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151 ☆ 決定的な間違いでした ☆


 錫杖が男の腹部から抜かれ、王の間に新たな鮮血が流れました。

 兄を払いのけ、父の元へと駆け寄るターリア姫。戦場での彼女の行動は危険ですが、クレアス国は既に戦いを止めています。

 聖国騎士の大半が倒れ、残りも戦意を失ってますからね。トップである王が討たれ、勝利を確信したのでしょう。

 また、聖国側はターリア姫の身を案じ、抵抗をやめていました。下手に敵を刺激すれば、彼女に危険が及ぶと判断した様子です。


「国王様……我々の聖国が……」

「勝った……我らクレアス国の勝利だ! 同胞たちの雪辱を晴らしたぞ!」


 落胆する聖国、勝利に歓喜するクレアス国。また、勝者と敗者の縮図ですね。

 ターリア姫は止めどなく涙を流しながら、聖国王を揺さぶっています。ですが、誰も王を介抱しようとはしません。

 既に息絶えている事もありますが、万が一彼が生き返ればこの場の全員が困ります。その死によって、敵の攻撃が収まろうとしているのですから。


「興が削がれた。聖国が以前として牙を向くのならば、返り討ちにすれば良いだけの事。今日は撤退するぞ」

「魔王様の撤退命令だよ。みんな、怪我人を運ぶんだ!」


 必死に父を呼ぶ少女。彼女を見たペンタクルさんは瞳からクローバーの紋章を消します。

 聖国王様との戦いを通し、彼の心に何かが生まれたのでしょう。真意を察したのか、エルフのラッテンさんも部下に指示を出しました。

 これは奇しくも、シャイロックさんが望んだ通りの展開ですね。トップを滅ぼしたところで、新たなトップが生まれるだけ。国民全体の意識を変えない限り、聖国は止まらない。

 ですが、ハイリンヒ王子ならそれを変えれるかもしれない。このままペンタクルさんが引き上げれば計画通り行く。


 私たちの勝ちだ!




「これはこれは、どうしたことか」


 黒い炎を身に纏い、ローブの悪魔がターリア姫の前に降り立ちます。

 トリシュさんを振り払ったのでしょうか。彼はいつもと同じ薄ら笑いを浮かべつつ、ペラペラと語り始めました。


「モーノさん、トリシュさん、テトラさん。貴方がたの力を持ってすれば、国王様を救うことは容易かったはず。にも拘らず、彼は誰にも手を差し伸べることなく息絶えました。なんと痛ましい……私がもっと早く駆けつけていれば……」


