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163 ☆ 聖書だって書き換えます! ☆


 大半の魔石を砕かれ、機能停止するゴーレムさん。ですが、宿った魂は消えていないようです。

 人より遥かに巨大な兵器、そんな彼に寄り添うモニア姫。彼女はうなだれながら、「ごめんね……ごめんね……」と謝り続けます。今度こそ本当にドワーフたちは止まったようですね。

 ベルゼブブさんは手を止め、観察するかのように彼らを見ます。追い打ちをする気はないようでした。


「空気を変えましたか。見事な計算です」

「そんな計算無理ですよ。私は神様じゃありません」

「私への攻撃は無意味と知っていながら、貴方は何度も接近を試みました。意味のない行動を取るほど愚かではないでしょう」

「そう思うなら良いんじゃないですかー」


 ジルさんから貰った毒消しを飲み干し、私は笑顔で答えます。

 流石に鋭いですね。ベルゼブブさん、貴方は完璧ですよ。まるで隙がありません。

 ですが分かります。貴方の心は動いている。私達を認めていいと思い始めている。だから、観察のために手を止めました。

 そして、舞台はまだ終わっていません! ゴーレムさんの奮闘により、更なる機転が訪れます!


「ニャハハ……! まだ吾輩がいるニャア!」

「だいぶ息が上がっているようだね……ご老体には応えるでしょう……?」

「精霊に歳は関係ニャいニャ。貴殿こそ、そろそろ限界のようだニャア……」


 ずっと任せっきりでしたが、いよいよハイリンヒ王子とアイルロスさんの戦いに決着がつきそうです。

 二人の戦いは剣の戦い、私には何がどう凄いのか分かりません。ですが、アイルロスさんの方が身体能力で優っていることは分かっています。何度か目をやっていますが、戦局は全く変わりません。

 息も絶え絶えのハイリンヒ王子。すぐにジルさんがサポートに動きますが、それは止められてしまいます。


「手を出さないでくれ! これは僕の戦いだ……!」


 変化が解け、カエルから人の姿に戻る王子様。体力は限界のようですし、身体はズタズタに斬りつけられています。普段の小奇麗な彼とは違いすぎて、とても見ていられません。

 それでも、王子は一対一でアイルロスさんを倒すつもりでしょう。攻撃を受け流しては下がり、剣を地面にさして無理やり身体を起こす。

 こんな状況ではとても勝機が見えません。当然、ジルさんは食い下がります。


「王子……君がここで死んだら……」

「僕は君たち転生者と比べて弱い……だけど、守られてばかりじゃダメなんだ」


 再びカエルに変化するハイリンヒ王子。そして、最後の力を振り絞り、空高くに跳躍しました。

 上空から振り落とされる剣に対し、アイルロスさんは冷静に対処します。あえて重い一撃を受ける必要はないと考えたのか、飛びのいて簡単に回避してしまいました。

 王子の剣が誰もいない地面に食い込みます。完全なる隙、当然アイルロスさんが見逃すはずがないでしょう。彼は笑みをこぼし、止めとばかりにサーベルを突き出しました。


「これで終わりニャ!」

「ハイリンヒさん……!」


 飛び散る鮮血、それを冷徹に見下すのは悪魔のベルゼブブさん。

 ですが、すぐに彼の表情は驚愕へと変わります。


「これは……」

「二人はクレアス国に行き、魔王を止めてほしい……勝手な頼みだけど、君たちしか出来ない事なんだ……! だからせめて、この街は大丈夫だって胸を張って言いたい……!」


 剣はハイリンヒ王子の胸に食い込んでいました。ですが、心臓にはギリギリ達していません。

 なぜなら、敵のサーベルはカエルの吸盤によって吸着されていたからです。

 王子の右手に張り付き、全く動かせない剣。ずっとこのチャンスを狙い、その為に隙の目立つ攻撃に出たのでしょう。この行動が逆にアイルロスさんの隙になる!

