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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第六章 白銀のキャンドルナイト
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129 そこは夢の後でした


 昨日の夜、ミリヤの村では小さなお祭りがありました。

 国のプリンセス、スノウ・シュネーヴァイス姫のご存命を祝ってのお祭りです。酒の肴はアイルロアさんの手土産、キラーラビットの丸焼き。あれ、美味しいんでしょうかね……?

 私は滅茶苦茶疲れていましたし、戦争難民たちに対する気遣いも出来ません。なので、今回は素直に自重しました。



 村の人たちに別れを告げ、北のミリヤ国跡へと向かいます。

 ミリア国は小国なので、大きさは王都に毛が生えた程度。宗教は聖アウトリウス教、人種は黒髪で白人種の人間。海と山に面し、人魚とドワーフとの親交も深い国でした。

 同じ宗教かつ、人種も同じなのでカルポス聖国は攻め込む口実を作れません。なので、ベリアル卿は王妃を誑かし、魔王にこの国を滅ぼさせたのです。そう、私は読みました。


 スノウさんも国民たちも、ベリアル卿の望む戦争によって巻き込まれた形になります。

 人間と他種族との隔たりは大きくなり、邪魔な小国を吸収できて一石二鳥。やっぱり、あの悪魔は絶対に許せませんよ。

 今、ミリヤ国の人たちにはスノウさんの存在が希望なのかもしれません。答えは分かってますけど、一応聞いてみましょうか。


「スノウさん、残るという選択肢もあったんですよ。村の人には、貴方というプリンセスが必用だったのかもしれません」

「それでも、私はモーノさんに付いていきます。メイジーさんやアリシアさん、私が助けにならないといけない人は沢山いますから……」

「……ですね」


 モーノさんサイドも一杯一杯ですし、魔王との関係を改善しない限り未来はありません。

 加えて、その魔王は五番の転生者であるペンタクル・スパシさんです。私たち転生者は惹かれあう運命であり、一番と五番の衝突は避けられません。

 その来るべき時のために、スノウさんという存在は必要不可欠でした。



 私と三人の冒険者は広大な雪原を進みます。

 途中で何体かモンスターと接触しましたが、スノウさんが毒りんご爆弾で速攻倒しちゃいました。

 やっぱり、彼女は恐ろしく強いですねー。毒が拡散するので私たちは近づけませんが、ちゃんと陣形を組めば無敵でしょう。

 また、バートさんもそこそこ強いです。魔法は使えませんが、感に冴えて立ち回りも上手ですね。戦うだけが冒険者じゃありませんし、彼の冒険センスには光るものがありました。


