133 ☆ 世界を変えるパフォーマンスです ☆
決めたんです。この世界を守るって……
外の世界から来た悪魔ベリアル。彼を同じく外の世界から来た私たちが止める。
それに何の間違いもありません。例え悪魔が間接的に世界を進化させようとも、部外者が全てを巻き込む権利などないのですから。
だから自信になりました。
絶対的に正しいって言えるから、今の私は何だって出来ます!
私は、チート無双をして良いんだ!
ミリヤの村に面した海岸、そこで流星のコッペリアは海を見つめていました。
いつの間にベッドから起きたのか、なぜこんな場所にいるのか。正直、記憶が曖昧で整理しきれていません。
瞳に星を輝かせ、何か悪い事をしようとニヤニヤしています。楽しくて楽しくて楽しくて! もう、自分の感情を抑えきれないのです!
私は砂浜を歩き、水面に足を付けました。
足は沈まず、身体は水の上に停止します。魔法を使ったわけでも、スキルを使ったわけでもありません。流星のコッペリアが扱う星のエフェクト、それを水面に浮かべただけでした。
穏やかな夜の海、私は海上を歩いて沖へと歩いていきます。そして、少し陸から離れた場所で足を止めました。
「さあ、イッツショータイムです!」
星のエフェクトを周囲に浮かべ、夜の海を鮮やかに照らします。今までとは非にならないほど能力を使っていますが、成長した私なら制御できますよ!
私は流星のコッペリアです。力の全ては本来持っているもの。それを取り戻そうとしているだけの事ですから!
右手には星型のリングを出現させます。自分の体より大きい光のリング。それを天に掲げ、私と共に踊る共演者を呼び込みました!
「行きますよ! モンスターのみなさーん!」
「きゅるうううゥゥゥ!」
海面から飛び出し、星のリングを潜るイルカ型のモンスター。この付近の海域に住む凶暴な海竜で、漁師たちからは恐れられています。
フラウラギルドマスター、シルバードさんが討伐したという人魚たちの敵。凶暴かつ凶悪で、周囲の海を荒らしまわる厄介者でした。
私の世界のイルカとは違い、身体は白く瞳は真っ赤。ですが、その知能の高さはまったく同じです。
「凶暴ですが悪戯好き。だから、周囲には大迷惑ですね。今日はその悪戯心、皆さんのために使ってもらいましょう!」
「きゅい!」
強い心は魔物を引きつけ従わせる。心の異世界転生者である私なら、頭の良いモンスターを説得する事だって可能でした。
両腕を広げると、水面から数えきれないほどのイルカが顔を出します。彼らは全員主役。さあ、この夜の海を皆さんで彩りますよ!
私の指示により、イルカたちは水面から飛び出してアクロバットを披露しました。その姿は星の光によって照らされ、遠くからでもはっきり見えることでしょう。
「さあ、どんどん行きますよー!」
「きゅいー!」
星のリングを投ると、イルカたちが一匹ずつそれに飛び込みます。彼らは確かに凶暴ですが、私が遊んでくれていることを知っていました。
だからこそ、このショーを共演してくれるのでしょう。ジャンプによって水が舞い、光に照らされて美しく輝きます。音と光は周囲へと広がり、沖にも陸にも届きました。
ショーは見物人がいてこそですね。
さあ、ご覧あれ!
これが私の異世界無双です!
「私たちのドルフィナリウム。異世界に届け!」
夜のイルカショーに誘われ、ミリヤの村の人たちが集まってきます。彼らは驚いた様子でこちらを指さし、陸からたくさんの視線を向けました。
彼らは凶暴なモンスターが群れを成して現れたと怯えています。ですが、その怯えは私たちが取り除きましょう!
モンスターだって、無条件で人を襲うわけではありません! やり様ならいくらでもあるんですよ!
「続いて、ボールを使ったパフォーマンスです!」
「きゅきゅ!」
普段の星のエフェクトより角が丸くなったものを出し、イルカたちに与えました。すると、彼らはそれを鼻の先に乗せ、水上で器用な立ち泳ぎを行います。
あはは、良い子たちですね! ちゃーんと劇を熟してるじゃありませんか! さあ、観客の皆さんこれでも貴方たちは恐怖を感じますか?
面白く楽しいイルカショー! 恐れるのなら逃げればいい。ですが、貴方たちはここを離れません!
「皆さん釘付けですねー。ほら見てください。海の方からもお客様ですよー」
「きゅ?」
水が揺らされ、海底深くに住む人魚たちもこの異常事態に気づきます。彼女たちは沖の方から姿を現し、こちらに指をさしました。
皆さん、人間と同じように驚いています。種族の壁なんて関係なく、私たちが行ったことは余りにも規格外だったようですね。
では、ショーの観客になってもらいましょう! そして、私の声を彼女たちに伝えます!
「人魚の皆さーん! 今宵はこの流星のコッペリアにお付き合いください!」
「りゅ……流星のコッペリア……? 貴方はいったい……」
天高くに星のボールを投げると、一匹のイルカが大ジャンプでタッチしました。それに続くように、一つのボールを落とさないように彼らはタッチしていきます。
上手いものですね。ボールが海面に落下する前に、私はそれをキャッチします。そして、形をリングへと変え、また頭上へと掲げました。
ジャンプし、リングを次々に潜っていくイルカたち。もう、完全にここは私たちの舞台ですよ!
