治療なんて行いませんでした。扱ったのは傷を癒す聖なる魔法。それにより、ヴァルジさんの傷は少しずつ癒えてきます。

 ほへー、魔法にはこんなものもあるんですね。仕組みが知りたいところですが、どうせ理屈も何もないんでしょう。この世界ではこれが常識。それだけです。


 元気になってきたヴァルジさんは私に気づきます。彼は苦笑いをしながら、視線を逸らしました。


「よお、奴隷女……約束通り、正々堂々喧嘩ふかっけたらこのざまだ……負けを認めず何度も突っ込んだらひでー事になっちまった……」

「あ……呆れた人ですよ貴方は!」


 まったく、男の人ってどうしてこうなんですか!

 最初の一撃で実力の差は分かったはずでしょう。それなのになぜ、こんなになるまで戦ったんですか!

 意地とプライドって事でしょうね。バカなことをしたというのは、本人が一番分かっているようです。


「なんでお前が俺を止めたのか……ようやく分かっちまった……」


 文字通り、身にしみて思い知ったでしょう。チート転生者との圧倒的力の差。凡人がいくら本気になろうと、絶対に超えることのできない壁があると……

 ヴァルジさんは悔しそうに地面の素直を掴み、奥歯を噛みしめます。彼の思いが痛いほどの伝わってきました。


「勝てねえんだ……全く歯が立たなかった……! 畜生……! 畜生……! あいつ、ゴミみたいに見下しやがって……! 俺の……俺の冒険者としての人生は何だったんだ……」


 何ですかこの気持は……なんで私、こんなにむかっ腹が立っているんでしょうか……

 私は冒険者が大嫌いです。暴力も大嫌いです。でも、冒険者には冒険者の誇りがあって、暴力には暴力の拘りがあることを知っています。

 それを、こんなにも容易く踏みにじりますか? ヴァルジさんは私の言葉を受けて正々堂々と戦いました。そんな彼に対して、リスペクト精神の一つもないんですか?


 自分で手に入れた力ならまだ分かります。ですが、貴方の力はもらい物でしょう? 人の褌でここまで傲慢になれるものなんでしょうか。

 イライラして仕方がありません。どうしても納得できません。

 特別な力を使って、特別じゃない人をあしらう。それって……


「フェアじゃないですよね」


 なんて、そりゃ思ってしまいますよ。

 それと同時に女神さまが言っていた言葉を思い出します。


『剣と魔法の異世界で人生をやり直すチャンスじゃぞ。わしの与える能力によって夢のチート無双なのじゃー!』


 自称女神さま、貴方はこんなことのために私たちを転生させたのでしょうか? こんなことのために特別な力を与えたんでしょうか?

 異世界無双が良い影響を及ぼすとは思いません。今はまだ何も動いていませんが、こんなことを続ければ本当にこの世界は壊れてしまいますよ?


 生き返らせてもらって難ですが、私は異世界転生を否定します。

 良いんですか? こんなものを見せられたら私……


 貴方たちの敵になってしまいますよ……?


