143 ☆ 大乱闘のハチャメチャです! ☆
私は今、城門にて黄金色のゴーレムさんと対峙しています。
彼は赤い宝石が施された剣を構え、ジェット噴射でホバリング中。完全にこちらを敵と見定めていました。
さーって、厄介なのはあの機動力ですよ。動きで翻弄しようとも、すぐに対応して襲い掛かってきます。
加えて、お喋りできないのも美味しくありませんね。会話こそが私の得意分野。それが使えなくては、心の異世界転生者としての力を発揮できません!
「さてさて、どうしましょうか」
『恐らく、トリシュの方もこの門で止まるだろう。彼女のサポートに期待してはどうだろうか』
「回復と強化で何とかなりますかねー」
現在、トリシュさんは魔王サイドとしてここに来ています。私との結託に気づかれ、裏切りを悟られるのは避けたいでしょうね。
だからこそ、彼女はずっと姿を現していません。大方、私を囮にして影から影へ移動しているのでしょう。別にいいですけど、サポートぐらいはしてほしいところです。
まあ、他に期待しても仕方ありません。敵さんは既に戦闘体勢なんですから。
ゴーレムさんは左手を開き、五本指の先端をこちらに向けます。そして、そこからガトリングのように魔弾を放ってきました。
どうせ、空から降りる気はないんでしょう? 分かっているので、走り回って攻撃を回避していきます。そして、大ジャンプで彼の肩に飛び乗ってやりました。
「よっと! どこかに乗り込み口とかあります?」
首の後ろを見ると、明らかに人が出入りするドアがあるじゃないですか! すぐに手をかけますが、ロックが掛かっていて開きません。
中の人とお話ししたいんですけどねー。ホバリングしていたゴーレムさんは急発進し、私を振り落とそうと空中で回転していきます。
がっしり頭を掴みますが、流石にこのジェットコースターは耐えられませんよ! すぐに手を放し、地上へ向かって降り立ちました。
ま、その地上は門の向こう側ですけどー。
「門を跳び越える手間が省けました。これで、アイルロスさんとグルミさんを足止めできますねー」
おちょくられて怒っているのか、ゴーレムさんが滅茶苦茶ピーガーピーガー言ってます。彼は地上へと降り立ち、剣を振り回しながらこちらに突進してきました。
水の魔石で動く噴水、しっかりと手入れされた花々。美しいお城の庭園にて、黄金の王子様とチャンバラを開始します。ジルさんの作ったナイフは超頑丈ですから、大きな剣でも簡単に受け流せますよ!
技術はこちらが上。完全に弄んでいます。ですが、相手は頑丈なゴーレムなので攻め手がありません。
ここは逃げるが勝ちですね。ですが、流石に時間を使いすぎたようです。
門を超えた事もあり、ついに来てほしくない人がこの場に参入してしまいました。
「我名は聖国騎士団所属、アロンソ・キハーノなり! 吾輩と一騎打ちをし、即刻この城から立ち去れィ!」
「げ……アロンソさん……」
ターリア姫の護衛係として知り合った彼。中年親父の窓際騎士、アロンソ・キハーノさんでした。
これはヤベー……ヤベーってレベルじゃねーです! 強くもないのに、どうして首を突っ込むんですか! 貴方には死んでほしくないんですって!
どうやら、混乱に乗じて騎馬を引っ張ってきたようです。滅茶苦茶よろよろしてる事から、前線を退いた老馬のようですね。って、可愛そうだから乗らないでください!
「アロンソさん! 彼は滅茶苦茶強いんですって! すぐに逃げてください!」
「流星のコッペリア、貴殿の指図は受けん! 万全を尽くして戦いに臨めば、半ば勝ったも同然だ!」
勝てるかい! 一応、私じゃなくてゴーレムさんを敵だと認識してるようですが……
槍を構え、黄金の王子様へと突撃していくアロンソさん。すぐに止める事を考えますが、止めたところで敵は容赦なく攻撃してきます。このままでは揃ってお陀仏ですよ!
