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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第六章 白銀のキャンドルナイト
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閑話13 君臨する者


 今日、私に転生者としての転機が訪れます。

 ずっと、斜め上の視点からテトラさんやモーノさんを見てきました。ですが、大いなる因果からは逃れることが出来ません。

 なら、もう逃げませんよ。魔王の部下を前にして、私のやるべき事は決まりました。


「酷いことをしますね。貴方たちは私の敵です。この城から出ていってもらいます!」


 エラさんが怯えてるんですよ。兵士たちの死を嘆いているんですよ。

 彼女に哀しみを与えたこと、後悔させてやります!

 私は全く手加減せずに、回復魔法と強化魔法を周囲に放ちました。これが正真正銘の本気。魔法の力によって、まだ息のある兵士は全快し、行動できる者はパワーアップします。

 先ほどまでとは違いますから。兵士たちは困惑しつつも、受けた強化によって再起しました。


「なぜかは知らんが力が漲る!」

「全員突撃だァァァ!」


 戦いなれていない城の兵士。ですが、私のチートは奇跡をもたらします。

 最大限まで上がった能力は、侵入者二人を捉えるのに十分。剣は強化前より遥かに速く、素早い彼らを確実に狙いました。

 ですが、相手も相当な実力者。瞳孔を開き、リュコスさんは爪によって攻撃を弾きます。そして、すぐに私の方を睨みました。


「くんくん……こいつも魔王さまと同じにおいだ。アイルロスさん! 嫌な予感がします……目的を優先しましょう!」

「同意だニャア。このお譲ちゃん普通ではないニャ」


 迅速な判断によって、二人は同時にその場から飛び退きます。そして、猛スピードで城の奥へと駆けていきました。

 流石は獣ですね。魔王さんは二人の速度を評価し、今回の計画に加えたのでしょう。これでは私でも追いつけません。

 兵士さんたちも後を追いますが、行っても殺されるだけなので強化を解除します。彼らより先に私が敵を討つ! そうでないと安心できません!

 気がかりなのはエラさんの存在ですね。私は彼女に逃げるよう促します。


「エラさん、危険ですが一人で……」

「ハイリンヒさま……今行きます!」


 ですが、このお姫様は聞いていません。

 かじった程度に魔法が使えるのか、彼女は自らの両足に魔力を集めます。そして、強化された足を使い、床を強く蹴りました。

 エラさんの適正は強化属性ですか。私はとっさの判断で彼女の腕を掴み、何とか静止を試みます。ですが、それでも姫は止まらず城内を駆け抜けました。


「エラさん! いい加減にしてください! 貴方が行っても何も出来ません!」

「それでも私は彼の元に行きます! ずっと憧れて、ずっと夢見て、やっと結ばれた唯一人の王子さまなんです! 例え死んでも、最後まで一緒にいたいんです!」


 そうでした。エラさんは下級貴族。私や自らの家族に虐められて、それでも頑張ったから夢を掴んだんです。

 転生後の私とは別人格ですが、このトリシュ・カルディアに彼女を止める権利がありますか?

