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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第六章 白銀のキャンドルナイト
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118 ヤベー奴の登場です


 キトロンでの戦いから二週間、私はフラウラの街で穏やかな一日を過ごしていました。

 外は肌寒くなり、いよいよ異世界にも冬が訪れます。先日もパフォーマンスの途中で雪が降り、滅茶苦茶寒い中で人形劇を行いましたね。

 あれはダメです。防寒対策とかもちゃんと考えないといけません。


 商売の方はそこそこ順調。ご主人様のガラクタ順調に減っていき、今は一から人形作りも行っています。

 最も、ご主人様の足元に及ばない布人形ですけどね。技術は低いですが、キャラクターの可愛さなら現代知識で負けていません。

 裁縫によって作ったクマや少女の人形。貴族の女の子にはそこそこ人気です。

 そして、それらの宣伝のために、今日も黒騎士さまの冒険が始まりました。


「地下のダンジョンに潜む悪魔ハイド。黒騎士さまは街の平和の為、彼の討伐へと向かいます!」


 フラウラのストリートで開く指人形による物語。内容はキトロンでの戦い全てです。

 当然、都合の悪い部分は改変してますけどね。聖剣隊の皆さんは味方ですし、ジルさんの作った発明品は存在抹消されています。

 あははー、モーノさんとジルさんがネタ提供してくれて助かりました。これで当分物語を繋ぐことが出来ますよー。

 今でも元ネタが王都で活躍してる黒騎士さま。当然、聖国の子供たちには大人気です。


「黒騎士さまカッコいいー!」

「この前も王都でモンスターを倒したんだって!」


 モーノさん、ターリア姫の護衛も街の人を守るのも頑張ってるみたいですね。この空気なら、彼が徴兵されることはまずないでしょう。

 順調すぎて幸せすぎて最高ですよ。物語を語る技術、商売の技術、人形作りの技術。私はそれらを習い、異世界での立場確立に成功しました。


 ま、ベリアル卿の調査はまったく進んでないんですけどー。


 あの人、私のこと完全にスルーしてます! 邪魔もしませんし、嫌がらせもしません! それどころか、目だったアクションも起こさない!

 そりゃそうですよねー。人の心を歪ませ、間接的に災厄を齎せるのなら悪事をする意味はありません。異世界転生者と関わらないのが正解でした。

 では、こちらから仕掛ければいい? 無理無理カタツムリです。相手は大臣様ですので、まず近づくことが出来ません。ご主人様の操作で屋敷に潜入したところで、挨拶を返されて終わりでしょう。


 この街で私とベリアル卿との繋がりはありません。

 唯一、接点があるとすれば私の劇を見てくれた彼女です。


「パチパチパチ! すごーい! 流石テトラちゃんだね!」

「スピルさん、ありがとうございます」


 赤いメイド服に木の杖を背負った少女。ファウスト家のメイド、スピル・フォティアさんですね。

 彼女はポニーテールをピコピコ動かし、目をキラキラと輝かせます。相変わらず子供っぽくて遊び好き。私の劇を高く評価してる様子でした。


「あーあ、ベリアルさまの屋敷で働いてくれればいいのに!」

「流石に彼に対し、このような子供だましはちょっと……」


 ですが、それも一考の余地がありますか……ベリアル卿は気まぐれですし、私を宮廷道化師として受け入れてくれるかもしれません。上手く行けば、調査がスムーズに行くかもしれません。

