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164 ☆ 今ここに伝説が生まれます! ☆


 限界まで速度を上げ、私を振り落とそうとするベルゼブブさん。何とか粘りますが、空圧によってダメージは蓄積されていきます。

 流星のコッペリアは相手に同調する力を持っていますが、身体能力が上昇するわけじゃありません。ご主人様の操作による強化はありますが、流石にこの速度はきっついですね。

 今、私が粘れているのは強メンタルによる根性によるもの。能力的には圧倒的に劣っているので、振り落とされるのは時間の問題でしょう。

 ですが、それよりも先に相手が痺れを切らします。ベルゼブブさんは身体から毛虫のような針をはやし、私を貫こうと攻撃してきました。


「別の手段で攻撃に出ましたね。根競べは私の勝利です!」

「分かりませんね。なぜ貴方はそうまでして私に拘る?」


 すぐに手を放し、毒針を鮮やかに回避します。そして、空中で星を蹴って彼の前に留まりました。

 私は空を飛ぶ能力を持っていません。流星のコッペリアの力で星のエフェクトを浮かべ、それを蹴って高度を維持しているだけです。当然、敵はその隙を狙ってくるでしょう。

 彼は羽から鱗粉を出し、それを私に向かって放ちます。毒かと思いましたが違いますね。鱗粉は私に近づいた瞬間、火花を散らしてドン! っと爆発していきました。

 星を蹴って移動し、すぐに攻撃を回避! ですが爆発は次から次に起き、跳んで逃げるので精一杯です。それでも、投げ掛けられた質問にはちゃんと答えますとも。


「みんな仲良く、誰も傷つけない。それって呆れるほどの綺麗ごとなんですよ。誰もそんな夢物語、信じませんし期待もしないでしょう」

「よく分かっていますね。それこそが現実です」


 ただ星を蹴って高速移動し、鱗粉による爆発を避けていきます。私の能力が同調である以上、こちらがスタミナ切れするまで永遠に追いかけっこが続きますよ。

 ま、そこまで粘り続けるつもりはありません。会話の方は進んでますからねー。私の本職で勝負を決めるつもりです。

 ベルゼブブさんは研究熱心で理屈屋。こちらが理をもって接すれば必ず答えてくれる!


「ですが、私の夢を信じてくれる人がいます。それは結果を出したから……結果で証明しなくちゃ、誰も私の言葉に耳を貸そうとなんてしない! だから、負けません! 諦めません! ここで貴方を私のキャリアに変えます!」

「やはり貴方は見かけと違って現実主義者ですか。確かに、邪悪な悪魔と心を通じ合えたのなら、何物にも代えられないキャリアとなる。実に理にかなっています」


 頭悪そうな道化衣装を身に纏っていますが、そこそこ冴えてるつもりです。頭の中はお花畑ですが、お花畑を作るための算段はちゃんと組み立てますよ。

 気持ちが高ぶっています。楽しくて楽しくて仕方ないですが、ここで引っ張られるわけにはいきません!

 私が全ての爆発を回避した時、ベルゼブブさんは再び笑みを見せます。そして、好敵手と認めたうえで一つの提案を出しました。


「良いでしょう! では、この私に決定的な一撃を与えた場合。素直に貴方たちを認め、金輪際邪魔をすることはないと約束しましょう」

「聞きましたからね! 絶対ですからね!」

「悪魔は嘘をつきますが契約やくそくは守ります」


 キター! 長かったですが、ようやく聞きたかった言葉が出ました!

 ベルゼブブさんは既に私のことを評価し、見逃していいと考えています。ですが、悪魔としてのプライドがあって素直に認められないのでしょう。

 だから結果で示す! これで、ゴールのない戦いに明確な目標が出来ました。

 私は空中で一回転し、そのまま地上へと落下します。もう、同調能力で粘る必要はありませんね。


「じゃあ、もう遠慮なくいきますよー☆」

「遠慮……?」


 遠慮と言っても、ナメプしていたわけではありません。ただ、総攻撃に入る前に明確な勝利基準を提示してもらいたかったんです。

 結果は成功。私は人を傷つけない意思がありますが、他の人はどうでしょうかねー? 私はニヤニヤ笑いながら地上へと急降下していきました。

 深読みしたのでしょう。ベルゼブブさんはその行動を不気味に思い、一緒に急降下して追撃を狙います。ですがもう、手遅れなんですよねー。


「貴方こそ、どうして私に拘っちゃったんでしょうか? 私が貴方に拘ったから、貴方もそんな私に興味が出てしまいました。自分の考えが正しいと得心するまで熱慮する質。探偵のサガですねー」

