142 ☆ 猫さん・豚さん・王子さまー! ☆
私とトリシュさんとで王宮を目指すことになりました。
ですが、クレアス国側に見つかれば戦闘は確実。それに、二人の結託を気づかれてしまうのも好ましくありません。
なので、互いに付かず離れずの距離感で進むことを決めます。そもそも、私は陽動特化でトリシュさんはサポート特価。噛み合いは良くないので、この形が正解でしょう。
また、ご主人様に運んでもらうのも好ましくありません。
空中では格好の的になり、王宮に向かう事も筒抜けになってしまいます。走って出来るだけ目立たないように動くのがベストですね。
「ささっとこの戦場を切り抜けましょう。ご主人様は操作の方に集中してください」
『理解した。トリシュと同じく、私はサポートに徹しよう』
私を操作している間、ご主人様は片手しか動かせません。さらに、本気を出して両手で操作する場合、完全な無防備となってしまいます。
彼は戦闘特化ではないインドアな悪魔ですからね。あまり無茶をさせるのは良くないでしょう。
要はいつも通り、華麗なアクロバットで切り抜ければいいんです。さーって、一丁やってやりますよー!
「イッツショータイムです!」
両腕を後ろに伸ばし、ダッシュで王宮へと向かいます。街では既に戦闘が始まり、歌で意識の奪われていない騎士たちが戦っていました。
数の上では聖国側が有利だったはず。ですが、セイレンさんの歌は街全体へと広がり、下級騎士は完全に無力化されています。完全に逆転されましたね。
それでも、残りの騎士たちは私を敵と認識します。まあ、流星のコッペリアとして暴れた事があるので当然ですよねー。
「流星のコッペリアかっ! やはり貴様もクレアス国側だったか……先の雪辱を果たさせてもらう!」
道をふさぐのは王都の騎士団。ですが、人数は三人です。
この人たち……前回ここで相手をしましたよね……? もっと大人数だったはずですが、セイレンさんの歌で大半がダウンしてしまったようです。
まだ、戦いますか……その忠誠心が自らを滅ぼすことになるのに……
彼らの隊長が剣を振り回しますが、横に飛びのいて軽く避けます。最強と言われる聖剣隊と比べ、明らかに遅いですし技量もありません。
これは相手をしても仕方ないですね。時間がありませんし、軽くスルーして……
『テトラ! 後方から別の攻撃だ!』
「隊長……!」
私が騎士たちの剣を回避する中、外部から強力な闇魔法が掃射されます。ご主人様の言葉を受け、すぐに隊長さんに抱きついてはっ倒しちゃいました。
同時に、頭すれすれのところに魔法が通過します。あぶねーです。あと少しで共倒れでしたよ!
どうやら、クレアス国側の兵に狙われているようですね。すぐに立ち上がり、敵の注意を自分に向けることを考えます。
そんなわけで長居は無用でしょう。ですが、再び走り出そうとする私に隊長さんが聞きます。
「なぜ……私を助けた……」
「素敵な出会いをした記念ですよ。では!」
一人助けたところで意味はありません。ここで命を繋いでも、後に奪わる可能性もあるでしょう。
ですが、私は私であるために人を助けます。理屈なんてどこにもありませんが、その心がけが転生者としての能力を高めるのは事実。
だから、魔族たちを一身に引き受けます。無駄にトリッキーな動きをし、再び王宮へと駆けていきました。
「何だあの道化師は!」
「奴は危険だ! 追え!」
背後から魔法が一斉掃射されますが、全て走りながら回避します。魔族の持ち魔力は高いらしいですが、当たらなければ同じですね。
道中、戦いに巻き込まれた市民を何人か助けます。瓦礫を蹴っ飛ばして流れ弾を弾いたり、倒れている人を安全な場所に運んだり……無駄足のように見えますが、全て移動しながらの行動でした。
今のところは順調です。ご主人様は高位の悪魔、魔族が相手でも後れを取る事はありません。これなら、人を助けながらでも王宮を目指すことが出来るでしょう。