 剣は手元から離れていますが、ハイリンヒ王子の左手はフリー。それを大きく振りかぶり、彼は敵の顔面に力の限り叩きつけました。


「ここで僕が根性見せなきゃ! 転生者が安心できないだろ……!」

「ニャぶっ……!?」


 殴り飛ばされる猫さん。地面に刺さった剣を抜くカエルさん。

 そうです……いくら私達がチートでも、手が届かない場所は守りようがないんです。皆が……この世界の人が立ち向かわなくちゃ、本当の平和なんて訪れません。

 私たちはクレアス国へと向かいます。だから、残った聖国の人たちは王子たちが守らなくちゃいけません。


 彼らの力が国を守るに足り得るか。

 私たちはそれを見極める責任があります。


「アイルロスさん、僕は王になる資格があるか。英雄を間近に見た貴方に、それを見極めてもらいたい……!」

「そうニャ……ザイフリート王! 貴方がそれを望むのなら、吾輩も礼に応えるニャ!」


 抜いたサーベルをアイルロスさんに投げるハイリンヒ王子。そして、手放した自分の剣を拾います。

 ここに、この戦いを邪魔する者は居ません。私もジルさんも納得しましたし、アロンソさんやハンスさんとマルガさんは重傷で動けません。

 ご主人様やベルゼブブさんもこの結果に興味があるようです。悪魔という存在はどこまでも研究熱心ですね。


 今、千年以上の時を超え、カルポス聖国の因縁が幕を閉じます。

 勝つのは王子か、初代王の使い魔か。


 未来か過去か。


「細切れだニャ……! 聖国の歴史はここで終わるニャア!」

「飛び込むと思ったよ。もう、力で応えるのは無しだ」


 手出し無用の一対一、今まで二人はずっと剣を打ち付けあってきました。

 それは力と技術による戦い。ですが、ここに来てハイリンヒ王子は迎え撃つ策を取ります。これはアイルロスさんのペースを乱す作戦でした。

 王になるということは頂点に立つということです。綺麗事ではどうにも出来ない現実があります。


 それを学んだということでしょう。

 ハイリンヒ王子は先ほどの傷に手を当て、その血をアイルロスさんの目に向かって放ちました。


 怯み、鮮血を振り払う猫。

 瞬間、彼のおでこにサーベルの先端が突き付けられます。


「ここまでだ! 僕はこれ以上の戦いを望まない。屈しろ、精霊アイルロス!」

「ザイフリート王……貴方の血筋はどこまでも甘いニャ……」


 内心は認めていたのでしょうか。アイルロスさんは目に涙を浮かべ、マスケット帽を外します。そして、新たな王に向かって深く頭を下げました。

 人間より丈夫な精霊なら、まだまだ戦えたかもしれません。ですが、聖国は一から作り直しになり、王子の実力を認めてしまった今、戦う意味は無くなりました。

 そもそも、元を辿ればベリアル卿がザイフリート王を利用し、自分にとって都合のいい国を作り上げたんです。今を生きる聖国民を滅ぼしたところで意味はないでしょう。


 戦いを終えたハイリンヒ王子は、剣をベルゼブブさんの方へと向けます。ですが、すぐに限界となり、ふらりと体を倒してしまいました。

 すぐに走り出し、彼を受け止めるアロンソさん。おっさんも重症なんですが、主の危機を前にして休んではいられません。


「王子……! よくぞ……よくぞご無事で……!」

「はは……勝てた……鉄の帯が外れたように清々しい気分だ……」


 ハイリンヒ王子は十分すぎるほど頑張りました。当然、アロンソさんも同様です。

 あとは私たちが決着を付けるだけ。今、魔王軍の幹部は二人破れ、あとはぶがいしゃのベルゼブブさんだけでした。

 彼は巨大な蠅の姿のまま、ずっと腕を組んで待っています。たぶん、ここに現れたのも人間と異世界転生者の調査目的。だからこそ、余裕の態度を崩しませんでした。


「そろそろ良いですか? 待ちくたびれましたよ」

「ああ、待たせて悪かったね。続きに入ろうか」


 ジルさんも銃を構え、戦闘再開です。

