表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/248

20 私は冒険者が大っ嫌いです!


 あれから一日が経ち、二階の掃除も大方終わりました。

 必要な物と不必要な物を分けた結果、ご主人様が作りかけた大量の人形が集まってしまいます。途中まではしっかり作られているのですが、やっぱりどこかが欠落していますね。

 ご主人様は職人です。少しでも気に入らないところが出来たら投げ出してしまうのでしょう。

 さてさて、このガラクタたち……炎の中にぶち込んでしまうにはあまりにも勿体ないですね。一応、ご主人様に確認しておきます。


「あの……これ貰っても良いですか?」

「構わないが、どうするつもりだ? どれもこれも粗悪品ばかりだ。作りかけと壊れたものが大半だろう」


 ご主人様の言うとおり、全て作品としては中途半端。はっきり言ってゴミと言えるものでしょう。

 ですが、手を加えれば使い物になるはずです。私には学校で習った最低限の工作技術がありますからね。そこに裁縫技術が加われば、これをお金に変えることが出来るかもしれません。


「どうせ、服着る以外にやることもないので、直して売り物にしようと思います。裁縫ぐらいなら出来ますし……」

「なるほど、いい心がけだ。人間というものは他者の技術を盗み、更なる高みへと精進するものという。私の作った人形に習い、技術を会得するのも面白いだろう」


 なんか、ご主人様の方が乗り気になっています。これは完全に人形作りを教わる流れになっちゃってますねー。まあ、教わらないと何もできないんですが。

 私は彼の奴隷です。将来的には人形作りを手伝う義務があります。

 遅かれ早かれ、ご主人様から技術を学ぶ必要があったのかもしれません。


 私が人形作りに携わるのが嬉しかったのか、ご主人様はどんどん話しを進めていきます。

 やっぱこの人、とことん人と話しや歩幅を合わせるのが苦手なんですね。正しく天才肌の職人さんです。


「よし、まずは足りない材料を手に入れよう。私が得意としている店があるのでな」

「わあ、本格的に始める気だあ……」


 もしかして、弟子がほしかったのでしょうか? まあ、自分に自信があるのなら、その技能を後に残したいと思うのは当然ですよね。

 死んでしまったら、その技術は消えてしまうから……


『私が今まで覚えてきたことをテトラちゃんに引き継いでもらいたいの』


 突如、私の脳裏にグリザさんの姿が浮かびます。

 記憶をたどったにしてはあまりにも鮮明。先ほどの事かのように思えるそれは、私の心をギュッと締め付けます。

 同時に、耐え難い恐怖心が襲います。まるでこの世の終わりかのような深い絶望。精神だけではなく肉体にも影響を与え、異常なまでの吐き気と眩暈を感じました。


「おえっぷ……」

「どうしたテトラ、酷い汗だ」


 すぐにご主人様が手を差し伸べ、ふらつく私を抱きかかえます。

 いったい、何が起こったのでしょうか。ご主人さまの顔を見た瞬間、まるで現実に引き戻されたかのように吐き気が収まります。

 体からあふれた汗もすぐに引き、先ほどの状態が嘘のようですね。時間して数秒の出来事ですが、それが逆に恐ろしく感じます。ですが……


「大丈夫です。もう治りましたから」


 体に害はありません。健康そのものです。

 当然対処の使用もなく、何もできません。病気なら、もっとこう体がだるくなりますよね。

 私は先ほどの一件をなかったことにし、気にしないことにしました。だって、今は健康なんですから、どうしようもないですよ。はい。















 私たちの住む森から近いフラウラの街。これから拠点となるこの街に私たちはやってきました。

 ご主人様が言うには、ここに人形の素材を仕入れるお店があるらしいですね。木とか布を使うので、やっぱりそれ専門の商人さんがいるのでしょうか。

 なーんて事を思っていたら、目的の場所が見えてきました。

 初めて見る建物ですが、私はここを知っています。一見すると酒場のようですが、物騒な武器を持った人が出入りしている施設。


「あの……ここって冒険者ギルドですよね……」

「なに? 店ではないのか? 金銭を渡せば、依頼通りのものを調達してくれるのだが?」


 この人、お金に物を言わせて冒険者ギルドを顎で使っているんですね……なんだか、ものすごい勘違いをさらっと暴露してます。

 フラウラの街には何度もヴィクトリアさんと訪れていますが……正直、冒険者ギルドには良いイメージはありません。冒険者は例外なく、乱暴者かつ無法者という話しを聞いていますから。

 ご主人様が心配です。これはちゃんと教育しないといけませんね!


「冒険者なんかと関わりを持っちゃダメですよ。あの人たちはこの世界の癌なんですから」


 冒険者というものを一言で表すなら『クズ』です。

 一攫千金を狙って親からもらった命を粗末にし、ひたすらに夢だけを求めるごろつきの集まりでしょう。

 ま、そんな彼らに仕事を頼み、必要な素材を手に入れてる私たちもまたクズなんですけどね。所詮人間の大半はクズなので、何の問題もないでしょう。

 私の忠告を聞いたご主人様は、不思議そうに首を横に倒します。そして、こんな質問を投げかけてきました。


「テトラ、お前は冒険者が嫌いなのか?」

「ええ、大っ嫌いですね」


 即答します。私は乱暴者が大っ嫌いですから。


「冒険者はダンジョン攻略と称してモンスターの住処を荒らし、自分の権威を示します。ですがいざ、それによって我身に危機が訪れたら『糞モンスターめ、お前の方が悪いんだ』と説く始末。人間の方がよっぽど鬼畜の極みですよ」

「なるほど、違いない」


 少し含みのある言い方ですが、これにはご主人様も同意してくれます。

 そうですよ。モンスターという大自然からの恩恵を利用しているくせに、自分こそが最強だと英雄を気取っている冒険者。彼らは何も生み出していません。自然から資源を奪っているだけです!

