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26 私の心には星が光っています!


 私はすぐに言い訳を考えます。

 とにかく、ここは上手く誤魔化すしかありません。幸いモーノさんは、警戒こそしているものの戦闘をする気はない様子。これなら十分に話し合うことが出来るでしょう。

 ですが、私の言葉が出るより先にメイジーさんが行動に移ります。彼女はご主人様とモーノさんの間に立ち、制止するように両腕を広げます。


「ちょ……ちょっと待ってよ! 妖精殺しって……こいつが? ないわよ! 絶対ない! 私はこいつのことが大っ嫌いだけど、そんなことをするような奴じゃないってのは分かるわ!」


 ここで、先ほどの戦闘で上げた好感度が生きてきましたか。私は道化を演じてメイジーさんの成長をサポートしました。その理由は一つ、その方が劇的で面白いからです。

 あの行動で彼女との距離が縮まったのなら、それもまた粋な物でしょう。この少女に感謝し、モーノさんの制止を期待するだけです。

 そんな彼女の行動が珍しかったのか、モーノさんは目を丸くしていました。よっぽど、メイジーさんは人間を信用していないんですね。


「メイジー、お前が他人を庇うなんて珍しいな」

「だって、こいつら普通じゃないもん。他の人とは違うにおいがするわ」


 そうでした。メイジーさんは私が異世界転生者だとにおいで分かるんでしたね。

 私は五番の異世界転生者さんと協力し、女神さまを殺害した疑惑を持たれています。今、モーノさんに正体を明かすのは得策ではありません。

 こっちもまあ、誤魔化すしかないんでしょう。大丈夫です。モーノさんは物凄く怖そうですけど、なんというか詰めの甘さというか、油断というものが感じられますから。

 やがて、彼の口からその予測を証明する言葉が放たれます。


「そっちの女はただの一般人だ。ステータスは低いし、特別気になる点もない。それより、男の方を警戒しろ」


 モーノさんは私を無視し、ご主人様に殺気を向けていました。彼にとって、ステータスの低い私は敵ではないって事でしょうね。

 そうです、思い出しましたよ。私以外の異世界転生者は『ステータス鑑定』というスキルを貰っていたんでした。これにより、私が特別警戒に値しないと判断したと分かります。

 残念、大外れですね。どうやら、そのスキルで異世界転生者か否かを見極めることは出来なかったようです。現状、先に相手を転生者と確信した私にアドバンテージがありますよ。


 そんなことも知らず、モーノさんはご主人様への警戒を続けています。やがて、その口から衝撃の事実が明かされました。


「お前は人間じゃない……いや、違うな。そもそも、人ですらないだろ?」

「いかにも、私はこことは少々違う場所から来た」


 ご主人様は否定しません。人間という種族ではなく、人ですらない?

 ちょっと待ってください! 人間以外の獣人やエルフも人と言うんですよね? じゃあ、それですらないご主人様はいったい何なんですか!

 私は妖精と言う存在を見ています。モンスターと言う存在も知っています。ご主人様はその類と言うことでしょうか?

 それにしても、こことは違う場所から来たって……わっけ分かりませんよ!

