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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第六章 白銀のキャンドルナイト
142/248

131 どこかで何かが動いたようです


 シルバードさんと人魚の女性、二人は両陣営についての情報を交換します。何やら難しい話しもしていて、正直に私には分からないことだらけでした。

 ですが、状況が宜しくないことは分かります。ミリヤ国の一件以外でも、聖国と亜人たちの衝突は繰り返されている状況。もう、膨らんだ風船は破裂一歩手前でした。

 そういえば、ベリアル卿はヴィクトリアさんを利用し、聖国と妖精の関係悪化を狙っていましたね。恐らく、あのような事を何度も繰り返していたんでしょう。


「聖国はベリアル卿という大臣によって支配されています。彼は悪魔です。国民たちに聖アウトリウス教こそが正義だと広め、人間至上主義を推し進めているんです」

「それは世界を支配するためですか?」

「いえ、それなら可愛いものですよ。ベリアル卿の目的は戦争による人類の進化です。闘争させることによって、人類を高みに上らせようとしているんです。彼は人が好きですから」


 この事実を多くの人に広めるんです。各種族のトップに、世界を動かす権力者たちに! それがベリアル卿の野望を止める一つの手段です。

 情報を交換し、人魚の王や魔王に伝えましょう。分かってしまえば、聖国の歪みに気づくはずです。一つの思想によって、国民全員が洗脳状態というこの異常事態に……

 いえ、洗脳ではありませんね。ベリアル卿は何百、何千年と権力を持ち、何世代も聖アウトリウス教の思想を広めていたんです。これはもう、根っこまで浸透したお国柄と言っても過言ではありません。


「現状、ベリアル卿を止める手段はありません。彼は悪事を働かず、間接的に人を歪めて災厄を齎しています。私たちが気づき、変わらなければ歴史は繰り返されますよ!」

「気づき、変わる事ですか……分かりました。王に伝え、やがては魔王の耳にも入れます」

「協力、感謝します」


 少しずつ広がる悪魔への包囲網。モーノさんやジルさんも私と同じことをしているでしょう。

 ベリアル卿は亜人たちを結託させ、カルポス聖国という大国にぶつけようと考えています。ですが、これは諸刃の剣。種族たちが結託したという事は、それぞれの情報が共有されるという事ですよ。

 もし、魔王サイドことクレアス連合国に彼の目論見を伝えたのなら、どうなると思いますか? 全てのヘイトがベリアル卿、貴方に向かったらどう対処するつもりですか?


 楽しみですよ……

 大戦へと発展する前に、貴方をこの世界から追放してやりますから。




 密会を終え、シルバードさん率いるフラウラ冒険者ギルドの方向性は決まりました。

 絶対に国へ戦力を送るような真似はしません。もし、それを強制されたのなら、気づかれないように手を抜くことを約束しました。

 これで魔王や聖国の手が止まるとは思えませんが、その場凌ぎにはなるでしょう。少なくとも、私の周りの人への被害は減るはずです。


 錨を上げ、岸へと戻る準備をするシルバードさんとバートさん。私も手伝おうと思った時でした。

 突然、スノウさんが人魚さんに向かって頭を下げます。彼女には言うべきことがあったんでしたね。その責務から逃れるつもりはないようです。


「私はスノウ・シュネーヴァイス。貴方がたの敵であるミリヤ国女王の娘です」

「そうですか……貴方が……」


 ついに言っちまいましたねー。まあ、それを言いに彼女はここに来たんですから当然ですけども。

 緊迫する空気、制止する世界。大罪人の娘を名乗ったんですから、当然罵られる覚悟もしてきたでしょう。

 ですが、人魚のお姉さんは笑顔を返します。そこに怨み憎しみの感情はありませんでした。


「出会えて光栄です。母の罪を貴方が背負う必要はありません。今は出会えませんが、妹のセイレン姫もきっとそう言うと思います」

「は……はい!」


 こうして、大海原への旅は終わりを告げます。直接人魚の王と会ったわけではありませんが、それでもスノウさんは救われたことでしょう。

 何事もなくて私もホッとしました。魔王さんの城へと連れられたセイレン姫も無事だと良いですね。











 これにて、急に決まった旅は終了です。

 陸に戻り、再び船を洞窟内部へと隠しました。あとは行きと同じ道でフラウラに帰るだけですね。

 何だかんだで楽しかったですが、ここでまた一つの起点が訪れます。元盗賊のバートさんが、ついに夢への一歩を踏み出しました。


「悪いが、ここでお別れだな。冒険者としての地盤は築いた。港町を起点に、船乗りとして活動したいと思う」

「えー、じゃあ次会うのはいつか分かりませんね」

「ああ、お互い健闘を祈ろう。お前も、あまり危険なことに首を突っ込むなよ」


 首を突っ込むなと言われましても、流れでそうなるんですから仕方ないじゃないですかー。私には転生者としての因果があります。結局、行きつく先は混沌なんですって。

 ま、彼も心配してるんでしょう。出来るだけ心配をかけないように気をつけますか。死に別れちゃうのは可愛そうですしね。



 そんなこんなでミリヤ国跡を離れ、聖国圏内へと戻ります。

 バートさんとは別れちゃいましたが、道中のモンスターはスノウさんとシルバードさんで楽勝でしたね。やっぱり、フラウラ冒険者ギルドは滅茶苦茶強いと思いました。

 ミリヤの村に付けば、馬車で一気にフラウラに戻ることが出来ます。そうなったら完全に警戒態勢を解いて良いでしょう。


「シルバードさん、ミリヤの村に付いたらどうしますか? 一気にフラウラまで戻ります?」

「いや、日が沈めば馬車も出ねえよ。また、村で夜を超すことになっちまうな」

 

