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170 vs最強の八人衆!


 人魚姫のセイレンさん。彼女の戦闘スタイルは音魔法と水魔法によるサポートです。

 その持ち魔力は高く、天候の操作もしていましたね。これは女神バアル様に匹敵するほどの力でした。

 ですが、実戦慣れはしていません。典型的な才能だけで成り上がったタイプで、突けば突くほどにボロが出ます。

 スノウさんとの戦い、そこで彼女は大きなミスをしました。


「水のバリアが……汚染されてる……!?」

「毒は少量でも積み重なります。早くバリアを解除しないと、中で倒れちゃいますよー」


 リンゴ爆弾による爆風をセイレンさんは水のバリアーで防いでいました。自信を包み込む水の球体はまるでシェルター。だからこそ、そこに毒が混ざるのは死活問題です。

 放っておいても毒は回り、攻撃を受けるたびに積み重なるでしょう。これは一度バリアーを解除する必要がありました。

 当然、スノウさんはそれを読んでいるでしょう。彼女は攻撃の手を緩め、バリアーの解除を誘います。戦闘経験の少ないセイレンさんは、まんまとその罠にはまってしまいました。


「爆弾が止まった……この隙に……!」

「そこです!」


 水の球体を解き、嵐の海に着水するセイレンさん。すぐに張り直せば良いと考えていたようですが、スノウさんはそのチャンスを逃しませんでした。

 人魚姫の着水と同時に、水面で何かが大爆発を起こします。当然、それはスノウさんのリンゴ爆弾。先ほどの打ち合いの中で、彼女は不発の爆弾を混ぜていました。

 爆発しなかったリンゴは水面に浮き、セイレンさんが海に戻るまで燻ります。さながら地雷ですね。加えて、この攻撃の本命は毒です。


「うそ……時間差で爆発するの……!?」

「魔力が高い貴方でも、毒の効果は防げませんよー!」


 天候操作、海洋生物操作、音符爆弾、水のバリアー。セイレンさんの魔法は物凄く手数が多いです。

 一方、スノウさんはリンゴ爆弾以外使いません。それでも、この一つで全て完結するほどの汎用性でした。

 今のように設置や時限式に出来ますし、毒を弱めれば麻痺させる事も出来ます。まさに必殺技で、余計な小細工なんて必要ありませんでした。

 まともに毒を受けたセイレンさんは、そのまま海へと沈みます。ですが、彼女はすぐに治癒魔法を使用し、海面から飛び出しました。


「完全に治癒できないけどまだ戦えるよ……! 今度はあたしの番だ!」


 苦しそうにしながらも歌を歌い、彼女は海から水柱を出現させます。やがて、それは楽譜のような線となり、スノウさんへと降り注ぎました。

 直撃を受け、押しつぶされるゾンビ少女。ですが、死人の身体もあって何とか致命傷は回避します。彼女は水を振り払い、キッとセイレンさんを睨みました。


 お姫様二人、バチバチとの火花を散らしていますね。私も先ほどからオークさんの相手をしていますが、このままではじり貧でしょう。

 状況はあまり宜しくありません。ですが、この場面で更に最悪の事態が起こりました。


「苦戦しとるようじゃのう。戦いは好かんが、流石に見て見ぬ振りは出来んじゃろ」


 ヒーローは遅れて登場すると言わんばかりに、しゅたっと船上に降り立つ新手。どうやらまた、何らかの手段で奇襲してきたようです。

 ターバンを巻き、白い豪華な衣装を身に纏った青年。その褐色肌は彼がここより東の民だという事を証明していました。

 聖ビルガメス教の王、ラジアン・マハラージャさん。彼はおでこに手を当てつつ、ふざけるように周囲を見渡します。


「おー、やっとるやっとる。さーて、手ごろな相手はどこか……流石に魔王さんの頼みなら、わっしも動かにゃならんじゃろ」


 私は以前、王宮でラジアンさんの戦いを見ています。だからこそ、彼が幹部の中で最強だという事は一発で分かりますよ。

 ですが、ステータス鑑定を持っていれば初対面でも分かるようです。今まで待機していたジルさんが、ここで誰よりも早く前に出ました。

 転生者である自分が戦わなければならない相手。彼はそれを見極めたのでしょう。


「来たね。君がオークたちを運んだのか。飛行アイテムと収納アイテムを利用したのかな?」

「そうじゃ。わっしは魔法技師、おまんら錬金術師ように新しい物は作れん。じゃが、今ある物を工夫で改良するのは大得意じゃ」


 工夫って……工夫でオーク軍団を海の真ん中まで運んだんですか! まったく、異世界の技術はやべーもんですよ!