 ないですよね。悔しいですが根負けです。


「分かりました。私の魔法で貴方の魔法を強化します。夢に向かって駆け抜けてください!」


 エラさんの腕を掴み、引きずられた状態の私。ですが、気にせず強化魔法を彼女へと付与しました。

 プリンセスのドレスが銀色に輝きます。元々魔法の才能があったのか、制御できない魔力が溢れているようですね。

 そして、極めつけが彼女の足。速度強化の魔法がさらに強化され、靴は耐えれず破れ落ちます。

 代わりに包み込んだのは透明な魔力のヴェール。それは、まるでガラスの靴のようでした。


「素敵……貴方は魔法使いだったのですね」

「私の事はどうでもいい。さあ、このまま会議の場、王子たちの待つ最上階に突っ込みますよ!」


 だから言ったんです。因果からは逃れられないと……

 もう諦めましたよ。弱っちいお姫様にも自分のすべき事が分かっています。私が逃げてどうするのですか。

 怖くなんてありません。面倒くさいだけ……

 ですが、先に送ればもっと面倒くさいのでしょう? ならば、ここでしっかりと蹴りをつけますよ。










 減速はしません。フルスロットルのまま、私たちは最上階へとたどり着きます。

 さあ、王の間へと突っ込みますよ。敵の狙いは国王、バシレウス7世。恐らく、ハイリンヒ王子も同じ場所にいます。

 当然、この場にいないベリアル卿も待っているでしょう。さて、何が起きますか……

 迷いなんて吹っ切れてます。私はエラさんと手を繋ぎ、王の間への扉を蹴り開けました。


「国王さま、有事の無礼をお許しください!」

「ハイリンヒさま! 大変です! お城が……」


 私たちが駆けつけた時。

 既に事態はクライマックスへと動いていました。


 王の前に立つ黒マントの少年。顔半分を隠した仮面をかぶり、手には杖が握られています。

 歳は私やエラさんと同じほど、ですが大人びた印象を受けますね。髪はオールバック、目にハイライトがなくてまるで人形のようでした。

 窓が割れているところを見るに、そこから侵入したのだと分かります。なるほど……アイルロスさんとリュコスさんに兵士を引きつけさせ、魔王自らが王を狙う算段でしたか。

 何にしても、この状況は最悪です。下手に行動はせず、今は一般人を気取りましょう。


「あ……貴方はいったい何者ですか……! 王に何を!」

「まったく、騒がしくなってきたものだ。今は大事な話をしているのだがな」


 髪に手を当て、魔王ペンタクルさんがこちらを見ます。

 間違いない……彼から感じる親近感は同じ異世界転生者のもの。五番、技の異世界転生者が彼のなのは確実でしょう。

 この男は女神を串刺しにした大罪人です。さて、話しは通じますかね。

 私が次なる質問を考えている時、先客たちが先に言葉を発します。一人はカルポス聖国王子、ハイリンヒ・バシレウス。もう一人はカルポス聖国大臣、ベリアル・ファウストでした。


「エラ、どうしてここに……! 早く逃げろ! 奴は魔王だ!」

「トリシュさんもご一緒でしたか。まあ、落ち着いてください。無力な市民に手を上げるほど、魔王という存在は安くありませんよ」


 この緊急事態にも拘らず、ベリアル卿はニヤニヤと笑っています。どうせ、初めからこの事態を期待していたのでしょう。彼はそういう人です。

 どうやら、ペンタクルさんが参入したのは会議の場だった様子。王子やベリアル卿の他、聖国の重役である大臣たちが勢ぞろいしていました。

 彼らを全員始末すれば、この国の根本は崩壊します。間違いなく、魔王の狙いはそれでしょう。


「さて、俺は口だけの老害どもを消しに来たのだがな。だが、これは何だ? この国は戦闘の強さで重役を決めているのか?」


 ペンタクルさんがそう言った先に居たのは聖国の大臣たち。その半数は非戦闘員の無力な政治家。ですが、残りの半数は屈強な騎士と聡明な魔道士でした。

 彼らの中には聖剣隊の隊長であるカリュオン・ロッセルさんも居ます。まさか、聖国の政治がここまで騎士たちによって支配されていたなんて……

 もう、完全なる軍事国家です。なにが聖アウトリウス教の加護ですか!

 全てはベリアル卿の陰謀。この国は修復不能なまでに歪み、混沌を齎す舞台装置としてしか機能していませんでした。


「貴方は王や大臣を落とし、それでこの国が変わるとでも思いましたか? なんと浅はか……変わりませんよ。私たちが消えようとも、次なる者が反旗を翻す。聖国の民が生きる限り! 彼らは貴方がた魔族に正義の剣を向けるでしょう!」

