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150 ♧ 天魔外道 ♧


 ここからが魔王様の全力でしょう。ペンタクルさんは覚醒状態を操作し、魔法によって部下の三人に強化を施しました。

 ドワーフのモニアさんはゴーレムを動かし、フルバーストでモーノさんへと突っ込んでいきます。同時に、道化師のラッテンさんが笛を吹き、何百匹ものネズミを出現させました。

 前方には黄金のゴーレム、周囲には真っ黒いネズミたち。状況は絶望的ですが、モーノさんは喜びの笑みを浮かべていますね。まあ、力の異世界転生者なら簡単に打開できるでしょう。

 彼は剣を軽く一振りし、力でゴーレムを吹っ飛ばします。同時に、規格外の炎魔法によってネズミ全てを焼き払ってしまいました。


「邪魔だ!」

「ま……ままま魔王様ー! ボクたちにはちょっと荷が重いんじゃないかな!」


 コックピットから顔をだし、ペンタクルさんに助けを求めるモニアさん。ですが、ここで上司が参入してしまったら部下に指示を出した意味がありません。

 何としてでも、モーノさんの足止めを行ってもらいたいのでしょう。魔王さんは宙を移動し、エンフィールド卿と戦うラジアンさんの前に立ちました。


「ラジアン、お前も出ろ」

「はい? わっしはこのエルフさんと戦ってるんじゃが……」

「そんな雑魚は放っておけ。お前なら一番の転生者にも対抗できるだろう」

「はあ……知らんぞー」


 砂漠の王子は指笛を鳴らし、目前に空飛ぶ絨毯を呼びます。そしてその上に乗り、モーノさんの方へと飛んで行ってしまいました。

 ま……まさかのエンフィールド卿を無視ですか! 流石にそれは悪手のような……

 これで小人の部隊は自由になり、別の戦いに参入できます。各個撃破の体制が崩れ、どこかで帳尻を合わせる必要が出るのは確実でした。

 転生者故の傲慢でしょう。確かにモーノさんは強いですが、だからと言って他を無視して良い理由にはなりません。さて、エンフィールド卿はどのように動くか……


 なんて考える私は驚愕しました。

 なぜなら、自由になった彼は完全に武器を収めていたからです。


「なんで……何ですかこの違和感は……」


 小人の部隊も主人の元へと戻り、完全に臨戦態勢を解く聖国騎士団総大将。決して、他の敵に攻撃を行おうとはしません。

 心の異世界転生者としての第六感が働きました。これは明らかに異常。理由は分かりませんが、絶対に良くない事が起こっています!

