113 ☆私の言葉が響きます!☆
私の役割は戦いじゃありません。
四番次女、心の異世界転生者。持ち能力は『同調』、相手と心を通わせて理想の舞台を演出する。
それを実行する手段は言葉! お話してこその私です!
両腕を広げ、必死に自分の存在をアッピルします。とにかく、まずは話を聞いてもらわないと!
「皆さん聞いてください! これは何かの陰謀です! 聖国民同士で争うことに意味などありません!」
『テトラよ。この戦乱状態での対話は無理があるぞ』
確かにご主人様の言うとおり、聞く気のない相手に何を話しても無駄です。トリシュさんの登場で一度戦闘が止まりましたが、今は完全に再開していました。
恐らく、彼女がロッセルさんと戦っていることにより、回復速度が低下しているのでしょう。これではいつか限界が訪れます。
「なぜ与えたダメージが回復する!? あの仮面女の仕業か!」
「怯むな! あいつは隊長が相手している。俺たちは攻めて攻めて攻めまくるんだ!」
鬼気迫る表情で攻め続ける聖剣隊。それに対し、ゲリラ組織側も必死で抵抗しています。回復魔法の効果もあり、粗末な武器でも十分に粘れているようでした。
誰一人として私の言葉に耳を貸そうとする人はいません。それどころか、聖剣隊にとって私は敵。こちらを認識するや否や、武器を振りかざしてきます。
「流星のコッペリア、我らが聖国の為に散れ!」
相手なんてしていられない……私にはやるべき事があるんです!
その時でした。突然、敵さんの攻撃が何者かによって防がれます。助けてくれたのは一人の少女。まるで幽霊のように、彼女は突如そこに現れました。
両方とも武器は剣。互いに押し合いますが、こちらの助っ人の方が優勢。少女は剣を巨大化させ、そのまま聖剣隊を薙ぎ払ってしまいました。
「テトラちゃん、遅くなってごめん!」
「アリシアさんナイスです!」
青いエプロンドレスを着た剣士。モーノパーティーのアリシアさんです。
彼女がいるなら当然もう一人いますね。私の背後から斬りかかる騎士。そんな彼を一人の少女が蹴っ飛ばします。
人前でも姿を偽ることなく、狼少女の姿となったメイジーさん。彼女は私の前に立ち、サポートの体勢へと入りました。
「ジルの奴から聞いたわ。後先の事は発明で何とかなる。だから、好き勝手暴れても問題ないって!」
「本当にこれが何とかなるんですかね……」
モーノパーティーは完全に聖国と敵対してしまいました。それどころか、私とトリシュさんの立場も危うくなるでしょう。これ、収拾付くんでしょうか……
ですが、もうジルさんを信じるしかありません。時間まで粘れば何となる! それだけは絶対的でないと今更困りますから!
だからこそ、姑息であろうと何であろうと、言葉によって戦いを止めます。なんとか皆さんの注目を集めないと……。
「誰も、私の言葉を聞いてくれない……どうすれば……」
「お姉ちゃん」
どわっ! ビックリしました。
私の隣に立つ山高帽子の少年、孤児院のジェイさんです。
彼は確かトマスさんたちと一緒にいたはずですが……何でこんな戦場にいるんですか! 危ないってレベルじゃねーですよ!
とにかく、安全なところに移動してもらいます。彼に何かあったら、ミテラさんに合わせる顔がありません!