 額に手を当て、悔しそうな演技をするベリアル卿。どうやら、自分はトリシュさんの妨害によって救援に移れなかったと言いたいようです。

 いきなり彼は何を語り始めたのでしょうか……狙いは分かりませんが、この悪魔を自由に喋らせるのは危険です。すぐにトリシュさんが気づき、妨害へと移りました。


「ベリアル……余計なことをするな……!」

「全員構え! 撃てェェェい!」


 ですが、その時です。今まで動く気配のなかったエンフィールド卿が、突如トリシュさんに向かって一斉射撃を開始しました。

 小人たちから放たれる魔法弾。少女はもろに攻撃を受けてしまいましたが、すぐに回復魔法によって治癒します。突然の攻撃に対し、反応が遅れてしまったようですね。

 なぜ、聖国騎士団総大将であるエンフィールド卿が攻撃に出たのか。これは明らかに、ベリアル卿の行動を支持するものでした。


「貴方……ベリアル卿の協力者ですね」

「何の話しだ。私は聖国の敵を撲滅しているだけだ」


 睨むトリシュさん。片眼鏡を上げるエンフィールド卿。

 嫌な予感が的中しましたか。彼がラジアンさんを深追いしなかった理由、それはベリアル卿のサポートを考えていたからで間違いありません。

 ずっと、二人は裏で繋がっていたのです。聖国王の死すらも計算の内だったとも考えられます。

 事実、彼は表情一つ変えずに立ち塞がってるのですから……


「なら、私が止めます! ターリア姫には近づかせない!」

「ニャニャッ!?」


 精霊のアイルロスさんを無視し、私はターリア姫の元に駆けます。

 ですが、その時でした。なぜか身体が引っ張られ、別の場所へと引き寄せられてしまいます。すぐにその方向を確認すると、金色に輝く鳥とその主人が立っていました。

 すぐにご主人様に糸を動かしてもらい、無理な体勢で地面に足を付けます。何とか引っ張られるのは踏ん張れますが、これではベリアル卿を止めれません!

 他の大臣にも協力者がいたようですね。まさか、読み負けた……?


 全てはあいつの掌の上……?


「ターリア姫、貴方の父親は平和の礎となったのです。王の死がこの聖国を変えるきっかけとなる。だから、モーノさんもハイリンヒ王子も助けなかった。誰もが彼の死を望んでいたのですよ」


 誰にも邪魔されることなく、自由に言葉を連ねるベリアル卿。彼はターリア姫に向かって、今回の計画全てを話していきました。

 嘘ではないというのが余計にたちが悪いですね。ですが、彼女を追い詰めて何になるというのでしょうか。ここで、私たちの絆にひびが入ったところで、貴方には何のメリットもないでしょう……?

 単なる嫌がらせか……それとも……

 何にしても、これでターリア姫とハイリンヒ王子との間に溝が出来てしまいました。


「おにーたま……それは本当なのか……? おとーたまに死んでほしかったのか……!」

「ターリアそれは違……」


 彼が「違う」と言いかけた時、ベリアル卿はきっぱりと言い放ちます。


「『違う』と言いきれますか?」

「くっ……」


 やっぱり、口喧嘩ではこの人に敵わない……彼は既に、聖国王の死によって成立するシャイロックさんの計画を読んでいたのです。

 たぶん、モーノさんもトリシュさんもベリアル卿に対して「違う」と言い切ることは出来ません。ですが、嘘つきの私なら涼しい顔で言いきれます! ベリアル卿の考えは分かりませんが、今は邪魔することを考えた方が良さそうです!


「ターリア姫、それは違います! 貴方のお父様は国の平和を考え、礎になる事を望んだんです! 自らの身を挺して、この国を守ったんですよ!」

「例えそうであったとしても、彼を見捨てたのは貴方たちです。商業ギルドのシャイロックさんと共闘し、聖国王の没落を狙っていたことは間違いないでしょう?」

「意を組んでの行動です。この国はもう限界でした。優秀な王だった貴方のお父様は、それを分かっていたはずです!」


 大臣の一人から磁力攻撃を受けつつも、私はベリアル卿とレスバを開始しました。

 屁理屈とお喋りでは負けたくない……ですが、相手も同じ戦闘スタイルです。今までのように勢いで押し通すことは出来ないでしょう。

 何より、相手の目的が分かれなければ攻めようがありません。ベリアル卿はやれやれと言った様子で首を振ります。私の屁理屈など問題ではない様子でした。


「そのような理屈は意味を持ちません。事実、聖国王の命は奪われた。ターリア姫は彼に死んでほしくなかったのです。貴方なら……その意味が分かりますね?」

「何が狙いですか……」


 どんなに理屈を捏ねても、死んでほしくない者は死んでほしくない。それはロッセルさんの一件で重々感じていたはずです。

 私たちは魔王や聖国の事ばかりを考えて、ターリア姫の気持ちを考えていましたか……? この場で一番親身に接しているのは、憎むべきベリアル卿ではないですか……?