 尋常ではないほどの悪寒を感じ、私はエンフィールド卿の元へと走りました。ですが、そんな私の前に一匹の精霊が立ち塞がります。


「ニャハハハ! 魔王様からお嬢ちゃんも止めるように言われてるニャア! さあ、リベンジニャ!」

「今は貴方の相手をしていられません!」


 すぐにナイフを取りだし、彼のサーベルを弾こうと攻撃します。ですが、やっぱり相手はスピード特化、容易くいなされてしまいました。

 くっそ、何度も何度もしつこい猫さんですね。よくもまあ、めげないものですよ。

 私と同じく、ラジアンさんの参入によってモーノさんも足止めを受けます。これにより、完全にペンタクルさんがフリーになってしまいました。


 もう、誰も魔王を止める者はいません。

 胸を張り堂々と、彼は真っ直ぐ聖国王の元へと歩いていきます。


「これでようやく、当初の予定通り事が運ぶ。バシレウス七世、貴様は我が直々に始末しなくてはならない。これは魔王としての示しだ」

「随分と威勢の良い若僧だ。ならば、裸の王の首。討ち取って見せよ」


 血濡れた透明の剣を振り、臨戦態勢を見せるバシレウス七世様。

 既に彼を守る兵は死に、敵の軍勢はこの王の間まで進軍しています。それは、まさに裸の王様でした。

 ですが、それでも彼の目は死んでいません。アイルロスさんと戦闘中の私ですが、ここからでも彼の威圧感をピリピリと感じます。

 対し、ペンタクルさんの方も禍々しい邪気を発していました。聖国とクレアス国、ついに両国のトップが衝突する時が来たのです。


 どちらが勝っても世界が動く。

 これは覇者と魔王……人間と魔族……



 現地民と転生者の決戦だ。



「魔王に慄きつつ、死ぬがよい」

「御託はいらぬわ」


 剣と杖が衝突し、周囲にクローバーのエフェクトが散ります。そのあまりの衝撃に、近くにいた一般兵たちは全員ふっ飛ばされてしまいました。

 もう、誰も手出しできるはずがありません。あの二人が規格外なのは、この場にいる全員が分かっています。決着が付くまで決して止めることは出来ないでしょう。


 三人の敵を相手しつつ、モーノさんは機会を伺います。

 彼は王の戦いを待ち、その結果に応じて動きを変えるつもりでしょう。


 ベリアル卿の炎を浄化しつつ、トリシュさんは横目で戦いを見ます。

 彼女もまた、決着を待っていますね。どちらが負けても私たちに有利なので当然でした。


 そんなトリシュさんの猛攻を耐えつつ、ベリアル卿は不気味な笑みを見せます。

 明らかに何かを狙っていますか。残念ですが、私にはその先がまったく見えませんでした。


 ターリア姫を抑えつけつつ、ハイリンヒ王子は複雑な表情をします。

 国を変えるには国王の死が必須。ですが彼は実の父。泣き叫ぶ妹を見れば、気持ちも揺らぐでしょう。


 そして、私が一番警戒しているのは騎士団総大将のエンフィールド卿。

 最低限の動きで魔族の攻撃に対抗していますが、目立ったアクションは起こしません。まったく、彼の行動が読めませんでした。


 各々の考えがあるようですが、全員思っていることは同じでしょう。


 聖国王と魔王の戦い。

 その決着が付いた瞬間に事を起こすべきと……



 ですが、そんな大人の事情など幼いターリア姫には関係ありません。

 自分が尊敬する父に死んでほしくない。自分が信じる聖国に負けてほしくない。その思いを胸に、彼女は叫び続けました。

 

「おとーたま……! おとーたまー……!」

「ターリア……ダメだ……ダメなんだよ……」


 彼女の涙に釣られ、ハイリンヒ王子もその眼をうるつかせます。

 ですが、彼は非情を決め込みました。妹を力で抑え、詠唱を開始した瞬間に口を抑えます。本来なら一刻も早くここを離れるべきですが、ターリア姫がそれを望みません。

 だからこそ、王子はこの危険地帯で足踏みしていたのです。聖国のプリンセスは間違いなく戦士でした。

 そして、その子に血を分け与えたのが現聖国王様です。彼の猛々しい様は正しく、ターリア姫の父と言えるでしょう。


「手数は多いようだが、技術はどうかね? 他者から奪った偽物の力では、最大限の力を引き出せはせん」

「ならば、全てを網羅した不完全に徹し、別の手段で敵を下せばよい。態々相手の得意分野に合わせる必要もあるまい」

「なるほど、違いないわ」


 剣の技術では聖国王様が圧勝しています。いくら杖を動かそうとも、透明な剣はそれを潜り抜けて確実に身体を切りつけました。

 一見するとペンタクルさんが惨敗しているように見えますね。ですが、彼は魔族であり回復魔法の心得も持っています。多少のダメージは全く意に介していませんでした。

 瞬時に回復し、隙を見て雷魔法を撃ちこむ魔王さん。その攻撃をまともに受け、透明化していた聖国王様の鎧が露わになります。


「ぬう……やりおる……!」


 が、ステータスが高いのか相当に頑丈ですね。びりびり痺れていますが完全に無視し、聖国王様は大剣による攻撃を続けます。

 流石にこれ以上は回復が間に合わないと思ったのか、ペンタクルさんは空中へと飛び上がりました。ですが、雷を払いのけた聖国王さまは剣で床を抉り、その残骸を彼に叩きつけます。

