表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
121/248

112 ☆本当の正義があるのなら☆


 突然現れた三番の異世界転生者。彼女の治癒魔法によって、負傷者は誰一人として居なくなりました。

 それだけではなく、随時発動されている魔法は新たに出来た傷すら癒やしていきます。これは戦争の完全停止を意味していました。

 誰もが度肝を抜きます。当然です。これだけの効果と範囲を持った治癒魔法、この世界に存在するはずがないのですから。


「こいつはいったい……」

「異常だ……こんな治癒魔法は見たことがないぞ……!」


 ゲリラ組織と聖剣隊の一部がトリシュさんを見ます。私と違い、一目で女性と分かる風貌。まあ、それ以前に胸の大きさで気づかれると思いますけどね。

 今の彼女は争いを静める聖女のようです。混沌を面白がる私のような道化とは似ても似つきませんでした。

 とにかくお礼を言いましょう。また、私は助けてもらったんですから。


「トリシュさんありがとうございます。三度も助けてもらってその……」

「気にする必要はありません。こちらも間接的に助けてもらっています。小さな冒険者さんに感謝しましょう」


 小さな冒険者さん……誰? なんの話し?

 気になるところではありますが、とにかくです! これで形勢は逆転、誰も傷つくことがないのなら戦闘は成り立ちません!

 ですが、それはトリシュさんの魔法を維持できればの話し。当然、隊長のロッセルさんは標的を彼女に絞り、大剣を空へと振りかぶります。


「聖国の意思に逆らう反逆者が……! 例え聖女のごとき力を持っていようとも、国の逆らう者は皆死罪だ! 女であろうと容赦はせん!」

「容赦? 冗談でしょう」


 強者の気配を感じたのか、彼の目に一切の迷いはありません。華奢な女性であろうと関係なく、大剣は容赦なく振り落とされました。

 右肩から一刀両断。トリシュさんの身体は真っ二つに切断されてしまいます。

 ですが、そんな状態でも彼女は物ともしません。桁外れな回復魔法によって身体を接着し、さらに攻撃体勢へと移ります。

 ロッセルさんは大振りな攻撃を放ったことにより静止。その隙を逃すはずがなく、ドンッ! と彼の腹部に鉄拳を叩きつけました。


「ごふっ……ば……化物が……」

「化け物呼ばわりとは酷いですね。単なる治癒魔法ですよ」


 ですが、相手は聖国最強の隊長さん。お腹に力を入れ、腹筋によってダメージを抑えます。

 彼は衝撃によって後方に吹っ飛ばされますが、剣を地面に刺してブレーキをかけました。腹部を見てみると、鋼鉄の鎧がめっこりとへこんでいます。身体強化魔法によって凄まじい威力になっているようですね。

 そして、その威力を肉体の防御力によって防いだロッセルさん。これは間違いなく、強者同士の戦いでした。


「すっご……」

「何をぼさっとしているのですか。このまま時間を稼ぎますよ」


 そ……そうですね。私もちゃんと戦わないと。

 見た目からして、トリシュさんはお嬢様なヒーラーだと思っていましたが……実際は相当にアグレッシブな人だと思っていいでしょう。

 モーノさんに勝てるとは思いませんが、直接対決なら私やジルさんより強いですね。無限の回復魔法と肉体超強化による鉄拳。これは敵に回したくないところです。


 ハンスさんとマルガさんに加えて、心強い味方が合流してくれました。

 私はトリシュさんと背中合わせに立ち、攻めかかる聖剣隊の皆さんをあしらっていきます。ナイフによって武器を弾き、飛んでしゃがんで魔法を回避。相も変わらず攻撃は仕掛けません。

