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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第一章 黒猫さんと白猫さんのお話し
12/248

11 ご主人様はとっても変な人でした


 商人さんに別れを告げて、私の新たなる戦いが幕を開けました。

 ご主人様は私の前を歩き、一人でどんどん裏路地を進んでいきます。鎖も何もつけられていないので、逃げようと思えば逃げれそうですね。

 でも、ダメです。たぶん、この人は私を逃さないという自信があるのでしょう。

 だからこそ、私を自由にしているのです。どう考えてもやべー奴ですが、一応聞いてみましょう。


「あの……鎖とかはつけなくて良いんですか?」

「あれは重く移動がしづらい。人間というものは、身体に負荷を加えると消耗するものだと聞いている。目的の場所までは徒歩で移動する故。消耗を抑えるために鎖を使用しないことは、至極当然の判断と言えるだろう」


 め……めんどくせー! ご主人様の言い回しめんどくせー!

 もう確信です。この人は変な人! 絶対普通じゃありません!

 結構値段のする私を買ったんです。相当のお金持ちとは分かりますが、それ以外の一切は不明。きな臭いものですね。


 そうこうしているうちに、湿っぽい裏路地が終わります。ずっと出ることを許されなかったこの場所から、私は一歩踏み出しました。

 太陽の光が眩しくて、街の人たちの声が騒がしいですね。薄暗くて静かな裏路地とはえらい違いです。

 思わず、私は伸びをしました。


「うーん、開放された気分です」

「なるほど、やはり人間というものは光と賑わいを欲する種族か。確かに、あの狭い裏路地だけではあまりにも視野が狭い。世界のありとあらゆるものを観察し、記憶することこそが人間が人間である証明といえるだろう」


あー、ご主人様がまた何か言ってます。出来れば無視したいところですが、相手をしてあげないと二人の距離が縮まりませんね。

 勇気をもって踏み出してみましょう。彼だって同じ人間です! 会話をすれば絶対に分かり合えるはずです! 理解できるはずです!


「えっと……それがなにか」

「そんな事はどうでもいい。それより、お前の名前を聞いていなかった」


 ダメだこの人! 会話が成立しないタイプの人だー!

 自分からいきなり語りだして「どうでもいい」はないでしょう! このテトラ。話していると頭痛くなる人と言われますが、どうやらご主人様はそれ以上のようですね。

 うーん、とんでもない人に買われてしまいました。頭がいっぱいいっぱいで、彼の質問に答えている余裕がありません。

 返答を渋ったと思われたのか、ご主人様はどんどん会話を進めていきます。


「私はネビロス。名乗りたくないのならば、それもまた良い。では、行こうか」

「えっと……どこに……?」


 変人紳士のネビロス様。彼は会話の間、私の目をずっと凝視しています。

 その瞳は深い赤色に染まっていて、見ていると気が狂いそうな感じでした。とても人間とは思えません。

 でも、じーっくり彼の顔を見ると……あらやだイケメンじゃないですかー。ちょっと、歳は離れていますが全然ありでしょ!

 なーんて、余分なことを考えている間に、ご主人様は視線を戻してしまいます。そして、私を放置したまま目的地に向かって歩き始めました。


「目的地は私の家だ。お前には仕事が用意されている」

「ま……待ってくださーい!」


 名乗るタイミングを逃したまま、私はご主人様の後をついていきます。この世界のことはさっぱり分からないので、逃げるという選択肢はありませんでした。

 それにしても、仕事とはいったいなんでしょうね。やっぱり、エッチなことでしょうか! ご主人様の家に連れられて、そこであーんなことやこーんなことが……

 か……顔が熱くなってきました……これは覚悟を決めないといけません! いえ、断じてレ○プ願望なんてありませんから。本当にありませんからね!












 ご主人様の後をずっとついてきましたが……なんか、街から出ている気がするのは気のせいでしょうか?

 街の外れにある深い森をこの人はズカズカと突き進んでいます。家に行くどころか、どんどん民家から遠ざかっているのは私の気のせいでしょうか?

 って、気のせいじゃねーですよ! 森ですよここ! 人の住む場所じゃねーですって!

 私の心配をよそに、ご主人様はどんどん森の奥へと入っていきます。なにやら、一人で語ってご満悦な様子ですね。


「私はこの森に住んでいる。ここは街から近いというメリットを持ちながら、人はあまり踏み入らない。故に人間と関わりつつ、必要以上の関わりを避けることが可能。私にとってこの森は非常に都合のいい住処と言えるだろう」

「ま……待って……牢屋から出たばかりで体力が……」


 元気な彼とは違い、私の体力は限界が近づいていました。

 距離は大したことないはずですが、ずっと閉じ込められていて体がなまっています。それに加えて、まともなご飯を全然食べてないので元気が出てきません。

 私が一見元気なように見えているみなさん! 全然元気じゃありませんから! 体のほうはボロッボロのグッチャグチャ。お腹がすいてふらふら状態なのが現実です!