「二人とも凄いですねー。私が出る幕はなさそうです」

「どうせ、戦う気はねえんだろ? モーノからてめえの理念は聞いてるぜ」

「では、話しは早いですね。私は殺生が嫌いです」


 シルバードさんに指摘されますが、既に迷いはふっきれてますから気にしません。

 彼は松葉杖をつきながら動き、華麗な足さばきでゴブリンの攻撃を避けます。そして、人差し指を敵の眉間に向け、そこから一発の水鉄砲を放ちました。

 水の弾丸はモンスターの頭部を貫き、一撃で絶命させます。義足かつ、その歳でよく動くものですよ。


「確かに、わざわざモンスターを虐殺するのは違う。だが、道を進めば必ず奴らとぶつかる。場合によっては、人の安全のために駆除が必要だ」

「分かってますよ。私も駄々っ子じゃありませんから」


 野良犬を駆除しなければ、狂犬病によって命を落とす人が出るかもしれない。だから、人間のエゴで命を奪うんです。当たり前にある事ですよ。

 ですが、自分がそれをしろと言われたら嫌です。私、気負いしたくないタイプですから。自らの手は汚したくないんですよねー。

 こんなところもベリアル卿に似ていますか。ほんと、嫌になっちゃいますよ。










 そんなこんなで、半日以上歩き続けてミリヤ国跡に到着です。

 冒険者でもない私の体力は限界。ですが、普段からご主人様に引っ張られ、元々人間じゃないこともあって結構頑張れました。

 なにより、この場所には疲れよりも先に来るものがあります。それは、街の光景でした。


 ドラゴンによって壊され、燃やし尽くされた廃墟。木製の家屋は炭となり、石で造られたお城や教会は瓦礫となって崩れ去っています。

 死体が跡形もなく残っていないのが幸いですね。ですが、この光景はあまりにも悲惨です……


「スノウさん、大丈夫ですか……?」

「はい、覚悟していましたから……」


 廃墟となった自分の故郷を見て、スノウさんは悲しそうに俯きました。

 心中お察しします。ですが、私もシルバードさんと同意見。彼女はここに来るべきだったんだと思いますよ。


 廃墟の向こうには真っ青な海が広がっています。潮の香りがとても懐かしく、転生前の記憶と重なりました。

 海か……いよいよここまで来たって感じですね。

 既にミリヤ国はクレアス連合国側によって支配されています。もう、私たちは国境を超え、魔族たちの敷居を跨いでいると言っていいでしょう。

 シルバードさんは口に親指を当て、ピーッ! と指笛を吹きます。すると、何処からともなく青色のハトが舞い降り、彼の腕に留まりました。


「とりぴぴっち……!」

「キュアノス、調査ご苦労さん。用心のために俺とバートで船の様子を見ることにするぜ。お前ら二人は適当に待機してろ」


 流石ギルドマスター、仕事が速いですしナチュラルに鳥を操ってるのも凄いです。青い鳥、キュアノスくんも相当に出来る子みたいでした。

 シルバードさんとバートさんは海の方へと歩いていき、私とスノウさんを残します。女性二人を置いていくのは酷いですが、こちらも守られるほど弱くはありません。

 なにより、敵国であるという事を忘れるほどにここは静かです。

 魔族側も、悲劇があったこの跡地を踏みにじりたくないのでしょうか……? 戦争に無頓着な私にはとても分かりませんでした。










 マイペースが二人揃ったことにより、速攻シルバードさんの指示は破られます。私とスノウさんは勝手に待機場所を離れ、ミリヤの廃墟を歩いていきました。

 スノウさんにとっては全てが思い出の場所です。崩れ、焼き尽くされてしまいましたが、ここはたった一つの故郷なんですよ。


 魔王と仲良くと思っていた私ですが、こういう戦場跡を見ると気持ちが揺らぎそうです。

 ですが、それでも私は武力解決を望みません。ベリアル卿の野望を止めたいですしね。


「スノウさん、そろそろ戻りましょうか。シルバードさんたちも心配しますし」

「あ、待ってくださーい。これなんですけど……」


 スノウさんが何かに気づき、道の先を指さします。

 そこにあったのは、積雪にくっきりと付いた二人の足跡。どちらもシルバードさんたちより小さく、年少者の物だと分かりました。

 私たち以外の誰かがこの場所まで来ている……? まだ、足跡は新しいですし、高台まで続いているとはっきりと分かります。彼らとの接触は可能でした。


「えーと、ここは既に連合国側ですし、やっぱり魔族の人ですよね……?」

「でもー、二人とも私たちと同じぐらいの歳ですよー?」


 いえ、それは分かりますけども……危険ってレベルじゃねーですよ!

 スノウさん、流石に貴方は頭の中がお花畑すぎです! シルバードさんたちに迷惑をかけますし、勝手な行動をしたら作戦が台無しでしょう!

 あ、でもでも私たちの足跡が残ってるので、結局は気づかれてしまいますよね。それなら、白状して挨拶に行くのも手ですかね……

 って、私は何を考えているんですか! ダメです! 絶対ダメです!


