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25 会いたくない人に会ってしまいました


 突然現れた巨大化少女、アリシア・リデルさん。どうやら、彼女はメイジーさんよりも話が分かりそうです。

 とりあえず、自分の潔白をアピールしてみますか。また戦闘になるなんて絶対に嫌ですからね。穏便に解決するのならそれが一番でしょう。


「私はテトラ・ゾケルです。貴方たちの敵じゃありません!」

「うん、信じるよ。だって、敵なら攻撃してるはずだもん」


 アリシアさんは純粋無垢な笑顔でそう返してくれます。これは戦いに応戦しなくて正解でしたね。こちらに敵意がないことを彼女は確信してくれました。

 結果として、何とかこの場は収束へと向かいます。

 メイジーさんは元の人間に戻り、赤い布によって再び犬耳を隠します。別種族というものは大変ですね。これは性格もねじ曲がりますよ。


 安息が戻り、私たちは屋根の上から飛び降ります。

 メイジーさんは飛び乗ることは渋っていましたが、飛び降りるのは躊躇なくできるんですね。これはまあ、完全に犬ですね。はい。

 私がそんなことを考えてる隣では、アリシアさんがまじまじとこちらを観察しています。彼女には悪いですが、私はご主人様の操作する器。特別な力も何もありませんよ。

 ですが、それも少女は私をじっと見つめていました。そうやら、私のことを評価してくれているみたいです。


「お姉ちゃんって、気が狂っておかしな人だよね。でも、素晴らしい人ってみんなそうなんだって私は思うの。モーノくんもそんな人なんだよ」


 彼女はそう言って、エプロンドレスのポケットからカードの束を取り出します。そして、その中から一枚、スペードのエースを取り出して私に見せつけました。

 えっと、中世にトランプなんてありましたっけ? たぶん、原型はあったと思いますが、ルールは完全に確立していないはずですよね。

 とりあえず様子見です。私はまるでそれを初めて見たかのような態度をとります。


「それは……?」

「トランプっていうんだよ。モーノくんが作ってくれたんだ」


 アリシアさんは手慣れた様子でトランプの束をシャッフルします。「こうやって使うんだよ」って事なんでしょうけど、私の方が貴方より知ってるんですよねー。

 どうやら、モーノさんは仲間に別世界の知識をひけらかしているようです。そのあたりはまあ、私と似たようなものですね。悪用していないあたり、やっぱり悪い人じゃなさそうです。


「モーノくんは私たちの知らないことをたくさん知ってるの。知らないゲーム、知らない食べ物、知らない武器。他にもたくさんあるんだ」


 アリシアさんは彼を慕っています。ですが、本当に信用していいんでしょうか?

 会いたい……

 やっぱり直接会わないとダメですよ!


「モーノさんですか……会ってみたいものですね」

「じゃ、会おう」


 私の要望に対し、彼女は即答します。

 ええ!? こんなに適当に決めていいんですか? 当然、メイジーさんが声を張り上げます。


「ちょっと! アリシア!」

「だって、敵じゃないんでしょ? だったら、会って直接話した方が早いと思うよ。それとも、モーノくんが負けると思う?」


 モーノさんに対する絶対の信頼。アリシアさんからはそれが伝わってきます。

 おそらく、彼女もメイジーさんと同じように、モーノさんによって救われているんでしょう。そうでなければ、ここまで心酔するはずがありません。

 そんなアリシアさんの言葉に対し、メイジーさんは「ぐぬぬ……」といった表情を浮かべます。そして、大きくため息をつき、何とか理解を示してくれました。


「……思わない。分かったわよ」

「うん、決定決定! それじゃ、お茶会にごしょうたーい」


 アリシアさんに手を引かれ、私はどこかへ連れて行かれます。ご主人様とはぐれたままですが、どんどん話しが進んじゃっていますね。

 って、のんきなことを考えている場合ではありません。これから会う人は私と同じ転生者。メイジーさんの時とはわけが違います。

 間違って戦闘にでもなったら何もかもお終い。それだけは頭に入れておきましょう。










 私はアリシアさんに連れられ、街外れの宿屋まで移動しました。

 どうやら、彼女たちはメイジーさんを手分けして探し、見つけたらこの場所に集まることになっていたようです。私が呼ばれたのはそのついでですね。はい。

 モーノさんたちはこの宿で泊まっているようです。小さいですが、石造りでしっかり作られていますね。フラウラの街でもかなり高級な部類だと思われます。


 そんな宿前にはすでに一人の女性が待っていました。

 歳は私と同じぐらい。色白でリンゴ型の髪飾りをつけています。服は黒と白のドレスを着ていて、何だかおっとりとした印象を受けますね。

 彼女はこちらに気づくと、両手を振ってアピールします。あー、これは天然ですか。たれ目で穏やかそうですけど、実は活発なのかもしれません。


「アリシアさーん! メイジーさーん! ここですよー!」

「恥ずかしいからやめてよ。スノウお姉ちゃん……」


 スノウと呼ばれた女性は「なんで恥ずかしいの?」といった表情で首をかしげます。はい、私の苦手なタイプですね。モーノさんよりこちらを警戒しましょう。

 彼女はアリシアさんと話していましたが、やがて私のことに気づきます。面と向かって確信しましたが、この人はとっても美人さんですね。私のようなミジンコとはえらい違いです。

