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169 奇襲にだって負けません!


 霧と海中のモンスターでじわじわ追い詰めるつもりだったセイレンさん。ですが、ジルさんのレーダーによって完全に動きを捕捉されています。

 これは焦るでしょうねー。現状はこちらが完封している状況。彼女にはこれ以上の攻撃手段がないのですから。

 それでも油断は禁物です。セイレンさんは人魚、海のスペシャリストですからね。こちらが船上に居る以上、地の利は彼女の方にありました。


「やっぱりコッペリアさんたちは強いや。だけど、あたしも出来る限り頑張るよ! トリシュさんから勇気を貰ったから!」


 海面から飛び出し、大きく仰け反る人魚姫。彼女は歌を歌いながら、自らの回りに水のバリアーを張りました。

 空中に浮く水の球体、その中からこちらを捕捉するセイレンさん。

 少なくとも、海中にいれば攻撃を受けることはなかったはず。わざわざ出てきたという事は、それ相応のメリットがあるという事です。

 ですが、それよりも気になるのは彼女の口から出たトリシュさんの名前。二人の間に何があったのでしょうか?


「トリシュさんと話したんですか?」

「うん、二人が姉妹だってことを聞いたよ。それに、あたしたちとは敵同士だってことも……」


 トリシュさん、きっちり魔王さんと敵対するって言っちゃったんですね。まあ、元々どっち付かずでしたし、立ち位置なんて気まぐれで変えるんでしょうけど。

 キッと目を吊り上げ、セイレンさんは両腕を広げます。それと同時に、先ほどまで周囲を覆っていた霧が徐々に晴れていきました。

 もう迷いはありません。代わりに生まれたのは、主人に仇名す敵を倒すという覚悟。


「魔王様は魔王の意思に引っ張られている。そうトリシュさんは言ってたよ。このまま行けば、魔王様は世界を支配しちゃうのかも……」

「それは貴方の歌う平和じゃないでしょう!」

「だけど、あたしは魔王様に……音楽の天使さまに心奪われてる。こういう風に、悪い人って生まれちゃうのかな……」


 霧の代わりに、空から降り注ぐのは雨。それは徐々に強まり、やがて風が吹き荒れます。

 セイレンさんの歌が呼んだのは嵐でした。あっという間に真っ黒い雲が太陽を覆い隠し、激しい雷鳴が響きます。

 まさか、船ごと私たちを沈める気ですか! 確かに、これなら戦力差なんて関係ありませんよねー。

 なんて、のんきなことは言っていられませんよ。波は荒れ狂い、船体が滅茶苦茶揺らされます。私はご主人様の糸で体を固定しますが、他の人は大丈夫なんですか!

 すぐに、メイジーさんが声を上げました。


「みんな大丈夫……!? 気を抜いたら海に放り出されるわよ!」

「な……何とか大丈夫だよー」

「うぉー! 死ぬー! やっぱ、来るんじゃなかったー……!」


 必死な顔でマストにつかまるアリシアさんとアリーさん。今更後悔しても遅いです! すでに周囲は海で逃げ場なんてねーですから!