 そんなヤベー技術を駆使するラジアンさん。対して、ジルさんは全く油断していない様子。速攻で銃を構え、超スピードで弾丸を掃射していきます。

 ですが、敵の準備も完了していました。砂漠の王は前回と同じ金色のランプに手を当て、それを軽くこすります。


「さあ、ランプの魔人よ! わっしの願いを叶えちょれ!」


 現れたのは赤い身体に筋肉モリモリのマッチョマン。凄いのは上半身だけで下半身は霊体ですが、それでも滅茶苦茶強そうです。

 魔人はその鋼鉄の身体でジルさんの弾丸全てを受け切りました。転生者の多属性攻撃です。弱いはずはないのですが、それ以上に敵の身体が強靭という事でしょう。

 しかも、防御だけではありません。ラジアンさんは魔人を自身の体のように動かし、その剛腕によってジルさんに殴りかかります。

 すぐに魔石を使い、氷の壁を張る錬金術師。ですが、その壁はたやすく破壊され、そのまま術者本体を殴り飛ばしてしまいました。


「ジルさん……!」

「やっぱり、彼は強いね……」


 マストに叩きつけられ、口から血を流すジルさん。まさか、転生者の彼が異世界の人からダメージを受けるなんて……

 いえ、ラジアンさんはこの世界でもトップクラスの実力者。加えて、技の異世界転生者であるペンタクルさんから技術指導されています。

 文句なし、最強の魔王軍幹部と言っていいでしょう。私はオークの軍団を軽く振り払い、ジルさんの元へと走り寄りました。


「オークさんは他の人に任せます! 私はジルさんのサポートに動きますよ」

『私も同意しよう。あのラジアンという男、他の幹部よりもさらに上の実力者だと見受けられる』


 ご主人様も同意してくれます。やっぱり、あの人は危険ですよ! 転生者二人掛かりでパパッと追い返しちゃうのがベストでしょう!

 まずはジルさんと合流し、作戦を決めて対抗してやります。そう思った時でした。

 私の前に立ちふさがったのは、魔人ではなくてラジアンさん本人。彼は三日月形の剣を振り、こちらに攻撃を加えてきました。


「れ……レディ相手に容赦ないです!」

「敵に容赦する奴はいないじゃろ。特に、魔王さんから転生者には注意しろと言われちょる」


 何とかナイフでいなしますが、何かおかしい……今まで戦った人とは明らかに違います!

 私のガードをすり抜けて攻撃してくるじゃないですか! 不味いです……このまま打ち合いになるのは絶対不味い……!

 もたもたしている内に剣が左腕をかすります。身の危険を感じ、床を蹴って一気に距離を取りました。


『大丈夫かテトラ』

「単なるかすり傷です。ですがヤベーですね……」


 マジですか……私は超高ステータスのモーノさんの連撃だってかわしたんですよ。この人は剣技だけで攻撃を当てたって言うんですか!

