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157 機兵団襲来!


 商業ギルドの状況報告に来たアステリさん。冒険者ギルドの状況報告に来たアリーさん。二人を加えて私たちは今後の作戦を練ります。

 既に聖国と大臣たちは力を失っているので、もう周囲を気にする必要はありません。流石にクレアス国サイドの人は居ませんし、作戦が漏れても問題はないでしょう。

 まあ、話したところで大した成果は出ませんけどね。国営が忙しいので商業ギルドは動けず、冒険者ギルドも敵国やモンスターへの対抗として離れることができません。

 結局、私とジルさんでペンタクルさんとの和解へ向かう。それしかありませんでした。


「とにかく、聖国騎士の大半が眠っちゃってます。冒険者ギルドは残った彼らと協力し、この国を守らなければなりません!」

「クレアス国が聖国にとどめを刺しに来るかもな。流石に魔王本人はもう来ないと思いたいが……」

「それが心配じゃ。覚醒によって、奴は錫杖のファントムになりかけているからのう」


 会話の途中、目を合わせるアリーさんとバアル様。あーあ、ついに出会っちまいましたねえ。

 アリーさんを始めとするカナンの民が進行する女神バアル。その本人がご主人様の家に居候しています。いずれこうなるとは思いましたが、随分とさらっと顔を合わせてしまいました。

 眉間にしわを寄せ、幼女の顔を凝視する少年。民の誰かが以前に出会っているのか、彼女の顔はカシムさんの掘った像にクリソツでした。


「このチビは誰だ……? どこかで会ったことが……」

「チビとはなんじゃ! わしはカナンの神、女神バアルじゃ!」 


 今まで自分たちの信じてきた神がちんくりんの幼女。実際は信仰を失って幼児化しているんですが、そんなことアリーさんが知るはずがありません。

 滅茶苦茶嫌な顔をしつつ、バアルさんを睨む彼。全く信用していないのか、人差し指で軽くおでこを弾きます。


「ばーか、神の名前なんて語るもんじゃないぞ。罰が当たる」

「ほ……ほんとなのじゃー! 罰当たりはそっちなのじゃー!」


 子供のあしらうような態度をとるアリーさん。まあ、そうなりますよね。

 初めは適当に相手をしていましたが、やがてバアル様からドロップキックを食らって吹っ飛ばされます。相変わらずの女難。アリーさんも災難でした。


 まあ、とにかく……途中で脱線しましたがフラウラの街を守るのは重要です。例えペンタクルさんに追撃の意思がなくとも、他の種族がこの機を逃すとは思えません。

 本当なら私も街に残りたいのですが、異世界転生者の問題は異世界転生者が解決すべきです。切っ掛けは間違いなくペンタクルさんですが、それでも種族間の問題はこの世界の問題。他の皆さんに頼る以外ありませんよ。











 夕日が沈みだしたころ、細かな情報交換をし作戦会議を終えます。

 とりあえず、王都は機能停止しましたが聖国は強大。現状は残った騎士と冒険者で防衛できると結論付けました。

 それでも国の中心を丸ごと失ったのは致命傷。周辺国から恨みを買われていることを考えれば長くは持たないでしょう。

 だからこそ、私が何とかします! 絶対に絶対に、聖国とクレアス国のいがみ合いを解決させますよ!


「では、本日はこれにてお開きに……」

「テトラ、伏せろ!」


 突如、何かが薙ぎ払われる音と共に、ご主人様に頭を押さえつけられます。どうやらアリーさんもアステリさんを守っているようで、何者かが襲撃したと分かりました。

 ですが、最初の落下音以外は何も起きません。この家も完全に無傷で、音は森の木々が倒されたものだと分かります。

 それでも無視はできません。木をぶち倒す力は相当ですし、ここに人が来ること自体が珍しいのですから。


「敵……ですか?」

「それは分からない。だが、私たちを探しているわけでは無さそうだ」


 また、木々がなぎ倒される音が響きます。どうやら、大型の何かが進むために木々をへし折っているようですね。とりあえず、隠密行動では無さそうでした。

 私たちは耳を澄まします。すると、大きな足音が聞こえるじゃないですか! 突然の巨人襲来は勘弁してほしいです!

 まるで迷っているかのように、音は絶えることなく同じ場所で響いていました。


「も……もしかして迷い人ですか……」

「どう考えても人じゃないだろ! 頼む……さっさと何所かに行ってくれ……!」


 怯えるアステリさん。同じように怯えるアリーさん。幼女の前で情けないです……

 どこかに行ってほしいのは山々ですが、フラウラの街が近いのは無視できません。それに、なんだか嫌な予感がします。不安が的中したような……そんな感じです。

 すぐにご主人様に糸を繋げてもらい、操作状態へとチェンジ! そして、勢いよく家の外へと飛び出しました。


「アリーさん、ご主人様! アステリさんを頼みます!」

「承知した」


 危険の察知は重要です。今は聖国によって正念場、誰にも崩させはしませんよ!

