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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第六章 白銀のキャンドルナイト
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閑話17 因縁


 雨天、王都ポルトカリの上空。このトリシュにとって最大の危機が訪れます。

 敵は魔王ペンタクル、獣王リュコス、精霊アイルロス。加えて、新たにエルフの道化師と魔女の少女が合流してしまいました。

 彼らは白黒模様のドラゴンを操り、こちらを完全に捕縛しています。抜け出すのは簡単ですが、敵に囲まれているので抵抗は危険でしょう。

 状況は圧倒的に不利。それに、身体の調子もおかしいように感じます。


「眠い……なにこれ……」

「ハート紋章が消えたか。まだ本来の力を操作しきれていないようだな。そのまま眠れば楽になろう」


 ペンタクルさんは瞳のクローバーを輝かせ、こちらの覚醒が終わったことを告げます。そして、掴んだリュコスさんとアイルロスさんをドラゴンの背に放り投げました。

 再び武器である錫杖を構えます。こちらは本調子ではありませんが、手心を加える相手とは思えません。

 これは眠っている場合ではありませんね……癒しの魔法を自らにかけ、身体の負担全てを治癒しました。よく分からない覚醒でしたが、チートでデメリットを踏み倒してやりますよ。


「これで戦えますよ」

「ほう、治癒の力で覚醒の負担を抑えたか。やはり異世界転生者だな。貴様を捕えるにはジャバウォックだけでは心もとない」


 ですが、すぐにペンタクルさんは杖を振り、紐のような光で私を縛り上げます。

 これは【束縛】のスキルですか。本当に芸達者で羨ましいものですね。

 身体能力を強化してもこれでは抜け出せません。本当に自らの城まで連れて行くつもりのようです。


「随分と他の異世界転生者を恐れていますね。まさか、王宮への攻撃を放棄して私を追うとは思いませんでした」

「こちらも仕切り直したかったところだ。加えて、我は二番のハイドと相対している。あの時のような失態は避けたいのだ」


 やはり、ミリヤの国でジルさんと戦っていましたか。この様子ではかなり苦戦したようですね。


「我の敵は聖国でも人間でもない。お前たち転生者だ」

「私たちの本当の敵は別にいます……」

「あのベリアルという悪魔か……確かに実力は高いが、人を傷つける度胸の無い半端者だ。警戒には値しない」


 私は失笑しました。この人はまるで分かっていない……

 まだ思うように異世界無双が出来るとでも思っていますか? 事態はもう、そんな段階ではありません。


「貴方はまるで分っていません。本当に恐ろしい存在は暴力などには頼りません。貴方も私も、怖いから先に傷つけようとします。怖いから邪魔者を消そうと考えるのです」

「我はあらゆるスキルを駆使できる。恐怖などあるはずがない」


 少しだけ、ペンタクルさんはむっとした表情をします。やはり、ベリアル卿の言った通り彼は傲慢ですね。

 では、指摘してやりますよ。彼は最強でも何でもないと……


「例えあらゆる武器を使えようと、装備できるのは一つか二つ。あらゆる魔法を使えようと、同時の詠唱は不可能。あらゆる才能があろうと、貴方が選んだのは魔王の道。選択は無限ではありません」


 結局、技術を持っても限りがあります。組み合わせこそ可能ですが、全てを同時に使えるわけではありません。

 更に、彼が奪ったのは才能スキルだけです。経験や知識が無条件で手に入るわけではなく、全て育てるには手数が足りない。


 多くのスキルを持とうと本人がパンクするだけ。

 支配者オーバーロードには過負荷オーバーロードが掛かっているも同然です。


「だから、貴方は無敵ではありません。私にも勝機があります」

「ならばやって見せよ。例え我が無敵でなくとも、貴様は力を操作しきれていない。この差は歴然だ」


 そう言って、ペンタクルさんは束縛を強く締め付けました。ドラゴンに掴まれた状況で、更に強固な枷を付けてくるなんて……

 確かに口だけでした。相手が捕獲に動いた時点で『癒』の異世界転生者に勝ち目はありません。私の専門はあくまでも治癒と浄化ですから。

 ここは潔く諦めますか。相手に殺す気がないのなら、ベリアル卿の元に付いていた時と同じです。


 私は強化を解除し、ドラゴンに身を委ねます。

 しかし、その時でした。



「ジャバウォックゥゥゥッ……!」



 突然、私たちの前に巨大な何かが立ち塞がります。

 それは、少女の姿をした巨人。青いエプロンドレスを身に纏い、頭には大きなリボンを付けています。間違いありません。彼女はモーノさんの仲間、アリシア・リデルさんでした。

