114 ☆我ら異世界転生者!☆
魔法時計が完成し、私たちの勝利が確定します。
最後の最後で演説を切ってしまい正直ギリギリのところでした。まあ、結果間に合ったので良しとしましょう。
時計は金色に輝き、ジルさんの手によって起動されています。ロッセルさんが声を張り上げますが、もう誰にも止められないでしょう。
「貴様はジル・カロル……初めから繋がっていたのか……貴様らは全員共謀していたのか!?」
「はっ! 今更気づいてもおせーんだよ! 既に魔法時計は起動したぜェ!」
髪型はオールバックとなり、ガラの悪い口調のジルさん。噛ませっぽいですが、これでも覚醒してるので最強です。
ですが、そんな彼を前にしてもロッセルさんは引きません。大剣を振り上げ、再びこちらへと突っ込んで来ます。
「許さん……許さんぞ聖国に巣食う害獣共がァァァ!」
「隊長! あいつら危険です。言い分を聞き、人々の避難を……」
「ここまで舐められて剣を収めるものかァ……!」
部下の静止も聞かず、ジルさんに剣を振り落とす隊長。ですが、この二人を戦わせる訳にはいきません。
私はご主人様の操作によって身体を動かし、ジルさんを跳ね除けます。そして、街で買ったナイフを抜き、ロッセルさんの剣をいなしました。
パワーでは圧倒的に負けています。ですが、ご主人様の操作は精密かつ正確。蝶のように舞って、蜂のように刺せるのです!
「ロッセルさん! 貴方は誤解しています! 私たちはこの街のために……」
「貴様の目を見ればそれは分かる! そんな事は問題ではないのだ! 聖国最強である我らが振り回され! 掻き乱された事実が問題なのだ!」
地属性魔法によって大剣が橙色に光りました。間違いありません。あの技が来る!
遅いんですよ! 読めるんですよ! 誰が食らうものですか!
敵さんが剣を掲げるのと同時に、私はぴょんとジャンプします。さあ、地面を破壊してください。私には効きませんから!
「我ら聖剣隊は最強でなくてはならない! 他に劣る事など、あってはならないのだ!」
剣が振り落とされ、地面に叩きつけられたのと同時。まるで胡桃のように地表が派手に砕かれました。
ですが、私は空中。地属性は下から襲うことはヴィクトリアさんからも聞いています! こちらとの相性は最悪なんですよ!
攻撃が終わり、反動で静止するロッセルさん。私は割れた地面に着地し、彼との距離を詰めます。
ですが、攻撃はしない。既に、貴方の心は読めていますから!
「そうですか。楽ですよね。国の人形になるのは……」
「く……うおォォォ!」
頭が硬い頑固親父のロッセルさん。そんな彼の表情が一気に崩れました。
吠える。そして我武者羅に剣を振り回す。
若い時から正義感に溢れ、自分の思う正しさに真っ直ぐだった。ですが、成長して社会に溶け込むにつれ、その思想は潰されていきます。
出る杭は打たれる。国への不平不満は許されず、人形に徹するしかない憤り。感じますよ……ぴりぴり感じます!
だから貴方は私が嫌いなんだ!
おっさんの剣をしゃがんで回避し、懐に入ります。そして、彼の持つ剣を狙い、その柄を思いっきりキックしました。
攻撃の反動で右手が痺れているんですよね? なら、剣を握り続けることは出来ません!
結果は成功。キックにより、ロッセルさんの大剣は地面へと落ちます。同時に、私はナイフを彼の顔面に寸止めしました。
「私の勝ちです。認めてもらいますよ!」
「理解を超えた力の数々……なんだ貴様らは……いったい何者だ……!」
私たちが何なのか。答えは一つ!