「スノウさん、足跡の主に会いに行きましょう。どの道、帰りで彼らに気づかれます!」

「そうですね。魔族の方たちってどんな人でしょうかー?」


 で、結局行くことになる。私の中にある『楽』の感情は誤魔化せませんでした。

 何より、なぜか引き合うものを感じます……私はこの先に行かなくてはならない。この足跡の主に会わなくてはいけない。そんな気持ちになってしまいます。

 明らかに、普通ではありません。尋常ではない何かが背中を押していました。


 この感覚……転生者としての使命感……

 私は心の異世界転生者。自分の心を信じなくてどうするんですか。











 国の跡を見渡す高台、そこに二人の少年が立っていました。

 一人は三角の帽子をかぶった年下の少年。八重歯を光らせ、肩からは手荷物のバックをかけています。

 もう一人は、白い服に黒いマントを羽織ったオールバックの少年。その顔を半分だけ仮面によって隠していました。

 仮面の少年は遠い目で廃墟を見つけています。ですが、すぐにこちらに気づいて、装備している杖に手を付けます。


「誰だ。ここに何をしに来た」

「わ……私はテトラ・ゾケルと申します! 旅芸人として各地を渡り歩き、このミリア国跡にたどり着きました! こちらは私の協力者であるスノウさんです!」


 無謀なことをしているのは分かっているので、ちゃんと言い訳を考えておきました。

 まあ、私もスノウさんも聖国出身ではありませんし、嘘ではありませんよねー。魔族の皆さんと対立する理由はありませんし、悪事を働く気もありませんでした。

 疑いの眼差しで私たちを睨む仮面の少年。そんな彼の前に立ち、八重歯の少年は鼻をひくひくと動かします。


「くんくん……死人の臭いです。もう一人は…………人ではない……? いえ、半分は人間ですが……」

「どちらも訳ありと言ったところか。まあ、聖国の人間どもではなさそうだ」


 あの少年、獣人族ですか。中途半端な判別によって難を逃れそうですね。

 そうです。スノウさんは一度死んだゾンビ少女。私は女神さまが作った人形少女。どちらも厳密には人間ではありませんでした。

 敵ではないと判断したのか、仮面の少年は警戒を解きます。そして、尋問するかのように質問を投げました。


「で、その旅芸人が廃墟に何の用だ。ここに客はいないのだがな」

「そのようですねー。また、別の場所を尋ねましょう。それより、貴方がたこそ何の御用で?」


 会話の主導権を奪います。疑ってるのはこちらも同じ、私たちは対等関係のはずでしょう?

 仮面の少年は少し眉をしかめましたが、すぐに元の無表情に戻ります。そして、話しても問題がないと思ったのか、偽りなくここに来た目的を明かしました。


「人……いや、精霊と待ち合わせている。猫の姿をしたふざけたおっさんだ」

「えー? それってアイルロスさんですよね。昨日、聖国のミリヤ村で会いましたよー」

「なん……だと……あのおっさんは何をやっているんだ……」


 スノウさんが正直に話すと、仮面の少年は呆れた様子で頭を抱えます。これは、全く偽っていませんね。素でアイルロスさんのボケに振り回されていました。

 まさか、ミリヤ国跡とミリヤの村を間違えるとは……アバウトで心配な猫さんでしたが、結構なことをやらかしましたね。

 仮面の少年はマントを翻し、八重歯の少年と共に歩き出します。私たちの疑いが晴れたわけではありませんが、それ以上に事を急いでいる様子でした。


「リュコス、予定変更だ。すぐに聖国領土へと入る。気を引き締めよ!」

「はい、ま…………ファントムさま!」


 何かを言いかける八重歯の少年、リュコスさん。彼は私のにおいが気になるのか、去り際までくんかくんかと鼻を動かしていました。

 私のにおいを嗅ぐ、その後に仮面の少年であるファントムさんのにおいを嗅ぐ。二人のにおいを比べては首を捻ります。

 その慌ただしい様子から、あまり威圧感は感じません。私とスノウさんは、彼らが去るのを黙って見つめるだけでした。



テトラ「七つの海を股に掛ける船乗り! 七つってどの海?」

バート「七度の航海という意味だ。未知の旅路を七度成功させる伝説の男。なりたいものだな」

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