なら、止めるべきはゴーレムさん側! 私は老馬よりも速く走り、それを追い抜いて先に敵と対峙します。そして、ナイフを振り払い、黄金の剣をしっかりと受け止めました。
「させない……殺させない!」
ですが、心の乱れがご主人様の操作を弱めます。パワー勝負が苦手なこともあり、ゴーレムさんの力によって容易く押し退けられてしまいます。
城壁に叩きつけられ、背中を強く強打します。ですが、そんな事はどうでも良い……! アロンソさん……止まってくださいアロンソさん……!
貴方の槍ではあいつを貫けない……絶対に返り討ちにされます……!
叫ぶ白髭の騎士。仇名す敵を狙う槍。
黄金の巨人はまるで嘲笑うように、巨大な剣を天高くへと振り上げます。
が……
「吾輩が忠義を尽くす王家に、一切の手出しはさせぬ! 命ある限り、希望はあるものだ!」
「ピ……ガガガガガガガガ……」
私は……夢でも見ているのでしょうか……?
おんぼろ装備の騎士に、惑わされてでもいるのでしょうか……?
いえ、これは紛れもない現実です。
アロンソさんの槍が、あの超合金で出来たゴーレムさんを容易く貫いたのです。
構成する魔石を破壊されたからか、敵の腹部からバチバチと火花が飛び散りました。
どこからどう見ても致命傷。な……なんで一般騎士のアロンソさんが、魔王軍幹部に一撃を加えちゃってるんですか!
まったく状況を理解できないまま、二人の戦いは続きます。ゴーレムさんは振り上げた剣を叩きつけつつ、お腹に刺さった槍から逃れました。
ですが、アロンソさんの乗ってる馬が何故か速い! 滅茶苦茶速い! たじろぐ敵を追い詰めるため、彼らは一気に走り出しました。
「うおおおおお……! 巨人め! 吾輩の槍からは逃れられんぞおおお!」
繰り出される突き! 突き! 突き! ぶっ壊されていくゴーレム!
さっきまで超強気だった王子様ですが、今はとても情けなく見えます。彼は怯えきった様子で、逃れるように空中へと飛び上がりました。
今の一瞬で装甲はボロボロ。心なしか、青い宝石の瞳が涙を流しているように見えます。
恐らく、ゴーレムの内部は外の様子が見えづらいのでしょう。状況を理解するためか、後ろのコックピットから一人の少女が顔を出しました。
「ぼ……ぼぼぼぼ……ボクの王子様がー! 何なんだい! あのおっさんはー!」
きゃ……きゃわわー!
出てきたのは小さな少女。ツバメを模した帽子をかぶり、ツインテールが滅茶苦茶あざといです。
どうやら、あの見た目で私より年上のようですね。彼女がドモスさんの言っていたドワーフの姫、モニア姫のようでした。
「おっさんだらけの国から飛び出したのにまたおっさん!? ボクはずっと、おっさんに追われる運命なの!? 絶対嫌! 鉄壁無敵! ボクが作った幸福の王子さまが、ぶっ倒してやるんだから!」
ほっぺたを膨らませ、アロンソさんを指さすモニア姫。確かにこれはお転婆ですね……
姫の命令を聞き、黄金の王子様は剣を収めます。そして、両手の指を白髭のおっさんに向け、そこから魔法弾を一気に放っていきました。
そんな……これだけの攻撃を受けたらアロンソさんは……
今度こそ終わる……死ぬ……? そんなの嫌です……!