 今の彼女はまるで鬼神。巨大な剣を振りかぶり、それをドラゴンに向かって叩きつけます。


「ギャグアァァァ……!」

「きょ……巨人だニャー!」


 雄たけびを上げるドラゴン、驚いて体毛を逆立たせるアイルロスさん。この場にいる誰もが、この非常事態に対して度肝を抜いていました。

 傷を負ったドラゴンはバランスを崩し、背に乗る魔王の部下たちを揺らします。同時に、掴んでいた私を手放してしまいました。

 拘束だけなら解除できますね。すぐに魔法を使用し、ペンタクルさんの束縛を打ち払います。

 本当にラッキーでした。欲を言うならこのまま逃走したいのですが、魔王はそれを許してくれません。


「この巨人は仲間か? だが、知らなかったか。魔王からは逃げられない」

「それが言いたかっただけだろうがッ……!」


 空中で加速し、落下する私を追うペンタクルさん。ですが、そんな彼の前に新たな剣が向けられました。

 地上から飛び上がり、私を横切る一人の少年。彼は敵の錫杖に対し、銀色に輝く聖剣を打ち付けます。

 周囲に飛び散るのは緑のクローバーと黒いスペードのエフェクト。戦う両方は最強と言える存在で、私たち転生者の中でも一位、二位を争う存在……


 一番、力の異世界転生者モーノ・バストニ。

 五番、技の異世界転生者ペンタクル・スパシ。



 今、英雄と魔王の戦いが切って落とされました。



「よお、久しぶりだな五番!」

「嬉しそうだな。我らが長兄よ。だが、こちらはまったく嬉しくないものだ……!」


 空中でありながら、互いに武器を押し付けて一歩も退かない兄弟。ですが、落下の勢いを利用したペンタクルさんが一気に押し付けます。

 力の異世界転生者が力で押されている……? いえ、これはわざとですね。このまま地上へと落下し、足の着く場所で返り討ちにする算段でしょう。

 私も強化魔法を使用し、自らの身体を強化します。それと同じくして、私たちはほぼ同時に地上へと足を付けました。


「モーノさん、どうしてここに!」

「ターリアをアロンソのおっさんに任せたんだ。状況をベリアル卿から聞き、すぐにここまで駆けつけた」


 降り立ったのは王都の外れ、開けた草原です。

 ベリアル卿の目論見なのは気がかりですが、今回は助けられましたね。モーノさんの到着は戦局を大きく動かすことでしょう。

 彼はターリア姫の護衛、どちらかと言えば聖国側です。魔王であるペンタクルさんとの対立は必然でした。

 ですが、それだけではありません。彼らには他に大きな因縁がありました。


「ようやく見つけた……ずっと! ずっと! お前を探していた!」

「ありゃりゃ? キミはいったい……」


 身体を縮め、人間サイズに戻るアリシアさん。そんな彼女と話すためか、ジャバウォックと呼ばれていたドラゴンは地上へと降り立ちます。

 竜の背で受け答えをするのは道化衣装のエルフ。彼は首をかしげ、剣士の少女をじっくりと観察しました。

 やがて、ポーカーフェイスの彼の額に汗が流れます。明らかに、何かを知ってる様子ですね。


「ま……まさか……死んだはずじゃ……!」

「生きてるよ……リデル家の血は途絶えない! この、アリシア・リデルがいる限り!」


 それは大きな因縁。モーノさんもペンタクルさんも、武器を構えつつも意識をあちらへと向けました。

 二人とも、すぐに分かったのでしょう。ここには戦闘よりも優先すべき事がある。部下を知るためには、この因縁を明らかにすべきなのだと……

 道化のエルフは笑いました。ただ、純粋にアリシアさんの生存を喜ぶかのように。ですが、すぐにその笑みは嘲笑へと変わり、ドラゴンの上から彼女を見下しました。


「ヒャハハ! そうかいそうかい! 生きていたかー! それは誤算だったねー」