「ふむ、これはどうしたことか……」


 私の中に黒い感情が芽生えかけた時、ご主人様の声が響きます。

 本当に彼は神出鬼没ですね。それも、私が道を踏み外そうとするときに限って、都合よくその姿を現す。これじゃ、まっとうに生きるしかないじゃないですか全く……

 とりあえず、なぜこんなところにいるのか聞いてみます。ちゃんと、今日は帰らないことは伝えてますからね。


「ご……ご主人様。どうしてここに?」

「お前が私に隠れて何かを調査しているようだったのでな。気になったので後をつけさせてもらった」


 いえ、気持ちは分かりますが普通それを正直に話しますか……

 こういうお茶目なところがあるから食えないんですよね。まあ、こっちとしては付き合いやすいから良いんですけど。

 ご主人様はヴァルジさんに歩み寄り、視線を落として話します。毎度毎度、この人は本当に世話好きですね。まあ、そこが良いところなんですが。


「ジャン・ヴァルジといったか。敗北から学ぶこともある。また技術を磨き直し、一から初めて見るのも良いだろう」

「てめえ……話し聞いてたのかよ……勝てねえって言ってるだろうが……!」


 そうです。普通の人間がいくらやり直しても異世界転生者には勝てません。彼らにはチート能力に加え、高い能力と別世界の知識を持っています。

 この私ですら、クッキーを焼いただけで大絶賛だったんですよ。もっと頭のいい人がこれを利用すれば、世界を取ることも可能かもしれません。

 冒険者として名高いマーシュさんは、そんな彼らの能力を一つ見破ったようです。


「モーノさんはステータスを偽装しています。彼の戦闘を見ましたがまず間違いないでしょう」

「やっぱりか……ふざけやがって……」


 そうですそうです。私たち異世界転生者は、はたから見ると普通の人間ってことになっているんです。なので、私は異世界転生者だと見破られなかったんですよね。

 モーノさんの場合は、ステータスという能力数値も隠しているようです。この世界ではこのステータスが大きなファクターを占めているので、隠すのは常套手段でしょう。

 ですが、ご主人様はその存在を全く知らないようです。本当にこことは違う世界から来たんですね。


「ステータスとはなんだ? それは必要な物なのか?」

「当たり前だろ! ステータスってのは強さを数値化したものだ。こいつで冒険者の格が決まる!」


 元気になったヴァルジさんが叫びます。

 まあ、そりゃそーですよね。ステータスには攻撃力や防御力、魔法の強さを表す数字もあります。これらが高ければ、強力な技や魔法を放てると聞いていますよ。

 まるでゲームのようです。数値が高ければ高いほどの優秀。それがこの世界の常識でした。

 ですがご主人様は……


「数値か……ならば安心しろ。人間の価値は数字で測ることなど出来ない。私は長くお前たちを研究しているが、いまだにその価値を測る基準が分からない」


 ヴァルジさんもマーシュさんも口をぽかんとあけました。

 そうです……ご主人様は人間一人一人に無限の可能性があると考えています。そんな彼が、ステータスだけで人を判断するはずがありません。

 実際、私は低テータスですが、ご主人様の強制操作によってメイジーさんに対抗できました。結局、本当に重要なのはスタイルがその人に合っているかどうかなんですよね。


 納得のいかないヴァルジさんは再び叫びます。まるで、自分自身を責めたてるように……


「奴隷が奴隷なら主人も主人だな……そんな綺麗ごとが冒険者に通用すると思ってるのか!」

「それは分からない。だが、少なくとも彼女はそんなものなど見てはいないと思うぞ」


 そう言って、ご主人様は私に視線を向けました。

 まったく……やれやれですよ。

 こんなことを言われたら、私もマジにならないとダメですよね。今までずっと悩んでいましたが、この一件で覚悟を決めました。

 そうです。人の価値はステータスが全てじゃない。どんなにダメな子だって、最強チートに対抗できるかもしれない。


 私がそれを証明してやります!


「私、決めちゃいました。もう一度、盗賊さんたちに会ってきます」

「……は?」

「……え?」


 ヴァルジさんもマーシュさんもこれには絶句。言ってる意味が分からないでしょうが、もうそんなことは知ったこっちゃねーです!

 私は行きます。例えポンコツでも、何の力も持っていなくとも、自分の思う最強を目指して突き進んでやりますよ!


「会って話して、その上で善悪を見極めたいと思います! 止めても無駄ですよ!」

「……やっぱりですか。本当に貴方たちは私の予想を上回ってきますね」


 マーシュさんは複雑な笑みを浮かべます。もう、私の暴挙を止めるすべはないという感じでした。

 心配をかけてごめんなさい。でも、貴方が望むモーノさんを助ける結果にもなると思うんですよ。このまま盗賊のアジトに行けば、絶対に彼と鉢合わせることになるんですから。

 私は確実にモーノさんと対峙することになります。たとえそれが敵同士であっても、絶対に迷うことはないでしょう。


 でも、本当に力と力のぶつかり合いになったとき……

 その時、私はどうすれば……


「テトラよ。お前は私と契約を行った。必要とあればいつでも力を貸そう」

「ご主人様……」


 迷った時、ご主人様がそう約束してくれます。

 こんなに心強いことはありません。このテトラ、やってやります!


「モーノさん、見せてあげますよ。私の異世界無双を!」


 これから、いったい何が待っているのでしょう。怖くて怖くて仕方がありませんが、それ以上にワクワクして仕方がありません。

 このテトラ・ゾケル、道化人形としてモーノさんの異世界無双を全力でからかってやります!

 思い通りにはいかせませんよ。異世界転生者同士の壮絶バトル……


 今、ショーマストゴーオンです!



「やはり貴方は、どこまでも異世界転生者だ……」

「なっ……!?」


 私が覚悟した時でした。その耳に不穏な言葉が入ります。


 どういうことですか……異世界転生者の存在を知っている人なんて、この世界には存在しないはずでしょう? なのになぜ、この言葉が今聞こえたのでしょうか。

 すぐに、声がした方を振り向きます。ですが、そこにいたのは多数の人。丁度、ギルド前だという事もあって人通りもそこそこあったようです。


 空耳でしょうか……不穏な感覚を受けつつも、私は盗賊探しという冒険に胸を躍らせるのでした。

テトラ「ステータスって現実的じゃないですよね? 能力は数字に出来ませんよ」

ヴァルジ「そうでもないぜ。お前らの世界だって、学校で体力測定を行うだろ。それが全てってわけじゃないが、能力を図るには十分すぎる基準だ」

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