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136  聖国は闇だらけでした


 そもそもの話し、情報交換の席を設けたのは国王様でした。

 恐らく、モーノさんの動向を警戒し、協力するという形で割り込んできたのでしょう。これでは重要な話しは出来ませんし、監視されてるので動きも限られます。完全に雁字搦めですよ!

 なので、早めに切り上げてお城から出ちゃいます。最低限聞きたいことは聞きましたし、あの状態では大天使様や転生者の話しは出来ないでしょう。まったく、めんどくせーものです!


 まあ、スノウさんを合流させたので良しとしますか。

 私はバアルさまと二人、人ごみで賑わう王都を歩きます。とりあえず、モーノさんからの連絡を待つしかありません。彼となら交信魔法で情報交換できるでしょう。


「バアル様、交信魔法を待ちますよ。モーノさんなら都合よく解決してくれるはずです」

「無駄よ」


 そんな私の言葉を否定する少女。それはバアル様ではなく、突然現れた第三者でした。

 振り向いた先にいたのは、モーノパーティーのメイジーさん。恐らく、モーノさんが使者として送ったんでしょう。用意周到ですね。

 彼女は交信を無駄と切り捨てますが、いったいどういう事でしょうか。便利な魔法はどんどん使うべきだと思うんですけどー。


「い……いきなり現れてなんですか! 交信魔法の何が無駄と!」

「モーノさまが言うには簡単に『じゃっく』されるんだって。相手が悪魔なら尚更警戒の必要があるみたいよ」


 うげー、交信魔法って未完成なんですね。まあ、使用者があまりにも少ないので、納得と言えば納得なんですが。

 そうなれば、メイジーさんとの情報交換が重要となります。すぐに場所を変え、聖国騎士たちのいない裏路地へと入りました。

 ここなら大丈夫でしょう。さあ、何があったか話してもらいますから!


「メイジーさん、国王に聞かれたら不味い話しがあるんですね?」

「ええ、まず第一に聖国上部は真っ黒という事。次にハイリンヒ王子は意図的に追放された可能性が高いという事よ」


 うっわ、どっちもやべー。想像はしていましたが、やっぱりやべー。

 どうやら、モーノさんはターリア姫の護衛をしつつ、この聖国を調査していた様子。その結果、色々と真っ黒い事情が見えてきたようですね。

 メイジーさんは話します。この聖国で起きた二つの事件、それこそがこの国を黒とする要因でした。


「十二年前、ハイリンヒ王子が行方不明になる事件があったわ。今回の失踪は二度目ね。その犯人である魔女が、裏で聖国と繋がっていたのよ」

「魔女とはなんじゃ? 種族かのう?」

「聖国では種族扱いだけど、正確には『禁術に手を出した女性の同盟』ね。表向きは忌み嫌うべき存在、裏では聖国とズブズブの関係。今、本当にクレアス国とクリーンな同盟を結んでいるのかも怪しいわ」


 一応、魔女はクレアス国と同盟を結んだ八種族に含まれています。それが、敵対関係である聖国と繋がっていたとすれば大問題でしょう。

 さらに、魔女という存在はもう一つの事件にも関わっていました。私たちにとって、そちらの方が重要なのかもしれません。


「魔女が関わった事件はもう一つあるわ。それがリデル家の焼失事件。アリシアちゃんの一家がドラゴンに焼き払われた事件よ」

「まさか、そのドラゴンを操っていたのが魔女!」

「逆よ。アリシアちゃんのお母さんはね……魔女だったのよ」


 なななっ……! そっちですか! 殺された方が魔女なんですか!

 となれば、アリシアさんは魔女とのハーフさん? でもでも、リデル家の誇り高き剣って言ってたじゃないですか! 剣と魔法では真逆でしょう!


「リデル家は剣の名家でしょ! 誇りはどこに行ったんですか!」

「ええ、父親のセオフィラス・リデルは剣士よ。まあ、その正体は麻薬の売人。剣の力もドーピングって話しだけど」


 アリシアさんのお父さんが麻薬の売人……? じゃあ、ジルさんの言ったように、魔力を底上げする丸薬は危険薬物の一種という事ですか!?

