01 始まりはトラックと決まっているようです
皆さんは神経が図太い方ですか? それとも細い方ですか?
今目の前で起きている事態を理解出来ない私は、きっとそうめん並に細い神経を持っているのでしょう。
目を覚ました私の視界に入ったのは真っ白い空間。そして、私と歳の近い四人の少年少女でした。
仮面を付けられ、それぞれⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅴのローマ数字が書かれています。
顔出し厳禁ってわけですか。何だか、やべーものに巻き込まれてしまったようです。
そう言えば、仮面の中にⅣの数字がないですね……
っと、思いましたが、どうやら私に付けられているようです。
とりあえず、引っ張ってみますが取れません。ぜんっぜん取れません!
とにかく意地になって引っ張ります。と……取れろー!
「おい、そこのⅣの奴。なに遊んでるんだ」
「いえいえ、遊んでるわけではありませんよ! 何とかこれを取ろうと……」
Ⅰの仮面を付けた人が、私に話しかけてきました。
声からすると、どうやら男の人のようです。積極的に話しかけてくれたことに感謝ですね。私の方から話しかける事なんて、あるわけないですから。
私が仮面を弄っていると、Ⅰの人はため息をついて止めに入ります。
「無駄だ。お前が起きる前に全員で試したからな。お前が最後だ」
「えー、私待ちでしたか」
私が目覚めるまで展開が止まっていたようです。これは失礼しました。
いい加減痛いので、引っ張るのはやめます。今は仮面なんてどうでも良いほど危機的状況ですからね。
冷静になればなるほど、現状がとてつもなくやべー状況だと分かってきます。
これは、少年少女を狙った人さらいでしょうか? これからここで命を賭けたデスゲームが始まるのでしょうか? 怖くて怖くて、体がぶるぶるしてきます。
とりあえず、ダメ元で行動です。話しやすいⅠの人に聞いてみましょう。
「あの……ここはどこなんですか?」
「知るか、俺が聞きたい。トラックに轢かれたと思ったらここにいたんだ」
まあ、知らないでしょうね。同じ被害者ですもの。
それにしても、トラックに轢かれたって……怪我はしていないのでしょうか? あれに轢かれたら無事ですむとは思えません。
それに、トラックの形を思い出すと、なぜか体が震えてきます。何か、トラウマのようなものを感じて仕方がないのです。
私とⅠの人が話していると、別の人が会話に入ってきます。
仮面の数字はⅡ。Ⅰの人より体つきがナヨナヨしていて、現状では性別が掴みづらいですね。
その人は髪の毛を人差し指でくるくるといじりながら、Ⅰの人に詳細を求めます。たぶん、この人も内心は焦っているんでしょう。
「その話し、詳しく聞かせてほしい。僕もトラックに轢かれたみたいだからね」
「お前もかよ」
まさかのトラックによるワンペア。いえいえ、どうやらワンペアどころではなさそうですよ。
二人がそんなやり取りをしていると、残りの人たちも集まってきます。
Ⅲの仮面を付けた長髪の人、Ⅴの仮面を付けた寡黙っぽい人。二人の口から衝撃の事実が明かされます。
「すいません、私もトラックに轢かれました」
「俺もトラックだな」
「何それ怖い。あ、私もだ」
そう言えば、私もトラックに轢かれてましたねー。
って、トラック怖っ! 一日にいったい何人の人を轢いているんですか!
色々突っ込みたいところですが、これで五人の共通点が分かりました。
そう、トラックです。私たち五人はトラックに轢かれて、吹っ飛ばされて、それから……
それから……?
それからどうなったんですか……?
「死んだんじゃよ」
突然、私の耳に六人目の声が響きました。
その声は一言で言うなら幼女。とにかく幼女。物騒なことを言っていますが、正しく幼女でした。
やがて、私たちの前に声の主が現れます。
中東風の民族衣装をした褐色肌の幼女。牛のような角が付いた帽子をかぶっていて、とってもませた雰囲気を出しています。この子が、私たちをここに呼んだみたいですね。
「お前たち五人は死んだ。死んで蘇った。異世界転生じゃよ」
ワッツ? いったい何を言っているんでしょう……
まさか死んだって……いやいや、死んだって……
ねーですよ。絶対ねーですって。こんな幼女の言葉なんて一言一句も信じません!
「なっ……納得するはずがないでしょう! 貴方の頭には蟹味噌が詰まっているんですか!」
「まあ、確かに……これは少し説明が足りていないね」
Ⅱの人が同意してくれます。そうです! さっぱりなんです!
いきなり死んだと言われても、だからどうしろというのですか。嘆けばいいですか? 悔いればいいですか? そんな私たちの顔でも拝みに来たのでしょうか?
とにかく説明です。きっちりかっちり説明責任を果たしてもらいますよ!