 そんなこちらとは対照的に、トリシュさんは強化魔法による拳で騎士たちを殴り飛ばします。技術よりも圧倒的なパワー。それが彼女のスタイルという感じでした。


「くっ……何なんだこいつらは……なぜ邪魔をする!」

『異世界転生者によって、この世界は大きく振り回される。もはや彼らも無関係ではない。テトラよ。力の行使に迷う必要はないぞ』


 足払いを行い、氷の剣を扱う騎士さんを転ばせます。ご主人様の言うとおり、もうチートを使うことに迷ってなんていられません。

 きっと、私たちが生まれることは運命さだめだったんだ。それぞれが役割を熟し、今こうして収束しています。それが世界の命運と関係ないなんて言わせません。


 真っ黒い闇が全てを覆う未来……

 この聖国に感じる確かな歪み……

 もし、私たち異世界転生者に対処できるのなら、それは誰の意思……?


 神の……大いなる主の……



「まったく、随分と派手にやってくれるね。これじゃあ、僕が出ざる負えないじゃないか」


 誰も傷つくことのない戦場に、ある青年の声が響きました。

 聞き覚えがある声です。威圧的で冷たくて、あまりにも心無く感じる声……

 やがて、その主が私たちの前に立ちます。赤いマントにマスケット帽をかぶった騎士。彼は武器のサーベルを抜き、美しくも恐ろしい瞳で睨みます。


「君たちが悪いんだ。ここは僕と相対さないよう立ち回るべきだった。それを強行策によって解決しようとするからこうなる。残念だよ」


 聖剣隊のエース、シャルルさん。ですが、今はその肩書きを背負っているように感じません。

 彼が聖剣隊の立場なら、私たちを撲滅すべき敵として見るはず。なのに、相対すことが残念……?

 上から目線の説教……違いますね。これは擦れ違いによる苛立ち。あるいは観測者からの客観的な意見。そういった意思を感じます。

 帽子を取り、ロッセルさんに頭を下げるシャルルさん。その瞳に上司の姿は映っていませんでした。


「隊長、遅れてすいませんでした。こちらも諸事情がありまして」

「まったく、肝心な時に何をやっている。だが……これで終わりか。今から最重要任務を言い渡す。奴らを撲滅せよ!」


 隊長からの信頼は相当のものでした。まるで、シャルルさんの到着がそのまま勝利に結びつくかのような言いようです。

 そんな彼の戦闘スタイルは、剣術に加えて火と地の魔法。サーベルに真っ赤な炎を纏わせ、空中に土で作られたマスケット銃を浮かべます。

 何ですか、この唯ならない雰囲気は……なんか、あの人とは戦いたくありません……

 私、クズ女ですからトリシュさんに丸投げしちゃいます。


「と……トリシュさん……無敵のチートによってサクッとぶっ飛ばして……」

「勝てません」



 恐れとは無縁のチート転生者。

 そんな彼女から返された言葉はあまりにも想定外のものでした。



「『アレ』はダメです……絶対にダメな奴です……」

「安心しなよ。ぎりぎりまでは手加減するから。まあぎりぎりまではね……」


 仮面の下からでもトリシュさんの焦りが分かります。後ずさりをし、手を小さく振るわせる転生者。この世界の人に対し、こんな反応を見せるのは初めてでした。

 勿論、私も異様な雰囲気を感じています。『アレ』は今まで戦ったこの世界の人とは違う。別の何かであるような気がして仕方ありませんでした。

 戦いたくない相手です。ですが、戦闘は避けられない。炎の刃が放物線を描き、ついに聖国最強が動き出します。


「くっ……」

「うん、いいね。悪くない反応だ」


 瞬きする間もなく、トリシュさんの右手をサーベルが貫きました。纏った炎の火力は高く、彼女の身を消し炭にしようと燃え広がります。

 ばっと後ろに下がり、瞬時に傷を回復。直撃は危険と判断したのか、トリシュさんは右手によって攻撃を受けたのです。反応速度も魔法によって強化されていました。

 ですが、シャルルさんの攻撃は止まりません。下がる彼女に容赦なくサーベルを斬りつけていきます。癒の異世界転生者はその名の通り、ただ回復によって粘るので精いっぱいでした。


