135 情報交換をしましょう
ぱぱっと馬車に乗り、ぱぱっと移動し、ぱぱっと王都ポルトカリに到着します。
二度目なので特にコメントすることはありません。とにかく王都は大きい! 周りを囲む城壁が凄い! これだけでした。
前回はスピルさんとゲルダさんと一緒に行動しましたが、今回は全くの別メンバーです。
ご主人様とバアル様。スノウさんとシルバードさん。悪魔、神、死人、人間……大天使が混ざっていた前回に匹敵するメンバーでした。
「ほーう、王都というところは凄いのう! 人間も少しはやるようじゃ!」
「はいはい、バアルさま。馬車から身を乗り出しちゃダメですよー」
そんなやり取りをしながら中心街に到着。馬車を降り、モーノさんを探して王都を歩きます。
こういう時、スマホがないと不便ですね……通信魔法は一部の人しか使えませんし、モーノさんからの連絡を待つしかありません。
もっとも、彼は口下手で用件がなければ通信しない人です。と言うより、使っているところを見たことがありません。昭和の人間か!
「闇雲に探しても仕方ありません。あんな事件があった後です。たぶん、お城でターリア姫を護衛しているんじゃないでしょうか?」
「じゃあ、私が兵士さんに話してきますー。怪しい人は入れてくれないかもしれませんけど」
そう言って、スノウさんはご主人様とシルバードさんを見ます。うん、確かに怪しい。この世の怪しさを形にしたかのような二人です。
私は王様と知り合いですし、バアルさまは幼女ですから大丈夫でしょう。ですが、この二人は兵士さんを警戒させるので邪魔にしかなりません。
「ご主人様とシルバードさんは別行動ですね。二人とも、別に用事があるんでしょ?」
「そうだな。私は商業ギルドに行き、シャイロックと顔を合わせよう」
「んじゃま、俺は王都のギルドに顔を出すか。てめえらだけでモーノと話してこい」
そんなこんなで別行動開始です。
スノウさんとバアルさま。どちらも心配なのでしっかり手を繋ぎました。
「では、お城に行きます。二人とも逸れちゃダメですよ」
「はーい」
「なのじゃー!」
最近、周りがヤベー奴だらけで私が常識人になってます。もっとこう、自由奔放な道化師を目指しているんですけどね……
ですが、今はしっかりしなきゃダメです。お城が襲撃されたこともあり、王都には騎士たちがいっぱい。物々しい雰囲気を感じました。
あまり手間取ってはいられませんね。何としてでも、モーノさんとの接触が必用でした。
王宮前にて、門番さんとの対話はかなりスムーズにいきます。
どうやら、モーノさんは客人が来ることを伝えていたようですね。既に情報交換の場所は設けられ、私とスノウさんは丁重に迎え入れました。
ですが、バアルさんの存在は伝えられていない様子。滅茶苦茶怪しまれましたが、何とか幼女という事でごり押しします。
「では貴方は! こんな子供をここに置いて行けと言うのですか!」
「そうじゃそうじゃ!」
「分かった分かった……頼むから勝手な行動を取らないでくれよ。みんな襲撃があってピリピリしてるんだ」
門番さんが良い人で良かったです。監視が付けられるという条件で、三人は王宮の中へと招待されました。
モーノさんが設けた対談場所はテラス。そこまでは監視の兵士さんが案内してくれます。
彼は何人もいる兵士の中から選ばれた一人でしょう。ですが、ここでとんでもないミラクルが起きました。
「あ、アロンソさんこんにちわー」
「これはスノウ殿にテトラ殿! こんなところで会うとは奇遇ですな!」
王宮内の廊下にて、スノウさんが挨拶します。
白い髭をはやし、頑丈そうな鎧に身を包む中年のおっさん。彼の名前はアロンソ・キハーノさん。以前、私の監視役としてつけられたのでよく知っています。
これから、モーノさんと話すことは王の耳に入れたくありません。このおっさんなら誤魔化しが効きそうなので超ラッキーでした。
「ターリア姫が心配で私も来ちゃいました。王子が行方不明なので、彼女も元気がないのではと」
「それは心遣い感謝しよう。ここで話すのも難だが、吾輩は事件の時にターリア姫を任されていてな。どうやら、モーノ殿は城を襲撃した賊を追って行ったらしい」
うわ、めっちゃ何か起きてるー。完全にモーノさんと襲撃者が接触してるー。
まさか、既に賊はぶっ殺しちゃったとかないですよね? 相手は直接王宮に攻め入るほどの実力者。ですが、無敵のモーノさんなら絶対に負けません。
彼に対抗できるのは同じ異世界転生者、魔王ペンタクルさん以外にいないでしょう。まさか、クレアス国のトップが敵の大将狙って襲撃とかないですよねー。
「それで、襲撃者は倒したんですか? と言いますか、襲撃者って結局誰だったんですか?」
「逃がしたと彼は言っていたな。敵もクレアス国の上層部らしく、かなりの少数精鋭だったらしい」
うげー、モーノさんを退くほどの実力者ですか。これは相当にヤベー奴らが襲ってきたっぽいですね。
聖国の方はどうやってこの脅威を退いたのでしょうか。モーノさん以外にも戦える人がいた? これは分からない事だらけです!