「どういう意味ですか……?」

「ターゲットへの追及は良いですけど、多人数における実戦でそれをやりますか。無駄な攻撃も、無茶な接近も、全ては私に釘付けにする策だったのなら?」


 ベルゼブブさんは頭が良いです。頭がいいから、私の言葉が何を意味するのか瞬時に判断します。

 ありとあらゆる事柄が頭の中で廻ったことでしょう。今、自分はテトラ・ゾケルの策に乗せられている。あの余裕は策に自信があるからに違いない。

 とにかく、たくさんたくさんの情報です。頭がいいから、先の先まで考えた結果一つの結論に達するでしょうね。


 テトラに気を取られすぎた。

 地上でジルが万全の体制を整えていると!


「なるほど……良い策ですがそれを口にしたのは……」

「悪手ですか? ちなみにもう手遅れです☆」


 ベルゼブブさんの言葉にかぶせて言った瞬間。地上から色取り取りの魔法弾が掃射されます。

 狙いはもちろん私たちでした。


 ジルさんの発明は理論上最強です。ですが、それを実現するには時間と労力、材料が必要なんですよね。

 だから、初めから私は注目の的になるつもりでした。時間を稼ぐのと同調能力は相性がいいですし、何より目立つ動きで人を引き付けるのは大得意です!

 私は転生した日から変わりませんよ。あの時だって、バアルさまや転生者たちの注意を惹いたんですから!


 ジルさんが作ったのは大量の対空砲! 労力はハンスさんとマルガさんがいますし、材料はドワーフさんたちが乗っていたゴーレムがあります。

 そして、私が直前まで囮になっていたことで、この計画は実行できました。


「まさか……! 仲間ごと攻撃を……!」

「私の同調能力は対象の心や行動を感覚で判断します。今、同調しているのはジルさんですよ!」


 私は虹色の弾丸を全て回避します。一方、巨大な蠅となっているベルゼブブさんは攻撃を真面に受けていきました。

 一発一発が全部バラバラの属性です。いくら悪魔さんの装甲が硬くても、滅茶苦茶な攻撃を受ければ身体が付いていけないでしょう。そう、全属性こそが最強の属性なんです!

 さてさて、そんな事をしている間にも地上に到着! 私はアクロバティックかつ華麗に着地しますが、ベルゼブブさんは地面へと叩きつけられます。流石にあの数の魔法弾は効いたようですね!


「くっ……! いったい、いつ計画を……!」

「管轄が違う故、お前は私のことをよく知らないだろう。私の専門は戦闘ではなく、偵察や情報処理にある。位置さえ掴めば糸一本で交信可能だ」


 マントを翻し、ご主人様がかっこ良く語ります。実は計画について、何度かやり取りしたんですよねー。悪魔ネビロスは地上界の監視人ですから、契約した私との通信は容易でした。

 あとは異世界転生者としての能力で、ジルさんたちと心が繋がっています! 感覚で大体の動きとかビンビン感じちゃうんですよ。やっぱり便利なチートですね。

 流石のベルゼブブさんも焦り、すぐに空中へ逃れようとします。ですが、ジルさんが眼鏡をおでこに上げたのと同時に、白い鎖が悪魔を拘束しました。


「次から次へと……! 魔方陣まで用意していましたか!」

「ああ、着地地点は分かっていたからな。先に計算式を刻ませてもらったぜェ……」


 ジルさんの瞳には青いスペードの紋章が浮かんでいます。実際、覚醒状態にならなければ、ここまでの準備は不可能でした。

 ぶっちゃけ、彼が宝玉のハイドさんになったのは偶然です。私と違って覚醒回数が少ないですし、制御の練習もしてないので辛いでしょう。

 ですが、結果として上手く行きました。例えラッキーでも私たちは賭けに勝ったんです!