 待ってください。そんなお父さんと結婚したのが、魔女のお母さんなんですよね……? って事は、禁術を薬品開発に組み込めるじゃないですか! こんなの完全に政略結婚ですよ!

 全ては聖国の意思ですね。気になるのは、出来上がった麻薬が国内で流通していない事。つまり、そういう事なんでしょう……


「麻薬の売人であるお父さん、魔術や調合のプロであるお母さん。この政略結婚によって、最強の薬物機関が完成したってわけですね。目的は麻薬の国外流通。クレアス国を骨抜きにし、更にお金を搾り取るという国家戦略ですか……」

「察しが良いわね。調べた結果、アリシアちゃんの両親は聖国大臣よ。たぶん、上層部はみんなこの事を知っていたんじゃないかしら。ほんと、まいっちゃうわね……」


 メイジーさんは大きくため息をつきます。友達のことを思えばこんなテンションにもなるでしょう。

 ですが、話しはこれで終わりません。アリシアさんには更に大きな試練が待っていました。


「で、ここからが本題。死んだと思っていたアリシアちゃんの双子の妹、ドロシア・リデルが魔王側の魔女として現れたわ。本物かは分からないけど、モーノさまは禁術によって生き延びたことも考えられるって……」

「それは良かったじゃないですか!」

「プラス思考か!」


 え、だって死んだと思っていた家族が生きていたんでしょ? 凄く良い知らせだと思いますけどねー。

 でも、敵対関係ってのはよろしくないですね。何とか和解できればいいんですが……

 なーんにも知らない私の感想に、メイジーさんは頭を抱えます。なにやら、私が思っていたより単純な問題ではないようでした。


「いい? 剣士のアリシアちゃんはリデル家の表の顔。魔女のドロシアは裏の顔よ。二人は聖国の二面性を現してる。少なくとも、ドロシアは全て知って魔王側に組してるはずよ」

「それで、アリシアさんには話したんですか?」

「言えるわけないでしょ。でも、たぶん察してる。今のあの子はとても不安定よ……」


 私の知らないところでアリシアさんは追い込まれています。

 ずっと、これは転生者同士での問題と考えていました。ですが、前にご主人様が言ったように、私たちの関わりによって世界は大きく動いています。

 奇しくもこれはバアルさまの目論み通り、当然彼女も無関係ではありません。だからこそ、私たちは神妙な顔で考えました。


 これも異世界無双の代償ですか……?

 良いですよ。背負ったうえで解決してやりますから。


「じゃあ私、モーノさまのところに戻るから。アリシアちゃんを元気づけないと」


 赤い布で頭を隠し、メイジーさんは城へと戻っていきます。そんな彼女を私たちは見送りました。

 路地から出た先にあるのは人々で賑わう街。色々な人がいますが、その中で一際大きな声で叫ぶ老人が目に入ります。

 彼は狂ったように演説していました。その内容は政治的ですが、理性があるとは思えません。


「ハイリンヒ・バシレウスはろくな魔力を持たない王家の面汚しだ! 聖国王は強大な魔力を持つ実力者と決まっておる! 今のバシレウス七世も、その前もそうじゃった! 奴が消えたのは大いなる主の意思! これは必然じゃ!」

「……どこにでも老害はいるものじゃのう」


 周りからは白い目で見られていますが、この思想が広まってしまう事が恐ろしい……

 メイジーさんの言った一つ目の事件。十二年前にハイリンヒ王子が行方不明になったこと。それは、彼が生まれつき魔力を持たない事と関係があるのかもしれません。

 聖国王は魔法の天才であり、剣を扱えなければならない。その国民共通の認識が、王子を追放するという判断に追い込んだ。その可能戦が考えられました。


 ハイリンヒ王子……何とか接触できないでしょうか。

 そう、私は思いました。









 夜になってしまったので、商業ギルドでご主人様と合流します。

 王都支部は元々本部だった場所。なので、キトロン本部より大きく、商業的な施設が整っていました。

 また、貴族の皆さんも出入りするので豪華な作りです。流石は聖国の商業を支配する巨大組織と言えますね。

 だからこそ、王や大臣はその力を警戒しています。まあ、元々ツァンカリス卿が武力主義への対抗として作った組織。警戒して当然なんですけどー。


 ギルドマスターのシャイロックさんは忙しく、私は顔を合わせれませんでした。ですが、ご主人様が会話し、寝泊りできる場所を提供してもらったようです。

 なので速攻で部屋に入り、速攻で寝ました。こちとら、ミリヤ国への旅から連続で動いてる身。もう体力的に限界なんじゃー!