 あ、でもでも、トリシュさんに関わらないよう忠告を受けているんでした。あまり、彼女に喧嘩を売るような真似もしたくないですねー。

 ま、焦っても仕方ないです。相手が何もしないなら、こちらも期を待つのみですよ。下手に動けば相手の思うつぼですからね。









 商売と買い物を終え、フラウラから森の方へと戻ります。

 あまり遅くなると真っ暗になり、モンスターも凶暴化しちゃいますからね。魔除けのお守りも過信できませんし、日が沈む前に帰ると決めています。

 初めは怖がっていた森ですが、流石に一カ月以上暮らすと馴れますね。今は庭のような気分で歩けますし、モンスターたちも私のことを知っている様子でした。


 だからこそ、なんか縄張り意識が芽生えちゃってます。

 森に不審な人が現れれれば当然警戒しちゃいますよ。今みたいに……


「そなた、すまないが道を尋ねても良いか?」

「え……はい」


 家へと帰る途中の森にて、コートを羽織った謎の女性と出会ってしまいます。

 背が高く、厚着ですがセクシーな身体はよく分かりますね。表情もエロティックで、どことなく妖艶な雰囲気を感じました。

 こんな森の中に人……? しかも、何だかゾワゾワした妖気を感じます。

 ですが、相手は疑うこちらなんてお構いなし。彼女は上から目線の態度を決め込んでいました。


「ネビロス・コッペリウスという男を訪ねたい。そなたは彼の者を知っているか? 知っているのなら、わらわを案内せよ」


 ここ、フラウラと王都周辺は聖国による外敵の駆逐が進んでいます。強力なモンスターは滅多にいませんし、群れを成して襲ってくるようなこともありません。

 特にこの森は街から近く、出てくるのは子供でも倒せるような芋虫ぐらい。それでも、二体、三対と集まれば厄介なので、一般人が易々と足を踏み入れるような場所ではありません。

 ここに来るのは採集目的の冒険者と調査目的の聖国騎士団ですね。炭鉱街キトロンに行くために突っ切る場合も、この方向を通る事はありません。


 まあ、つまり一般人と遭遇するはずがないのです。ご主人様を訪ねてきたのなら尚の事。

 会わせて良いんでしょうか……でも、知り合いかもしれませんし……

 一応、念を入れてこちらの立場を明かしましょうか。

 

「私はコッペリウス様に仕える奴隷、テトラ・ゾケルと申します。この頬の紋章は奴隷契約の……」

「ほう、わらわを前にして嘘偽りとな? その紋章は奴隷契約などではなく、悪魔契約の紋章と見受けられるが?」


 げ……ばれた……一応、奴隷契約の効果も含まれてるので嘘ではないんですけどね。

 とにかく、この女性はただ者ではないのは確実です。せめて名乗ってもらわなければ、こちらも会わせるわけにいかねーですよ。


「私が悪魔契約者と分かるのならば、その立場も分かるでしょう。名前、用件、それらを明かさないことには、こちらも案内するわけにはいきません」

「いや、もう良い。そなたが彼の者と契約を交わしたのならば、既に辿り着いたのも同然。丁度、余も体を解したいと思っていた」


 悪魔のような邪悪な笑みを浮かべる女性。うっわ、すっげえ嫌な予感が……

 そう思った時でした。突然、彼女は上着を脱ぎ捨て、露出の高い水着のような姿を晒します。

 な……何ですかこの痴女は! やっぱりナイスバディですし、スタイルも抜群じゃないですか! 女の私でも惚れちゃいそうです。

 って、いえいえ! そこじゃない! それより気になるのが二点!


「ど……ドラゴンと蛇……?」

「驚いたかえ? わらわの可愛いペットよ……」


 左肩に小さな白いドラゴンを乗せ、右腕に黒い蛇を巻いています。ずっと、ぶかぶかのコートの下にこの二匹を隠していたようでした。

 ヴァルジさんに聞きましたよ。このカルポス聖国はテイマー職が普及していません。モンスターを使役する人なんて僅かしかいないと……

 ヤベー奴決定です! そして今、そのヤベー奴に臨戦態勢を取られていました。


「わらわは黄昏の旅人……北風の竜よ。太陽の蛇よ。久しい戦いに歓喜せよ」


 白いドラゴンは翼を広げ、飛び上がります。そして、自らの周囲に冷たい風を巻き起こしました。

 黒い蛇は空中へと浮き、自らの尾を噛んで円となります。そして、体から赤い炎を発しました。

 これ、どこかで見ました。そうですよ! ロバートさんが森聖域の間で見せた映像。


 嵐の神セトさまと太陽神ホルスさま。

 あの時とそっくりです!


「宙を舞え、熱く焦がれよ」


 白竜と黒蛇、二匹による攻撃が同時に放たれました。

 突風と業火、両方は一つとなって凄まじい熱風となって襲い掛かります。すぐに、ご主人様に意思が伝わり、降霊の糸が身体に繋がれました。

 大きくジャンプしながら宙返り、熱風を間一髪で回避。いきなりこの仕打ちとは、行儀のなっていない客人ですよ!