 新たな資源を生み出す生産者こそが、人の世の頂点と言えるでしょう。なぜあんな乱暴者がえばっているのでしょうか。むかっ腹が立ちますよ!

 ですが、ご主人様は中立的な立場です。不敵に笑いつつ、彼はギルドの中に入っていきました。


「鬼畜な行いの先には、それ相応の見返りがあるということだ。狩りを行うのならば自然に感謝し、宝物を手にするのならば他に感動を分け与える。人道を捨てず、節度ある行動を意識してほしいものだ」

「あ、待ってくださーい!」


 相も変わらずご主人様はマイペースです。振り回されるこっちの身にもなってほしいものですよ!

 ですが、それが彼の良いとことなんですよねー。誰にも縛られず、自分の考えをしっかり持っているご主人様。まさしく職人肌といえます。

 問題さえ起こさなければ、それで良いと思いますよ。

 平和が一番なんです。厄介ごとを運ぶような真似は……


「てめえ……! ぶっ殺されてえのか!」

「上等よ。表に出なさい」


 私がギルドに入った瞬間。男性の声が周囲に響きます。

 かなりいきり立っている様子で、その声は建物の外まで聞こえているでしょうね。いったい、彼の身に何が起きたのでしょうか。

 声の主は、ぶち折った椅子に足をかける大柄の男性でした。武将髭の彼は、数メートル先に座っている少女に向かって怒鳴ったようです。まったく、大人げないものですよ。


「てめえのような小娘が調子に乗るなよ。ただじゃ済まさねえ!」

「その言葉、そっくりそのまま返すわ。大きなお口のおじちゃん」


 口の減らない冒険者の少女。私より二つか三つ年下でしょうか? 赤いエプロンドレスを着ていて、頭には同じく赤いビロードの布をかぶっています。

 彼女を見て気づきました。この世界は中世に近い世界観を持っていると思いましたが、服装の方はあまりにも非現実的です。あの少女の服には、機能性というものがまるでありません。

 彼女だけではありません。このギルドにいる男性たち、剣士や魔法使いといった方々も中世には見られない服装をしています。それ以前に、戦闘用かも怪しい装備と言っていいでしょう。


 RロールPプレイングGゲーム……

 そうですよ。やっぱりここは非現実なんです。正しく、アニメやゲームの世界感なんですよ。


 だからこそでしょうか。今、私の目の前にはあり得ない光景が映っています。

 私より年下の華奢な少女が、大柄の男に対して喧嘩を吹っかけているという事実。絶対にありえない異常な事態と言えるでしょう。


「あ……あんなクソガキがなんて危険なことを!」

「テトラよ。お前とそう歳は変わらないと思うのだが」


 私がガキを見下す発言をすると、ご主人様が即座に指摘します。彼に何と言われようと、私は自分のことを棚に上げているので関係ありません。

 ま、とにかくですよ。やっぱり、冒険者というものが荒くれ者たちの集まりだと証明できました。あーんな小さな少女ですらあれですからね。将来が心配ってレベルじゃねーですよ。

 ですが、それもここで変わります。彼女はおっさんにボコられて、現実の厳しさを学ぶことになるでしょう。相手は大人の男性、少女相手に本気の暴力をふるうとは思えません。

 ですが、ご主人様は心配しています。そりゃ、あんな美少女が強面のおっさんと戦うんですから、心配するのも当然ですね。


「止めるべきか、力の差は歴然だろう。怪我をしないか心配だ」

「あーんな少女相手ですよ。手加減しますって」


 手加減するから大丈夫。そうご主人様に言うと、彼は不思議そうな顔をして首をかしげます。

 まったく意思の疎通ができません。なぜなら、私とご主人様との間では大きな認識のずれがあったのですから。


「ふむ……私が心配しているのは男性の方なのだが?」

「……ほへ?」


 ワッツ? 心配なのはおっさんの方? そんな、まさかー。あんな少女が勝てるわけ……

 そう、勝てるわけがないと思っていました。ですが、この世界で起きたあらゆる事例を考えてみますと、その認識が甘かったと判断せざる負えません。

 この世界には魔法があります。モンスターがいます。人間とは別の種族が存在しています。

 私の持っている常識なんて通用しません。あるのはこの世界の常識だけです。


 華奢な少女が強面のおっさんに勝てるのか?

 否、勝てる。

 それが今まで私の知りえなかった新たな常識でした。

テトラ「ギルドとは組合の事ですよね? 日本では農業組合、漁業組合などあります。組合に参加していると情報と技術を学ぶことが出来、代わりに価格を組合側から指定されます」

ネビロス「冒険者ギルドも仕組みは近い。仕事をギルド側から受ける代わりに、報酬の一部をギルド側にに差し引かれることになっている。ギルドに参加することにより、冒険者全体の支援にも繋がる。厳しいことを言えば、情報や報酬を独占する者はギルド登録する資格はない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