「ジェイさん! 何で来たんですか! これは遊びじゃ……」
「分かってるよ……! 遊びじゃない……精霊のみんなが泣いてるんだ! また、この街で虹を見たいから!」
私の知らないどこかで何かあったのでしょう。ジェイさんは真剣その物でした。
彼の目が翡翠色に輝きます。魔力を持っていない私でも感じるほどの力……それは、精霊の力を借りた植物による魔力でした。
「目立てばいいんだよね……分かったよ。オイラが『塔』になる!」
金色に輝く種が地面に植えられます。やがて、そこから芽が出たかと思えば、一気に木となって天空へと伸びていきました。
私とジェイさんは葉っぱのステージに立ち、頂上へと運ばれます。あまりにも巨大な木という事もあり、聖剣隊もゲリラ組織もこちらに釘付けですね。
皆さん見ていますし、これならいけるかもしれない……ですが、一つ大きな問題がありました。
「凄いですけど、ここからでは誰も聞こえませんよ……」
「皆様に聞こえればいいのですね。では、私が『声』になります!」
誰かの声と共に飛来するツバメ。その背から親指ほどの女性が飛び降ります。
領主の執事であった小人のマイアさん。彼女はジェイさんの帽子に着地すると、小さな身体から紫の光を放ちました。
これはお得意の音魔法ですね。効果を受けた豆の木に蕾が付き、やがて大きく開花します。
小人族を象徴する赤いチューリップ。まるでスピーカーのように何厘も花開いていきました。
「声は何倍にもなって花から放たれます。誰も聞こえないなんて言わせません!」
「この木の維持は辛いけど、オイラ限界まで頑張るよ。お姉ちゃんと一緒に戦いたいから!」
マイアさんの作った花のスピーカー。ジェイさんの作った木のステージ。最高の舞台が整ったじゃないですか……
もう、迷いも障害もありません。あとは言葉によって全てを収めるだけです。
さあ、魅せちゃいますよ。
テトラ・ゾケルによるトークショーの始まりです!
「皆さん! 戦いを中断してください! この戦闘は何者かによって仕組まれたものです! 勝ったところで得るものは何もありません!」
まず、根本を覆す新説で注目を集める。上等手段ですね。
戦いその物が誰かによって仕組まれ、勝利に何の意味もないとなれば中断せざる負えません。問題はその言葉を信じるかどうかです。
当然、聖国の敵である流星のコッペリアを聖剣隊が信じるはずがありません。
「何をバカなことを言っている! 姫をさらった犯罪者が!」
「事実です! なぜなら、悪魔ハイドという存在自体が虚像だったのですから。貴方がたはここまで戦いで悪魔の姿を見ましたか? 誰も見てはいません。まるで、幻影によって泳がされているようではないですか!」
嘘ではありません。そもそも、ハイドの正体は悪魔ではなくジルさんの別人格。それが私とベリアル卿の言葉によって拗れてしまっただけです。
だからこそ、軌道修正してやればいいんですよ。ハイドは現実に存在する脅威。決して悪魔などという曖昧な存在ではないと……
私は仮面を外し、下界へと投げ捨てます。もう自らを偽る必要はありません。ありのままの自分で、木上から言葉を放っていきました。
「この街を襲った鉄の鳥! 人知を超えた技術によって作られたカップラーメン! それらは悪魔等という曖昧な存在によって作られた物ですか? あまりにも非現実でしょう! 目の前に存在する私たちの敵は! もっと明確な存在と考えるのが自然! 違いますか!」
理攻めです。そして、カルポス聖国が最も敵と思いたい存在を悪者に仕立て上げる。これこそが彼らを納得させるもっとも簡単な方法でした。
「これは魔王と魔族による陰謀です! 彼らの治めるクレアス国には未知の技術が多くあります! ハイドの発明はその延長線上にすぎません! 魔族たちは! 私たち聖国民同士を戦わせて自滅を狙っています! 証拠として、ハイドとして使われたジルさんは魔王と接触していたのですから!」
なぜ、第二次世界大戦で猛威を振る合ったあの国は、一つの民族を悪として虐殺に及んだのか。なぜ、転生前に暮らしていた国のお隣さんは、隣国を目の敵にしているのか。
簡単です。共通の敵を作れば支配が楽だから。だからこそ、このカルポス聖国は魔王と魔族を巨悪としているのです。
ああ、やっぱり皆の前で喋るのは楽しいな……私はたぶん酷いことを言っているんだと思う。罪のない種族を巨悪扱いし、ベリアル卿と同じことをしてるんだと思う。
でも、良いんです。
だって、これはみんなを助けるためなんですから。
「さあ、私たちの敵は誰ですか!? 目の前の同じ聖国民ですか!? 眼にも見えない悪魔を信じ! 優秀な人間という種族同士で争うのですか!? 憎むべきは魔族です! 世界をこの手に収めようとする魔王です! 国を救いましょう! 争いをやめましょう! その武器は! その魔法は! 真の悪に向けるべきです!」
「そうだ……憎むべきは魔族……真の悪は魔王……」
あはは、みんな聞いてくれてる。頭が真っ白だ……これが心の異世界転生者の力……?