 ですが、ご主人様は正真正銘のおバカなのか。私のことにも気づかず、森の奥へと一人で突き進んでいきます。

 視界がぼやけてはっきりと見えませんが、もう豆粒ぐらいの大きさになっていますね。叫んで呼び止める体力も残っていません。


 って、いえいえ待ってください。これって、呼び止める必要ありませんよね……?

 だって、私は奴隷でしょ? そのご主人様が忘れて消えようとしているんですよね? 晴れて自由の身になれるということじゃないですか!


「首輪はない……鎖もない……チャンスは今しか……」


 どんどん小さくなるご主人様。このチャンスを逃したら、もう普通に生きることは出来ないでしょう。

 私は残った体力を振り絞って、その場から一気に走り出します。当然、あの人が進んだ道とは逆の方向にです。おバカな彼なら、私を見つけることなんてできないはずです。


 とにかく、無我夢中に走り続けました。

 後のことなんて全く考えていません。ただ、自由を得るため。奴隷という底辺から這い上がるために必死でした。

 数分走った後、私は後ろへと振り返ります。そこは辺り一面真っ暗い森。当然、ご主人様の姿は見えません。

 これで完全に決別しました。もう、エッチなこともしなくていいんだ……


「やった……これで……これで……あれ……?」


 安心した瞬間でした。私の足はもつれ、その場に倒れこみます。

 地面に体を打ち付け、草の上に突っ伏してしまう私。もう、立ち上がる気力も残っていません。

 こんな森で倒れていれば、モンスターに襲われてしまうのは確実。いえいえ、それ以前にお腹が減っているので餓死してしまうでしょう。

 あー、なんてバカなことをしたんでしょうか……素直にご主人様を呼び止めるべきだったんです。


「これ……やべーですよね……絶対ヤベーやつですよね……」


 周囲の草木が震えています。近くに何かの気配がします。

 どうやら、弱った獲物を狙ってモンスターが集まってきたみたいですね。当然、私に抵抗する力なんてあるはずがありません。

 ま、ここで干からびて死ぬぐらいなら、モンスターの餌になったほうが自然界のためでしょう。グリザさんのためにも生きる覚悟をしましたが、こうなってしまったらどうしようもないでしょう。


 私は薄れていく意識の中で、この身に迫るモンスターを黙視します。

 緑色で、手足がなくて、地面を這っていて、ものすごーくどこかで見たことある形ですねー。そうそう、学校でこいつの小さいのを飼育していました。

 たしか、アゲハチョウの子供で……


「ギュギュギュー!」


 って、いえいえいえいえ! 芋虫じゃないですか! 芋虫の餌になるの私!?

 いやー! 芋虫に食われて死ぬとか絶対にいやー! 死に方ぐらい選ばせください!

 でかいキモイ虫が迫ってきます。私は虫が苦手じゃないけど、でかいのには抵抗感があります。ましてや私の命を狙っているのなら尚更です!


「まだ死ねませんよね……グリザさん……!」


 地面に生えた草を掴み、それを必死に引っ張ります。何とか体を動かして、あいつから逃げないと!

 でかい芋虫のキモさで目が覚めましたよ。やっぱり諦めちゃダメです! それは、生きたいと本気で願った人への冒涜ですから。

 ですが、今の私にできることは地を這うだけです。しかも、相手のモンスターは地を這うことのスペシャリスト。逃げ切れるわけねーですって!

 こんな状況でも、お腹が減って意識が薄れていきます。動くことすら難しくなってきました。


 もう、ダメです……

 だれか……助けてください……!


「ファイア!」


 私が助けを願ったときでした。どこからか炎が放たれ、目の前の芋虫をこんがりと焼きあげます。

 何が起こったのか全く分かりません。少し考えて、自分が魔法によって助けられたと理解します。確か、女の子が「ファイア」と言っていました。英語のまんま、炎の魔法なんでしょう。

 異世界言語理解のスキルが仕事しまくってます。わざわざ分かりやすいように、魔法名は英語で命名してくれました。

 それとも、この世界でも魔法名は別の言語なのかもしれません。ま、どうでもいいですけど。


 とにかく、これで助かりました。安心したのと同時に、視界が薄れていきます。

 そんな私に向かって、一人の少女が手を差し伸べました。


「もう大丈夫だよ。お姉ちゃん」


 白い猫耳と尻尾をつけた獣人の少女。歳はグリザさんと同じぐらいで、小奇麗な服を着ています。

 ですが、それだけではありません。彼女は少し変わった特徴を持っていました。

 手には絵の具のついた筆を持っていて、腰には画材のようなものが装備されています。明らかに画家といった風貌ですね。画家の魔法使いなんでしょう。


 異世界を生き抜く異世界転生者。そんな私の芯になる二人の猫。

 一人はグリザさん。

 そして、もう一人が今出会った彼女でした。

ネビロス「芋虫型のモンスター、永遠に蝶になることがないクロウラーというモンスターだ」

テトラ「芋虫というより、ミミズやサナダムシに近いですね。何にしても、骨もないのにあの大きさで体は潰れないのでしょうか?」

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