とにかく聞きましょう! 話しましょう! もう、テラスは目の前なんですから!
「モーノさーん、スノウさんを返しに来ましたよー」
「来てやったのじゃ!」
ドアを開け、風が気持ちいいテラスへと出ます。そこにはテーブルと椅子が置かれ、モーノさんは既に待っていました。
ご丁寧に紅茶まで振舞われ、完全に客人への持て成しです。嬉しいんですけど、こうなると危険な会話は出来そうにもありませんね。まあ、無理なら密会するだけですけどー。
彼は気さくな態度で「よお」と手を上げ、余裕そのものでした。こっちは大事件が起きたことを知っています。誤魔化そうとしてもダメですからね。
「テトラ、バアル、よく来たな。スノウもお疲れさま。ミリヤに戻るのは辛かっただろ」
「そんな事ありませんよー。私、肝心な時に出かけていて……」
「気にするなよ。俺もことが終わった後に参入した身だからな」
三人とも椅子に座り、情報交換スタートです。とりあえず、アロンソさんも居るので言葉を選んで聞きましょうか。
「モーノさん、この城で何か起きたんですか?」
「ああ、色々起きたぞ。魔王が襲撃して、王子が消えて、トリシュが魔王側に付いた。今回の件はあいつが積極的に関わっていたようで、俺も途中からしか知らん」
なっ……トリシュさんが関わっていたんですか! で、モーノさんも途中からしか知らないと……
しかも、襲撃したのは魔王本人。まさかトップが大将の首を狙って突っ込むなんて、流石は異世界転生者といったところですよ。
当然、私たちは驚きました。ですが、その声が出る前にアロンソさんが叫びます。
「なぬ! 襲撃したのは魔王だったのか!」
「アロンソさん、私たちの台詞を取らないでください! って、トリシュさんが魔王側ってマジですか!」
関係ない人が混ざってきますがスルーします。それよりトリシュさんの事ですよ!
前にも思いましたが、これは異世界転生者同士の花いちもんめ。多くの転生者を味方にした方が有利に決まっています。
これで、転生者の戦力が完全に二分しましたね。しかも、聖国側とクレアス国側という最悪の形でした。
「何と言おうとマジだ。だが、あいつには何か考えがあるように感じた。完全に敵対したとは考えづらい」
「つまり、スパイってことですか?」
「それは知らん。転生者の中であいつが一番分からんからな」
あー、確かに同意します。助けたり、警告したり、目的もよく分かりませんね。
なんとかコンタクトを取って、真意を聞きたいところ。ですが、相手側に会話の意思がなければ通信魔法も使えません。
スノウさんは彼女を知っているのか、心配そうに顔を伏せます。
「少し前、このテラスでトリシュさんとお茶をしました。悪い人ではないと思います……」
「キトロンの街でも、あいつはわしらを助けてくれた。あの危険人物に味方するとは思えんのう」
バアル様の言うとおり、私は何度もトリシュさんに助けて貰っています。今更、疑いの目なんて向けたくありません。
彼女は身を呈して何かをしようとしています。そうに違いありません!