 混乱する私を他所に、ご主人様はある少女に視線を向けます。彼女はモーノさんの仲間、リンゴの髪飾りを付けたスノウさんでした。


「死霊使いである私から見るに、その少女も少々わけがあるように思えるが。お互い詮索はせずに流すことは出来ないだろうか?」

「そうだな。それが互いのためだ」


 焦る少女を守るように立つモーノさん。あのスノウって人にも色々あるってことですね。

 ワーウルフのメイジーさんに、巨大化するアリシアさん。それに加えて訳ありのスノウさん。彼女たちのリーダーは異世界転生者のモーノさん。

 これはもう、絶対関わっちゃいけない奴でしょう。互いに詮索はなしという形でも仕方がありませんね。


 ですがまあ、そんなこんなで命の危機は回避しました。

 距離は縮まりませんでしたが、これで良かったのかも知れません。それでも、話せる部分は話そうと思ったのか、ご主人様は改めて自己紹介を行います。


「私はネビロス・コッペリウス。彼女は私の持ち奴隷であるテトラ・ゾケルだ」

「俺は冒険者、モーノ・バストニ。詮索はしないが、嘘は気に食わないな。そのテトラって女、奴隷じゃないだろ」


 一番の転生者、モーノ・バストニ。彼はいきなりご主人様の紹介にケチをつけます。

 まったく、いちゃもんも甚だしいです! 私は確かにご主人様の奴隷です。一度は逃げ出しましたが、正式に買われたのでこれは間違いありません。

 ですが、彼がこんなことを言い出したのには理由があるようです。ご主人様がそれを予測します。


「ふむ……それは奴隷契約を行っていないことを言っているのだろうか?」

「契約をしていないのか。確かに、それならステータスに表示されていないのも納得だ」


 思いっきりステータスに表示とか言っちゃってますね。やっぱり、こっちの能力や種族は完全に筒抜けという感じですか。本当に厄介なものです。

 それにしても、奴隷契約とはいったい何なんでしょうか。私は奴隷として売られていた経験がありますが、その話は聞いたことがありませんでしたね。

 とりあえず、奴隷のことは同じ奴隷のメイジーさんに聞いてみましょうか。


「あの、奴隷契約って何なんですか?」

「そんなことも知らないの? 奴隷は主人と契約を結び、こうやって体の一部に印を刻まれるのよ。この印がある限り、契約者は絶対に逃げることが出来ないってわけ」


 そう言って、彼女は右腕に刻まれた不思議な紋章を見せます。

 奴隷を逃がさないための枷なのに、誇らしげにしているようにも感じますね。おそらく、奴隷契約は主君との絆の証でもあるということでしょう。

 ですが、肝心のモーノさんの方は否定的です。まあ、奴隷は差別を予兆しますから、そうなるのも当然ですね。


「していないのなら、しない方がいい。紋章は二人の関係を縛る鎖だ。メイジーは自ら望んでこの契約受け入れた。強い覚悟が必要なんだよ」


 はい? まるで私に覚悟がないような言い方じゃないですか。これでも私はこの世界でそれなりの修羅場を掻い潜ったつもりです。小娘ごときに負けません!

 むう、これにはむかっ腹が立ちますよ。奴隷契約? 関係を縛る鎖? 良いじゃないですか、やってやろうじゃないですか! 今ここで!


「ご主人様、どうやら奴隷関係にならないと信用に値しないらしいので、今ここで契約を行いましょう」

「おい、お前! 今の話を聞いていたのか!」


 初めて表情を崩すモーノさん。ようやく、この場の主導権が私に移ったように感じます。

 先ほどの話ならしっかり聞いていましたよ。聞いたうえで、やっぱり契約が必要なんだと思ったんです。

 どの道、この世界において権力や能力を持っていない私は、ご主人様なしでは生きていけません。それに、彼には諧謔を見せると約束したんです。正式な奴隷になる価値はあると思うんですよ。


「強い覚悟が必要と聞こえました。それを証明するために、あえて貴方の目の前で行うんです。私が唯の人ではないこと、その眼にしかと焼きつけてください」

「気の強い女だ……勝手にしろ」


 呆れるモーノさんに、少し嬉しそうなメイジーさん。ニヤニヤと笑うアリシアさんに、状況を分かっていないスノウさん。

 ご主人様はこうなることを分かっていた様子で、私の要求に応じます。


「では、お前の望み通り契約を始めよう。さあ腕を出せ」

「嫌です」


 が、速攻断ります。

 契約はしますよ。ですが、全てご主人様の思い通りってのは面白くありません。

 どうせなら、ここにいる全ての人を驚愕させたいんです。私は気まぐれで遊び好きな道化師。人が戸惑い、驚く姿を見るのが最大の生きがいですから。

 そんな私が選んだ答え。それがこの一手です!


「紋章を刻む場所は、この頬にお願いします」

「はああああ!?」


 自らの左頬を指さし、私はそうご主人様に伝えました。すると、すぐにメイジーさんが変な声を上げます。

 どうでしょうか? 私は常識すらも超越します。こーんな答えは誰も想定していなかったでしょう。

 あの冷静沈着なモーノさんが、今までのキャラを忘れて叫びます。よっぽど、奴隷であることを公表するのは良くないらしいですね。


「なっ……お前! 自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

「私は自らの意思でご主人様の下につきます。その誇りである勲章をなぜ隠す必要があるのでしょう? 差別も承知の上、ご主人様もその覚悟をして奴隷を買ったのでしょう?」


 私がそんなことを言うと、他の人たちと同じようにご主人様の表情が歪みます。彼がこんな顔をするところ、もしかしたら初めて見たかもしれません。

 だとしたら、全て思い通りですね。私は今まで色々な人をからかってきましたが、一番驚かせたかったのは底知れないご主人様ですから。

 彼は確かに驚いています。ですが、すぐにその顔は笑顔になり、高らかに笑いだしました。


「ふっ、ハーハッハッハッ! 言うではないか。お前がそう言うのなら承知したぞ!」


 こんなに笑ってくれたのも初めてですね。私は確かにご主人様の心に踏み入ってますよ。

 彼は右手を私の頬に伸ばし、掌に魔力的な何かを光らせます。左頬がじーんと熱くなってきました。ご主人様との繋がりを強く感じます。

 これが奴隷契約。特に難しい手続きは無し、主人が奴隷を見定めれば一方的に行えるようですね。

 やがて光は晴れ、契約が完了します。ご主人様は手を放し、私に向かって刻んだ紋章を説明します。

 

「お前に刻んだ紋章は五芒星。木星、水星、火星、土星、金星を表し、神の果実である林檎の断面の形でもある。神の秘密、命と再生、退魔の力があるとされ、神聖なものだとも言われている」

「あーあ、やっちゃった……」


 冷や汗を流しつつ、アリシアさんがそう呟きます。

 まあ、やっちゃったものは仕方ないですね。私の左頬には五芒星、つまり星形の紋章がしっかりと刻まれていることでしょう。

 星……良いですね。ごちゃごちゃした紋章よりオシャレです。周囲に見せつけたくもなりますよ。

 これは心の星です。ご主人様のために、私は輝き続けますからね!


ネビロス「五芒星は古代バビロニア発祥と言われている。中国に伝わり陰陽五行となり、日本の陰陽道でも五行の象徴として使われている」

テトラ「北海道の五稜郭は綺麗な星形ですね。新選組の副長、土方さんはここでお亡くなりになってるらしいです」

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