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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第六章 白銀のキャンドルナイト
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128 この世界にはたくさんの種族がいます


 ミリアの村へと向かう馬車。雪原を走り、真っ直ぐ北へと進んでいきます。

 私、バートさん、スノウさん、シルバードさん。そこに、突如同乗した謎の精霊アイルロスさん。五人が目指すのは、魔王によって滅ぼされた小国民が暮らすミリヤの村です。

 ミリヤ国のお姫さまだったスノウさんは心苦しいでしょう。国民たちとの向き合う覚悟が必要だと思います。

 ですが、彼女からは重苦しい印象を受けませんでした。


「猫さん、かわいいですねー」

「そんニャ、お嬢ちゃんの方が可愛いニャア」


 アイルロスさんを膝に乗せ、大変ご満悦なお姫さま。それで良いのですかね……

 まあ、スノウさんはくよくよ悩むような人ではありません。アリシアさんのように不の感情を溜めもしませんし、メイジーさんのように頑張っちゃう性格でもなし。

 何と言いますか、ゆるいんですよね。頭がお花畑なんですけど、物凄く安心できました。

 ですが、だからこそ周りは心配します。今でも、怪しい猫に騙されているのではないかと、バートさんは警戒していました。


「てめえは精霊だろ? 魔王側に組した今、俺たち人間と馴れあっていいのか?」

「あんニャの気にすることないニャ。精霊って奴は自由なものニャア。決まった国や組織ニャンてものはニャいし、魔王との同盟も一部が勝手にやってるだけニャ」


 見た目はファンシー、中身はダンディなおっさん。アイルロスさんの方はまったく警戒もせず、私たちに心を許していました。

 心の異世界転生者である私から見るに、彼からは騙す意思を感じません。純粋にこの一時を楽しみ、お話しするのも大好きという感じでした。

 ですが、私の能力は感覚的なもの。ジルさんのように二重人格ならアウト、スピルさんのように楽しむ目的を同時に兼ねていてもアウトです。

 つまり、私たちとは仲良くしますし攻撃もしませんが、それはそれとして敵同士だよ。といった可能性もあるわけです。


「アイルロスさんはミリヤの村になんの用があるんですか?」

「吾輩の新しい主君と逸れてしまってニャア。ニャンとか通信魔法を使って、居場所を突き止めたってわけニャ」

「新しい主君って、前の主君もいたんですか?」

「よくぞ聞いてくれたニャ! 吾輩の初代主君は、かの有名な聖ザイフ……」


 アイルロスさんと会話している時でした。突如、馬たちが雄叫びを上げ、再び馬車は急停止しました。

 またですかー、今度は何なんですかー。こっちは冒険者が三人いますから、負ける気がしませんって。

 すぐに、私とバートさんは馬車を降ります。すると、運転手さんがこちらを向き、進路方向に指をさしました。


「モンスターだ! それも、魔除けのお守りが効かない上級モンスター……キラーラビットだ!」


 雪原を走る巨大なうさぎ。歯は鋭く、どこからどう見ても肉食といった姿です。

 魔除けのお守りを無視ですか。何らかの原因で気が立っていますかね? 何にしても、対処はしないといけません。

 ラビットは私達を標的と定め、飛びかかってきました。ですが、この程度なら私とバートさんで十分相手ができ……


 ですが、そう判断したときには全てが終わっていました。


「ごめんニャ。せめて痛みはなく、一瞬で逝くニャ」


 私の前で剣を抜いていたのはアイルロスさん。攻撃の瞬間は全く見えず、何が起こったのかさっぱり分かりません。

 キラーラビットは脳天を斬られ、雪原へと落下します。完全な即死、ですが傷口から血が吹き出たのは今。それほど、彼の剣技が速かったのです。