そういえば、ゲルダさんが言ってたな。『道化が全ての人間を楽しませる事と同じように、死は全ての人間に平等です。能力の使い方を間違えれば、それは死神となりえるでしょう』と……
私は死神……? 争いと憎しみを生むのが私の本質……?
これが……
これが……
『これが私の異世界無双ですか?』
真っ白い空間。ベッドの上から私が問いかけます。
違う……
違う! 違う! 違う!
こんなの私の異世界無双じゃない! 私はみんなに幸せになってほしいんです! 他の種族を貶めての平和なんて望んでいません!
仕切直します。憎まれ役は私だけで十分! 方向性は変えず、矛先は全て私に向けちゃいます! 命の危機に瀕しても構うもんかですよ!
「まあ、その魔王に聖国を恨むように吹き込んだのは私なんですけどねー! あっはは! 貴方たち人って本当に面白いものですよ! あの愚かな姫君をさらった時! 必死に取り戻そうとする人々がどれほど滑稽だったか!」
「おい、テトラ! いきなり何を言ってる!」
急な話の転換にモーノさんが突っ込みます。前後の話がまったく繋がっていませんし、先ほどまでの魔王のくだりをぶん投げていました。
ですが、それは関係ありません。この豆の木で、花のスピーカーによって放たれる言葉には勢いがあります。つまりはライブ感って奴ですよ。
私の挑発を聞き、聖剣隊もゲリラ組織もそのライブ感で敵を認識します。
さーて、やべえ空気ですね……こんな素晴らしいステージを作ってくれたジェイさんとマイアさんには悪いですけど、やっぱり別種族に罪を擦り付けるのは嫌です。
よし、逃げましょう。そして敵を私一人に引きつけましょう。後のことは後で考える!
「ご主人様! 逃げますよー!」
『せっかくの成功を棒に振るったか。いや、それで良い。それでこそのお前だ』
あのまま独裁者的な演説を続けても成功なんかじゃありません。直接人を傷つけませんが、あれも立派な暴力です。
ぴょんと豆の木から飛び降り、聖国民たちの前へと着地します。彼らが最も大切とする聖国のプリンセス。彼女を侮辱した罪は償わないといけませんねー。
トリシュさんと戦っていたロッセルさん。彼は怒りの形相でこちらを睨み、最前線で突っ込んできます。
「よく分かった……敵はテトラ・ゾケル! 奴こそが少女の姿で人を惑わす悪魔だァァァ!」
悪魔ですか……言いえて妙ですね……
さーて、自分の撒いた種です。自分一人で戦って……
「ははっ、こいつが悪魔だって? 大正解じゃねえか!」
そのとき、待ちわびた声が響きました。
声の主は私の前に立ち、マントのような上着を翻します。そして、金色の歯車によって組み立てられた時計を上部へと掲げました。
なんて美しい作りですか……これは神が作り上げた機械仕掛け……?
時計は光を放ち。針はグルグルと動き出します。
これって……
これって……!
「待たせたな。完成だ!」
怒ってばかりの覚醒したジルさんが笑いました。
私たちは逃げ切ったんです。それは、この戦いの完全勝利を意味していました。
マイア「私、チューリップから生まれてきたんですよ! 将来は花の国王女です!」
テトラ「親指サイズの電波ちゃんですか」