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159 色んな王子様です!


 フラウラの街、領主の館前。私、ハイリンヒ王子、アロンソさんはクレアス国の刺客と相対します。

 幹部クラスは二人、ドワーフのモニア姫と精霊のアイルロスさん。彼らに加えて精霊が搭載されたゴーレムが三体、数ではこちらが不利でした。

 アロンソさんはぶっちゃけ戦力としては微妙ですし、救援が欲しいところですね。私はご主人様に仲間を集めるように頼みました。


「ご主人様、アリシアさんたちを呼んでください! この人数差では流石に不利です!」

『承知した。彼方も下級兵との戦闘を行っているだろう故、多くの増援は期待できないだろう』

「数人いれば十分ですよ」


 うーん、やっぱりご主人様と私のタッグは完璧ですね。別行動出来てしかも空から偵察も可能。瞬時にテレパシーで情報交換できますから圧倒的なアドバンテージです。

 出来ればご主人様には前線に出てもらいたくありません。本人が戦っても相当強いですが、それ以上に別行動からの支援が半端ないですから。この形が正解でした。


 現状、私はアロンソさんをサポートしつつ、ゴーレムたちの攻撃を防いでいます。幸い、過去のトラウマからかモニア姫は地上へと降りようとしません。

 彼女を確保しないと戦いは終わりませんが、出来れば参戦してほしくないジレンマ。それなら先に他のゴーレムを倒したいのですが、足腰がしっかりしていて足払いでは転倒しません。

 まあ、今は増援を待てばいいんです。私はアロンソさんを守りつつ、敵の攻撃をナイフでいなしていきました。


「貴方たちは国民全員を皆殺しにするつもりですか? それで恨みを晴らして、脅威を根絶して満足ですか! 変わる可能性を根こそぎ奪うというのなら、このコッペリアが許しません!」

「ピピ……ガー……」


 たじろぐゴーレムの部隊。恐らく、操縦しているドワーフさんは心優しいお爺ちゃんなんでしょう。

 モニア姫という千年に一度の女性。彼女を崇拝し、甘やかし、その結果が無理な進軍というわけですね。

 誰かがトップの言葉に「ノー」と言わなければ、要求はさらに大きくなります。やがて厳格な独裁国家となり、聖国とはまた別の脅威へと変わる事でしょう。

 だから、ここで止める。前回のようにはいきませんよ!


 攻撃の手を緩めるゴーレムたちに対し、モニア姫は大変ご立腹でした。彼女はコックピットから顔を出し、部下たちに向かって叫びます。


「何をやっているんだい! ボクたちドワーフの技術を世界に知らしめるんだ! そのためには、ここで聖国を完膚なきまでにぶっ潰す! あいつらは散々他の国に迷惑をかけた! 誰も気になんてしないよ!」


