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175 決戦へと向かいます


 街外れの海岸にて、私たちはバートさんと合流しました。

 帆船、フリント号を操縦する彼。準備万全といった様子で、魔王さんの城まで付いていく覚悟はあるようです。

 なにも、戦争にいくわけではありません。刺客は送られて来ましたが、和解出来るのならそれが一番でした。


「バートさん、戦闘は極力避けたいです。上手く敵を掻い潜ってくださいね」

「無茶苦茶を言うなおい……まあ、やれるだけの事はやる」


 私とスノウさんは船へと乗り込みます。ですが、ヴァルジさんは動こうとはしませんでした。

 そりゃ、当然そうなりますよね。彼は私に対して十二分に借りを返しています。決戦に付き合う意味はありませんでした。

 少し申し訳なさそうな顔をしつつ、おっさんは言います。


「悪いが俺は残るぜ。正直、行っても足手まといになるだけだ。偉くなって身動きし辛くなったのもあるしな」

「いえいえ、今回も助けてくれてありがとうございます。絶対、私たちが聖国を救いますから!」


 私の答えを聞くと、ヴァルジさんは笑みをこぼしました。そして、縛り上げたグルミさんの縄を解き、彼に向かって言います。


「おい豚野郎。お前は俺と来い。オークに知恵が付いたってのなら、テイマーにして見りゃ大事件だ。直接話しがしてえな」

「俺は豚じゃねえ。グルミだ」

「そうかよグルミ。さっさと仲間を集めろ。これから忙しくなるぜ」


 まさかヴァルジさん、人間とオークの問題に切り込むつもりですか! もしそうなら、これは世界にとって大きな変動です。

 何の力もない一般の冒険者だった彼。それが私に巻き込まれて、大きな使命を課せられました。

 迷惑をかけてしまいましたか……そんな事を考えてると、ヴァルジさんが全て見通します。


「テトラ、そんな顔をすんじゃねえ。これは俺が決めたんだ。お前が元の世界に戻るってのなら、これで今生の別れだろう。笑顔で別れようぜ」


 そうですよね……切っ掛けを作ったのは私ですが、道を決めたのはヴァルジさん本人。巻き込んだと言うのは傲慢でした。

 それに、もし元の世界に戻れるのなら、次にいつ会えるのかは分かりません。彼の言うようにこれが今生の別れかも知れません。

 だから、私は笑います。エンターテイナーに涙なんて要りませんよね。


「そうですね。ヴァルジさん、グルミさんもお元気で!」

「勝手に決めやがって…………なあ、テトラ。俺は生きていいのか?」


 減らず口を止め、真剣な顔で問いかけるグルミさん。その答えは初めから決まっています!


「当然じゃないですか。誰にだって、生きる権利はあるんです!」

「この世界でそれを言った奴はお前が初めてだろうよ。ほんと……すまねえな……」


 涙もろいんでしょうか、彼は顔を隠すように後ろへと振り返ります。男の人には泣き顔を見せたくないという意地があるのかも知れませんね。

 おっさん二人に別れを告げ、私たちは大海原へと乗り出します。

 空は快晴、風は穏やか。船は順調に目的地へと突き進みました。










 最終的な目的地は魔王さんの城ですが、ジルさんたちと合流するために寄り道します。

 場所はミリヤの村。聖国の最西端に位置し、クレアス国との国境に隣接していますね。

 ここにはミリヤ国の難民が避難していて、以前もスノウさんと訪れました。ミリヤ国はジルさんが転生して始めてきた国。彼も難民たちと話すことがあるのでしょう。


 港町ラクスから近く、少し走らせたらすぐに到着します。

 今のところ、魔王軍からの追撃はなし。セイレンさん、グルミさんと立て続けに撃破され、彼方も慎重になっているに違いありません。

 村も以前と変わらず、人魚の皆さんとの関係も良好っぽいですね。セイレン姫も国に戻されましたし、彼らも魔族との関りを避けることでしょう。


「せっかく平和になったんです。また戦いに巻き込みたくありませんし、さっさと済ませますよ」

「はーい」

「俺は船に残るから、お前らで連れてきてくれ」


 バートさんを残し、私とスノウさんで村に入ります。スノウさんはミリヤ国の姫ですからね。一応顔だけは見せた方が良いでしょう。

 入るや否や、姫の存在に気づいた人々が彼女を囲みます。まあ、想定通りですね。私はお邪魔みたいなので、人ごみを避けて宿の方へと向かいました。


 以前泊まったことがあるので場所は分かります。ずっと到着を待っていたのでしょうか、宿の前ではメイジーさんがお座りしていました。

 まるで狛犬のようですねー。近づくと目と目が合い、彼女は開口一番にこちらを罵倒します。


「遅いっ!」

「あはは……色々あったんですよ」


 そんなわけで、何があったのか報告ターイム。セイレンさんとグルミさんの撃破を伝えました。

 ですが、メイジーさんだけに伝えても仕方ありませんね。ジルさんとアリシアさんはどこなんですか!

 どうやら、彼女たちにも色々あったようで、それはペンタクルさんとの決戦にも関係する様子。ここに来て、急な作戦の変更があったのです。


「実はジルの奴が別行動を取ることになったのよ。なんか、急に慌ててクレアス国で合流するって消えちゃったわ。絶対何か隠してるわね」

「えー! 転生者が減ったら死活問題じゃないですか!」

「そんなこと私に言われても知らないわ」


 途中で連絡がないと思ったら消えてるじゃねーですか! ちょっと、これって大問題ですよね!

 まさか、ペンタクルさん本人が奇襲に来ることは無いでしょう。ですが、ラジアンさんとの戦闘になったら私一人じゃどうにも出来ませんよ!

