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166 後々に繋がる計画です


 ルシファーさんが降臨した後、私はバタンとぶっ倒れました。

 覚醒の力をだいぶ操作し、本来の姿に戻れたんですけどね。それでも、バアル様が作った人型の器では限界があるようでした。

 ベースはあくまでも人間なんです。いくら覚醒しようと、降霊の糸で無理やり引っ張ればこうなるのも当然でしょう。


 誰かに運ばれたのか、私はご主人様の家にある自分のベッドで目覚めます。

 慣れもあってか、状況は瞬時に理解しました。まあ、寝ていたのは半日ぐらいでしょうかね。

 ここまでは想定内でしたが、それとは別に想定外な事が一つ。それは、隣のソファーで包帯に巻かれたスノウさんが横たわっていた事です。


「スノウさんどうしたんですか!?」

「だ……大丈夫ですよー。ちょっと怪我しただけです」


 ちょっとじゃねーですって! ミイラみたいに包帯でグルグル巻きじゃないですか! ドワーフさんにやられてしまったのでしょうか……?

 いえ、スノウさんはモーノパーティーで頭一つ分上の実力です。この世界でも上位の力を持っていて、ゴーレムにやられる事なんてありえません。

 動揺していると、彼女の主治医であるジルさんが会話に入ります。


「アスタロトって悪魔と交戦したらしくてね。身体の大半をズタズタにやられていたよ。ゾンビじゃなかったら間違いなく死んでいただろうね……」

「ベルゼブブさんと二手に別れていましたか。不覚でしたね……」


 まさか、地獄の第三位であるアスタロトさんも出ていましたか……

 もっとも私たちも交戦していましたし、彼女たちを助けに行く余裕はありませんでした。スノウさんが体を張って粘っていてくれたからこそ、この街を守れたんです。

 そうです……! スノウさんがこんなにボロボロなら、当然メイジーさんとアリシアさんも戦っているはず。二人は大丈夫なんですか!


「あの、メイジーさんとアリシアさんは……」

「スノウくんが無茶をしたおかげで無事だよ。かなり痛ぶられたみたいだけど、回復薬でことは済んだね」

「良かった……」


 ジルさんには迷惑かけてばかりですね。どうやら、今回の後始末を一手に引き受けているようでした。

 流石にトリシュさんの治癒魔法には劣りますが、彼の回復薬は超万能です。加えて、死人の治療を行えるのはヒーラーには出来ない事でしょう。

 ですが、流石に無理が祟りましたか。ジルさんは頭を抑えつつ、ふらりと体制を崩します。


「じゃあ、みんな安泰だし、僕もそろそろ倒れる事にするよ……流石に今回は疲れたよ……」

「ちょ……ジルさん!」


 私が寝ているベッドにインする少年。一応お兄さんですが、女顔で童顔なので弟みたいですねー。

 ジルさんは私と同じ魂を持っています。同じベッドで一夜を過ごすには、言い表せない抵抗感がありました。

 なので、筋肉痛が痛む身体を引きずり、ベッドから降ります。そして、今回のMVPである錬金術師さんに布団をかけ、部屋を後にしました。










 それにしても、どうしていきなり堕天使さんたちに襲われたのでしょうか。ベルゼブブさんが言うには、ベリアル卿を倒す転生者はペンタクルさんが相応しいから協力したらしいですが……

 言い出しっぺはルシファーさんで間違いありません。ベルゼブブさんとアスタロトさんはそれに従ったという感じでしょうか。

 心の異世界転生者である私が感じるに、彼らの行動理念は興味だと思います。

 大いなる主と接触し、大天使からの祝福を受けた私たちに関わりたい。その正体を突き詰めたい。そういった意思を感じました。


「でもでも、私たち何にも知りませんし……すっげえ巻き込まれた……」

「まあ、それも世界の望む理と諦めるんだね」


 突然、街を歩いていると誰かが独り言に入ってきます。

 茶髪で女顔、マントを羽織って大きなマスケット帽をかぶっている青年。シャルル・ヘモナスさんこと、大天使ウリエルさんでした。

 こ……こんなところで大天使さまがフラフラしていて良いんですか! 私はオーバーリアクションでビックリします。


「なっ……シャルルさん、普通に出てきて良いんですか!?」

「僕は自由に聖剣隊のシャルルに戻れるからね。これもその為の姿だよ」


 まあ、天使や悪魔に姿形はありませんからね。人に紛れるための姿ですから、普通に出てきても問題ないのはその通りです。

 シャルルさんは先日、この街を襲う大岩をぶっ壊した後、ルシファーさんを追ってどこかに消えてしまいました。あの後、彼を捕まえることは出来たんでしょうかねー。

 まあ、無理でしょうね。ですが、一応聞いてみましょう。


「それで、ルシファーさんは捕まったんですか?」

「君、知ってて聞いてるよね? 残念だけど逃げられたよ。君が思った通りにね」


 うっ……別に嫌味ではなく、コミュニケーションのために聞いたんですが……

 他の大天使の皆さんとは仲良くなったんですが、シャルルさんとはずっとギスギスしていますね。彼は悪い人ではないと思いますが、良い人でもないので接するのが難しいです。

 ですが、良くしてもらったロバートさんは謹慎中。ここは彼と仲良くならなければなりません!