 それに加えて、性格も申し分なし。スノウさんは丁寧に自己紹介を行います。


「こんにちは、私はスノウ・シュネーヴァイス。貴方のお名前は?」

「テトラ・ゾケルです。貴方のお仲間、メイジーさんに喧嘩吹っかけられたので、主人の顔を見に来ました」


 女として負けているのが悔しいので、少し毒のある言い方をします。ですが、天然の彼女に毒は通用しません。そのままおっとりとした態度に流されてしまいます。


「それはすいませんでした。ほら、メイジーさんも謝ってください」

「はいはい、ごめんなさーい」


 モーノさんの仲間の一人、スノウ・シュネーヴァイスさん。メイジーさんとアリシアさんにとってはお姉さんというポジションみたいですね。

 あまり想像できませんが、やっぱり彼女もモンスターと戦うのでしょう。あのメイジーさんがちゃんと従っているので、実力は確かなようです。


 メイジーさん、アリシアさん、スノウさんの三人。それにモーノさんを加えた四人が、いわゆる『パーティー』という奴なのかもしれません。

 この世界では冒険を行う時、四人で行動するのが基本だと言われています。そして、その四人を冒険者ギルドではパーティーと呼んでしました。

 この流れだと、もしやモーノさんとは女性なのでは……? なんて思っていたとき、ついに本人がご登場してしまいます。


「メイジー、どこに行っていたんだ!」


 第一声は叱りつける声。それは完全に男性のものでした。

 私は声のした方を振り向き、その顔を見ます。瞬間、一気に私の体は凍りついたように動かなくなりました。

 私はこの人を知っています。忘れるはずがありません。


 だって、この人は……


「アリシア、見つけてくれてありがとう。それで、こっちの人は……っ!」


 こちらの存在に気づき、私の顔を見た瞬間でした。彼は言葉に詰まり、すぐに腰に装備した剣に手をかけます。

 驚くアリシアさんとスノウさん。再び獣のような眼を見せるメイジーさん。恐らく、この三人は今の状況を全く理解していないのでしょう。

 私は死にたくないので、バック転をしながら後ろに下がります。本当は戦いたくないのですが、こればっかりは無理でしょう。


 だって、だってこの人はヴィクトリアさんの敵なんですから……


「お前は、あの妖精殺しと一緒にいた奴だな……」

「はい、あの時はありがとうございます。貴方のせいで三日三晩悪夢にうなされましたが、ぜーんぜん気にしていませんから。そちらもぜーんぜん気にしないでくださいね」


 口では挑発的なことを言っていますが、内心は怖くて怖くて仕方ないです。ヴィクトリアさんを殺されたという逆恨みもありますが、やっぱり恐怖の感情が勝っていました。

 黒い服を着た剣士、一番の異世界転生者モーノ。彼は鋭い眼光でこちらを威圧し、眼だけで私を殺そうとしています。


 ですが、今はそれすらも大した問題ではありませんでした。

 ヴィクトリアさんの姿が脳裏に浮かんだ瞬間、再びあの吐き気と眩暈が私の体を襲います。それにより、ようやくこの怪現象の正体に気づきました。

 これは、フラッシュバックです。いわゆるトラウマ。ある切っ掛けによって、死んだグリザさんやヴィクトリアさんの姿が脳裏に浮かび、体が異常なまでの拒否反応を起こしているんです。


 もうダメです……死んでしまいます……


 そんなマイナスの感情が私を支配し、とても先ほどのように戦える状況ではありません。

 このままでは本当に……


 本当に殺されてしまいます。


「いや、恐れる必要はない。お前はこう言った。『自分は敵ではない』と……」


 突然、そんな言葉が耳に入ります。

 私を絶望から救ってくれた……この人なら信用していいと思えた人……

 彼は突然私の前に現れ、黒いマントを翻します。大きな背中が私の目に映り、それと同時にマイナスの感情は吹き飛びました。

 人形師、ネビロス・コッペリス。彼は私を守るように立ち、言葉を続けます。その表情はどこか余裕に満ちているようにも感じました。


「敵ではないのならば、恐れる必要はないだろう。少女たちと交わした言葉は確実に意味を成す。胸を張り、誠意をもって向き合うべきだ」


 そうです。私はメイジーさんの頑張りを見ました。アリシアさんの優しさを知りました。スノウさんだって世話好きの良い人です。

 そんな人たちと敵対してどうするんですか。私は敵じゃありません。二言はないんです!

 ヴィクトリアさんは確かに私の友達。ですが、死んでもうこの世にはいません。そんな死者の幻影に囚われて、自らの敵を増やしてどうするんですか!


 テトラ、しっかりしてください。貴方が今成すべきことは何ですか?

 戦うことですか? 憎しみ合うことですか?

 違います! 誤解を解いて問題を解決することです!

 さあ、再び言葉で何とかしちゃいましょう! たとえ相手が異世界転生者でも、私の意思はぶれませんからね!

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