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156 卵が先か鶏が先かです


 眠りから覚めると私は神の居住である氷聖堂の間に立っていました。

 チャペルにお呼び出しということは、ゲルダさんこと大天使ガブリエル様のお達しでしょうね。ロバートさんの謹慎処分もありますし、呼ばれる理由ならいくらでもあります。

 彼女とはかなり親密度を上げているので協力はしてくれるでしょう。まあ、あまり協力しすぎてロバートさんのようになるのはダメですけども。


 少しすると、奥から雪国衣装のゲルダさんが歩いてきます。相変わらず母性を感じる美しさですが、今回も少し様子が違いました。

 彼女に指にはめられているのは指人形。私の真似をするつもりなのでしょうか? どうやら、本当にそのつもりのようです。


「ぱんぱかぱ~ん! ゲルダちゃんのお話、はーじまるよー」

「ふぁ!?」


 開幕で壊れるゲルダさん。マジ顔なので突っ込まないでおきます。

 まーたピーターさんに変なことを吹き込まれたんでしょうね。ど真面目で素直すぎるのも考え物でした。

 彼女はぎこちない動きで指人形を動かします。右人差し指につけられたのはセーラー服の少女。どうやら、彼女が主人公のようですね。


「ある所に一人の少女がいました。彼女は現実をつまらなく思い、新しい世界で新しい自分になる事を望んでいました」


 これは……私たちの転生前、白鳥泉さんの話で間違いありません。

 ゲルダさんは左人差し指にローブ姿の人形をつけ、セーラー服の少女と引き合わせます。人形の再現度は微妙ですが、恐らくこのローブの人形はベリアル卿でしょう。

 この二人の接触がすべての始まりでした。


「少女には大きな使命が課せられ、私たち大天使はそのサポートに臨みました。ですが、感づいた悪魔ベリアルは先に彼女とコンタクトを取ったのです」

「大天使さま後手後手ですねー」

「むう……それは否定できません」


 ベリアル卿は行動力も凄いですからね。こういうところ含めてヤベー奴なんだと思います。

 また、準備の段階でも彼は先を行っていました。本気で泉さんを利用して異世界に混沌を呼ぼうと考えていたようです。


「ベリアルは知っていたのです。少女が大いなる力を……異世界転生を望んでいたことを……だからこそ、彼は主神クラスの力を持つ女神バアルに取り入り、転生という高等手段を行う準備を進めていました」

「バアル様ってそんなに凄かったの!」

「そっちかーい。主神バアルは太古から神と崇めれていた存在。主が認知される前は猛威を振るっていました」


 ぎこちない動きでつっこむゲルダさん。いえ、無理させてすいません……

 つまり、転生の末に異世界無双したい泉さん。強大な力によって振り回される世界を見たいベリアル卿。両方の利害が一致し、そのためにバアル様は利用されたようですね。そりゃ、何にも知らないですわ。

 ベリアル卿にとって、異世界無双は世界のバランスを崩す材料でした。強大な力が周囲を巻き込み、後には引けない大事件に発展していく。その様が見たかったのでしょう。

 結果、ペンタクルさんの手によってそれは果たされてしまいましたが……


「心の闇によって一つの世界を混沌に導く。例え主に選ばれた預言者であろうと、欲望には抗えないとベリアルは考えたのでしょう。ですが、少女はその予測を上回り、彼に主との接触を要求しました」

「泉さんやりますねー。流石は私たちの転生前です」


 ベリアル卿の足元を見て、さらなる要求を行いましたか。なぜ泉さんが主との接触を望んだのかは分かりませんが、結果としてこの行動が彼の計画を狂わせます。

 私の予想通り、覚醒は主との接触によって生まれた可能性が高い。ベリアル卿にとって最大の誤算がここにありました。


「最も、主との接触を取り付けるなど不可能です。結果、神の居住までの道を繋ぐことで契約は成立しました。どうやら、主には出会えないと高をくくっていたようですが……奇跡を起こすのが選ばれし預言者です」

「出会ったんですね。その時に覚醒によるチートを授かったんです!」


 私がそう言ったとき、珍しくゲルダさんがムッとした表情をします。


「それは違います。天才ピアニストが絶対音感を持っているとして、貰い物の力とは言わないでしょう。貴方がたの能力は元より備わっている才能。誇りを持つべきだと思います」

「そうですね。すいません」


 ピーターさんは私たちの力を元々備わっている才能と言っていましたね。どうやら、それはゲルダさんも同じ意見のようです。

 そもそも、主を人物扱いすること自体が間違えということですか。主とは過去であり未来であり世界でもあります。この世における全てであり、そんな彼から力を貰うと表現するのは誤りなんでしょう。

 正しくは世界が望んだ才能ってことですかね。まあ、自分がそこまで大層だとは思いませんけどー。


「泉さんに与えられた使命とは……なぜ、彼女は預言者として選ばれたんですか?」

「それは貴方もよく知っているはずです。今、貴方がたが世界のために戦っている。それこそが使命であり、預言者として選ばれた理由です」


 将来的に生まれる私たちの存在が使命……?

 ちょっと待ってください。それはおかしいですよ!


「では、貴方がたは今の私たちを予知して、預言者として受け入れたと? それでは泉さんなぜ特別かの説明になりません! 卵が先か鶏が先かじゃないですか!」

「ですね。全てを知るのは大いなる主だけでしょう」


 特別な未来を持つから特別。なぜ特別な未来になったのかは不明。

 未来予知という超常的な力によって矛盾を生んでしまったようです。まったく、こんな厄介な能力を誰が使ったというんですか!