 虫羽を動かし、空中へと飛び上がるベルゼブブさん。今までも十分に化け物でしたが、ここからが正真正銘の本気ってわけですか。全く笑えないですねー。

 彼は四枚の羽を真横に伸ばし、まるでトンボのような形状に変えます。それにより、先ほどまでとは比べ物にならない速度を生み出しました。


「まったく、戦争のつもりでしたが他が裏切って今は私一人。これでは化け物が一匹、街を荒らしに来たようだ。心を変える力は孤立を作り出す。末恐ろしいご都合主義ですね」

「ご都合主義でも構いません! 貴方とも仲良くなってやります☆」


 高速で繰り出されるカマキリの刃。それら全てを楽々かわしちゃいます。

 貴方との同調は解かれていませんよ。ハイリンヒ王子のおかげでインターバルが入り、体力の方はそこそこ回復したんですよねー。

 それに、私は一人ではありません。ジルさんは二つの魔石を取り出し、氷の獣と雷の鳥へ変換します。そして、二体の錬金獣を前衛に立てつつ攻撃に出ました。


「テトラそのまま続けるんだ! ベルゼブブくんは君の思っている以上に感化されている! そうじゃなきゃ、わざわざハイリンヒ王子の戦いを待ったりしないよ!」

「そのベルゼブブにも聞こえていますが。まあ、否定はしませんよ」


 トンボの次はホタルです。ベルゼブブさんは虫のお尻を向け、そこを光らせて光線を放っていきます。

 私は流星のコッペリア、相手の心と同調してるので軌道は読めます! そこにご主人様の操作が加われば、光による攻撃だって回避できますよ!

 ですが、ジルさんはそう上手くいきません。銃撃による攻撃を中断し、すぐに地面から壁を錬成します。これにより、何とか光線を防いでいきました。


「ジルさん! 大丈夫ですか!」

「そのまま続けろって言ってるだろ! 僕を気に掛けるな!」


 わーってますって、そう怒らないでくださいよー。

 でもまあ、立ち止まれないってのは同感ですね。流星のコッペリアがいつまで持つか分かりませんし、操作しているご主人様もノーリスクではないでしょう。時間との勝負でした。

 じゃ、そろそろ決めちゃいますか。モニアさんもアイルロスさんの方も上手く行きましたし、ご褒美にちょっとイキちゃっても罰は当たらないでしょう!


「みんな仲良く! 明るく楽しく! ご都合主義は世界を変えます!」

「何をするつもりですか……?」


 私は跳んだりしゃがんだりで光線の雨を全て回避します。そして、ベルゼブブさんの背にぴょんと飛び乗ってしまいました。

 こうやって、近づいてお話しするぐらいしか私の攻撃方法ってないですから。無駄な動きは気を引く動き! 気を引けば引くほどに心は繋がる!

 ま、そんなわけで煽っちゃいます。冷静沈着なベルゼブブさんには通用しないと思いますけどね。


「うーん、近くで見ると大きい虫ってグロテスクですねー。でもでも、乗り心地は良い感じですよ!」

「では、スピードをさらに上げましょう」


 煽り耐性高っ! 彼はさらっと飛行スピードを上げ、私を振り落とそうとします。

 また細かい虫に分裂すれば簡単に落とせるんですけど、あくまでも粘りで勝負しようってわけですか。良いでしょう! 貴方のステップに合わせてダンスです!

 トンボの羽で更に天空へと昇り、フラウラ上空で高速移動をするベルゼブブさん。もう、絶対に人が耐えれるようなスピードではありませんが、転生者の私は何とかしがみ付いています!


「まだまだ……まだまだです!」

「もはや、貴方の精神は人の域を超えています。本気で私と通じ合うつもりですか……」

「ご主人様とは出来ました。大天使さんとも上手くやってます。あと少しだって思っていますよ!」


 見た目は大きな蠅ですが、ほんの少しだけ彼が笑ったように感じました。

 悪魔と友達になるのも不可能じゃない! それが出来なくちゃチートを名乗る資格はありません!

 私のご都合主義は聖書だって書き換える! さあ、いよいよクライマックスですよ!


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