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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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114 ☆我ら異世界転生者!☆


 魔法時計が完成し、私たちの勝利が確定します。

 最後の最後で演説を切ってしまい正直ギリギリのところでした。まあ、結果間に合ったので良しとしましょう。

 時計は金色に輝き、ジルさんの手によって起動されています。ロッセルさんが声を張り上げますが、もう誰にも止められないでしょう。


「貴様はジル・カロル……初めから繋がっていたのか……貴様らは全員共謀していたのか!?」

「はっ! 今更気づいてもおせーんだよ! 既に魔法時計は起動したぜェ!」


 髪型はオールバックとなり、ガラの悪い口調のジルさん。噛ませっぽいですが、これでも覚醒してるので最強です。

 ですが、そんな彼を前にしてもロッセルさんは引きません。大剣を振り上げ、再びこちらへと突っ込んで来ます。


「許さん……許さんぞ聖国に巣食う害獣共がァァァ!」

「隊長! あいつら危険です。言い分を聞き、人々の避難を……」

「ここまで舐められて剣を収めるものかァ……!」


 部下の静止も聞かず、ジルさんに剣を振り落とす隊長。ですが、この二人を戦わせる訳にはいきません。

 私はご主人様の操作によって身体を動かし、ジルさんを跳ね除けます。そして、街で買ったナイフを抜き、ロッセルさんの剣をいなしました。

 パワーでは圧倒的に負けています。ですが、ご主人様の操作は精密かつ正確。蝶のように舞って、蜂のように刺せるのです!


「ロッセルさん! 貴方は誤解しています! 私たちはこの街のために……」

「貴様の目を見ればそれは分かる! そんな事は問題ではないのだ! 聖国最強である我らが振り回され! 掻き乱された事実が問題なのだ!」


 地属性魔法によって大剣が橙色に光りました。間違いありません。あの技が来る!

 遅いんですよ! 読めるんですよ! 誰が食らうものですか!

 敵さんが剣を掲げるのと同時に、私はぴょんとジャンプします。さあ、地面を破壊してください。私には効きませんから!


「我ら聖剣隊は最強でなくてはならない! 他に劣る事など、あってはならないのだ!」


 剣が振り落とされ、地面に叩きつけられたのと同時。まるで胡桃のように地表が派手に砕かれました。

 ですが、私は空中。地属性は下から襲うことはヴィクトリアさんからも聞いています! こちらとの相性は最悪なんですよ!

 攻撃が終わり、反動で静止するロッセルさん。私は割れた地面に着地し、彼との距離を詰めます。

 ですが、攻撃はしない。既に、貴方の心は読めていますから!


「そうですか。楽ですよね。国の人形になるのは……」

「く……うおォォォ!」


 頭が硬い頑固親父のロッセルさん。そんな彼の表情が一気に崩れました。

 吠える。そして我武者羅に剣を振り回す。

 若い時から正義感に溢れ、自分の思う正しさに真っ直ぐだった。ですが、成長して社会に溶け込むにつれ、その思想は潰されていきます。

 出る杭は打たれる。国への不平不満は許されず、人形に徹するしかない憤り。感じますよ……ぴりぴり感じます!


 だから貴方は私が嫌いなんだ!


 おっさんの剣をしゃがんで回避し、懐に入ります。そして、彼の持つ剣を狙い、その柄を思いっきりキックしました。

 攻撃の反動で右手が痺れているんですよね? なら、剣を握り続けることは出来ません!

 結果は成功。キックにより、ロッセルさんの大剣は地面へと落ちます。同時に、私はナイフを彼の顔面に寸止めしました。


「私の勝ちです。認めてもらいますよ!」

「理解を超えた力の数々……なんだ貴様らは……いったい何者だ……!」


 私たちが何なのか。答えは一つ!