「そもそも、どうやって今の私たちを予知したのか……」

「それは神託の天使である私が主からの声を聞き、ほかのアークエンジェルに伝えたからです」


 は……?

 お前じゃん。お前の行動から始まってるじゃん。


「お前かーっ! 事の発端はお前かーっ!」

「そうですが何か?」

「全く悪びれてない! 流石は絶対正義の大天使さまだー!」


 両腕を掴んでブンブンと振りますが、ゲルダさんは表情一つ変えません。

 まったく負い目なし! 主の意思は絶対という自信に満ち溢れていました。

 まあ、何にしても大天使さまの情報もこれで解禁されちゃいましたね。たぶん、他のアークエンジェルもこれ以上は知りません。当然、ベリアル卿も今の物語までしか知らないでしょう。

 ゲルダさんはぺこりと頭を下げ、その事について謝罪します。どうやら、嘘ではないようでした。


「申し訳ありませんが、覚醒の詳細については私たちにも分かりません。大いなる主とどのような接触を行い、どのような契約を交わしたのかは開示されていないのです。ただ、貴方がたが生まれた時より備わった能力である。そのことは覚えておいてください」


 もう、ほぼほぼの謎は解明されましたかね。ですが、残る覚醒の詳細については大いなる主との接触以外では解けないようです。

 いよいよ私たちの戦いも佳境。ずっと謎だったアークエンジェルとの繋がりも知り、神や悪魔と縁がある理由も分かりました。

 なんだか、天使と悪魔の小競り合いに巻き込まれた感はありますが、悪魔と契約を交わした泉さんにも非があります。まあ、仕方ないので付き合ってあげちゃいますよ。


「分かりました。ベリアル卿の吹っ掛けた喧嘩には付き合いますよ。ですが、こちらも貴方がたに振り回された身。奪われたものは取り返したいのです」

「奪われたもの……?」

「転生前の人生です。泉さんの意思で転生したのは分かりますが、その記憶を継いだ私は被害者ではないですか! 元の世界に戻れるんでしょうね!」


 無表情のゲルダさんが困惑の表情を見せます。よっぽど予想外の質問だったようですね。


「転生前の存在とは別、世界のルール上は不可能です。ですが……あなたが本気でそれを望むのなら、必ず大いなる主による祝福が待っているはずです。魂ある限り、いくつかの段階を踏めばあるいは……」

「分かりました。信じましたからね!」


 世界のルールなんて知ったこっちゃねーです。そもそも、ルール違反の末に私たちが生まれたんですから。そこは特別権限で何とかしてもらいますよ。

 まったく、今回の件についてはもっと早い段階で話してほしかったですよ。恐らく、私たちが近い場所まで推理し、たどり着くまで伏せていたのでしょう。性格わるーい。

 色々と文句はありますが、とにかく今はペンタクルさんを止めるほうが先です。それが終わったら、ベリアル卿や転生者の問題に切り込みますからね!










 朝、思いっきり背伸びをし、太陽の光を浴びます。

 とりあえず、夢の中で分かったことは全てご主人様とバアル様に話します。当然、最終的にはモーノさんやジルさんの耳にも入れますよ。情報は共有してこそですから!

 私たちが話していると、誰かが家の扉をノックします。どうやら、このタイミングでお客さんが来たようですね。とりあえず、入ってもらいます。


「どうぞー!」

「お……お邪魔します……」


 入ってきたのはなんと、商業ギルドに弟子入りしたアステリさんでした。

 王都暮らしが板についたのか、白いワンピースが少しお洒落になっています。髪の毛も手入れされ、孤児院で暮らしていた時とはずいぶんと違いました。

 無事だったのは嬉しいですが、彼女一人というのはビックリです。ご主人様の家は森の中。モンスターはお守りで対策できますが、それでも彼女の歳では心配ですよ。


「ちょっとアステリさん! 一人でこんな所に来て大丈夫なんですか!?」

「ぎ……銀貨一枚で十分だったから。大丈夫です」


 そう言って、彼女は錬金術によって作り出したアイテムを見せます。

 どうやら、シャイロックさんに弟子入りしてから魔法の方も修行したようですね。傷一つなく、彼女は銀貨一枚でモンスターを処理したようでした。

 もしかして、もう冒険者を志すトマスさんより強いのでは……? それは彼が可愛そうなので考えないようにしておきましょう。


「それで、アステリさんはどうしてここに?」

「シャイロックさんのお使いです。今後の予定とか、色々話せたら良いなと……」


 ああ、商業ギルドやハイリンヒ王子の国家運営について報告に来ましたか。それはアステリさんもご苦労様です。

 とりあえず、立ち話も難ですね。椅子に座ってもらい、自家製のお茶を振舞います。

 ちょうど、こちらも話しておきたいことがありました。アステリさんの頭がパンクするかもしれませんが、一応耳には入れておいた方がいいですから。


 そんなこんなで、ちょくちょく情報を交換していると、また扉のノックオンが聞こえてきます。どうやら、またまたお客さんのようでした。


「はいはい、どうぞー!」

「邪魔するぞ」


 入ってきたのは意外や意外。最近顔を合わせていない元盗賊のアリーさんでした。

 彼はフラウラの冒険者ギルドに所属し、モーノさんとも仕事を共にしています。たぶん、ギルドマスターのシルバードさんにお使いを頼まれたのでしょう。

 まったく、この狭い小屋に何人集まってくるんですか……状況が動くのと同時に、今まで知り合った人たちが顔を見せます。


 まあ、悪い気はしませんけどー。


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