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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第六章 白銀のキャンドルナイト
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127 魔王についてまとめましょう


 フラウラの馬車乗り場。昨日、急に出発が決まったのにも関わらず、私はシルバードさんと合流します。

 まともに準備をしていませんが、長旅にはならない様子。ですが、目的地も何も聞いていません。

 流石に心配なので出発前に聞いておきます。


「それで、どこに行くんでしょうか…_」

「ミリヤの村を中継し、ミリヤ国跡に向かう。そこで人魚たちの様子を伺う予定だ」


 これより向かうのは、魔王に滅ぼされたミリヤ国跡。そういえば、あの国近辺には人魚が住むと言われてましたね。

 ですが、危険じゃありませんか? 国が滅ぼされた発端は、王妃による人魚たちの虐殺。それを期に、魔族たちと正式な同盟を結んだんですから。


「人魚さんたちは魔王側です。人間の私たちは敵ですよ」

「だから、様子を見に行くんだよ。実質、ミリヤの村とミリヤ国あとは国境と言っていい。村を超えれば魔族の国、クレアス国だ」


 それって危険じゃねーですか! 何で私を呼ぶんですかー!

 帰ります! 私は戦争に行くわけじゃありませんし、偵察もしません! わざわざ挑発行為を行う意味が分かりません!

 もう、滅ぼされた国はそっとしておきましょうよ。人魚の皆さんも、きっと私達を見たら怒ります。


「様子を見てどうするんですか! 相手を刺激するだけでしょう!」

「魔王側の動きに注意するよう言ったのはてめえだろ。安心しろよ。俺は人魚たちと知り合いだ。聖国側とも繋がってねえ」


 うう……あくまでも冒険者としての接触ですか。人魚の皆さんに認められても、魔王の方は刺激しそうです。

 ですが、これはチャンスですか。上手くいけば魔王ペンタクルさん、つまり五番の転生者さんと接触出来るかもしれません。

 戦争を止めるように説得出来ますよ! よし、行きます!


「国と関係がないのなら、しょうがないですね。行きましょう!」

「はなから拒否権はねーよ。それで、あと二人同行者を付ける。どっちも、関わりのある話だからな」


 しばらくすると、私たちの前に二人の冒険者が現れます。

 一人は昨日もギルドにいた砂漠の民であるバートさん。もう一人はモーノパーティーの天然お姫様、ゾンビ少女のスノウさんでした。

 あいも変わらず彼女はフワフワし、マイペースで喋ります。どうにも、天然さんの思考は読めませんね。


「テトラさんにマスターさん、こんにちわー。今日もいいお天気ですねー」

「こいつ、街で彷徨いてたのを捕獲したんだ。保護者のモーノがいないと危険すぎるだろ……」


 どうやら、バートさんが遅刻したのはスノウさんを探していたからのようです。

 モーノさんもターリア姫との板挟みで忙しいですからね。流石に別行動するパーティーメンバーまで気にかけてはいないようです。

 ですが、なんで急にスノウさんが? 彼女をわざわざ呼ぶ意味が……

 いえ、ありますよ。そうです! この人はモーノさんたちと別行動をしてでも、この旅に付き合う義務があります!


「まさかスノウさん、ミリヤ国の皆さんと会いに……?」

「そのまさかだ。色々あって、まだ再会してないらしいからな。いい加減、けじめを付けるべきだって呼び出したんだよ」


 流石ギルドマスター、ちゃんと考えてますね。モーノさんはそういう責務に疎そうですから、姫と国民の再会なんて興味なさそうです。

 そんな雑魚より俺を見ろ。俺だけを見ろ。とか言いそうです。まあ、冗談ですけどー。

 シルバードさんは視線をバートさんに移し、肩に手を乗せます。彼にも旅に同行する理由がありました。


「で、こいつは船乗りになりたいって夢があってな。今回、人魚の奴らに会うため、ミリヤ付近に停泊された俺の船を使う。嬉しいだろ?」

「いや……あんたの船って……まあ、良いか」


 ふ……船ですか! バートさんが凄く微妙な顔をしてますが、これはテンション上がりますね!