「異世界転生者だ!」
「異世界転生者……覚えたぞ!」
敵意をむき出しにし、猛獣のように私を睨むロッセルさん。ですが、その憎しみも全部消えます。
ジルさんは後のことは気にしなくていいと言っていました。それに加えて発明は時計の形。
だから、察しは付きました。彼の作るアイテムは過去改変に近い効果を持っている。そして、いよいよその時が来ます。
「てめえら! 時計の近くに来い! 世界を改変するぜェ!」
「ロッセルさん! 貴方の国を愛する気持ち、伝わりましたから!」
丁寧にお辞儀をし、おっさんに背を向けました。
転生者四人とその仲間全員で集まり、ジルさんの魔法時計を囲みます。彼の発明は世界に影響を及ぼすもの。その力は計り知れないものでした。
不都合を無かったことにするなんて卑怯です。どこまでもチートと言えるでしょう。
ですが、それをしてでも守りたいものがありました。ツァンカリス卿や孤児院のみんなが愛したキトロンの街。今、返してもらいます!
「んじゃま、俺の役目はお終いだ。ちっとの間お別れだが、寂しがる必要はねーぜ。俺たちは魂の兄弟。頼みがあるなら、ジルの奴を頼るんだな」
時計の針は逆回転し、金色の光が広がります。その中にジルさん……いえ、ハイドさんは右手を上げて消えていきました。
少しずつ薄れていく意識。世界が改変され、新しい時が始まろうとしていると分かります。
これで良かったんですよ。全部、やり直しましょう。
人の進化は階段。
また、一歩一歩踏み出せばいいのですから。
夕暮れ空の下、私の意識は戻りました。
流星のコッペリアを使わず、ご主人様の操作だけなので目覚めは早めです。ですが、やっぱり体中が痛くて当分派手に動けませんね……
場所は街の集会場前から変わりません。ですが、そこにゲリラ組織も聖剣隊も見当たりませんでした。
いるのは私たち転生者とその仲間だけ。狼少女のメイジーさんは変身を解き、ジルさんに掴みかかります。
「ちょっと、どうなってるのよ! みんな消えちゃったわよ!」
「だ……大丈夫だよ……! 街が戦場になったという事実が消え、彼らが集まる理由が無くなっただけだから……!」
体を揺すられつつも必死に説明するジルさん。バアルさまの時と言い、彼には女難の相があるようです。
納得したメイジーさんは手を放します。ですが、たぶんこの人よく分かっていません。だって、私もよく分かっていませんもの!
戦場になった事実が消えた? それは今までの戦いも全部なかったことになったという事?
すぐに、モーノさんが私の疑問を代弁します。
「まさか、時間を巻き巻き戻したのか……?」
「それじゃダメだよ。そんな事をしても僕たちが時間を飛び越えるだけ。元の世界線は最悪の状況のまま進み続けるんだ」
「パラレルワールドか……」
何か難しいことを話していますが、要するに時間を巻き戻しても世界が二つになるだけって事ですね。それじゃ私たちが良くても、元の世界の人たちが悲しい思いをするので絶対ダメです!
では、魔法時計は何を行ったのか。トリシュさんがその詳細を聞きます。
「では、その悪趣味な時計は何を行ったのですか?」
「悪趣味……この時計は世界規模の改変装置だよ。一連の騒動に関係する事実をこの世から取り除き、矛盾部分を穴埋めしたんだ。もう、僕たち以外でハイドとその発明を覚えている人はいないよ」
「世界の改変ですか。まさにチートですね」
眼鏡を上げ、ドヤ顔で説明するジルさん。ですが、彼はあることに気づきます。
「ところで、君は誰だい?」
「貴方こそ誰ですか」
あ、この二人面識なかった。というより、地味に転生者四人そろってますよ!
凄い凄い! 『力』、『知』、『癒』、『心』! これだけ揃っていればそりゃー無敵ですよ! 負けるはずがなかったんです!
兄弟が揃って何だか楽しくなってきました。私はトリシュさんとジルさんの手を握り、モーノさんに近づきます。そして、四人仲良く並びました。
「四人揃いましたよ! 魂の兄弟です!」
「恥ずかしいからやめてください……」
てれた様子でトリシュさんが手を振り払います。そして、私たちに背を向け、キッと睨みつけました。
どうやら、彼女は慣れ合うつもりなどまったくないようですね。では、なぜ助けたんですか? なんでいきなり現れたんですか?