 鋼鉄の装甲を纏っていますが、ドワーフさんたちが困惑しているのが分かりました。

 元々、採掘や技術職を得意とする種族。戦い慣れてもいませんし、人を殺す覚悟も薄い。武力による進軍なんて望んでいないのでしょう。

 トップと国民とでの大きなズレ。たぶん、放っておいても彼女たちは崩壊する……

 そんな事にも気づかず、モニア姫はかけていたゴーグルを外します。そして、アイルロスさんと戦うハイリンヒ王子を指さしました。


「こーんなかっこ悪いへなちょこカエル! どうせ大した王子でもないよ! 黄金無敵のボクの王子様の方が百倍偉大さ!」

「ケロローン。見てくれじゃないんだ。僕はこの姿になって気づいたからね」


 トリッキーなアイルロスさんの剣技に対し、ハイリンヒ王子の剣技は完成されています。型は美しいですが、流石に実践慣れはしていませんね。

 ですが、彼にはそれをカバーするカエルの跳躍力があります。

 今の彼はまるで獣人のような姿。身体能力も飛躍的に上昇していました。

 跳び上がり、空中からアイルロスさんに突きのラッシュを加えていきます。相手が丈夫な精霊と知ってか、全く容赦はありません。


「ニャニャ!? 以前より更に腕を上げたニャア。しかし、初代聖国王ザイフリート様の足元にも及ばニャい! 全く持って足りないニャ!」

「くっ……」


 ですが、それでもアイルロスさんの方に分があります。やっぱり、呪いで身体を変化させても精霊とは大きな差がありました。

 現状、精霊たちは積極的に聖国とクレアス国の問題に関与していません。ですが、ここでアイルロスさんが功績を立てればどうなるか……

 どちらにしても負けられない。ここで二人の幹部を撃退する必要がありました。

 このままではジリ貧です。時間は十分稼ぎましたし、そろそろ攻めに出ましょうかねー。


「モニアさーん! 部下に戦わせて、自分は安全な場所で高見の見物ですか。ひょっとして怖いんですかねー?」

「見え見えの挑発だね。ボクがそんなのに乗ると思う? 絶対意地でも動かないから!」


 ベリーグッドです。そのまま動かない方がベスト。

 どうやらご主人様の増援ガチャは大成功みたいですね。SSSレアのぶっ壊れがこの場に参入します。

 彼は力勝負が苦手なため、積極的に攻めようとはしません。ため息交じりで道を歩き、やれやれといった様子で私の前に立ちました。


「来ていきなり戦争か。ちょっと僕、心の準備が出来てないんだけど……」

「ジルさん!」


 二番の異世界転生者、ジル・カロルさんの参戦です!

 以前の彼は暴走状態でしたので、通常での戦闘は初見でした。これはお手並み拝見ですね。

 新手が立ちふさがっていることなど構わず、一体のゴーレムが拳を振り落とします。ですが、ジルさんは表情一つ変えず、攻撃を銃の柄によって受けました。

 それにより、敵の拳はピッタリと止まってしまいます。それどころか、バチッと光が走ってその機能は完全に静止してしまいました。


「雑な作りだね。雷の魔石に頼りすぎ。予備の魔石もなし。何より安全装置がないのが気に入らない」

『錬金術でメインコアを分解したようだな。流石は知の異世界転生者か』


 ほえー、ご主人様が言うにはこれも錬金術のようですね。ジルさんの戦闘スタイルはモーノさんやトリシュさんと違います。私と同じスマート派のようでした。

 眼鏡を上げ、宙を見上げる少女のような少年。その視線の先には呆然とするモニア姫の姿がありました。


「そんな……ボクたちドワーフの秘密兵器をあんなに簡単に壊すなんて! 何なんだいこいつは!」

「君が攻撃命令を出したのか。いけない子だ」


 銃を構え、直接トップを狙うジルさん。すぐにその危険性を察知したのか、モニア姫は再びコックピットの中に隠れてしまいました。

 足からジェットを吹かし、黄金のゴーレムは急発進します。ですが逃げるわけではありません。敵は両腕からマシンガンのように魔法弾を放ち、ジルさんの命を狙います。

 すぐに察知し、先ほど機能停止させたゴーレムに触れる少年。彼は錬金術によって機体を盾に再構築し、銃弾全てを防いでしまいました。


「ピピ……ガガッ!?」

「よく狙って……撃つ!」


 攻撃が止まったのを見計らい盾を解除します。そして、小銃から一発の魔法弾を黄金ゴーレムへと放ちました。

 結果、弾は左腕に命中! 錬金術の効果もあるのか、この一発で腕は粉々に分解されます。

 ですが、モニア姫は踏みとどまりました。空中でくるりと一回転し、崩れた左右のバランスを整えます。以前の彼女ならパニックになっていたでしょうね。

 今回の戦いは何かが違う……切り替えたのか、黄金のゴーレムは冷静に右腕での発砲を続けました。


「キュイーン! ガガガー!」

「無駄だよ! 大人しく降りてくるんだ!」


 対し、ジルさんは氷の魔石を取り出し、それを犬型の魔法生物に変えます。やがて、凍てつく息を吐き、敵の弾丸全てを掻き消してしまいました。

 以前見た連金生物より強いですね。恐らく、魔石の方に高度な細工がしてあるのでしょう。

 氷の犬は氷柱を作り出し、モニアさんへと放ちます。それだけではなく、ジルさんの小銃による攻撃も止まりませんでした。

 敵はアクロバット飛行で回避に動きますがそれも時間の問題でしょう。やっぱり強い……強い強い強い! ジルさんがいれば百人力! 負ける気がしねーです!