人間たちが人魚の存在に気づきます。人魚たちが人間の存在に気づきます。
ミリヤの女王によって引き裂かれた両種族の絆。親交と信頼はもう取り戻せないかもしれません。ですが、今日は……今日だけは一緒になって見てほしい……
陸と海を隔てる大きな壁。その上で私たちはショーを演じていました。
ただ、楽しくおバカをやっているわけではありませんよ。これは、私からの祈り……
本当は気づいていたんです。
今日、王都でたくさんの命がお星様になったことに……
「空まで届け……私たちのエンターテイメント!」
いよいよ、フィナーレです。星の光は七色に輝き、イルカたちのジャンプは激しさを増しました。
最初は怯えていた観客たちも、今はその動きと美しさに釘付けです。モンスターに襲われる恐怖など、まるで感じられませんね。
種族の壁は無くならないかもしれません。世界平和だなんて綺麗ごとなのかもしれません。
ですが、今日の事は忘れないでほしい……ずっと、ずっとこの舞台を心に焼き付けてほしいのです。
それが、私のささやかな願いでした。
イルカたちに別れを告げ、人々から身を隠します。
人間にも人魚にも見つからない浅瀬の岩。そこで一人、大の字に寝そべって夜空の星を見ました。
あははー、すっごく疲れましたけど、すっごく楽しかった……だいぶ、流星のコッペリアを制御できるようになりましたね。こういう練習も必要なのかもしれません。
果たして、これからも楽しくチートを使えるのでしょうか? 魔族との戦争になったら、誰も私のショーに見向きなんてしないかもしれません……
「でもやります。私、異世界転生者ですから……」
「いせかいてんせいしゃ……?」
どわっ……! 何ですか!
突然、私の顔を覗き込む一人の少女。すぐに飛び起き、彼女の顔を確認しました。
ヒトデ型の髪飾りをつけ、煌びやかな衣装をまとった少女。その下半身は紛れもなく魚です。どうやら、人魚の一人に見つかってしまったようですね。
彼女は瞳をキラキラと輝かせ、私の両手を握ります。そして、先ほどのショーを絶賛しました。
「良かった……すごく良かった……! 世界を変えるパフォーマンスだよ!」
「あ……ありがとうございます……」
物凄く興奮してますね。私は覚醒状態が溶けたので、だいぶテンションが下がっているのですが……
でも、無視するわけにはいきません。ファンの声に応えるのもエンターテイナーの務め! ショーを絶賛されたのなら、当然こちらも受け止めます。
人魚の少女は岩場から海に飛び込み、私と目を合わせました。そして、何らかの魔法を詠唱し、自らの周りに音符のエフェクトを浮かべました。
「コッペリアさんに勇気を貰ったから、私も歌をプレゼントします! 聞いてください……マーメイドプリンセスの歌声を!」
海上で歌う少女。その声は透きとおり、私の耳にスッと入ってきます。
この世界の歌はまだまだ未完成ですが、それでも彼女の歌唱力は凄い……現代知識で耳は超えていると思いますが、それを跳ね除けるほど完成されています。
なにより、少女の声は心に響きました。誰よりも楽しそうに歌い、そして何かを伝えようとしている。何となく、感じ取ることが出来たのです。
歌い終えた人魚さんはぺこりと頭を下げました。そして、懺悔するかのように語り始めました。
「あたしを導く音楽の天使さん……悪い人だって分かってる。私は平和とは真逆の道に進んでいるのかも……」
「歌で世界を変えたかったんですね。だって、平和を歌ってましたから」
伝えたいことが伝わったからか、彼女は嬉しそうに笑います。
そして、ようやく自らの名前を明しました。
「あたしはセイレン、あたしの歌で世界を変えるの! 絶対にね!」
「セイレンさん……なっ……魔王さんの元にいるお姫さまですか!?」
気づいた時にはもう遅く、既に彼女は姿を消していました。
おそらく、海底深くを泳いで移動しているのでしょう。これでは追う事など出来ません。
な……なんで魔王に連れて行かれた姫がここに……? 自ら付いていったと聞いていますし、意外と自由なんでしょうかね。
何にしても、私は人魚のお姫さまと接触したことになります。やっぱり、ここで水を勉強した意味はあったんだ……
「ゲルダさん、こうなる事を知っていたのかな……」
まあ、神託の天使さまですし、未来の事は誰よりも詳しいのかもしれません。こちらとしては急な授業でビックリですけどねー。
種族間の弊害が私を突き動かしました。そして、その行動がセイレン姫を呼び込みました。
きっと、未来に繋がる意味があるはずです! これは、大きな戦いへの布石なんですよ!
「これからだ……ここが正念場です!」
「とりぴっち!」
いつの間にか現れたのか、青い鳥のキュアノスくんが肩へ止まります。そして、そろそろ帰りたいとアピールするかのように、私の頬に身体を擦りつけました。
気楽なものですね。高いところから見下ろして、本当に達観している鳥さんです。
私たち人がどんなに抗っても、どんなに葛藤しても、空を飛ぶ鳥さんには関係ありません。まるで幸福のように、自由で簡単には掴めませんでした。
さって、そろそろ帰って二度寝しますか。
王都ポルトカリに行くには、フラウラに戻る必要があります。何だかヤバくなってきましたし、今度はご主人様にも頼りましょうかね。
あ、バアルさまはいりません。正直、使えませんから。
テトラ「本当の幸福はすぐ近くに! 灯台下暗しってやつですか?」
キュアノス「……とりぴ?」