三番の転生者が味方だと確信する私。ですが、どうやら魔王側にも事情があるようです。
「それと、五番に例の悪魔について話した。だが、各種族と協定を結んだ以上、すでに引き返せない状況らしい。ちなみに、バアルを刺したのは敵対を確信しての行動だ。悪人とは言いづらいんじゃないか?」
「う……確かにわしも悪いことを考えていたが……」
彼、五番転生者であるペンタクルさんは女神様の計画を読んでいました。だからこそ、躊躇なく刺したのでしょう。
まあ、それは予想通りでしたね。ミリヤの女王を許さず、各種族を結託させた彼が悪人であるはずがありません。
だからこそ、正義vs正義の構図が出来上がってしまいます。完全にベリアル卿の思い通りでした。
「とにかく、ここでは満足に話しが出来ませんね。流石に例の悪魔では……」
「テトラー!」
満足にベリアル卿の名前も出せない。って思ったときでした。突然、何者かが私に向かって飛びつきます。
茨の冠をつけた長髪の少女。ジト目で人見知り、ですが懐いた人にはとことん懐く。我らが聖国の姫君、ターリア・バシレウスさまでした。
王宮の襲撃、ハイリンヒ王子の行方不明を受けて厳重に守られていると思いましたが、なんと本人からご登場です。
「た……ターリア姫! ここに居て良いんですか!?」
「おとーたまも一緒だから良いの!」
え……おとーたまってまさか……視線をターリア姫の上に向けると、そこには小太りの大男が立っていました。
聖国王バシレウス七世。この国で一番偉い人が、この場面でまさかの登場です。
よりにもよって、大事な情報交換の場に彼ですか! 流石のモーノさんも驚き、アロンソさんはすぐさま姿勢を整えます。
「こ……国王! なぜここに!」
「せ……聖国王殿に敬礼!」
国王さまは穏やかに笑いつつ、ぬるりとこの場に現れました。一体いつの間に……怖いからやめてくださいって!
それにしても、自分の息子であるハイリンヒ王子が消えたのにも拘らず、彼は一切気落ちしていないように感じます。これは、国民や兵士たちを不安にさせないためでしょうか……?
この違和感は何なんでしょう。国王様はターリア姫を撫でつつ、私たちに向かって挨拶します。
「道化師テトラ、ミリヤ国姫君のスノウ。それにお前は……」
「バアル・シェヘラザードなのじゃ!」
「そうか、よく来てくれたな。私が聖国王、バシレウス七世だ。ハイリンヒの件は心配をかけてすまない。こちらも全力で捜索しておる」
行方不明と言っても、王子自らの意思で姿を消した様子。やっぱり、エラさんと一緒に愛の逃避行という事なんでしょうか? 幸せそうだったのなんで……
ターリア姫も心なしか元気がないように感じます。やっぱり、自分のお兄さんが消えてしまったら心配ですよね。何とか元気づけてあげたいところです。
「ターリア姫、やっぱり王子の事が心配ですか……」
「なに、心配するなターリア。あいつが居ないのならば、お前が王になればよい」
上機嫌の国王さまの口から出た言葉。それは、恐らく冗談なのでしょう。
ターリア姫を元気づけるための方便。そう考えるのが自然であり、女性の国王など考えられません。
ですが、王の目は笑っていませんでした。彼の言葉を受けたターリア姫。彼女は自らの兄の事など忘れ、その眼をキラキラと輝かせました。
「あたちが王に……」
「その為にはもっと力を付けなくてな。そうだ、モーノよ。お前の実力は高く評価しておる。どうか、ターリアに魔法や武術を教えてはくれぬか?」
笑顔の中に見える確かな威圧感。王は目を見開き、僅かに低い声で言います。
「やってくれるね。モーノくん」
この人は……いったい何を考えているんですか……
本気でハイリンヒ王子を切り捨て、ターリア姫を女王にするつもりですか!? 女性以前に、彼女はまだまだ未熟ってレベルじゃないほど未熟。正気の沙汰とは思えません!
ですが、モーノさんは頷き、私にアイコンタクトを送ります。これってつまり、ターリア姫が枷になって動けないって事? 事件が起きるまで、アクションが起こせないって事ですか!
やられました。これ、ベリアル卿の策略ですよ!
聖国王「バカには見えない服と言えば、誰もが見えると見栄を張る。誰も指摘をしないとは醜いものだ」
テトラ「人間の心理ですね。正直に言えるのは純粋な子供ですか」