 幸い、スピードはご主人様の操作を受けた私の方が上。それは、ラジアンさんがただの人間だという事を証明していました。

 たぶん、あの人は本物の努力によって、あれほどの力を身に付けたんです。私のようにふざけた態度をしていますが、本質はとにかく真面目なんだと感じました。


『テトラ! 次が来るぞ、剣技で対抗しなくては時間稼ぎも出来ないだろう』

「分かってますって!」


 こちらに向かって走るラジアンさん。再び、私はナイフによって剣を受けました。

 チャンバラになったらまず負けます! なので、ナイフで受けるのは極力減らし、ジャンプやアクロバットによって攻撃を回避していきました。

 一方、ジルさんは氷、炎、雷の魔石を取り出し、それを三種類の魔獣に変えます。三匹の同時攻撃を受けるランプの魔人さん。ですが、彼は笑い声をあげながら腕力でぶっ飛ばしました。


「ガハハハハッ!」

「他の幹部とは違う……本気で挑まないと……!」


 眼鏡を上げ、見たことのないアイテムを取り出すジルさん。何をするかは分かりませんが、私は彼の勝利を信じますよ!

 それに、私が主人であるラジアンさんを倒せば魔人も止まるはず……だから、自分の戦いに集中しましょう!

 敵の武器を弾こうと積極的にナイフを突き出してみます。ですが、それが隙となり、逆に相手にチャンスを与えてしまいました。


「攻め焦ったのう。終いじゃ」


 や……ヤバイヤバイヤバイ! ラジアンさんの剣を避ける術がない……!

 とにかく、死にたくない一心で身体を大きく仰け反らせます。瞬間、胸元を三日月の剣がえぐりました。

 痛い……けど生きてる! これは結構深く斬られましたね。何とか首の皮一枚で繋がった感じです。

 安堵はしましたが、ピンチなのは変わりません。敵の攻撃は止まらず、対処方法は思いつきませんでした。


 そんな私のピンチに駆けつけたのは一人の少年。

 彼は震えながらもラジアンさんの前に立ち、ナイフを向けます。


「待て! テトラは殺させない……こいつは、俺たちの希望なんだ!」

「はーん……おまんさん、わっしと同じ東の民じゃろ」

「同じじゃない! 俺はカナンの民だ。お前ら聖ビルガメス教が追い出したな……!」


 剣を止める聖ビルガメス教の王、対するは元盗賊のアリーさん。

 まさか、これが彼の言っていた運命ですか……? カナンの民と聖ビルガメス教の因縁。それがこんな形で巡り合うなんて……

 アリーさんは熱心なバアル教徒ではありません。ですが、迫害によって家族や自分の故郷を奪われた事実は変わりませんでした。


 聖ビルガメス教の王であるマハラージャ。

 その名を引き継いだラジアンさんは因縁の相手だったのです。


「カナンの民……ハハッ! あの故郷を捨てた弱小部族どもか。そんな奴らは五万とおる。いちいち覚えておらんのう!」

「覚えなくていいよ。だけど、俺にも意地があってね!」


 敵を軽視し、接近を気にも留めないラジアンさん。

 対し、アリーさんは身をかがめ、船体に手を当てました。


 これってまさか……

 まさか……!


「クソ雑魚をなめんな! 開けっ……!」

「ん?」


 その言葉と共に、船上に扉が開かれます。

 下部へと続く扉から落ちたのはアリーさんとラジアンさん。嵐の海へと真っ逆さまです。

 あまりにも一瞬の出来事で、最初はポカンとしていました。ですが、すぐに状況が分かり、全身から血の気が引きます。


「そんな……アリーさん……!」

『まさか、玉砕覚悟で船体の床を抜けたのか! すぐに、救出へと向かう!』


 ご主人様が翼を広げ、船上から飛び立ちました。同時に、ジルさんと戦っていた魔人も同じ方向へと飛んで行ってしまいます。

 これで、魔王側の計画は一気に崩壊しましたね。

 既に、メイジーさんとアリシアさん、ハンスさんとマルガさんによってオークたちは海に落とされています。彼らの部隊は半壊したと言っていいでしょう。

 さらに、セイレンさんはスノウさんとの戦闘で一杯一杯。私やジルさんを含めた残りは、オークの王であるグルミさんが相手をしなくてはなりません。


「畜生、まんまとやられたぜ……こいつはプランBに移行だな!」


 メイジーさんの爪をガードしつつ、グルミさんがそう叫びます。

 彼の動向は気がかりですが、それよりも落ちたアリーさんが気になって仕方ありません。今は調子が悪いです。私の精神は酷く乱れていました。


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