 それにしても、元盗賊さんが船乗りですか。まさか、今度は海賊にでもなるんですかねー。

 なーんて、流石に失礼ですか。ですが、この四人で海賊ごっこも面白いかも知れません。











 馬車に揺られながら、私はシルバードさんから魔王について聞きます。

 魔王ペンタクルさんは転生された日、女神バアルさまを刺してその力を吸収しました。彼は技の異世界転生者であり、倒した敵のスキルやステータスを吸収するらしいです。

 その後、少年は魔王の家系であるスパシ一族として転生し、魔族たちの住むクレアス国の実権を握りました。どうやら、その地位は力で奪い取ったらしいですね。


「現魔王は元魔王を始末し、国の実権を握った。それからだ。他の種族たちを救済し、カルポス聖国に対抗姿勢を見せたのはな。カリスマ性は十分、連合国となったクレアス国は確実に力をつけている」


 恐怖で支配しているわけではなく、国民からの信頼も厚い様子。幼女を串刺しにした時より丸くなってますね。

 ペンタクルさんは魔王になる事を予期していたのでしょうか? まあ、微妙ですね。話の流れでこうなったのかも知れません。

 ですが、この世界を統一したいと思っているのは事実。実際に他種族との共闘に動いています。


「魔王は八種の種族と協定を結び、それぞれの代表を自らの傍に置いている。奴らはいずれも相当な手練れだと聞いているぜ」


 ペンタクルさんは既に八種族を味方につけていました。強大なカルポス聖国ですが、これらの種族に加えて魔族を相手にすれば流石にキッツイでしょう。

 そうでなくとも、魔王は異世界転生者です。しかも、私やジルさんと違ってガチガチの戦闘特化。一人で国が亡ぶことも考えられました。

 今後、モーノさんが人々を守るなら、結果的に聖国側に付くことになります。そうなると、八種族は彼にとって敵になってしまいますね。

 一応、魔王側の戦力を確認しておきましょうか。


「それで、その八種族って……」

「獣人、人魚、精霊、ドワーフ、エルフ、オーク、魔女、そして人間……砂漠の民だ」


 良かった……小人は入ってないのでマイアさんは安全ですね。もしかしたら、ツァンカリス卿との友好がこの結果に結びついているのかもしれません。

 あとは、ヴィクトリアさんとの問題で戦争に発展しそうだった妖精族。あちらとの関係もモーノさんが改善してくれたみたいです。

 気になるのはメイジーさんと同じ獣人族。それに人間との同盟、砂漠の民ですね。

 バートさんとアリーさんも砂漠の民なので大いに関係があります。二人はこちらに組して大丈夫なんでしょうか……?


「バートさん、貴方の仲間は魔王側に……」

「バカを言うな! 奴らは敵だッ……!」


 ぎゃわー、いきなり怒られましたよー!

 なぜですか! バアルさまを信仰するカナンの民は聖国を憎んでいます。なら、今回魔王側に組するのは自然ですよね。

 バートさんは何故そんな同族を敵視するのでしょう。メイジーさんみたいに割り切ったのでしょうか?

 どうやら、まったく違うみたいです。彼ら砂漠の民には複雑な事情がありました。


「急に怒鳴って悪かったな。俺たちは砂漠の民であり、同時にカナンの民でもある。魔王と同盟を組んだのは聖ビルガメス教徒の奴ら。俺たちバアル教徒を迫害し、この聖国まで追いやった憎むべき存在だ……」

「あ……砂漠の民でも宗教は違ったんですね……」


 なーる、だから砂漠ではなく聖国近辺で盗賊行為をしていたんですね。何だか、私の世界での中東事情を見ているようで複雑でした。

 聖ビルガメス教、この世界に浸透する宗教でも聖アウトリウス教に匹敵するほどの力を持っています。信仰する神は同じ主ですが、彼らはそれぞれ違う救世主メシアを掲げていました。