謎すぎます……ですが、一応言い分があるようです。
「貴方、ベリアル卿に敵意を持っているようですね。警告します。彼に手を出さないでください。私はそれを言いに来ただけですよ」
そんな捨て台詞を残し、トリシュさんはどこかに歩いていきました。
なんか、この人いつも突然現れて勝手に消えますよね。それにベリアル卿に手を出すなって……やっぱり、彼女はあちらサイドという事ですか。もっとも、ベリアル卿が敵とは決まっていませんけどね。
ま、色々ありましたがこれで問題解決です!
街の人たちを代表して、ジェイさんとマイアさんがお礼を言います。帽子の上に立つ小人さんは、私たちに向かって深く頭を下げました。
「これで、全部終わったのですね……ありがとうございます。旦那様もきっと喜ばれているでしょう」
「オイラからもお礼を言うよ。すごく怖かったけど、すごく楽しかったよー」
あはは……本当に終わったんだ……どっと疲れましたよ。
これでもう街が危機に陥ることはありません。ハイドさんの存在は世界から消え、誰も覚えていないのですから。あの戦い全てはなかったんです!
そう、全部なくなったと思っていました。
ですが、ただ一人。私たちの予測を上回る存在がいたのです。
「なんで中断した……」
マイアさんとジェイさんがお礼を言った時でした。
夕日を背に立ち、修羅のような形相で睨む青年。彼は突然現れ、私の元へと歩いて来ます。
名はシャルル・ヘモナス。聖剣隊のエースで、トリシュさんすらも警戒するほどの実力者。どうやら、彼は一連の騒動全てを覚えているようですね。
「なんで中断したかと聞いたんだ! あのまま演説を続けていればリスクはなかった。どうせ世界が改変されるのなら、確実な方法を選ぶべきだった。だのに何故!」
燃えるような真紅の瞳で睨む美青年。色々聞き返したかったのですが、私はその気迫に押されて素直に答えてしまいました。
「あの時、ベリアル卿と自分の姿が重なりました。加えて、自身に『それで良いのか』って投げかけられたんですよ。それで、やっぱりダメだって……私、間違っていたのでしょうか……?」
曖昧な答えに対し、口をへの字に曲げるシャルルさん。彼は大きくため息をつき、何事もなかったように背を向けます。
えー……あれだけ好き勝手やって帰っちゃうんですか……なんか、モーノさんはまったく追う気がないようですし、スルーしていい奴なんですか……?
一応、私の問いかけに対して答えてくれます。ですが、それは余りにも上から目線でした。
「60点」
高いのか低いのか分かりません。物凄くムカつくという事だけは分かりました。
彼は最後に、突然懐から一つのカップラーメンを取り出します。そして、それを人差し指の上に乗せ、くるくると回し始めました。
「麺は塊のまま揚げたわけじゃない。バラバラに揚げ、熱が通った麺は表面に浮く。それが纏まって一塊になるから、熱の入りが均等なんだ。人の知恵は面白いものだよ」
彼は後ろを向いたまま続けます。
「当たり前にある常識は、誰かが作った非常識さ。いったいどれだけの人が、この素晴らしい発明の全てを理解しているんだろうね……」
瞬間でした。
彼の背に真紅の炎が燃え上がります。やがて、それは形になっていき、ルビーレッドの翼へと変化しました。
真っ赤な羽が周囲に舞います。美しくも情熱的な風景……まるで彼は天使さまのようですね。
シャルルさんは飛び立ちました。夕日に向かって、真紅の翼をはためかせ……
その時、ずっと隠れていた女神バアルさまが姿を現します。そして、負け犬の遠吠えのように、空に向かって叫びました。
「なぜじゃ……なぜお前がここに……ウリエルー!」
ウリ……エル……?
キトロンの長い戦い。その最後は灼熱の天使さまで幕を閉じます。
ま、とにかくこれで一段落。
二番と心を繋げた。
あと二人。
うりぃ