「お主たちは神であるわしに選ばれたんじゃ。剣と魔法の異世界で人生をやり直すチャンスじゃぞ。わしの与える能力によって夢のチート無双なのじゃー!」
こ……答えになっていません!
それに、私の人生をバカにされているようで胸糞悪いです。異世界だか何だか知りませんが、今の人生より輝くという保証はないでしょう!
当然抗議します。この子の思想には同意できません!
「転生する? やり直す? 温いこと言ってんじゃねーですよ! 人生は一度きりだからこそ輝くんです。二度目の人生に何の価値がありましょうか。皆さんも何とか言ってください!」
そうですよ。こんな話しは間違っています。
今ある人生をあっさり放棄して、新しい人生を歩めなど納得できるはずがありません!
ましてや異世界ですよ? 今生きてる世界と全然違うなんて危険が危ないじゃないですか。無理無理無理無理かたつむりですよ!
さあ、皆さん。私と一緒に頭のおかしい幼女に言ってやりましょう! 貴方の要件は飲めません!
って、えー……明らかに皆さん、私のことを白い目で見てますよね。「なに言ってんだこいつ?」って顔してますよね。仮面の上からでも何となく分かりますよ。
私って少数派ですか。完全にアウェーですかー。いえいえ、そんなはずがありません!
「まさか、話しに乗る気ですか? 正気じゃないです! 私たち死んじゃったんですよ! 今までの人生は全部終わり! お母さんやお父さん、友達とも二度と会えないんですよ! それなのに、何でそんなに冷静なんですか!」
「何でも何も、死んだものは仕方ないだろ」
仕方がない……?
普通、こんなにも簡単に人生を諦めれますか? こんなにも簡単に全てをリセットできますか?
いえいえ、出来ませんよ。普通の人間なら絶対に出来ません。
狂人、この人たちはまさに狂人でしょう。私と彼らとでは決定的な違いがある。そう、確信してしまいました。
Ⅰの人が水を得た魚のように質問をしていきます。これは完全に乗り気のようですね……
「基本的な能力は貰えるんだよな? 言語が通じないと話にならないし、アイテムボックスも必要だ。あと、ステータス鑑定能力も別で欲しいな」
「みなまで言うな。分かっておる。そのあたりは異世界転生の基本じゃからのう」
基本って何なんですか! 異世界転生に基本があるのですか! これは他のみんなも置いてきぼりでしょう!
って、えー……明らかに理解していないの私だけですよね。私だけ完全に蚊帳の外ですよねー。
あー、何で私はこのメンバーに選ばれてしまったのでしょうか。明らかなチョイスミス。誰でも分かるでしょう。
とりあえず、何だか知ってるような空気を出しておきます。なめられるのは嫌ですからね。
「すっごい強い能力も貰えるんですよね。何か凄い火炎とか、残像が見える速度で動いたり、かめはめ波的な何かを掃射したりできるんですよね?」
「そうじゃのう。戦う能力がなければ、モンスターにやられてしまうからのう」
ワッツ? モンスター? え? モンスター出るの?
ナンデモンスター? モンモンモンモーン?
「ちょっと待ってください……モンスターって何ですか!?」
「モンスターはモンスターじゃ」
「いや、モンスターをまるで常識のように扱わないでください! モンスターは常識ではないでしょう! 非情事態でしょう!」
あ、死ぬ。モンスターに八つ裂きにされて、二度目の死を迎えるビジョンが見えましたー。
いえいえいえいえ、モンスターはヤバいですって! 絶対生き残れませんって! 他の人たちもみんな怖いでしょう!?
って、やっぱり怖がってなーい! 怖がってるの私だけだー! もうやだ! この人たちやだ!
こうなったら他は無視です! 一方的に私の意見をぶつけてやります! うおー!
「モンスターって襲ってくるんですよね!? 死んじゃうじゃないですか! 世紀末じゃないですか! 送るならもっと平和な世界に送ってくださいよ!」
「あーうるさい。話しが進まんからスルーじゃ!」
「ほわー……!」
わあい、いよいよ完全にハブられましたよー。これはいわゆるいらない子って奴ですね。
まあ、生前から何をやってもダメな子でしたし、今さら感が否めないでしょう。勉強もダメ、スポーツもダメ、生きてる価値があるの? って聞かれたら無いですって答えるしかありません。
十五年、細く短い生涯でした。
この私……私……?
そう言えば私の名前、なんでしたっけ?
Ⅳの人「ステータス鑑定? 人様の攻撃力やら防御力を見て何になるっていうんですか。HAHAHA!」
Ⅰの人(こいつ……生き残れるのか……?)
最初は書き溜めがありますが、二章になったら燃え尽きます
リアル志向の異世界転生ものです
躁鬱の幅が大きいので苦手な人は注意