 逃がさない。仕切直させない。このまま一気に決める。恐らく、彼はこれらの意思を胸に攻めきるつもりでしょう。

 まったく、距離を取らせてはくれませんでした。


「クハハ! 弱き人間という種族でありながら大したものだ。貴様が人類最強であることを認めよう!」

「ぬかしおる。お前とて転生者であり人ではないか。神にでもなったつもりかね?」


 再び透明化魔法を使い、自身の姿を消す聖国王。ですが、あらゆるスキルを扱えるペンタクルさんは当然気配を察知しているでしょう。

 無駄です。無意味です。例え一つの得意分野を持っていようとも、彼はその弱点を的確に選ぶことが出来ます。それこそが、技の異世界転生者としての強みでした。

 三つのリングが掛かった錫杖。それをくるりと回し、魔王様は透明な刃を受け止めます。


「神とは安く言う。だが、それも良い。この世界のありとあらゆる能力を手にし、神々の力すらも奪った時。我は神をも超える存在となろう」

「自惚れるなよ青二才が。例え驚異の力を手にしようとも、必ずどこかで壁に直面する。決して神を越えられはせん……!」


 対し、聖国王は全身の筋肉を使い、力技で杖を押し付けました。

 やっぱり、パワーもスピードも王が上。加えて技術力も勝り、取っ組み合いではまず負けないでしょう。

 ですが、ペンタクルさんが相手の土俵に上がるはずがありません。彼は何らかの魔法を使い、自らの姿を消します。そして、聖国王の背後から突然その姿を現しました。


「超えれぬ壁は壊すまでだ。この世界を支配した末に、我は神として君臨する!」

「ほう、ならば手始めにこの私を超えて見せよ……!」


 後ろを振り向きもせず、聖国王様は透明な剣を背後に振ります。それにより、ペンタクルさんの不意打ちを容易く受け止めてしまいました。

 瞬間移動による背後からの攻撃もダメ。ですが、多くのスキルを持つ彼にとって、技一つ防がれたのは問題ではありません。切り替え、更なる手段による攻撃を加えていきます。


「これは……」

「先代魔王から奪った影使いのスキルだ。よく動く貴様には相応しい技であろう?」


 ペンタクルさんは自らの影を触手のように動かし、聖国王の剣を縛ってしまいました。確かに、これなら力技なんて関係ありません。

 さらに、黒い影は床から延び、敵の両足すらも拘束していきます。流石の聖国王もこれには危機感を抱いた様子。剣の透明化を解除し、全魔力を攻撃へと集中させました。


「ぬう……!」


 魔力と筋力による力技、それによって剣に巻きつく影を払います。続いて、その剣を床に叩きつけ、自身もろとも拘束する影を吹き飛ばしました。

 もう、慢心などあるはずがありません。聖国王は鬼神のような形相を浮かべ、的確に剣を振り落としていきます。攻撃は確実にペンタクルさんの身体を抉り、ダメージを重ねていきました。


「どうした若僧……! まだ私は止まっておらんぞ……! この首……討ち取って見せよ!」

「では、これでどうだ。影も効かぬのならば更なるスキルだ」


 魔王様はマントを翻し、ジャンプ系のスキルによって距離を取ります。そして、指をパチッと鳴らし、聖国王様の身体に何らかの効力を与えました。

 急に力が抜けたのか、手を震わせる王。これは毒……? いえ、その上を行く呪いの類ですね。


「何とも多彩な……」

「こちらのダメージに比例する呪いを与えた。捨て身のスキルだが、覚醒を維持するのも骨が折れるのでな。ここまで我を追い詰めた事、褒めて使わそう」


 右目を抑え、徐々に息が荒くなるペンタクルさん。余裕の表情を崩していませんが、回復が間に合っていないのは分かります。

 恐らく、聖国王様はこの世界では間違いなく最強格でしょう。ですが、その力を持ってしても異世界転生者には及ばなかった。チートとその他では確固たる差があったのです。

 ペンタクルさんは錫杖を振りかざし、呪いに蝕まれる王を狙いました。ですが、相手も一国を治める者。頂点に立つ者としての誇りがあります。


「私は聖国王……故に決して膝はつかぬ……! さあ、来るがよい……!」


 以前として剣を向ける聖国王。対し、ペンタクルさんはその瞳からクローバーの紋章を消します。


「貴方は……たぶん僕なんかよりも立派な人なんでしょう。だけど……終わりだ」


 再び浮かび上がるクローバーの紋章。同時に、彼はかまえた錫杖を真っ直ぐ突き出しました。

 対するは王の剣。ですが、苦し紛れのその一撃では魔王を止められはしません。クローバーの力を受けた錫杖が、聖国に輝く聖剣を打ち砕いたのです。

 剣が砕かれるのと同じくして、聖国王の胸部を杖が貫きました。それは、間違いなく決定的な一撃。長い戦いを終わらせる最後の一撃でした。


「言い残すことは……?」

「見事」


 砕かれた剣を持ったまま、前のめりで倒れる王。

 その時、少女の声が響きました。


「おとうたまあああああ……!」


 王の間に、聖国の空に木霊する声。

 涙であふれる幼い少女の眼、世界を怨む冷たい魔王の眼。その二つの視線が重なりました。


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