「聖国よ。根本から腐っていたか……まあ、良い。もしそうなれば全てを滅ぶすだけ。全面戦争に持ち込むだけの話だ」


 ペンタクルさんはマントを翻し、杖の先端に雷属性の魔力を集めます。そして、挨拶代わりと言わんばかりに、強力な雷を大臣たちに放ちました。

 ですが、客人への攻撃はベリアル卿が許しません。彼は大臣たちの前に立ち、ローブを盾のように広げます。これにより、魔王の雷は容易く防がれてしまいました。

 あの悪魔、表情一つ変えていません。やはり彼は強い。口だけのペテン師ではありませんね。


「素晴らしい。見事な攻撃ですね。このベリアル・ファウストと是非お手合わせを願いたい!」

「お前、何者だ……ただの人間ではないな」

「人は皆特別です。誰が何と違うなど、大した問題ではありませんよ」


 そう言って、ベリアル卿は横目で扉の方を見ます。すると、そこから魔王の手下であるリュコスさんとアイルロスさんが参入しました。

 役者はそろった。そう、彼は判断したのでしょう。

 悪魔は笑い、純白のローブを真っ黒い炎へと変化させます。そして、他の大臣たちを守るようにその炎を囲い、やがて出口への道を作り出しました。


「さあ、お逃げなさい。王の事は心配いりません。戦えぬ者がここに残る事。それこそ何の意味も持たないでしょう」

「わ……分かった……」


 無力な大臣たちは扉の外へと走り出します。ですが、ガチガチの軍人たちは武器を構え、この王の間に残り続けました。

 鑑定スキルで調べましたが、彼らは下級騎士とは非にならないほど強い。まさか、王の周りにこれほどの実力者を集めていたなんて……

 幹部クラスに上るほどに強者。まるで、聖国側が魔王としか思えないシステムです。

 彼らの内、誰かが残れば聖国は再起する。絶対的な聖アウトリウス教への信仰、絶対的な人間至上主義。その思想が次なる聖国王を生み出す形になっていました。

 小太りで口ひげをはやした国王。普段は温厚な彼ですが、今は君臨する者としての威厳を見せます。


「やれやれだ……私を滅ぼして何になる? このような暗殺を試みるなど片腹痛い。全面戦争ならば、いつでも受けて立つつもりだがな」

「バシレウス7世……お前が御父上を……!」


 魔王の手下、獣王リュコスさんが聖国王に視線を向けます。どうやら彼は、先代獣王である父を殺されているようですね。

 カルポス聖国は何度も獣人の村を攻め落としています。その中で、獣人の最高権力者を滅ぼしていても不思議ではないでしょう。

 憎しみに支配され、王に牙を向けるリュコスさん。ですが、それを許さない者がいました。


「父上! お下がりください!」

「ニャハハ! ハイリンヒ王子、貴殿の相手は吾輩だニャ!」


 王の前に立塞がるハイリンヒ王子。彼の放つ剣技を精霊のアイルロスさんが防ぎます。

 同時に、獣人のリュコスさんが二人を飛び越え、聖国王に飛びかかりました。鋭い爪は首元を狙い、一撃で頭部を切断するという意思を感じます。

 ベリアル卿は魔王と向き合い、ハイリンヒ王子は精霊と剣を交え、他の大臣は黒い炎に守られている状況。今、聖国王を守る者はいません。


 まさに裸の王様。

 この一撃で聖国は落ちる。


「聖国王かく……」

「リュコス……! 下がれッ!」


 響いたのは魔王ペンタクルさんの声。それを受け、リュコスさんは鼻をヒクヒクと動かしました。

 瞬間、毛に覆われた彼の顔が青ざめたように感じます。すぐに身体を翻し、空中で何かを回避するようなしぐさを取りました。

 同時に、見えない攻撃が彼の右肩を切り裂きます。あと数秒遅れていたら、逆に首を取られていたことでしょう。

 ハイリンヒ王子は安堵していましたが、大臣たちは当然のような振る舞い。どうやら、彼らは自らの国王に対し、絶対的な自信を持っている様子です。


「ほう、バカには見えない剣を見切ったか。やりおるわ」

「魔王さま……助言ありがとうございます……」


 落下するように着地し、傷口を抑えるリュコスさん。それを見下すのは裸の王と思われていた聖国王。

 彼は見えない剣によってリュコスさんを斬り付けたのです。物を透明化する魔法。恐らく、剣以外の装備も透明化し、その身体に纏っていることでしょう。

 ただ、座っているだけの王ではありません。今、私は聖国がなぜ大国として維持できていたのかを知ります。


 バシレウスの王族、その全てが魔法の天才かつ戦闘の天才。

 噂は本当であり、この国の最高戦力が王本人であることを確信しました。


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