 そんなこんなでぐっすり眠ります。久々のベッドという事もあり、完全に熟睡ですね。

 特別なにかに警戒したりとか考えていません。私は冒険者でも何でもないですから、命の危機なんて身近に感じていませんよ。

 ですが、これは異世界転生者としての能力なんでしょうか。深夜、不意に目を覚ましてしまいます。

 何だか嫌な予感がしました。ここで起きないと絶対にヤバイ。そう、感覚的に感じ取ったのでしょう。


「うーん……むにゃむにゃ……バアルさま……?」


 初めはバアルさまの気配だと思いました。ですが、神である彼女は睡眠を取らず、真夜中は外へ出歩いています。

 ご主人様も寝ませんし、この部屋にいるのは私だけのはず。にも関わらず、確かに何者かの気配を感じました。

 ふと風を感じます。窓が完全に開いていますし、そこから吹き込んだのでしょう。


 や……ヤバい! 本当に誰かいる!


「だ……誰ですか……!」

「反応が速いね。やはり、君が流星のコッペリアか……」


 肌に放さず持っているナイフ。それをすぐさま振り払い、何者かの剣を受けました。

 眠気眼ですが身体は動きます。どうやら、眠った私に剣を向ける不届き者がいるようですね!

 今はベッドに仰向けで寝ている状況。ですが、後転するかのように足を蹴り上げ、布団ごと侵入者を蹴り倒します。そのままベッドの上に立ち、すぐさま戦闘態勢を取りました。


「寝こみを襲うとは卑怯なりです!」

「こっちも形振り構っていられないんだ……」


 侵入者は被せられた布団を払い、再び剣を向けます。ローブ姿の青年。私より五つほど歳上って感じです。

 彼のスタイルは不気味なほどに美しいですね。完璧な構えでオリジナリティは一切なし。戦闘と言うより、武術を目的とした剣に見えます。

 ですが、だからと言って弱いわけではありません! 彼の剣は正確にナイフを狙い、それを叩き落とそうと打ち付けられます。

 こちらの狙いも相手の武器を落とすこと。両方の目的が一致し、武器を打ち付けあうチャンバラになってしまいました。


「貴方、殺気がありませんよ。話し合いじゃダメなんですか?」

「だったら、正体を白状するんだ。自分こそが流星のコッペリアだってね!」


 彼は脚に力を入れ、床を思いっきり蹴ります。そこから繰り出されるのは、人間業とは思えない驚異の大ジャンプ……

 の、つもりだったのでしょう。

 ですが、アホの子なんでしょうね。そのまま天井に頭をぶつけ、勝手にぶっ倒れます。まあ、そうなりますよ。


「痛ってー!」

「あの、大丈夫ですか……?」

「ああ、君は優しいな……」


 悔しそうに笑う青年。すぐに立ち上がると、頭を抑えて痛そうにします。

 やっぱり殺意はありませんね。彼はローブのフードを外し、その顔を見せます。

 出てきたのは金髪のイケメンでした。


「確信したよ。君が流星のコッペリアだ。会えて良かった」

「は……ハイリンヒ王子ー!?」


 カルポス聖国王子、ハイリンヒ・バシレウスさま。まさかの登場です。

 一体なぜここに? なぜローブ姿? なぜ襲ってきたの? 流星のコッペリアを探していた理由は? 全く分かりませんが、これは渡りに船!

 探していたのはこちらも同じです。さあ、良い方向に動きそうですよー!




 

ハイリンヒ「真実の愛に観てくれは関係ない。君はカエルにキスできるかな?」

テトラ「捻くれた呪いですね。かけた魔女はかなりの意地悪です」

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