「アロンソさん……!」
すぐに走り出しますが、攻撃が速くて間に合いません。
まるでマシンガンのような魔弾の雨を受けたアロンソさんは……
ピンピンしていました。全く効いていません。
これにはモニア姫も青ざめながら叫びます。
「もう! このおっさんイヤー!」
えー……これ、絶対種も仕掛けもありますよね……
私は周囲を見渡し、このマジックのトリックを探します。すると、城壁の影に一人の少女を見つけました。
彼女は三番の異世界転生者、トリシュ・カルディアさん。どうやら、強化魔法と回復魔法でアロンソさんを最強に仕上げたみたいですね。
悪い顔してるなあ……私も性格悪いですけど彼女には劣ります。敵じゃなくて良かった……
「ここは任せていいんですかね……」
『まず問題ないだろう。だが、時間を使ったことで敵に追いつかれてしまったようだ』
ご主人様の声と同時に、城壁を超えてアイルロスさんとグルミさんが降り立ちました。
あちゃー、ついに追いつかれちゃいましたか。めんどくせーですねー。
一々相手をしても仕方ないので、すぐに地面を蹴って走り出します。もう、ここは王宮の庭園。目的地は目の前なんですから!
ですが、涙目のモニア姫と違って、アイルロスさんとグルミさんはやる気十分。当然、私を追って走り出しました。
「いい加減、捕まるニャー!」
「逃げても無駄だぜ嬢ちゃん!」
「やーん! 付いてこないでくださーい!」
目的地は宮殿の最上階! 追いかけっこを再開する私に向かって、アロンソさんが叫びました。
「テトラ殿! 喜劇で一番難しい役は愚か者の役だが、それを演ずる役者は愚かではありませんぞ!」
あ、そう言えばさっき、彼の名前を呼んじゃいましたね。仮面をかぶっても声は誤魔化せません。いくら鈍くても、流石に気づいてしまったようです。
ですが、問題はありません。アロンソさんは強化を受けつつ、モニカさんに向かって槍を向けました。
「いかに困難な状況であっても、解決策は必ずある! 救いのない運命などはなく、必ずどこかに救済の手が差し伸べられているものだ! 聖アウトリウスさまの加護あれ!」
救いのない運命はないですか……騎士らしい言葉ですね!
そうです。私は道化を演じていますが、自分が愚かだなんて思っていません。正しいと信じているからこそ、行動しているんです!
身体を糸で引っ張ってもらい、一気にその場から離れました。たぶん、アイルロスさんとグルミさんが何かしらのアクションを起こします。ここで撒かないと後が辛い!
走りながらも振り返り、纏めて相手をする決心をします。ですが、それと同時に一匹の鳥が目前へと降りました。
「とりぴっち!」
「え……? キュアノスくん!?」
キッと目じりを上げるのは、青い鳥のキュアノスくん。彼は私を守るように翼を広げ、そこから青く透き通った障壁を張りました。
この壁により、向けられたアイルロスさんの剣を完全にガードします。まさか、唯鳥ではないと思っていましたが、こんな魔法も使えるとは!
猫の精霊も力を入れますが、全く壁を突破できません。どうやら、彼はキュアノスくんの正体を知っているようでした。
「まさか、貴殿は……し……ししし……シームルグさまニャー!?」
「ぴっちー」
白々しい態度を取りながら、青い鳥は鼻歌を奏でます。
シームルグ様って……どこかの神様って事ですかね?
やっぱり、彼はバアル様と同じ立場だったという事でしょう。信仰を奪われ、小鳥の姿になってしまった。そう考えるのが妥当です。
なんで、このタイミングで助けてくれたのでしょうか……それを考える暇もなく、今度は三人となったグルミさんがフォークのような武器を向けます。
「お嬢ちゃん! 三方からの攻撃は防げねえだろ!」
「あん? 楽勝だろ」
そんな彼に受け答えをする老人、キュアノスくんに次いで現れたのはその主人でした。
フラウラギルドマスター、ジョナサン・シールバードさん。彼は「にしし……」と笑いながら、両手の人差し指をグルミさんに向けます。
そこから放たれたのは強力な水鉄砲! 分身の豚さんを消滅させ、残る本体に強力なハイキックをぶち込みました。
義足による蹴りは痛そうですね……相変わらず、あの足でよく動くお爺さんでした。
テトラ「藁も木も吹き飛ばされます。万全を期してのレンガですか!」
グルミ「こいつは教訓だ。物を作るときは手間暇をかけるべきってな」