 精霊はラビットの耳を掴み、馬車の荷台へと放り投げました。自分より巨大なモンスターにも関わらず、軽々と持ち上げています。


「ミリア村への手土産にしてほしいニャ。大事な生命、美味しく頂いてほしいニャア。じゃ、村が近いのでこれにてバイニャー」


 自分の強さを知られ、退散するかのように雪原を走っていくアイルロスさん。彼の言うように、ミリヤの村はすぐ近くでした。

 私もバートさんも、運転手さんもお口あんぐりです。そんな中、シルバードさんは「やっぱ強えか」と言ってました。

 人は見かけによらない。はい、覚えておきましょう。











 フラウラの街より、積もった雪が厚いミリヤの村。

 ここは聖国領の最北端で、クレアス国と最も近い村です。聖国騎士団も基地を構えて陣取っていました。

 重々しい空気の中、私たちは手土産のラビットを下ろします。あっても邪魔なので、運転手さん的には処理したいですよね。とりあえず、村の代表にでも渡しましょうか。


 馬車は仕事を終え、別の仕事へと向かいます。私たちはすぐに、騎士団の目が届かない場所まで移動しました。

 さーて、どうしましょうかね。四人で今後を話し合おうとしたとき、村人の一人が声を上げます。


「まさか……姫様……やはり、スノウ姫は生きていた! 皆の衆、スノウ姫はご存命だったぞ!」

「姫様……」

「姫様ー!」


 あ、やっぱりこうなりますか。何人もの村人に囲まれ、私たちは全く身動きが取れなくなってしまいます。

 やっぱり、アホモーノさんは彼らにスノウさんのことを報告していませんか。まあ、忙しかったのもあるのかもしれませんが、流石に適当すぎですって!

 収集がつかなくなりそうだった時、何者かが村人たちを止めます。


「やめんか!」


 人ゴミを掻き分け、現れたのは小さいおっさん。三角帽子をかぶり、真っ白い髭を伸ばしていました。

 彼の姿を見ると、いつも呆けているスノウさんの瞳が潤みます。明らかに、あの人は人間という種族ではありませんが、どうやらお知り合いのようでした。


「ドモスさん……」

「姫……よくぞご無事で……」


 スノウさんはすぐに走りより、ドモスさんを抱き上げます。小人族よりは大きいですが、それでも華奢なお姫様にも抱っこできるほど小さい身体。

 なぜ、ミリヤの村に人間以外の種族が? そもそも、あの人はどんな種族なんでしょう。シルバードさんに聞いてみましょうか。


「あの人って人間じゃありませんよね?」

「あいつはドワーフだ。ミリヤ国の王家、シュネーヴァイス家は人魚の他にドワーフとも親交を持つと聞く。恐らく、魔王の件での対談だろ。タイミングが良いのか悪いのか」


 ああ、ドワーフの皆さんも魔王側に付きましたから、慌ててこの村まで来ていたんですね。

 うーん、アイルロスさんといい、いよいよ種族問題と直面してきましたか。関係ないと思ってたんですけどねー。

 とにかく、あまり聖国騎士にマークされたくはありません。バートさんにラビットを持たせ、私たちは村外れまで移動することにしました。









 村人とラビットをバートさんに任せ、私たちは村外れで話します。

 ドワーフのドモスさん。彼はシュネーヴァイス家の協力者でした。

 王妃がご乱心になったとき、スノウさんを預かったのが彼らドワーフ族。ですが、魔王の襲撃時にスノウさんは飛び出してしまったらしいです。

 国王様は病気でしたし、心配にもなりますよね。まあ、結局なにも出来ずに彼女も死んでしまいましたが。


「私は死体に魂を宿したゾンビです。ですが、今はあんまり気にしてませんよー」

「そ……そうか……お痛ましや……?」


 彼女の天然が炸裂し、ドモスさんもドン引き気味です。気づいてはいましたが、やっぱり気にしていませんでした。

 トリシュさんなら治せると思いましたが、必要ないようですね。ゾンビでなくなった時点で、スノウさんはただの人間になります。戦えなくなるのは、彼女自身が望まないことでしょう。