 そんなわけで会話を続行です。丁度、ルシファーさんたちのことで聞きたいこともありますしね。


「あの、どうして急に悪魔さんたちが攻撃に出たんですか?」

「君も察している通り、ラファエルが四大天使の席から下ろされ、代わりにあのルシファーが戻されたのさ。どうやら、神から直接お告げを聞いたらしい」


 うげえ、また大いなる主の意思ってやつですか。ベリアル卿を止めたいのなら、余計なことをしてほしくないんですけどねー。

 ですがまあ、天界戦争が終わって天使と悪魔の衝突が終わった今。空いた席に悪魔のトップを置くのは悪くない判断ですか。

 どうやら、ルシファーさんにも考えがあるようですが、現状では行動が読めませんね。この事態に対し、ピーターさんやゲルダさんはどう思っているのでしょう。


「それで、他の大天使の皆さんはどんな感じですか?」

「ミカエルは兄貴との再会で盛り上がってるよ。ガブリエルは主の意思は絶対の一点張りで話にならない。結局、僕だけ問題児扱いさ」

「あはは……」


 不貞腐れるような態度を取り、シャルルさんはそっぽを向きます。何だか、反抗期の子供みたいな人ですね……

 どうやら、彼の行動は独断も混ざっているようです。大天使の皆さんも一枚岩ではなく、その中でも彼はルシファーさんに敵意を持っていました。


「僕だって神は信じてるよ。だけど、ラファエルの席にあいつが付くのは気に入らない。だから、僕は君たちに肩入れすることに決めた。場合によっては、冥界に落ちることだって覚悟して……」

「それはダメです」


 奥歯を噛みしめながら、思いを打ち明ける大天使さま。そんな彼に向かって、私ははっきりと言いました。


「それはダメですよシャルルさん……」

「君は本当におせっかい焼きだね。だけど、そんな綺麗事がどこまで続くかな」


 興味が無さそうな態度を取りながら、横目で私を見るシャルルさん。

 彼とはそこまで親しくはありませんが、またロバートさんのようになっちゃうのは嫌です。私が足を引っ張って、シャルルさんが冥界に捕縛されるなんて考えたくありません。

 たぶん、主は私たちだけじゃなくて大天使さんたちにも試練を与えています。これは人にとっても、天使や悪魔にとっても重要なことではないでしょうか。


 魔王の城、そこで大きな変動が起きる……

 そんな気がしてなりません。


 シャルルさんは帽子のつばを掴み、私に背を向けます。そして、別れ際に言葉を残していきました。 


「良いよ。僕が君の守護天使になる。ルシファーの好きにはさせない……」


 一方的な協力の約束です。対悪魔なら、主との約束は破られないでしょう。

 正直、滅茶苦茶心強いです。モーノさんがチートを失い、悪魔王が敵回っている現状。大天使さまの協力はまさに天からの恵みと言えるでしょう。

 ですが、当然彼に頼ってばかりはいられません。魔王軍幹部はあと五人。ペンタクルさん以外も警戒しなくてはなりませんね。








 街の様子を見ていると、復興作業に協力するハイリンヒ王子とエラさんに出会います。

 どうやら、ゴーレムの攻撃でいくつかの家が壊されたようで、それをドワーフさんたちに直させているようでした。

 まあ、壊した本人に復旧をやらせるのは当然ですか。聖国とドワーフとの国交改善に必要ですが、モニア姫は納得したんですかね。


「ハイリンヒ王子ー。これ、モニア姫の指示でやってるんですか?」

「まさか、彼女は捕虜だよ。兵士に囲まれて更生プログラムに励んでるよ」


 うわ、モニア姫は少年院コースですか……まあ、人格的に厄介な子でしたから仕方ありませんね。

 あのお転婆な彼女にとっては地獄かもしれませんが、これでも優しい処分だと思います。彼女一人の判断によって、ドワーフ全体が戦争へと動き出してしまったんですから。

 ですが、ハイリンヒ王子とエラさんは庇います。モニア姫一人のせいじゃない。そのことをよく分かっているようでした。


「どうか、彼女を責めないでほしい。ドワーフたちは千年に一度の女性を神格化し、彼女に偏った教育を施した。自分たちも知らず知らずのうちに、一人の独裁者を作り上げてしまったんだ」

「元々、ドワーフさんは工芸と採掘を得意とした種族です。私たち聖国が追い込んだから、武器作りを余儀なくされてしまったんです」


 私たちの世界でもありそうな話です。これはドワーフという種族全体の問題。そして、そこまで彼らを追い込んだカルポス聖国の責任でもありました。

 私はモニアさん誕生の裏にベリアル卿が動いていたと考えます。恐らく、魔王軍幹部八人の成り立ち全てに、あの悪魔が関与していたんじゃないでしょうか。

 それほど、私は彼を信用していません。彼はそういう悪魔なんです。


「全部ベリアル卿の仕業。そう言い切るのは難しいかもしれませんが、それでも私は彼を疑っています」

「僕も同意するよ。たとえあいつが戻ってきても、この国の主導は絶対に渡さない……!」


 あ、そうそう! その話でした。

 私、いろいろ考えてたら面白いことを閃いたんですよ。ベリアル卿がこの国にノコノコ戻ってきたとき、そこで追い込むための超秘策です!

 たぶんターリア姫が目覚め、ほとぼりが冷めたタイミングで彼は動くでしょう。また出し抜かれるわけにはいきませんから、今度は事前に攻撃準備をしておきます!


「ハイリンヒ王子、エラさん、ちょっと聞いてください。戦闘ではなく、心で私はベリアル卿を懲らしめたいんですよ。その為には聖国の象徴である貴方たちの力が必要です!」


 勿論、助けたターリア姫の力も必要です。いえいえ、もっと全体の! 種族の壁を越え、あらゆる立場の人が手を貸してくれるのが望ましい!

 ですが、それに加えてベリアル卿が気付かないように密に動きたいですね。私のことを信用してくれる。私が信用している人を集めてドカン! とやってやるんです!


 今まで培ったこの世界の人たちとの絆!

 それが巨悪を倒す力になるんです!


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