 ジルさん、いったい何を考えているのでしょうか。彼に限って意味のない行動をするとは思えませんが……


「もう、良いですよ。後で合流するというのなら信用しましょう。それで、アリシアさんはどこですか?」

「待ちきれなくなって海岸に行ったからすれ違いね。私たちも船に行きましょ」


 ジルさんがいないのは心配すぎますが、もう前進するしかありません。

 途中、スノウさんに集まる人々に巻き込まれたアリシアさんを拾います。これでモーノパーティー、三人娘全員集合。最低限の戦力が揃いました。

 ですがまだ、ご主人様とアリーさんが合流していませんね。ちょっと、飛べるからって余裕ぶっこいてるんじゃないですかー?


『待ってほしい。今其方に到着した。確かに私は時間に無頓着だが、今回ばかりはアリーの体調を気遣っての判断もある』

「ご主人様、私の思考にジャミングしないでください」


 頭の中で思ったことに対し、ご主人様がテレパシーで弁明します。同時に、船に乗り込もうとした私たちの前に悪魔が降り立ちました。

 右腕にはアリーさんが抱きかかえられていますが、白目をむいてぐったりしています。まさか、窒息していたのをそのまま連れてきたんじゃないでしょうね!


「ちょっとご主人様。本当にアリーさん大丈夫なんですか!?」

「水を吐き、意識は完全に取り戻していた。飛んでここまで移動した際に気絶してしまったのだろう」

「まあ、滅多に飛べるものじゃありませんしね……」


 ちょっと飛んだだけで気絶ですか。やっぱり、彼を魔王さんの城に連れて行くのは心配ですね。

 ご主人様が軽く揺すると、アリーさんは意識を取り戻します。彼はプルプル震えながら、私に向かって手を振りました。


「おう、テトラ……大丈夫だ……さあ出発するぞ……」

「どのあたりが大丈夫なんでしょうか……」


 本人はやる気なので止めようもありません。よっぽど、聖ビルガメス教の王であるラジアンさんと相対したいようですね。

 ここまで彼に固執するのは、やっぱり迫害された恨みがあるからでしょうか。女神バアルを信仰し、大いなる主を信仰する者たちによって弾圧されたカナンの民。

 そう言えば、バートさんもカナンの民でしたね。やっぱり、聖ビルガメス教に対して思うことがあるのでしょうか。


「バートさーん、一応全員揃ったのでいつでも行けまーす」

「分かった。帆は畳んでないからな。すぐに出発する」


 ラジアンさんのことは彼にも言いましたが、そっけない態度を取られました。あまり、因果や因縁を気にしないタイプなんでしょう。

 何度も一緒も旅をして分かってきましたが、たぶんバートさんはひたすらにクールなんだと思います。まあ、悪く言えばドライでとっつきにくいんですけどね。

 逆に、アリーさんはヘタレですけどねちっこいです。同じフラウラギルドに所属していましたが、行動は共にしていない様子。ご主人様はそれを性格の不一致と判断しています。


「私から言わせてもらえば、人種以上に気質の一致こそが円滑な人間関係を築けると考える。しかし、何故か人という存在は姿形に囚われる傾向がある。恐らく、そこに理屈などは存在しなのだろう」

「生あるものは同種で群れを作るんですよ。結局、その摂理に逆らうには進化が必要なんですよねー」


 ベリアル卿は戦争や迫害を繰り返すことで人は進化し、豊かな世界を作ると言っていました。彼はその様に魅かれ、更なる進化を求めているのでしょう。

 少し彼の気持ちが分かるのが悔しいですね。前はその感情を否定していましたが、記憶が戻った今は違います。

 私は白鳥泉さんが抱く悪魔ベリアルへの憧れで作られた存在。所々で性格や思想に一致が見られても仕方ありません。


『そろそろ正直になったらどうかな? 楽しく異世界無双しちゃいなよ』


 心の中に泉さんの存在を感じ、その声が聞こえてきます。恐らく、覚醒状態が完全なものになった影響でしょう。

 ですがお生憎、私の異世界無双は皆さんの幸せを願うもの。この世界でいろいろ学び、もう泉さんの思想なんて少しも残ってないんですよねー。


 大いなる主は色々な角度から世界を見るように言いました。

 それは私たちの心変わりを願ってのことなんでしょうか……



「テトラさん? ぼーっと何をしてるんですか?」

「あ……なっ! 何でもありませんよ!」


 無心のまま船まで登り、いつの間にか一人で水平線を見ていました。そこをスノウさんに突っ込まれます。

 ダメですね……心をしっかり持たないといけません。

 特に今はジルさんがいないんです。転生者である私が皆さんの示しにならないと!

 ではでは! とりあえず出発メンバーはそろったので、ここらで士気を上げていきましょう!


「皆さん注目です!」


 私は船の手すりに立ち、メンバー全員の名前を呼びます。


「メイジーさん、アリシアさん、スノウさん、アリーさん、バートさん、それにご主人様! 以上のメンバーで、魔王さんの城に突撃します! 準備は良いですかー」

「はーい」


 ノリのいいアリシアさんとスノウさんが返事をしてくれました。他の四人はスルーしてますが、気にせず続行です!

 いよいよペンタクルさんとの決戦です……きっと、モーノさんやジルさんも合流してくれるでしょう。

 負けるつもりなんてありません。だからと言って、力で滅茶苦茶にする気も無し!


 皆さん無事に! 最高のハッピーエンドで終わらせる!

 そして、ターリア姫の眠りを覚まし、王都の呪いを解きます!


「これより異世界無双を開始します! さあ、出発です!」


 時は満ちた!

 いざいざ、魔王の根城にレッツゴーです!


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