「ジルさんという人に救われたんです。今はモーノさんという人と過ごしています。幸せですから、安心してください」

「分かった。姫が幸せならそれが一番だ」


 良かったですねスノウさん。やっぱり、ここに来て正解でしたよ。

 こちらは大丈夫です。ですが、ドモスさんたちドワーフには不穏な空気が漂っている様子。原因は魔王との同盟でした。

 シルバードさんは聞きます。彼は人魚たちと知り合いで、魔王側の動きに警戒していました。ここで、有益な情報を期待するのは当然です。


「てめえらドワーフは魔王側だろ? こんな所でほっつき歩いていて良いのかよ。裏切りを疑われても文句は言えねえぞ」

「その件は耳が痛い。わしらドワーフは姫の意思によって魔王側に組みしたのは事実。だが、わしは協力する気など更々ない」


 ん……? 姫……? スノウさんが魔王に組するように言ったの?

 私とシルバードさんで混乱していると、ドモスさんは咳払いをします。


「失礼、姫とはドワーフ族の王、モニア姫の事だ。千年に一度と言われる女性のドワーフ。彼女は王になる事が運命づけられ、わしらを導くとされている。他の奴らはその迷信に心奪われておるのだろう」


 モニア姫って、もしかしなくても魔王側近の一人ですよね。ただの小娘に屈強なおっさんが従うとは思いませんし、戦闘力も相当に高いんでしょう。

 王が魔王との協定を決めたのなら、もうドワーフたちが止まる事はありません。残念ながら、今こうしてドモスさんと会話できるのも最後かもしれませんでした。

 彼は大きくため息をつき、自らの王とスノウさんを比べます。


「モニア姫もスノウさまのように淑女であればな。何と言おうか、あの子は腕白で困る……」

「姫と言やあ、俺たちが今から会うのも人魚の姫、セイレン姫だ。最も、あいつらも魔王側に組しているがな」


 シルバードさんの口から出た新たな名前、人魚のセイレン姫。まあ、どっちにしろ魔王側なんですけどー。

 なんか、新たな種族と会うたびに魔王側で、物凄く聖国が追い込まれているような気がします。まあ、そこらに喧嘩売りまくったので当然と言えば当然ですが。

 本当に人魚たちとの接触は上手く行くんでしょうか。どこかにシルバードさんの船が隠されているようですが、魔族の国に入るのはやっぱりやべーですよ。

 最後にドモスさんが注意を促します。


「クレアス国に行くのなら止めはせん。だが、スノウさまは死んでも守れ。彼女は亡きシュネーヴァイス王の希望なのだ」

「おうよ、フラウラギルドマスターを舐めんな」


 馬車での移動に村でのごたごたもあり、日はすっかり沈んでしまいました。

 今日はこの村で泊り、明日はミリヤ国跡まで徒歩で移動することになります。敵国に侵入するわけですから、当然馬車は出ていませんね。

 ですが、魔族側は人数が不足していることもあり、聖国のように騎士団を配置したりはしていないようです。つまりはガバガバ、領土に対してもそこまで過敏ではない種族でした。


「魔族に見つからないようにミリヤ国跡に向かい、そこに隠した俺の船に乗り込む。後は人魚どもに会うだけだ。簡単だろ?」

「何でそんなところに船を隠したんですか……」

「人魚の奴らと会うために決まってるだろ。俺は今でこそギルドマスターをやってるが、昔は色々あったんだよ。まあ、船を見りゃ分かる」


 船を見れば分かるって、そんなに全てを説明できる船なんですか。シルバードさんの過去も人魚たちとの関係も、船だけで分かりますかね?

 まあ、楽しみは後にとっておきましょう。とにかく今日はもう寝ます! 馬車での旅でこちとら疲れ切っているんですよ。


 それにしても、人魚ですか……

 この世界に存在する数々の種族。みんなが友達になれないんですかねー。



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