 ですが、相手も大事になりたくない様子。放った炎は木々に燃え移ることなく、すぐに消滅してしまいます。

 これ、かなり高度な技ですよね……本当に何者なんですか!


「いきなり何をしますか! 貴方、ご主人様に用があるんですよね!」

「それもあるが、そなたの力を試したい。あの偏屈がなぜここまで入れこむか、わらわ自身の目で確かめるべき事よ」


 黒蛇は黒い太陽となり、そこから火炎弾を掃射していきます。私は涙目になりながら、攻撃を次々に回避! 状況が分からないので、攻めようがないですよ!

 一匹に集中していると、今度は白竜が北風となります。自身を突風に変えたドラゴンはこちらに突っ込み、私を吹き飛ばそうと牙をむきました。

 すぐに、ジルさんの作ったナイフを取りだし、一振りして空をはらいます。すると、突風の軌道は僅かに逸れ、威力を大きく落としました。


「ご主人様の知り合いなのは確かなようですね……こんなグラマーな女性と知り合い……」


 風の直撃を受けましたが、その場で踏みとどまります。ですが、相手のことが気になって、これ以上は勝負にならないでしょうね。

 あのおっぱいが……あの痴女がご主人様の知り合い……?

 どんな関係ですか……友人? 知人? まさか、まままままさか……!


 恋人とか!


「ねーですよ! 絶対ねーですよォ!」


 戦意喪失です。もう、相手の実力とかどーでもいいです。

 それよりご主人様との関係! それを知りたい! 知らないと安心できない!

 ですが、こっちの事なんて相手さんはお構いなしでした。再びドラゴンと蛇を揃え、二匹同時に攻撃を放ちます。この精神状態では対処できません!


 不味い……また死にかけてる……!

 絶体絶命の時、私の前に黒いマントの男性が立ちます。


「部下に向かって、随分な挨拶ではないか。アスタロト……」

「そなたが死体を操れなくなったと聞いてな。実力を試したかっただけよ」


 ご……ご主人様ァァァ!

 彼は糸操り人形の少年ピノを動かし、炎と風を容易く振り払ってしまいました。今回は自分の問題と分かっているのでしょう。そこに一切の手加減は感じられません。

 もう、何をしているのか全く分からない両手両指の動き。それにより、人形ピノは地を走り、火炎弾を回避しつつ敵に迫ります。


「ならば、私の契約者に手を出さないことだ。これでも、怒りは感じるつもりだ」

「死体のように冷たいそなたが怒りとな? 人に感化され、変わったものよのう。ネビロス……」


 ですが、アスタロトさんも負けていません。白いドラゴンを北風に変え、自らの周囲に空気の渦を作り出しました。

 あれでは、近づいた瞬間に吹っ飛ばされますよ! 瞬時に理解したご主人様は両指を巧みに動かします。情報は糸を伝い、人形ピノを正確精密に行動させました。

 くるりと踊るように周り、勢いをつけて渦に突っ込みます。す……凄いごり押し! でも、ダメです。風に負けて吹っ飛ばされて……


「奥の手は確実かつ無慈悲に……決して気づかれないようにだ」


 ご主人様が小指を動かした瞬間でした。

 ピノくんの鼻が針のように伸び、風の防壁を突き破ります。そして、針の先端はアスタロトさんの首筋直前で止まりました。

 ご主人様つよ……全然気づかなかった……

 ですが、敵さんは分かっていて攻撃に反応しなかった様子。涼しい表情で評価します。


「人形使いも板についてきたか。このまま死体を操れなくても構わないのでは?」

「冗談を言わないでほしい。それは私が困る……」


 ご主人様はピノさんの鼻をひっこめ、アスタロトさんを解放しました。すると、彼女も左肩にドラゴン、右腕に蛇を戻してしまいます。

 茶番劇は終わりですね。再びコートを羽織ったアスタロトさんは偉そうに腕を組み、ご主人様に家への案内を任せました。

 彼女、上司だったんですね……良かった……


 でも、上司のと部下の関係って……

 ゆ……油断できねえです! 要警戒ですよ!



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