 スペードのエフェクトを操作し、それをペンのようにして魔法式を刻む兄様。怒りの感情に引っ張られないよう、必死に操作しているのが分かりました。


「魔法式だけじゃなく、天界流の聖文書を刻んでやる。てめえら悪魔の身には沁みるだろうが!」

「弱点もサーチ済みですか……確かに天界術は私たち悪魔に有効です……だが……!」


 ハイドお兄様は知の異世界転生者です。天使さんたちの知識すらも彼は持っていました。

 数式と謎言語による文字。それらが巨大な魔方陣となって、ベルゼブブさんを雁字搦めにします。ですが相手は地獄の第二位、これで終わるはずがありません。

 彼は何らかの術を使い、ハイドお兄様の足元に二匹の巨大ムカデを出現させます。やがて、その二匹の虫は彼に巻き付き、鋭い牙で首元に噛みつきました。


「く……クソがァ!」

「猛毒ですよ……魔方陣の構築を放棄し、解毒剤を錬成することをお勧めします……!」

「人の心配よりてめえの心配したらどうだ……あぁん!? そのまま続行に決まってるだろうが……!」


 これにはベルゼブブさんも驚きます。同時に、拘束を解く手立てもなくなりました。

 すぐにハンスさんとマルガさんが走り、ハイドお兄様に巻き付く二匹のムカデをぶっ飛ばします。ですが、既に毒が回っているのでどうにも出来ません。

 たぶん、あの毒は普通じゃないでしょう。転生者としての力で耐えていますが、それも時間の問題です。

 でも、私は助けませんよ! だって、これは最初ので最後のチャンスですから!


 次で決めます!


「ベルゼブブさん行きますよ! 貴方の納得する決定的な一撃を飾ります!」

「貴方は絶対に人を傷つけない意思を持っています。それは悪魔とて例外ではないはず! この場面でどう出るつもりですか!」

「それはお楽しみですよ!」


 ナイフを取り出し、完全に拘束されたベルゼブブさんに特攻します。

 勿論、傷つけない意思以前に、あの硬い装甲にナイフは効きません。何度も言いますが、流星のコッペリアもご主人様の操作も攻撃力は上がらないのです!

 では、どうするのか? 簡単です! 何も考えずに一撃を加えればいいんですよ!

 私は星を蹴ってベルゼブブさんの頭上に飛びます。そして、そこから思いっきりナイフを振り落としました。


「ぶちかませコッペリア……!」

「お姉たんいけー!」

「頼んだよテトラ!」

「テトラ殿!」


 ハイドお兄様、ハンスさんとマルガさん、ハイリンヒ王子、アロンソさん。五人の言葉を受け、私はナイフをベルゼブブさんの頭部に叩きつけます。

 ですが、頑丈な彼の身体には傷一つ付きません。攻撃は簡単に弾かれてしまいました。

 ハイドさんは限界となってその場に倒れます。敵の拘束は解け、一見すると全て無駄だと思えるでしょう。ですが、これで良いんです。


「攻撃が効かないのなら、傷つけたことにカウントしませんよね?」

「ええ、ですが貴方は私を倒すことは出来なかった」

「……え? 倒すなんて言いました? 私は『決定的』な一撃を与えたつもりでしたけど?」


 勝ち誇っていたベルゼブブさん。ですが、私がそう返したのと同時に、一気に表情が崩れました。

 巨大な蠅の姿だった彼の姿は元の人に戻り、その場に尻もちをつきます。どうやら、あの巨大な姿を維持するのは限界のようで、これ以上の戦いは不可能でした。

 ご主人様から聞いていますよ。悪魔に形などはなく、人の世では人の姿を取ります。あの巨大な蠅はイメージで、本当の姿というわけではありません。


「貴方は考えすぎる傾向があります。私から攻撃を受けた時、『もしこの攻撃が他の転生者なら無事では済まなかった』と考えてしまったんですよね? だから、動揺して変身が維持できなくなりました。これは決定的な一撃と見なして良いのではないでしょうか?」

「いえ、屁理屈でしょうそれは……!」

「あははー、屁理屈も理屈の内ですよ。それとも、どちらが正しいのか論議での勝負でもしますか?」


 私の提案に対し、ベルゼブブさんは大きくため息をつきます。そして、パイプを取り出してそれに火をつけてしまいました。


「はあ……心が折れましたよ。悔しいですが見事です」


 これにて、フラウラの街での戦いは終わりを告げます。そして、ここに悪魔に認められたという伝説誕生しました!

 呆れられた感はありますが、ベルゼブブさんも笑っているので良しとしましょう。やっぱり私はエンターテイナー、暴力で解決するのは趣味じゃありません。

 流星のコッペリアの力、それが作用して彼の心を変えたのでしょうか? 分かりませんが、とにもかくにもショーダウンです!


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