 聖アウトリウス教はアウトリウスさまが世界を救うと考え、聖ビルガメス教はビルガメスさまが世界を救うと考えています。同じ神さまを信仰してるのに、一番大戦争をしてるとはこれいかにですよ。


「聖ビルガメス教徒の奴らは一人の王を作り、そいつをマハラージャと呼んで慕っている。現国王、ラジアン・マハラージャ。その実力は魔王に次ぐほどらしい」


 おっと、魔王側の最高幹部が出ましたね。こんなヤバそうな人があと七人……聖国は聖剣隊だけで対抗できるんでしょうか。

 と言うより、ペンタクルさんが転生するまで魔族側は劣勢だったんですよね? 今まで、聖国はどうやって他の国を追いこんでいたのでしょう? やっぱり戦略……?


 その時、脳裏にベリアル卿の姿が映ります。

 これは……卑劣で残酷な手段によって進軍に出たんでしょうね……


 もし、彼が聖国側に組したままなら、魔族との戦争は泥沼化するでしょう。圧勝で終わって、犠牲者を最小限に減らすことはまずないと思います。

 やっぱり、魔王ペンタクルさんと聖国王子ハイリンヒさんとの接触は必須。いえ、二人を直接会わせて対談させるまで行く必要があります。

 うーん、難しい……何か方法は…………


 などと考え事をしている時でした。

 突然何者かの声が真っ白い雪原に響きます。


「その馬車、止まるニャー!」


 ななな……何ですか! 馬が鳴き、馬車は急停止します。どうやら何者かが進路に立ち塞がったようでした。

 これは盗賊ですか! こっちは冒険者三人いて、しかもその内一人はギルドマスター。絶対負ける気がしませんが、それでも喧嘩を売るんですか!

 カシムさんは剣を握り、私もナイフにを付けます。ですが、スノウさんは寝ていますし、シルバードさんは煙草のような物をふかしてやる気がありません。

 一番まともな反応をしたのは馬車の運転手。彼は立ち塞がった誰かに向かって叫びます。


「だ……誰だお前は……! って、猫おおお!? 獣人族の変異タイプか!?」

「失敬ニャ。吾輩はケットシー、翠光ニャる精霊だニャ。そこらの獣臭い獣人族と一緒にしてほしくニャいニャー」


 馬車から顔を出すと、確かに二足歩行の猫が立っていました。

 マスケット帽をかぶり、赤いマントを羽織っています。腰にはサーベルを装備し、大きな長靴を履いていますね。まるで、シャルルさんの猫バージョンという姿でした。

 その小さくて可愛らしい姿に似合わず、声はとってもハスキー。彼は急に飛び出したことを詫び、紳士的に頭を下げます。


「失礼したニャ。吾輩はアイルロスと申す者ニャ。わけあって主君と逸れ、どうしても足が必用にニャってしまったんだニャア。もし、その馬車がミリヤの村に向かうのニャら、吾輩も同乗させてもらいたいニャ。勿論、お礼は弾むニャア」


 そう言うと、彼は運転手さんに近づき、隠すように何かを渡します。それはピカピカに輝く金貨。明らかに、この猫さんは普通ではありません。

 ですが、欲に目が眩んだ運転手さんは同乗を許可します。勿論、アイルロスさんに対する詮索は一切しません。彼がどんな存在であろうと、自分には関係ないという態度でした。

 こ……この猫は怪しい……

 彼は馴れ馴れしく私たちの席に捩じり込み、お髭を自慢げに弾きます。


「精霊のアイルロスニャ。同乗させてもらうニャア」

「わあ、猫さんですー。猫さんが喋ってますー」


 スノウさんは飛び起き、大喜びでアイルロスさんを撫でました。馴れているのか、ハスキーボイスの彼は気にも止めていません。

 そのファンシーな見た目で私たちを惑わすなんて……なんて恐ろしい! 私は絶対にこの怪しい猫には騙されません!

 そう思いながら、彼の尻尾を引っ張って遊びました。


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