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154 一から仕切直しましょう


 王都ポルトカリから数十キロ離れた先、カルポス聖国第二の都市であるフラウラ。そこでハイリンヒ王子と商業ギルドのシャイロックさんを中心とした新体制が始まります。

 王都が封印されたものは仕方ありません。今は路頭に迷った国民たちを導く。そして、今出来る形で国家を維持する。それだけでした。


 聖国王を支持していた大臣様たちは、王の死とベリアル卿の撤退によって観念します。今はハイリンヒ王子の命令を聞き入れ、完全に保身へと走っていました。

 まあ、国家転覆の危機に加え、上司が殉職してしまいましたからね。現在力を持っている王子と商業ギルドに付くのは当然でしょう。

 中には意気消沈し、子供のように大泣きする大臣様もいました。聖国王様のカリスマ性を改めて感じます。周辺国からは巨悪と見られていましたが、聖国にとっては間違いなく偉大な王だったのです。


 モーノパーティーの狼少女、メイジー・ブランシェットさん。彼女も聖国王様に命を救われていました。

 精霊信仰によって生贄文化のあった獣人の村。そこでメイジーさんは生贄として選ばれ、聖国の進軍に乗じて逃れました。

 ハイリンヒ王子から聞いたところ、それは聖国王の意向だったようです。彼は生贄にされる少女たちを自分の娘であるターリア姫と重ねたのでしょう。


「聖国王……いえ、ギムノスさんは進軍を終えた後、私たち獣人を国民として受け入れた。だけど、王の命令じゃ何も変わらなかったわ。差別は続くし、捕まえて奴隷として売りさばく奴もいる。結局、変えなくちゃいけないのは人の意識って気づいたの」


 メイジーさんは今回の戦いで獣王リュコスさんと戦いました。

 追いかけっこをし、王都の外まで引き離したところでクレアス国の撤退命令が出たようです。王の間から引き離すというモーノさんの指示を見事に達成しましたね。

 敵を煽るために、彼女は相当な口喧嘩をした様子。興味がなかった獣王という存在に対し、僅かながらの対抗意識が芽生えたようです。


「だけど、あのクソガキ獣王は何も分かってない。聖国を滅ぼし、王を倒せばそれで終わりと思ってる。バカよバカ! たぶん、魔王の世界征服にも喜んで協力するでしょうね」


 メイジーさんはシャキーンと牙を出し、続けました。


「だから、一発噛みついて分からせてやるって決めたの。魔王の城に向かうのなら私も行く。ギムノスさんは私の故郷を滅ぼした敵で、だけど私の命を救ってくれた恩人。たぶん、あの人の死は一つの切っ掛けなんでしょう」


 フラウラギルドのエントランス、そこで彼女は決意を固めます。

 聖国の封印を解くためにはトリシュさんの力が必要ですし、チートの力で世界征服へと飛躍したペンタクルさんを無視できません。私たちはクレアス国、魔王の城へと向かう必要がありました。

 メイジーさんだけではありません。今回の戦いで決意を固めたのはアリシアさんも同じです。彼女にも背負っているものがあるのですから。


「今回の戦いでたくさんの人が死んじゃったね。ラッテンさん……私はあの人を家族の敵だと思ってた。だけど、最後には私を庇ってくれた……眼を見てドロシアちゃんを頼むって言ってた……」