 知識はチートですが、身体能力は普通のジルさん。彼はハンスさんとマルガさんに掴まり、何とか投げ出されないように体を固定します。

 不味いですね。主戦力のジルさんを封じられてしまいましたか。一見ピンチのようにも見えますが、彼はちゃんと対抗策を用意していました。


「風の魔石を起動するよ。この船は僕が造ったんだ。嵐程度で沈められると思わない事だね!」

「ご主人たまスゲー!」

「ご主人たまサイキョー!」


 船にセットされた魔石が起動し、周囲に風の膜が張られます。それにより、船体のバランスは安定し、嵐による影響を抑えました。

 そりゃまあ、チート転生者が造ったチート帆船ですからね。当然、嵐に対抗する機能は搭載されているでしょう。

 両手を上げて喜ぶハンスさんとマルガさん。対し、セイレンさんは驚きながらも攻撃の準備に入りました。


「だったら、嵐に紛れて直接戦うよ! あたしの全力! 魅せてあげる!」


 中に浮かぶ水球、その中から人魚姫の音符爆弾が放たれます。以前よりも攻撃が速く、鋭くなったように感じますね。これは彼女に迷いがなくなったという事でしょう。

 ですが、その攻撃はリンゴ型の爆弾によって撃ち落されます。同時に、周囲に毒霧が舞ったため、私たちは後ろへと下がりました。

 敵に対するのはリンゴの髪飾りを付けたスノウさん。彼女は自分の回りに紫のリンゴ爆弾を浮かべ、水球へと目をやりました。


「決着を付けますよ。こんな事になった原因は私の国なんですから!」

「そうだね……スノウさんの国、ミリヤ国がなければ私はここに居なかったかも。だけど、それは関係ないよ!」


 放たれるリンゴ爆弾と音符爆弾。衝突し、広がる毒霧と音波。

 今、プリンセス二人に戦いの火ぶたが切って落とされました。


 こ……これは手出しできる空気ではありませんね。ですが、仲間が戦っているのを無視するわけにもいきません。

 スノウさんの意思とは関係なしに、遠距離攻撃が出来るアリシアさんとマルガさんが攻撃に出ます。

 放たれるのは、巨大化したトランプとキャンディーの鞭。この支援が通れば勝負は決まりますが、そう簡単にはいかないみたいでした。


「邪魔だては良くねえな……こいつは二人の戦いだぜ」

「だ……誰っ!?」


 突如、空中から何者が落下し、アリシアさんたちの前に着地します。そして、お腹の肉で巨大トランプを弾き返し、フォークのような槍でキャンディーを絡め取りました。

 リボンの少女はすぐに反応し、返されたトランプを剣で叩き落とします。ですが、マルガさんの方はキャンディーごと引っ張られ、そのままぶん回されてしまいました。

 ステッキから手を離せば、海へと放り出されてしまうでしょう。だからこそ、マルガさんは飴を巻き取り、元のぺろぺろキャンディの形へと戻しました。


「セフセフ!」

「マルガ! このまま挟んでゴーゴー!」


 チョコレートの剣を伸ばし、新たな敵へと走るハンスさん。それに合わせ、マルガさんも床に足をつけ、ブレーキをかけつつ再びキャンディーを延ばしました。

 空から降ってきた乱入者は魔王軍幹部の一人。ハードボイルドオークのグルミさんです。

 彼は得意の分身魔法で三人に増え、内二人で対抗してきました。一人は再びキャンディーを止め、もう一人はチョコレートの剣を受けます。

 ですが、これで突破口が開けましたね。残った一人に向かって、メイジーさんが牙を向けました。


「私が仕留めるわ! 三人相手じゃ流石の幹部もお手上げでしょ!」

「ちっ……素早い嬢ちゃんだ……!」


 槍を軽やかに交わし、懐に入る狼少女。そして獣人形態に変化しつつ、グルミさんの首に噛みつきました。

 結構本気で殺しに掛かっているようですが、相手は高ステータスのオーク族。太い首の肉は全て筋肉で、メイジーさんの牙は奥まで食い込みませんでした。

 深追いは危険と判断したのか、彼女はすぐに口を放します。そして、敵のお腹を蹴っ飛ばし、バウンドするように距離を取りました。


「頑丈な肉ね。狼の牙でも狩れないわ」 

「痛てえな畜生! だが、俺を仕留めるにはパワー不足のようだぜ」


 同じように、分身相手に攻撃を与えたハンスさんとマルガさん。ですが、二人も攻撃が致命打まで届かなかった様子です。

 前回、私は攻撃せずに翻弄することでグルミさんを圧倒しました。それは単に相性が良かっただけで、実際戦うとなると厄介なようですね。

 ま、それにしてもこっちは人数で圧倒的に有利ですよ。私もジルさんもまだ動いてないですし、一気に攻めれば楽勝です!