 じゃ、ドワーフのドモスさんに頼る事になりますね。たぶん、まだ村にいると思いますから。

 そうなれば、残る試練はこの道のりだけです。私は気合を入れつつ、積もった雪を強く踏みしめました。

 冒険者の人はモンスターと戦いつつ、こんなにも長い道のりを進むんですね。これは私にはとても無理ですねー。やっぱり、街でのんびりしているのが一番でした。


「ふへー、疲れた……スノウさんって、こういう旅には馴れているんですか?」 

「はーい、ダンジョンを進むときはもっと辛いですよー?」


 信じらません。ミリヤ国のお姫様はとってもパワフルでした。

 ただ道を進むだけではなく、モンスターも警戒しなくちゃいけないんですよね? 今だって、シルバードさんは周囲の状況を探っています。

 青い鳥、キュアノスくんを先行させ、彼から先の情報を聞いていました。一人と一匹、見事な役割分担で冒険を優位に進めていると分かります。


「とりぴー……ぴぴっち……!」

「ここから先、警戒すべきモンスターはいねえ。だが、ちっとばかし不穏な情報を入手したぜ」


 えー、モンスターはいないのに不穏な情報? この雪原は真っ平らな地形、雪崩とかそういう災害はまずありえませんよね。

 となれば人災? 盗賊団がこの先に待ってるとか?

 どうやら、そのどれでもないようです。シルバードさんの言う不穏な情報とは、私たちの身に降りかかる障害ではないようでした。


「ミリヤの村に滞在する聖国騎士団に帰還命令が出たらしい。どうやら、王都の方で事件が起きたようだぜ」

「それは確かに不穏ですが、その細かな情報をどうやって聞いたんですか? ナチュラルに鳥と会話してるように思えるんですが」

「細けーことは気にすんな」


 いよいよ人外能力ですね。まあ、この世界は魔法とかがありますし、不思議パワーがあるんでしょう。

 そんな事はどうでも良いんです! それより王都で何か起きたって何がですか!

 騎士団に帰還命令が出たという事は、王都に戦力が必要となったという事。それ即ち、何者かが王都に攻め入ったことを意味します。


 ちょちょちょ! 魔族の国、クレアス連合国との国境はミリヤの村。そこから戦力を撤退させ、王都を固めるって明らかにおかしいですよ!

 最前線をすっ飛ばして、いきなり本陣が攻められたって事ですよね? まさか……進軍ではなく暗殺? 少数精鋭によるテロ行為?


「最前線のミリヤの村が無傷です。つまり、王都に攻撃を行ったのは少数。騎士団をすぐさま動かしたことを考えれば、かなり上層部を攻められたと考えられます」

「はーん、良い読みだ。んじゃま、てめえは今後どうなると考える?」

「犯人像が掴めませんが、もし連合国サイドの場合は最悪です。彼らは戦争発生のトリガーを引いたことになるんですから」


 クレアス連合国が攻撃を開始した。その可能性も否定できません。

 ですが、やっぱり軍隊として進軍に出なかったのは不自然ですね。もしかして、この事件を起こした人も戦争を望んでいない? だから、聖国上層部の暗殺を考えた?

 もしそうなら、バカバカおバカー! です!

 カルポス聖国には主が唯一の神! 聖アウトリウスこそが救世主! 人間は優秀な種族! そういう思想が国民の全てに根付いています。上層部の暗殺で国が止まりますか!


 愚かな王を殺せば戦争が止まる? 政治家たちを滅ぼせば国民が変わる?

 ねーですよ。浅はかってレベルじゃありませんって! まさか、そんなおバカ行動はしませんよね?


「とりあえず、早くミリヤの村に行きましょう! そこでドモスさんから詳しい状況を聞きます!」

「ああ、今はさっぱり状況が分からねえからな」

「はーい」


 私たち三人は村へと急ぎます。どの道、王都に行くには時間が足りませんけどね。

 王宮にはターリア姫の護衛であるモーノさんたちがいます。万が一も彼女に危険が及ぶことはありえないでしょう。

 それどころか、転生者であるモーノさんなら賊を抹殺する事だって可能です。なので、正直あまり心配はしていません。

 やっぱり、一番心配なのは国交関係の悪化ですよね。戦争に発展するのだけは勘弁でした。









 ミリヤの村に付いた私たちは、ドモスさんから詳しい状況を聞きます。

 王都に戻った聖国騎士団は一部。その事から、国家転覆や王宮崩壊のような大事件は起きていないと分かります。

 騎士団たちも口が堅く、村人には何が起きたのか話していない様子。まあ、いたずらに国民を不安にさせるのもダメですし、その判断は正解でしょう。

 王都にはモーノさんがいますので、当然スノウさんは心配します。ですが、現状の私たちは王都に行く手段がありません。


「スノウさん、モーノさんは超強えーですから心配はいりませんよ。動いた騎士団の数から考えるに、ターリア姫も無事だと分かりますし」

「私も大丈夫だと思いますよー。でも、肝心な時にお助け出来なかったのは悔しいです……」


 あ、そういう事ですか。まあ、そりゃつれーでしょ。

 でも、その場にいないものは仕方ないんですって。今はぐっすり眠って、明日ダッシュで帰ればいいんですよ。

 ほらほら、ドモスさんも心配してますし、今日はもう休みましょ? 色々あって、私たちは疲れています。明日、ベストコンディションで動けない方が問題ですって!

 だから、ゆっくり眠ってから考え……


 って、スノウさんもう眠ってるー!

 私が何か言うより先に、彼女は毒りんごを食べたのかのようにぶっ倒れていました。



シルバード「肉焼き、海のコック、のっぽのジョン。俺の名は数多くある。狙ったお宝は逃さないぜ」

テトラ「料理も出来る大海賊ですか……宝島での戦いは死闘ですね!」

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