「異世界転生者だ!」

「異世界転生者……覚えたぞ!」


 敵意をむき出しにし、猛獣のように私を睨むロッセルさん。ですが、その憎しみも全部消えます。

 ジルさんは後のことは気にしなくていいと言っていました。それに加えて発明は時計の形。

 だから、察しは付きました。彼の作るアイテムは過去改変に近い効果を持っている。そして、いよいよその時が来ます。


「てめえら! 時計の近くに来い! 世界を改変するぜェ!」

「ロッセルさん! 貴方の国を愛する気持ち、伝わりましたから!」


 丁寧にお辞儀をし、おっさんに背を向けました。

 転生者四人とその仲間全員で集まり、ジルさんの魔法時計を囲みます。彼の発明は世界に影響を及ぼすもの。その力は計り知れないものでした。

 不都合を無かったことにするなんて卑怯です。どこまでもチートと言えるでしょう。

 ですが、それをしてでも守りたいものがありました。ツァンカリス卿や孤児院のみんなが愛したキトロンの街。今、返してもらいます!


「んじゃま、俺の役目はお終いだ。ちっとの間お別れだが、寂しがる必要はねーぜ。俺たちは魂の兄弟。頼みがあるなら、ジルの奴を頼るんだな」


 時計の針は逆回転し、金色の光が広がります。その中にジルさん……いえ、ハイドさんは右手を上げて消えていきました。

 少しずつ薄れていく意識。世界が改変され、新しい時が始まろうとしていると分かります。

 これで良かったんですよ。全部、やり直しましょう。


 人の進化は階段。

 また、一歩一歩踏み出せばいいのですから。









 夕暮れ空の下、私の意識は戻りました。

 流星のコッペリアを使わず、ご主人様の操作だけなので目覚めは早めです。ですが、やっぱり体中が痛くて当分派手に動けませんね……

 場所は街の集会場前から変わりません。ですが、そこにゲリラ組織も聖剣隊も見当たりませんでした。

 いるのは私たち転生者とその仲間だけ。狼少女のメイジーさんは変身を解き、ジルさんに掴みかかります。


「ちょっと、どうなってるのよ! みんな消えちゃったわよ!」

「だ……大丈夫だよ……! 街が戦場になったという事実が消え、彼らが集まる理由が無くなっただけだから……!」


 体を揺すられつつも必死に説明するジルさん。バアルさまの時と言い、彼には女難の相があるようです。

 納得したメイジーさんは手を放します。ですが、たぶんこの人よく分かっていません。だって、私もよく分かっていませんもの!

 戦場になった事実が消えた? それは今までの戦いも全部なかったことになったという事?

 すぐに、モーノさんが私の疑問を代弁します。


「まさか、時間を巻き巻き戻したのか……?」

「それじゃダメだよ。そんな事をしても僕たちが時間を飛び越えるだけ。元の世界線は最悪の状況のまま進み続けるんだ」

「パラレルワールドか……」


 何か難しいことを話していますが、要するに時間を巻き戻しても世界が二つになるだけって事ですね。それじゃ私たちが良くても、元の世界の人たちが悲しい思いをするので絶対ダメです!

 では、魔法時計は何を行ったのか。トリシュさんがその詳細を聞きます。


「では、その悪趣味な時計は何を行ったのですか?」

「悪趣味……この時計は世界規模の改変装置だよ。一連の騒動に関係する事実をこの世から取り除き、矛盾部分を穴埋めしたんだ。もう、僕たち以外でハイドとその発明を覚えている人はいないよ」

「世界の改変ですか。まさにチートですね」


 眼鏡を上げ、ドヤ顔で説明するジルさん。ですが、彼はあることに気づきます。


「ところで、君は誰だい?」

「貴方こそ誰ですか」


 あ、この二人面識なかった。というより、地味に転生者四人そろってますよ!

 凄い凄い! 『力』、『知』、『癒』、『心』! これだけ揃っていればそりゃー無敵ですよ! 負けるはずがなかったんです!

 兄弟が揃って何だか楽しくなってきました。私はトリシュさんとジルさんの手を握り、モーノさんに近づきます。そして、四人仲良く並びました。


「四人揃いましたよ! 魂の兄弟です!」

「恥ずかしいからやめてください……」


 てれた様子でトリシュさんが手を振り払います。そして、私たちに背を向け、キッと睨みつけました。

 どうやら、彼女は慣れ合うつもりなどまったくないようですね。では、なぜ助けたんですか? なんでいきなり現れたんですか?