 右目から涙を流すアリシアさん。左目は潰れ、白い布が巻かれていました。

 彼女はすぐに涙をぬぐい、前を向きます。たぶん、今回の戦いで一番成長したのはアリシアさんでしょう。色々と疑問や誤解が晴れ、もう迷いはなくなりました。


「だから私も魔王さんの城に行く。ずっと、不思議の国に迷い込んでいたよ。今考えたら、ドロシアちゃんは初めから悪い子だった。だから、私がちゃんと怒ってあげないと!」


 妹のドロシアさんを止めるためにも、アリシアさんには戦う理由があります。左目を失うほどの決死の覚悟。それを見せ彼女がここで退くわけがありませんでした。

 治癒魔法によって出血は止まりましたが、未だに巻かれた布が痛々しいです。たぶん、トリシュさんのチートがあればこれも治るでしょう。全部元通りになるはずです。

 モーノさんもそれを期待し、アリシアさんを元気づけました。


「ごめんなアリシア。トリシュがここに戻れば傷も完全に治るはずだ」

「ううん、それじゃダメだよモーノくん」


 彼の言葉に対し、エプロンドレスの少女は首を振ります。


「治さなくて良いの。これは治さなくて良い傷」

「……そうか、分かった」


 アリシアさんがそう言ったとき、息を引き取るジャバウォックさんの姿が浮かびました。

 復讐の代償でしょうか。それは彼女にしか分からない事でしょう。

 何にしても、本人に治す気がないので左眼は一生見えません。こればかりは、チートではどうにもできませんでした。


 メイジーさんとアリシアさん。二人がクレアス国へ行くことを決めましたが、当然スノウさんも同行します。

 彼女には人魚姫のセイレンとの因縁がありました。同じ小国の姫同士、決着をつける気なんでしょう。


「私には二人ほどの戦う理由はありません。でも、お母様のせいで人魚の皆さんが魔王さんに付いていきました。それは、私が責任を取らないといけません」


 スノウさんが責任を取る必要はありません。ですが、空気を読んでそれは言わないことにします。

 セイレンさんは彼女と会うことで戦う意思を見せました。ここで身を引けば、彼女の思いを踏みにじる事になります。それはいけません。

 なので、スノウさんにも戦う理由があります。三人の意思を聞いたモーノさんは、不敵な笑みをこぼしました。


「そうか、じゃあここでお別れだ」


 え……まさか、モーノさんは同行する気がない?

 意外ですね。絶対にペンタクルさんをぶっ飛ばす。絶対に力を取り戻すと言うと思ったんですが。

 当然、他の三人も驚いた様子。スノウさんがその真意を聞きます。


「モーノさん何で……」

「魔法が真面に使えない。剣の威力も落ちているし、このまま行っても足手まといになるだけだ。だから、俺はお前らに同行できない」


 自らの右手を見つつ、モーノさんは悔しそうに歯を噛み締めました。

 ペンタクルさんに女神さまのチートを奪われ、今の彼には高い魔力もステータスもありません。たぶん、私やメイジーさんたちより弱っちくなっているでしょう。

 ですが、それでもへこんではいない様子。むしろ清々しくもあるようで、ここからやり直す気力は十分です。


「正直、良い機会だと思ってる。また、レベル1から自分を見つめなおすチャンスだ。俺は他の転生者と違って未だに覚醒していないからな。必要ないと思っていたけど、これを機に習得できるかもしれない」