ですが、派手に動きすぎましたね。ついに、私の進撃に対して幹部クラスが投入されました。
王宮まであと半分、メインストリートを突っ切っている時です。民家の屋根から、ダンディーな声が響きました。
「ニャハハ! 随分と粋なことをしてるニャア。吾輩、その心がけは嫌いじゃないニャ!」
「う……アイルロスさんですか……」
マスケット帽をかぶった長靴をはいた猫。ケットシーのアイルロスさんです。
彼は前回の王宮襲撃時にも加わっていました。ハイリンヒ王子に聞いたところ、戦闘スタイルは技術とスピード特化。小細工なしでも強いタイプでした。
彼はサーベルを振り落としつつ、屋根の上から私に向かって飛びかかります。串刺しになるのは簡便ですねー。ダッシュでかわし、無視して王宮を目指しちゃいました。
「よく動くニャア! その動きでトリシュの嬢ちゃんを切り抜けたのかニャ?」
「はい! 翻弄するのは大得意ですから!」
アイルロスさんはお髭をピンッと弾き、すぐに後を追ってきます。流石は獣だけあって、足は滅茶苦茶速いですね。
あっという間に距離をつめられ、再び剣を向けられてしまいます。後方からの追い討ち、どうせ逃げ切れないので相手をするしかありません。
振り向きざまにナイフを抜き、敵の斬撃をさくっと受け止めます。足は止まってしまいますが相手は幹部クラス。多少のロスは仕方ないでしょう。
力比べになるのは望ましくないので、すぐに振り払って剣を弾きます。ですが、相手は猫なので身体が柔軟。無理な体勢から二撃目、三撃目を放ってきました。
「ニャハハハハハ! ウサギを仕留めるのは大得意ニャー!」
「お喋りで人を食う態度。柔軟でトリッキー。親近感を感じますねー!」
繰り出される連撃、それらを全てナイフによっていなします。戦闘スタイルが似ていることもあって、勝負はまったくの互角。これは武器を弾けそうもありません。
ヤバいですね。ちょっと楽しくなってきました。こっちも暇ではないんですが、逃げ切る事も難しそうですし……
仕方ありません、得意のお喋りで切り抜けましょうか。
「アイルロスさんは精霊なんですよね? 何故クレアス国に協力するのですか?」
「『魔王様に気に入られるため』ってところかニャア。魔族の勝利が決まった時、精霊の立場を守るために必要ニャ。それに、主君に忠誠を誓うのが我輩の理念ニャー!」
連撃からの止めとして、強力な突きを放つアイルロスさん。それを見切り、ジャンプして華麗にサーベルを踏みつけました。
ですが、彼は決して武器を落としません。焦りながらもすぐに持ち直し、更なる攻撃を与えようと構えます。
まあ、させませんけどー。それより先に右足を動かし、さらっと足払いをかけてやりました。
剣による戦いに集中していたアイルロスさん。当然、この一撃によってすっ転んでしまいます。
「ニャニャ!? 卑怯ニャ……!」
「最っ高の褒め言葉ですねー」
長靴なんて履いてるから悪いんですよー。サイズも合ってないのに、踏ん張りが効くわけないじゃないですかー。
そんなわけで、猫さんは無視して王宮へと直行です。どうせ追いつかれてしまいますが、何度かあしらっている内に到着するでしょう。
幹部クラスが相手でしたが、まだまだ余裕ですねー。ご主人様の操作は十分に対抗できています。これなら、かるーく振り払ってやれば……
『テトラ! 前方から新手だ!』
「止まりな嬢ちゃん。下手に動けば怪我するぜ……」
ご主人様の声と同時に、進行方向に立ち塞がる敵を認識しました。
相手はローブを身に纏った豚さんです。魔族と共に進軍してきたオークのようですが、ここで挟み撃ちはキツイってレベルじゃねーですよ!
彼は何らかの魔法を詠唱し、地面から赤茶色いブロックを何個も作り出します。そして、それらをこちらに向かって一気に放ってきました。
単純、単純です! しゃがんで一つ目を回避! 転がって二つ目と三つ目、足で蹴っ飛ばして四つ目を回避! 五つ目もナイフでさらっと軌道を変えちゃいます!
