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168 絶好の船出日和です


 色々あって出発が遅れてしまいましたが、いよいよ魔王さんの城に向けて出発です。

 既に船は完成していて、ジルさんのアイテムボックスに収納済み。あんなに大きなものまで運べるなんて、便利なものですよ。

 フラウラの街は海に面していないので、ここから海岸まで歩く必要があります。ま、そこまで距離はないので問題はありませんけど。


「では、皆さん出発です!」

「レツレツゴーゴー」

「テンション上げ上げ」


 ハンスさんとマルガさんが両手を上げてノッてくれます。何だか楽しい旅になりそうでした。

 二人に加えてご主人様、ジルさん、メイジーさん、アリシアさん、スノウさん。それなりの戦力で魔王さんへと突っ込みます。

 本当はシルバードさんにも協力して欲しかったんですが、断られてしまいました。

 彼曰く、『年寄りが出しゃばっても仕方ねえだろ』との事です。義足の老人に無茶はさせれませんし、これは仕方ないですね。


 出発を見送るのは冒険者ギルドのマーシュさん。それにアロンソさん、エラさん、ハイリンヒ王子でした。

 商業ギルドのシャイロックさんとアステリさんは忙しいようですね。街の復興もありますし、技術職は引っ張りだこでしょう。

 勿論、現聖国のトップであるハイリンヒ王子も忙しいはず。ですが、彼には私達を見送る責任がありました。


「カルポス聖国の代表として、君たちの勝利を祈るよ。聖アウトリウスの加護あれ」

「大丈夫です。ハイリンヒ王子はシルバードさんやシャイロックさんと計画を進めてください」


 本当の敵はベリアル卿です。この世界の権力者は、私たちが戦っている間に準備をする必要がありました。

 完璧な役割分担ですよ。ジェスターである私は、こうやって言葉巧みに政治へと介入してこそですね。


 今のところは問題なく事が進んでいます。一番気がかりなのは、突如介入したルシファーさんたち悪魔でした。

 メイジーさんはアスタロトさんと戦闘したとき、不穏な質問を受けた様子。それは、一番の転生者であるモーノさんの事でした。


「あのアスタロトって奴、モーノ様を探していたわ。多分、別れて転生者と戦うって段取りだったと思う……」

「でも、居ないんじゃしょうがないですよね」

「私……モーノ様が街を出たことを話しちゃった。そしたらあいつ、すぐに探しに行っちゃったの。どうしよう……モーノ様、チートが使えなのに……」


 後悔し、今にも項垂れそうなメイジーさん。布とスカートで隠れていますが、たぶん耳も尻尾も倒れているでしょう。

 そんなにしょんぼりしても仕方ないですよ。あの場は緊急時です。ベルゼブブさんクラスの実力者相手に、上手く起点を効かせたと思いますよ。


「話さなければ、重症だったスノウさんは殺されていました。モーノさんは腐っても転生者です! きっと上手くやりますよ!」

「僕も同意だよ。モーノくんもそれを望んだはずだ」


 これから行くのは敵の縄張りです。気持ちが沈んでいれば、そこからミスが生まれる危険があるでしょう。

 だから、メイジーさんには元気出してもらいたいですね。モーノさんなら本当に心配はないと思いますよー。

 あの最強チートの自惚れくんが、ボロボロに負ける姿なんて想像できませんから。









 広い広い平原を進み、海岸へと到着します。晴天かつ波は穏やか、絶好の船出日和でした。

 ジルさんはアイテムボックスを開き、そこから一隻の帆船を海に浮かべました。作りはシンプルですが大きさはそれなり、大人数でも運べるほどの代物でした。

 これはチートでも時間かかりますよね……ちょっと凝り過ぎでは?