 ターリア姫は袖で涙をぬぐい、父親の亡骸を守るように茨を生やします。もう誰も信じられないと言った様子で、彼女は私たちに敵意を向けました。


「もういいテトラ……お兄たまも、ベリアルも、モーノも……みんな嫌いだ……!」

「ヒントはあった。以前、貴方がターリア姫と接触した時。その心に生じた闇に気づきましたか? もし、気づかなかったのならば……」


 笑みを消し、真剣な表情で私を見るベリアル卿。ターリア姫の茨は見る見るうちに増え、術者と王を取り囲んでいきます。

 そんな中、私は確かに見ました。見たくないもの……見えてほしくなかったもの……


 ターリア姫の頬に、スピルさん時と同じ炎の紋章が刻まれいることを……



「みんな……みんな……! あたちとおとーたまの国から出ていけェェェ!」

「私の勝ちだ」



 人を嘲笑うような普段の顔とは違う。背筋が凍るような『勝ちに出た』ベリアル卿の表情。

 彼は始めから、聖国と魔王の争いに重点を置いていなかった。ずっと、ターリア姫というカードを確保し、それを使うタイミングを見計らっていたのです。

 姫を守る茨は急激に繁殖し、王の間全てを取り囲みました。いえ、それだけではありません。まるで触手のように蠢くそれは、瞬く間に城全体に根を張ってしまいます。

 なんて魔力ですか……彼女にここまでの潜在能力があったなんて……!


「何ですかこの魔法は……何か違う……ただの植物魔法じゃない……!」

「これは封印魔法……まさか、城ごと全てを封印するつもりですか……!」


 茨に囲われた兵士たち、彼らは眠りにつくかのようにその場に倒れてしまいました。

 トリシュさんは城ごと封印と言っていますが、そんな次元ではありません。窓の方へ眼をやると、茨が城下町まで迫っていることが分かります。恐らく王都ごと……いえ、行く行くは国ごと封印するつもりでしょう。


 元々魔法の天才だったターリア姫。そんな彼女に、父の死による不安定な精神と悪魔契約による力が加わりました。もう、転生者の力を持ってしても暴走を止めることは出来ません!

 王になりたいという願望。それがマイナスの方向へ傾いていたのは知っていました。ですが、まさか力を得るためにベリアル卿と契約を交わすなんて……

 私のせいだ……私が助けなきゃ……!


「ターリア姫、今行きます!」

「テトラ、俺も行く。これは俺の責任だ!」


 私は聖国大臣を、モーノさんは魔王の軍勢をそれぞれ振り払います。そして二人で頷き、茨の壁に守られるターリア姫へと走りました。

 モーノさんの剣が行く手を阻む蔓を切り裂きます。すぐに、こちらを眠らせようと襲い掛かりますが、私もナイフによって応戦しました。

 距離は近いはずなのに、こんなにも彼女までの道のりは遠い……ですが、絶対に負けない! すでに、ペンタクルさんの存在は私たちの眼中にありませんでした。

 無視をされた魔王様。瞬時に、この場で一番裁くべき存在を見定めます。


「悪魔ベリアル……やはり、お前を消さなければ安息など無いか」

「私を裁きたいのならば、力ではなく論理で勝つことだ。さもなくば、痛い目を見ることになります」


 悪魔のような翼を生やし、ベリアル卿の元へと飛ぶペンタクルさん。対し、本物の悪魔は漆黒に輝く四枚の羽根を背に生やしました。

 六大天使……神に仇名すサタナエルの翼ですか。正真正銘、本気の中の本気ってわけですね。

 強襲するペンタクルさんに対し、彼は真っ黒い炎によって対抗姿勢を見せます。ですが、魔王様の攻撃手段は多彩。光魔法によって全ての闇を晴らしました。


「痛い目だと……? 俺がお前ごときに負けるものか」

「貴方は飽きれた人だ。力ではなく論理と言ったばかりでしょう?」


 漆黒の翼を羽ばたかせ、ベリアル郷は井の穴から外部に脱出します。すぐに、後を追うとするペンタクルさんですが、彼の捨て台詞が気になった様子。

 私も何か引っかかります……あの悪魔が力勝負に出るとは思えない……

 何か、決定的な何かを見過ごしている。でも、分からない……


 あいつの考えが読めない……!


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