「私も遊んではいられませんねー」

『残りの部下は二人だ。では、そろそろ攻めに出るとしよう』


 ご主人様の両手操作により、私の動きはさらに加速! 一体はジルさんが停止させましたし、残り二体は私たちで何とかしますよ!

 さーて、先ほどからずっと攻撃を回避していましたが、徐々に敵の動きが鈍っているんですよねー。たぶん、魔石に限界はありますし、中のドワーフさんも消耗しているのでしょう。

 まあ、一緒に粘ってるアロンソさんも消耗しまくってますが無視! さっとジャンプし、ゴーレムの背に乗ります。そして、コックピットを開けて中のおっさんを引っ張り出しちゃいました。


「や……やめとくれ……! ひー……ひー……」

「降参ですか?」

「こ……降参じゃ……! 腰が痛い……」


 やっぱり物凄く消耗しているようで、コックピット内のドワーフさんはへとへとです。

 何か、お爺さんを虐めているみたいで嫌だなあ……まあ、種族が違いますから実際の年齢はよく分かりませんけども。

 私が敵を一人撃退したことにより、負けず嫌いのアロンソさんの心に火が付きます。彼は大声で叫びながら、残る最後のゴーレムさんに突撃しました。


「貴殿らの愚行……気高き心が許さぬ! いざ、正義の槍を受けよ!」

「ビービー……」


 絶対に勝てないと思いましたが、敵さんは物凄く消耗しています。加えて、滅茶苦茶に突き出した槍が偶然にもコアとなっている魔石の付近にヒット! 衝撃でぶっ壊してしまいました。

 これにより、三体のゴーレムは全員撃破。まさか、最後の一体をアロンソさんが倒すなんて……

 何という悪運ですか。ただのおっさんかと思っていましたが、もしかして滅茶苦茶凄いのでは……


「アロンソさんって本当は凄い人……?」

「ハーハハッ! 事実は真実の敵よ!」


 ゴーレムを倒していたのと同時に、宿っていた土の精霊が外に飛び出ます。そして、ドワーフさんたちを見捨てて地面へと潜っていきました。

 まあ、精霊さんなんてこんなもんですよね。これで、残る敵はモニア姫とアイルロスさんだけになりました。

 ジルさんは圧倒的な力でモニアさんを追い詰めています。ハイリンヒさんは苦戦していますが、私が参戦すれば大丈夫でしょう。


 そうこうしている内に、攻撃を受けた黄金のゴーレムさんが地上へと降り立ちます。勿論、ジルさんがそれを逃すはずがなく、操縦席に銃口を向けました。


「さあ、降参するんだ。君のような子供を傷つけたくない」

「ぼ……ボクは大人だ! キミなんかよりずっとね!」

「小人のマイア君と同じか。まあ、僕には関係ないね」


 奥歯を噛みしめ、意地でも降伏しないモニア姫。隙を狙っているようですが、それを見せるほどジルさんは甘くありません。

 ジルさんは優しいですが、自分にも他人にも厳しい気質を持ちます。わがままなお姫様を見ていると怒りたくて仕方がないのでしょう。


 これで、勝負は決まりましたね。

 既にモニア姫に勝ち目はなく、アイルロスさんもすぐに止まるのは確実。


 これで戦いは終わります。

 そう思った時でした。



「失礼、少々遅れてしまったようですね。ここからは私が手を貸しましょう」



 突如現れたのは名前も顔も知らない人。雰囲気からして、魔王様に従う八幹部とは違いました。

 パイプから真っ黒い煙をふかし、虫眼鏡を持った男性。背には昆虫のような翼を携え、ベリアル卿やアスタロトさんに近い悪感を感じました。

 明らかにこの世界の人ではありません。絶対に戦ってはいけない人だと分かります。


 当然、ジルさんはその脅威に気づきました。

 明らかな焦りを見せ、ゴーレムさんに向けていた銃を新手に向けます。まさか、異世界転生者の彼がここまで動揺した表情を見せるなんて……

 ヤベーです。状況は分かりませんが、とても良くないことが起こっていると分かりました。

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