 ささっと森を走り、ぱぱっと木々を交わしていきます。そして、かるーくジャンプして木に上り、音の正体をその目で確認しました。

 なんと、森を突き進んでいたのは鋼鉄で出来たゴーレムです。ジルさんやモニア姫の物よりもは小さいですが、それでも十分巨体ですね。

 装着された魔石を見る限り、明らかに戦闘特化されたゴーレム。形状はモニア姫の物に近く、ドワーフが動かしていると瞬時に理解しました。


「ご主人様……彼は戦隊を乱してここに迷い込んだようです。本隊の方は……」

『フラウラに向かっているとみて間違いない。どうやら、不安が的中したようだ』


 とにかく、このまま無視すればアステリさんたちを巻き込んでしまいます。家が壊されるのは嫌ですし、私が相手する以外にありません。

 ご主人様に両手操作をしてもらい、目標へと一気に走ります。そして、懐に潜り込んで軸となっている脚を払ってやりました。

 狭いコックピットで操作しているんです。作りは固いですが視野が狭いのは確実。仲間とはぐれて焦っているのなら尚の事です。

 ゴーレムは私を視認できないまま地面へと倒れました。ご主人様の強化もありますが、こんなに簡単に転倒するのは機体が安定していない証拠。飛べない点を考えても、明らかにモニア姫の劣化でした。


『随分と粗末な作りのようだ。恐らくは下級兵か……』

「ジルさんが見たらダメ出ししそうですねー」


 モニア姫との戦いでコックピットの位置は分かっています。うつ伏せに倒れるゴーレムの背に乗り、そこに作られた扉をノックして開けちゃいました。

 中に入っていたのは髭もじゃの小さいおっさん。完全に私と目が合い、冷や汗ダラダラで驚いています。なんかもう手遅れだと思いますが、とりあえず笑顔で挨拶しましょうか。


「こんにちは、私はテトラ・ゾケルと申します。フラウラに何の御用でしょうか?」

「あ……う……観光じゃ」


 嘘つけ、目が泳いでますから。

 大量の攻撃特化魔石が装着されている時点で、進軍目的なのはバレバレなんですよ。タイミング的にも攻めるなら今ですからね。

 見逃すわけにはいかないので無理に引きずり出します。中身を確保すれば無傷で事が済みますから、不殺の私とゴーレム兵は相性抜群でした。

 さてさて、暴力は大嫌いですが情報は吐いてもらいますよ。こちとら、これ以上被害を出さないように真剣なんですから!


「ペンタクルさんの命令で聖国を滅ぼしに来たんですか。もう勝負はついたはずです。これ以上の追い打ちは余計な犠牲を増やすだけです!」

「……魔王からの命令などない。これはわしらドワーフの問題じゃ」


 反応がおかしい……私がただの少女なのもありますが、それにしても敵意が薄く感じます。

 諦め……疲れ……死んだような彼の目からはそんな感情を読み取れました。加えて、魔王からの命令ではないと……

 まさか、自殺志願者ですか? いえいえ、それならドワーフの問題ではなく自分の問題と言うはず。

 となれば決まりですね。


「モニア姫の独断行動ですか……」

「お前は子供なのによく知ってるな。街には近づかないほうがいいじゃろう。わしもすぐに仲間と合流する……」

「木に躓いたとでも思いましたか? あなたを転倒させたのは私です。合流なんてさせません」


 私のような華奢な少女が戦ったことに驚いたのでしょうか。ドワーフさんは目を見開き、一層冷や汗を流します。やがて、彼は懐から赤く透き通る魔石を取り出しました。

 これは炎の魔石ですか。石は眩い光を放ち、今にも破裂しそうなほどに魔力を膨れ上がらせます。

 すぐに、この人が何をしようとしているのか察しました。勿論、私がいる限りそんな事はさせません。すぐにナイフを取り出し、魔石をバシっと払い飛ばします。

 彼の手から離れ、数メートル離れた場所に落ちる石。やがて、それは灼熱の業火を噴き上げて小爆発を起こしました。


「自爆なんてさせねーですよ」

「ぐ……お前はいったい……」

「あははー、だからテトラですって」


 部下に自爆用の魔石を持たせましたか……モニア姫、ちょっとお転婆が過ぎるんじゃねーですかね。

 たぶん、これは良い機会なんでしょう。ここで彼女を止めなければ、いつかまたこの世界に波乱を起こすはず。ペンタクルさんの命令を無視し、独断行動をするような子なんですから容易に想像できます。

 ここでこのドワーフさんに出会えたのは運が良かった。街に先回りして彼らに対抗する準備を整えましょう。


「ご主人様、アリーさんを呼んでください」

『お前がその判断をするより先に、あの少年は家を飛び出したぞ』


 ご主人さまにそう返されたのと同時に、アリーさんがこの場に参入します。彼は驚いたリアクションを取り、大きなゴーレムに釘付けでした。


「何だこのモンスターは……! ってか、もう倒したのかよ!」

「アリーさん、すいませんがこのおっさんをよろしくお願いします」

「いやいや、おっさんって何だよ! ドワーフってやつか!」


 全く状況を理解していないアリーさん。まあ、いきなりなんですから当然そうなりますよねー。

 彼にはいつも雑用ばかり頼んでいますが、今回も頼んじゃいます。今はこのドワーフさんの相手をしていられないほど時間がありませんから。

 一刻も早く、この危機をシャイロックさんやシルバードさんに話す必要があります。私は再びご主人様の力を使い、街の方へと走りだしました。


「状況はご主人様から聞いてください! おっさんとアステリさんを頼みましたよ!」

「はああ!? お前ら転生者はいつも滅茶苦茶だあああ!」


 モーノさんからも同じような扱いを受けているのか、アリーさんは悲痛の叫びをあげます。大丈夫です! いつかきっと報われますって! ガンバ!

 さーって、おふざけ出来る雰囲気じゃありませんよねー。恐らく、敵はモニアさんさんたちドワーフの機兵団で間違いないでしょう。また血が流れるのは勘弁ですね……

 人間もドワーフも救ってやりますよ。もう戦争は終わったんです。今回こそは誰一人死なせたくない!


 私の作り上げた理想の自分……

 それは生まれ持っての才能……


 これからもっと大変になるんです。力の制御は必要でしょう。

 私は気持ちを高鳴らせ、自分の中にある流星のコッペリアに語り掛けました。



モニア「ボクの理想の王子様。サファイアの目にルビーの剣、全身金色の幸福の王子様だ!」

テトラ「本当の美しさって、見てくれなんですかねー」

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