「ではでは、また私が翻弄しちゃいますよ! 単身で敵の船に乗り込むなんて愚の骨頂です!」

「笑わせるな嬢ちゃん。俺がどこから降ってきたと思ってんだ? 単身なわけねえだろ」


 彼がそう言った瞬間でした。嵐の空から再び何かが急降下してきます。

 もう、流石に何かは分かりますよ。豚さんです! オークの部隊が空中から総攻撃を仕掛けてきました!

 晴れ時々ブタじゃないですかー! 恐らく、空に何らかの奇襲ギミックが設置されています!

 ジルさんはこの現象を疑問に思い、一人嵐の空を観察し始めました。ちょっとちょっと! 今はそれどころではないでしょう!


「ジルさん……! 確かにこれは疑問ですが、オークさんに対抗しないと!」

「いや……何だろう……もし、空からの奇襲が可能なら。もっと危険な何かがそこにあるんじゃいかって思うんだ」


 た……確かにその通りです。ここで更なる脅威が降りかかれば、対抗策が無くて詰みでしょう。

 では、それはジルさんに任せちゃいます! 流石に私は目の前の敵に集中しますよ!

 新たに現れたオークの軍勢。全員、グルミさんより遥かに大きくて狂暴な顔つきをしていました。

 船体に着地するや否や、彼らは一斉に私たちへと襲い掛かります。

 船が広くて丈夫なのが災いしましたね。軍勢が戦える空間がありますし、重い彼らが降ってきても穴は空きませんでした。


「ま、こうなっちゃったら仕方ねーです! ご主人様、パパッと片づけますよ!」

「しかしテトラよ。お前は攻撃手段を持たないだろう?」

「たぶん、海にセイレンさんを護衛する人魚がいます。だから、遠慮なく叩き落とします!」

「……傷つけはしないが、徐々に手荒になってきたな。まあ、セーフだろう」


 あー、うるせえです! 流石に敵が強くなってきて形振り構ってられねーです!

 一応、人を傷つけないというルールから外れていないので、ギリギリオッケーにしてください。いえ、自分ルールなのでオッケーにします! 異論は認めません!

 そうと決まれば突撃! 遠慮のなくなった私は強いですよー!

 私に向かってフォーク型の槍を突き出す巨大なオークさん。ですが心を読み、その攻撃を擦れ擦れで回避しちゃいます。


「ブタさんブタさん、こっちですよー!」

「ぐお……!」


 敵さんは知性こそあるものの、しっかりと会話することは出来ないようですね。つまりはおバカさんです。これは私との相性最高ですね!

 何度も何度も攻撃を回避し、一歩ずつ後ろへと下がります。そして船の端まで移動し、そこでオークさんの本気の一撃を回避しました。


「では、ごきげんよう!」

「ぐぶおー……!」


 ご主人様の操作で身体を強化。敵がバランスを崩したところを軽く小突き、海へと突き落としちゃいました。

 人間相手では絶対やりませんが、断じて差別ではありません。区別です! オークさんの身体は丈夫なので、海に落ちても大丈夫だと判断しました。

 同じように、アリシアさんは身体を巨大化し、物理でオークたちをぶっ飛ばしています。こういう豪快な力比べでは彼女は圧倒的に輝いていました。


「やっぱり考えるのは苦手だよ! 大きくなって、ドカンとぶっ倒す!」

「アリシアちゃん……頭悪そうだから、そういうこと言わない」


 逆に手数で攻めるメイジーさんの攻撃は分が悪いです。仕方ないので、彼女はオークのリーダーであるグルミさんの翻弄へと動きました。


 大きな船の上、魔王さんの仕向けたブタさん部隊と大混戦です。

 戦いの最中、ふと見えたのはスノウさんとセイレンさんの戦い。こちらと違い、二人の戦いは完全な遠距離戦でした。

 両方とも距離を取り、まるで弾幕のように爆弾を撃ち合っています。セイレンさんは空中に浮かべた水の球体に籠り、梃子でも動かないって感じですね。

 あのバリアを突破しなければ、得意の毒もすべて無駄ですよ。頑張ってくださいスノウさん!


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