「じゃあ、私も一緒に……」

「ダメだ。お前たちと一緒だと、たぶん俺は甘えてしまう。それじゃ何も変わらない」


 メイジーさんの同行を断り、モーノさんは席を立ちました。

 初めて会った時と比べて、彼の背中は随分と大きくなったように感じます。どこからどう見ても、貰ったチートでマウントを取るような人ではありません。

 未だに力の異世界転生者の本質は分からず、その覚醒が何をもたらすかは不明。何より、トリシュさんの言った『あと一人』というカウントが気がかりです。

 ですが、心配はしていませんよ。私が思ったことをモーノさんが口に出して言います。


「まあ、何とかなるだろ」

「大丈夫だよ。だって、モーノくんは今までずっと何とかしてきたんだもん」


 アリシアさんの言うとおり、『何とかなる』は何とかしてきた人の特権。モーノさんの何とかなるには、それだけの説得力がありました。

 まあ、彼の方が何とかなっても、こっちはペンタクルさんに勝てる気なんてしませんけどー。今のメンバーでクレアス国に行ったところで、返り討ちにされるだけでしょう。

 やっぱり、モーノさんの力を失ったのは痛いです。トリシュさんがあちら側に同行したのも痛い。ですが、シャルルさんに言われた通り前に進まないと……


 せめて、もう一人戦力になる人がいれば……

 そう思った時でした。


「テトラ! モーノ! 大丈夫かい!」

「テトラお姉たんおひさー」

「モーノお兄たんおはおはー」


 フラウラギルドの扉を開け、眼鏡をかけた少年と小さな双子が参入します。

 二番、知の異世界転生者ジル・カロルさん。彼の作った双子のホムンクルス、ハンスさんとマルガさんでした。

 そう言えば、王都がとんでもない事になりましたからねー。彼らも状況を察して、ここまですっ飛んできたのでしょう。

 ジルさんは私たちの顔を確認し、アリシアさんの左目に気づきます。眉間にしわを寄せ、眉毛を上げる少女のような少年。すぐに薬品を取りだし、どすの利いた声で叫びました。


「ペンタクルの野郎……! 俺の仲間に何してくれやがる……! アリシア、すぐに直してやる!」

「え……あ……これは治さなくて良いの! 私の覚悟だから!」


 完全にブチギレしたジルさんですが、アリシアさんの言葉で頭が冷えます。二面性がある二人。お互い突然の豹変に対応できるようですね。

 きょとんとした表情をしながらも、ジルさんはアイテムバッグの中から黒い布を取り出します。そして、錬金の力によって、それを何かに変えていきました。

 出来上がったのはスペードの形をした黒い眼帯。彼はそれをアリシアさんに手渡し、眼鏡のずれを直します。


「ごめん、怒ると頭が真っ白になるんだ。その眼帯はおしゃれアイテムだよ。女の子はおしゃれしないとね!」

「あ……ありがとう!」


 流石ジルさん、気配りができる人! 黒いスペードはモーノさんの紋章と同じです。ちゃーんと、彼とお揃いを選んだんですねー。

 でも、相変わらず乙女趣味なのが引っ掛かるところ。まあ、ジルさんの勝手ですから何も言いませんけどー。

 アリシアさんは包帯を外し、スペードの眼帯を付けます。笑う彼女の姿を見て、モーノさんは安心した様子でした。


「俺は今からこの街を出る。ジル、こいつらを頼んだぞ」

「任せてよ。僕が強い男の子だって所を見せてやるさ」


 露骨に男アピールするのが心配ですが、転生者が私たちに付いてくれるのは心強いです。完全に記憶を取り戻した彼は、転生者としてのチートを遺憾無く発揮してくれるでしょう。

 さーて、メンバーは固まってきましたが、どうやってクレアス国に行くのでしょう。前回と同じように、途中まで馬車で行くのが正解ですかね。まあ、国家転覆の危機で運行しているかは疑問ですが。

 とりあえず、知識は多そうなジルさんに聞いてみます。一応、知の異世界転生者ですからね。


「ジルさん、ペンタクルさんのお城に行きたいんですけど方法あります?」

「魔王の城は孤島にあるからね。一番は船で移動することだけど。作るにはちょっと時間がかかるかな」


 まさか、一から船を作るとかそういう話しですか。いえいえ、そこまでしなくても良いんですけどね。

 国家運営の忙しい今、商業ギルドの皆さんは頼れません。どこかに中古の船があればいいんですが……

 あ、一つありました。ギルドマスター、シルバードさんの海賊船! あれを使いましょう!


「シルバードさんから船を借りましょう! あれなら……」

「フリント号ならバートにやったぜ。今はどこに居るのか分からねえなあ」


 フラウラギルドで話していたので、横からシルバードさんに言われます。うーん、残念ですね。

 やっぱり、一から船を作った方が良いんでしょうか。戦闘機を作り上げたジルさんなら、木造船なんて数日で作れるでしょう。

 私、ご主人様、メイジーさん、アリシアさん、スノウさん、ジルさん、ハンスさん、マルガさん。

 さあ、八人で妥当魔王です! 仕切直していきますよー!


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