 あの人、ロッセルさんより強い……

 ようやく、私たちのチートに対して聖剣隊が対応できた理由を知ります。彼らは自分たちの隊によく似た化物を飼っている。だから、驚きが少なかったのです。

 これはサポートが必要ですね。背後からロッセルさんが斬りかかりますが、それは軽く回避して無視! シャルルさんの方へと走りますが……


「見えてるよ。動かないことだ」

「う……」


 空中の浮かべたマスケット銃が、ファンネルのように私を射撃します。首をカクンと倒し、間一髪でその回避に成功しました。

 あ……危なかったですね……トリシュさんの回復魔法がありますが、それでも攻撃を受けて制止するのは望ましくない。明らかにヤバい人が相手なら尚更です。

 シャルルさんはトリシュさんと戦いつつ、私を牽制していました。まさに、聖国最強と言わざる負えない実力者。戦闘特化でない私たちでは勝てない……?


 もし、彼を倒すことが出来る転生者がいるのなら。それは完全に戦闘特化された存在。

 圧倒的な『力』を保持する転生者。彼の力が必要不可欠。


 だから叫びました。

 そろそろ、彼が来るという確信があったから……



「助けて……助けてモーノさーん!」

「俺はア○パンマンかっ!」



 突っ込みどころしかないヘルプを聞きつけ、最強の異世界転生者が華麗に参上します。

 彼はトリシュさんとシャルルさんの間に割って入り、炎のサーベルを剣によって受けました。魔法による武器強化も凄まじく、これなら高熱も怖くありません!

 役目を終えた事を悟り、トリシュさんはドレスを翻しながら離れます。同時に、モーノさんとシャルルさんによる剣の打ち付け合いが始まりました。

 迸る炎。響く金属音。よく分かりませんが、たぶん高度な戦いなんでしょう。両方とも互いの実力にびっくりです。


「へえ、君やるね」

「お前もな」


 ニッと笑うモーノさん。これは喜んでるなあ……

 マスケット銃のファンネルから放たれる銃弾も、彼は見切って対処してしまいます。本当に真正面からの戦いだったらぶっちぎりの最強ですね。

 まあ、これでシャルルさんは大丈夫でしょう。こちらはこちらで出来ることを……


「ぬおおおォォォ……! 冒険者モーノ・バストニ! 奴も貴様らの仲間だったかァァァ!」

「うるさいです。貴方は私が相手しましょう」


 先ほどからちょくちょく攻撃してくるロッセルさん。彼の剣に拳を打ち付け、容易く攻撃を受けるトリシュさん。やべーやべー、よそ見をしていたので助かりました。

 どうやら、彼女がこの人を止めてくれるようですね。聖国最強の二人が、転生者二人によって完全に機能停止しました。

 トリシュさんの魔法はこの戦いでの傷を癒します。さらにゲリラ組織も聖剣隊も、ハンスさんとマルガさんが必死に止めています。今なら自由に動ける……今なら出来るかもしれない……!


 私の心に星が輝く時。モーノさんと戦うシャルルさんの声が聞こえました。


「正義なんて時代や場所によって異なる。正しさなんてどこにもなく、全ては人が定めた倫理にすぎない」


 それは悲しい言葉ですが真理でもあります。ですが、彼はさらに言葉を加えました。


「だけど、不思議なものだね。誰かのために頑張れるってのはどの時代、どの世界でも一貫して正しいと認められる。一人は全てのために、全ては一人のために……そう考えれば、君たちの行いは限りなく正義に近いのかもしれない」


 戦闘中に哲学ですか? 悠長なものですね。

 ですが少し、勇気が出てきましたよ! モーノさんがいる。トリシュさんがいる。他にもたくさん仲間がいる!

 これは重荷なんかじゃない……失うのが怖くても、背負うだけの価値は確かにあります!

 いける……この戦場、掌握は可能です!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