「ジルさん、ちょっと移動できる程で良かったのでは……」

「どうせ作るなら、きっちりやりたいからね。魔石で動くから風に頼らなくて良いんだ。頑丈さはお墨付きで……」


 面倒なので解説はスルー。ですが、真面目なアリシアさんが引っ掛かって、長話に付き合う羽目になった様子。

 同情はしますが、巻き込まれるのは嫌なので先に船へと上がります。流石は知の転生者による作り、細かいところまで妥協のない感じですね。

 こういうこだわりが無ければ、出発を早めれたような……でもでも、その場合はフラウラが守れませんでした。むしろ遅れて正解でしょう。


「私たちって、ラッキーで前に進めているんですかねー」

「運も要素ではある。だが、それは相手も同じであり、逆に運悪く災に見舞われることもある。『たら』『れば』の話をすれば、きりがないだろう」

「ですね」


 ご主人様に論破されます。

 こういう偶然の重なりとかも、運命で決まってるんですかね。未来や過去、今でもある世界はすべて必然なんでしょうか。

 もし、主という存在がそれなら、何も楽しくなさそうです。怒りも悲しみも、全て知っているのですから当然ありません。

 存在そのものが全てであり、同時に虚無ですか。そんな概念、私は絶対になりたくありませんね。


 神様の話で思い出しましたが、バアル様はどこに消えたのでしょうか? 神出鬼没ですし、飛べるので合流出来るとは思いますが……

 彼女は生誕の女神、異世界転生を実行できる優秀な神様です。

 ですが、今の幼女な見た目からは想像できませんよねー。軽くあしらったアリーさんの気持ちも分かって……


「おーい! 待ってくれー!」


 噂をすれば何とやら。元盗賊のアリーさん、どうやらギリギリで見送りに来たようです。

 ですが、何か様子がおかしいですね。彼は大きなターバンの下から決意の眼差しを向け、私たちに向かって叫びました。


「俺も……俺も乗せてくれ! 滅茶苦茶怖いし……弱いから足手まといになるってのは分かってる……! だけど、それでも行かなきゃならないんだ!」


 正直、意図が分かりませんでした。

 命を救った借りなら王都の一件で返してもらっています。彼が同行する義理はないと言っていいでしょう。

 それに自分で言っているように、アリーさんはあまり強くありません。今、この船に乗っているメンバーは相当な実力者ですが、彼は一般兵に毛が生えた程度でした。

 ですが、だからこそ分かります。この中で最も死のリスクが高いにもかかわらず、ここに来た覚悟は本物だと……


「これって運命って奴なのかな……テトラやモーノに出会ったのにも、何か意味があるんじゃないかって感じたんだ。俺だって、チート異世界転生者の仲間なんだよ!」

「テトラちゃんどうする? 君が最初にアリーさんを巻き込んだんだし、決めて良いんじゃない?」


 って、アリシアさんに無茶ぶりされちゃいました。

 えー、そりゃ協力してくれるのは嬉しいですけども。死なれるのは物凄く嫌なんですよね……

 ですが、アリーさんは揺らがない決意の眼をしています。陸から船上の私たちを見上げ、ただ許可を待っていました。

 こんなのノーなんて言えませんよ! 物凄く心配ですが、運命を信じて許可しちゃいます!


「はい! では、ご一緒しましょう! アリーさんの魔法は便利です」

「あ……ありがとう! 俺、頑張るよ!」


 そんなわけで、ターバン衣装のカナンの民。アリーさんがパーティーインしました。

 彼の乗船と同時に、マストに大きな帆が張られます。最も、船の原動力は魔石なので操作はいりません。つまり、帆もマストも唯の飾りでした。

 ですが、モーターボートとかより雰囲気は出ます。まあ、その速さはとても帆船ではありませんけどね。

 これなら、予想よりも早く魔王さんの城に付きそうです。海を進めばクレアス国の魔族とも接触しませんし、面倒なことは一気に省けるでしょう。


「一つ問題があるとすれば……」

「魔王軍からの襲撃だろう。幹部二人を撃破された以上、彼らも侵入を無視できないはずだ」

「あーん、ご主人様セリフ取らないでください!」


 えーっと、幹部って八人でしたよね。ルシファーさんたちを除けばあと五人ですか。

 流石にジルさんもいる今の戦力なら負けねーですよ。ただ一人、東の民である聖ビルガメス信者、ラジアン・マハラージャさんは危険です。

 彼はジンと呼ばれる精霊を扱い、ペンタクルさんから最も信頼されていましたね。転生者に対抗できる唯一人の幹部と言っていいでしょう。

 まあ、遊撃なら絶対出てくるでしょうね。海上の戦いになるので、やっぱり油断できませんでした。











 流石はジルさんの作った船だけあって航海は順調に進みます。

 日が沈む前に国境を越え、クレアス国領土へと入りました。徒歩の二倍以上のスピードですか、やっぱり海路で行くのは正解でしたね。

 魔王さんの城は孤島にあります。このまま、本土を素通りして直接本拠地に殴り込みますよ!


「何事もなく城に行けそうですね」

「いや、どうもそうはいかないみたいだ。海中にモンスターの反応あり、魔避けのお守りが効かないからね。高確率で使役獣だよ」


 なんか、鏡のような自作アイテムで敵の反応を調べるジルさん。本当にこの人は何でもありですね……

 ですが、そのチート錬金術師の使ったモンスター避けアイテムを回避する敵。彼の言うように使役獣なのは間違いないでしょう。

 各々、戦闘準備をします。アリシアさんとハンスさんは剣を構え、マルガさんはステッキを取り出しました。


「ご主人たま、キルキルコロコロオッケー?」

「攻撃意思があればね。でも、モンスターだけだよ。人は生け捕りにする」


 眼鏡を上げ、優しいけど物騒なことを言うジルさん。戦闘特化ではありませんが、やっぱり転生者の心強さは半端ねーですよ!

 やがて、さっきまで晴天だったのにも関わらず、周囲を真っ白い霧が覆います。モンスターに囲まれた状態でこの悪天候。明らかに偶然とは思えません。

 加えて、これらが敵の攻撃と決定付けるものが聞こえてきます。私たちは、以前この魔法の使用者と接触していました。


「青い大きな海ー。キラキラ輝くサンゴの庭ー」

「このアイドルっぽい歌……間違いなく人魚のセイレンさんです。あんまり聞いちゃダメですよ!」


 すぐにジルさんが察し、音魔法対策のお守りを私たちに配りました。これで、歌に魅了されて骨抜きになる事はないでしょう。

 ですが、この歌の効果は魅了でけではないようです。たぶん、この霧もセイレンさんの魔法で間違いありません。それに、海中のモンスターも操作できるみたいでした。

 鏡を見るジルさんがすぐに攻撃を予測します。敵の動きはレーダーで丸見えでした。


「海中から鮫型モンスター! 船上に向かって飛び掛かってくるよ!」

「任せて!」


 予測通り、一体の鮫型モンスターが海面から飛び出します。どうやら、船上の私たちを食べようとしているようですが相手が悪かったですね!

 メイジーさんが瞬時に反応し、鋭い爪でサクッとモンスターを切り裂きます。続いて、二体目と三体目が飛び掛かってきますが、アリシアさんとハンスさんが真っ二つに切断しました。


 強い! お話になりません!

 アリーさんが滅茶苦茶ビビってますが、今のところは大丈夫でしょう。

 四体目、先ほどの三体より巨大な鮫が突っ込んできますが、スノウさんの毒リンゴ爆弾でワンパンします。こんな小細工なんて私たちに通用しませんよ!

 セイレンさん、私たちは滅茶苦茶本気なんです。平和を歌うなら、貴方もそれ相応の覚悟を見せなきゃダメですから!



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