 謎すぎます……ですが、一応言い分があるようです。


「貴方、ベリアル卿に敵意を持っているようですね。警告します。彼に手を出さないでください。私はそれを言いに来ただけですよ」


 そんな捨て台詞を残し、トリシュさんはどこかに歩いていきました。

 なんか、この人いつも突然現れて勝手に消えますよね。それにベリアル卿に手を出すなって……やっぱり、彼女はあちらサイドという事ですか。もっとも、ベリアル卿が敵とは決まっていませんけどね。



 ま、色々ありましたがこれで問題解決です!

 街の人たちを代表して、ジェイさんとマイアさんがお礼を言います。帽子の上に立つ小人さんは、私たちに向かって深く頭を下げました。


「これで、全部終わったのですね……ありがとうございます。旦那様もきっと喜ばれているでしょう」

「オイラからもお礼を言うよ。すごく怖かったけど、すごく楽しかったよー」


 あはは……本当に終わったんだ……どっと疲れましたよ。

 これでもう街が危機に陥ることはありません。ハイドさんの存在は世界から消え、誰も覚えていないのですから。あの戦い全てはなかったんです!


 そう、全部なくなったと思っていました。

 ですが、ただ一人。私たちの予測を上回る存在がいたのです。


「なんで中断した……」


 マイアさんとジェイさんがお礼を言った時でした。

 夕日を背に立ち、修羅のような形相で睨む青年。彼は突然現れ、私の元へと歩いて来ます。

 名はシャルル・ヘモナス。聖剣隊のエースで、トリシュさんすらも警戒するほどの実力者。どうやら、彼は一連の騒動全てを覚えているようですね。


「なんで中断したかと聞いたんだ! あのまま演説を続けていればリスクはなかった。どうせ世界が改変されるのなら、確実な方法を選ぶべきだった。だのに何故!」


 燃えるような真紅の瞳で睨む美青年。色々聞き返したかったのですが、私はその気迫に押されて素直に答えてしまいました。


「あの時、ベリアル卿と自分の姿が重なりました。加えて、自身に『それで良いのか』って投げかけられたんですよ。それで、やっぱりダメだって……私、間違っていたのでしょうか……?」


 曖昧な答えに対し、口をへの字に曲げるシャルルさん。彼は大きくため息をつき、何事もなかったように背を向けます。

 えー……あれだけ好き勝手やって帰っちゃうんですか……なんか、モーノさんはまったく追う気がないようですし、スルーしていい奴なんですか……?

 一応、私の問いかけに対して答えてくれます。ですが、それは余りにも上から目線でした。


「60点」


 高いのか低いのか分かりません。物凄くムカつくという事だけは分かりました。

 彼は最後に、突然懐から一つのカップラーメンを取り出します。そして、それを人差し指の上に乗せ、くるくると回し始めました。


「麺は塊のまま揚げたわけじゃない。バラバラに揚げ、熱が通った麺は表面に浮く。それが纏まって一塊になるから、熱の入りが均等なんだ。人の知恵は面白いものだよ」


 彼は後ろを向いたまま続けます。


「当たり前にある常識は、誰かが作った非常識さ。いったいどれだけの人が、この素晴らしい発明の全てを理解しているんだろうね……」


 瞬間でした。

 彼の背に真紅の炎が燃え上がります。やがて、それは形になっていき、ルビーレッドの翼へと変化しました。

 真っ赤な羽が周囲に舞います。美しくも情熱的な風景……まるで彼は天使さまのようですね。

 シャルルさんは飛び立ちました。夕日に向かって、真紅の翼をはためかせ……

 その時、ずっと隠れていた女神バアルさまが姿を現します。そして、負け犬の遠吠えのように、空に向かって叫びました。


「なぜじゃ……なぜお前がここに……ウリエルー!」


 ウリ……エル……?

 キトロンの長い戦い。その最後は灼熱の天使さまで幕を閉じます。

 ま、とにかくこれで一段落。




 二番と心を繋げた。

 あと二人。


うりぃ

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