「お前が、ジャバウォックを操っている魔獣使いか……」

「そうだよ。ボクは魔王軍幹部の一人、ラッテン・フェンガー! ボクの魔笛はあらゆる生物を操作するのさ!」


 片足で立ち、変なポーズをするラッテンさん。これはバカにしてますね。

 すぐに笛を構え、それに口を付けます。奏でられるのは幻想的な曲。すぐに危険な音と判断し、私は自らに幻影対策の魔法をかけました。

 彼の狙いはアリシアさんの操作でしょう。ですが、彼女も転生者に育てられた強者。魔笛の音色など意に介さず、剣を手にじりじりと近づきます。


「その笛を使い、私の家族を殺したのか……!」

「そうなるねー」

「なんで……なんで……!」

「その質問はナンセンスだよ。ボクは魔王サイド、キミの両親は聖国の重役。両サイドの間に血が流れるのは必然だと思うけどなー」


 雨をぬぐい、歯を食いしばるアリシアさん。彼女は握った剣を巨大化させ、ラッテンさんを狙って振りかざします。

 魔笛の効果を受けないほど、少女の心は怒りに支配されていました。それでも、対するエルフの青年はニヤニヤと笑っています。勝てる自信があるのでしょう。

 再び笛を奏で、ジャバウォックを操作します。その爪により、アリシアさんの剣は容易く受け止められました。


「ボクが快楽目的の殺人鬼じゃなくて残念だったねー。キミの剣に正義はないよ」

「正義だとか悪だとか関係ない! お前を殺すだけだ!」

「あーりゃりゃ……」


 呆れた様子のラッテンさん。仲間であるモーノさんも複雑な表情でした。

 アリシアさんは敵に掴まれた剣を一回り小さくします。それによって手をすり抜け、再びジャバウォックの身体を斬り付けました。

 今まで気にしていませんでしたが、怒った彼女は相当に強い。憎しみに支配されながらも、その判断力は一線級のものでした。

 竜は怯み、よろめきます。これをチャンスとばかりに、少女は数枚のトランプを取り出します。そして、それらを道化師へと投げ、やがて巨大化させました。


「ラッテン・フェンガー、お前の首を貰う……!」

「キャハハ! ダメだよアリシアちゃん。ダメダメダメダメ……」


 ですが、その攻撃は謎の影によって防がれてしまいます。

 ドラゴンの背に乗る魔女の少女。彼女は自身の影を案山子かかしへと変え、盾として使います。それに阻まれたことにより、トランプは元の大きさへと戻ってしまいました。

 焦るアリシアさん、楽しそうに笑う魔女の少女。パステルカラーの派手な衣装ですが、性格の方はとても陰気でした。


「すっごく怖い顔。アリシアちゃんも私とお揃い。憎しみでおかしくなっちゃったんだね!」

「誰だお前……そこをどけッ!」

「ひどーい! せっかく会えたのに……ずっと一緒だったのに……キャハハ!」


 魔女はかかしを解除し、今度はライオンの形をした炎を自らの隣に出現させます。

 ですが攻撃を放つ気は全くないようですね。彼女はよほどアリシアさんと出会えたことが嬉しかったのか、何度も会話しようと試みています。この行動により、緊迫した場は話し合いへと動いていきました。


「私たち……ずっと一緒だよね……」

「知らない……お前なんて知らない! さっさとそこをどけッ……!」


 攻撃の手は止めたものの、アリシアさんは人が変わったように叫び続けています。

 徐々に崩れていく少女の心。彼女を守るためか、モーノさんは完全に戦闘の意思を失っていました。

 何とかアリシアさんを落ち着かせ、私のことを救出し、尚且つこの場を上手く切り抜ける。恐らく、この展開が彼の理想でしょう。

 ですが果たして、魔王ペンタクルがそれを許してくれるのでしょうか……


主人公到着

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