そして、避けたそれらは後方へ。
立ち上がるアイルロスさんにぶち当たります。
「ニ゛ァグフゥゥゥ……! グルミ……酷いニャ……」
「わ……悪りいな……」
下手に動いたのでアイルロスさんが怪我しましたねー。やっぱり、魔王様は実力者を滅茶苦茶に集めただけなので、コンビネーションは最悪といった感じでした。
あの豚さん、グルミさんという名前なんですね。人魚のお姉さんから凶暴なオークの王と聞いていますが、全然そんな感じではありません。
自分のミスプレイを反省してか、今は呆然としているように感じます。なので、真横を素通りしちゃいました。
「あ、通りますよー」
「なっ……! 人をおちょくりすぎだぜ嬢ちゃん!」
猫より足は遅いので、簡単に振り切れそう。なーんて浅はかな考えは容易く打ち砕かれます。
グルミさんは背後で何らかの魔法を使用し、自身の気配を増やしました。嫌な予感がして振り返ってみると、そこに居たのは三匹のオーク。な……何で増えてるんですかー!
二匹で一匹を持ち上げ、こちらに向かってぶん投げます。や……ヤベーです! これは絶対にヤベー奴です!
「ご主人様! 両手操作オネシャス!」
『承知した』
超反応で身体を動かしてもらい、側転で突進を回避! 自分の分身にぶん投げてもらうって、無茶苦茶な手段を使ってくるじゃねーですか!
でもでも、私の反応が速かったですねー。こっちはご主人様と合わさり、二重の感覚を持っているんですよ。オーク砲弾なんてかるーく避けちゃいますからね!
攻撃を回避され、そのまま前方へと吹っ飛んでいくグルミさん。ですが、すぐに地面に足をつけ、急停止してしまいます。そして、再び私の前に立塞がりました。
「やるな嬢ちゃん! だが、大人を舐めてもらっちゃ困る。今の技は先回りを兼ねて…………ふぎゅっ!」
が、そんな彼をジャンプで踏みつけ、ささっと通り抜けちゃいます。
残念ですが相性が悪いようですね。鈍足アタッカーの貴方は、回避と翻弄を得意とする私が大の苦手でしょう。
得意の分身も、こちらから攻撃する気がないので身代わりとして機能しません。行動全てが裏目に出るのは、私との噛み合いが悪い事を意味していました。
さーて、そんなこんなで強敵二人を突破です。
王宮まであと少し! ですが、大きな門の前には一際ヤバそうな人が突っ立っていました。
「彼……見張りですよね……?」
『まず確実にそうだろう。不味いぞ、後ろからはアイルロスとグルミが追ってきている。このままではまた挟み撃ちを受けてしまう』
王宮外の騎士たちが入らないよう、クレアス国側の見張りが剣を構えています。
頭には王冠、目は青色に光り全身が金色に輝くロボット。これは、ジルさんが作ったゴーレムとまったく同じ作りですね。
彼はこちらを認識し、足元から赤い炎を噴出します。そして、剣を突きだしながら一直線に突っ込んできました。
「ちょっと! 問答無用って奴ですかー!」
ジョット噴射による突進。降霊の糸で引っ張ってもらい、大ジャンプで回避します。
何という加速力ですか! これも、魔石による強化で良いんですよね? まさか、異世界の人がジルさんクラスの発明を作るとは驚きましたよ!
ゴーレムはすぐに方向転換し、ピーガーピーガー言いながら空中へと飛び上がります。中に人がいるかは分かりませんが、居ても話を聞いてくれそうもありません。
まったく、何という連戦ですか!
トリシュさんの方は大丈夫なんでしょうかね……
アイルロス「貴方は何でも変身できると聞いたニャア。ですが、小さいネズミには変身できるかニャ?」
テトラ「見え見えの罠ですね。おバカなオーガは、策士のネコにご用心です!」