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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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108 勝負だベリアル!


 結局、尻尾を掴めないままベリアル卿に逃げられてしまいます。

 呼び止めることなんて出来ません。彼を悪人とするには、あまりにも証拠が足りませんでした。

 正体不明の悪意を感じたから、ぞっとするような薄ら笑いを浮かべたから。そんな私の感覚だけで、聖国大臣と対するのは無謀というもの。これはご主人様の調査に期待するしかありません。


「ご主人様、私はベリアル卿からどす黒い悪意を感じます。ですが、こちらの敵意に対して彼はノーリアクション。妨害行為に対しても身を任せるだけといった感じでした」

「なるほど、しかしテトラよ。お前にとって敵であるか、誰かにとって敵であるか。それはまた別の問題だろう。対立だけが目的実行の手段ではないぞ」


 相変わらず、難しい言い方しますね……

 つまり、ベリアル卿は私と敵対する気がなく、リスクある衝突を避けている。その上で目的の達成が可能。ってわけですかね。

 加えて、彼は一切の悪事を働かない。そんな人、尻尾を掴めるわけないじゃないですか!


「悪であるかどうか、その基準は人によって異なる。各々のボーダーラインを超えないよう、巧みに潜り抜けて災厄を齎すことが可能ならば……無敵だ。止める手段はない」

「ゲゲんちょ。それは確かにやべーですね……」


 で……ですがですよ! 例えご主人様の憶測が真実だとしても、こちらは戦いを避ける相手を一方的に追い詰めることが出来ます。

 今だってそうじゃないですか! 事実、ベリアル卿は私の計画を邪魔することが出来なかった。ゲリラ組織はバアルさまによって止められ、聖剣隊はミテラさんに足止めを食らっています。長くは持ちませんが、ジルさんが魔法時計を完成させるまでには余裕で間に合いますよ!


 きっと、彼は諦めたんでしょう。今から両組織を衝突させるには火種が必須。ですが、互いの動きは遅延され、接触回数も少なくなった以上それも難しい。

 何より、私は二つの組織を徹底的に監視し、ベリアル卿が余計なことを吹き込まないよう警戒するよう頼みました。だからこそ、両方を私たちの傍に置いたんです! 

 あとは会話を重ねて信頼を勝ち取る。動きが無くなり、私たちの介入でグダグダになり、最後はジルさんの発明でフィニッシュ!


 私の計画は完璧だ……

 邪魔をできるものならやってみろ!



「て……テトラお姉ちゃん大変だよ!」


 私たちの下に走り寄るジェイさん。嫌な予感がしました。

 彼は焦った表情で状況を報告します。それは、全く想定していない事態でした。


「聖剣隊のおじさんが話してたんだ。王都からの増援が決まったって……魔物の森を突っ切り、最短ルートでここまで来るって!」

「なっ……この場面で最短ルートですか……!」


 ちょ……待ってください……魔法時計の完成まであと二日です。ここで増援を急かせば、その前に合流してしまうじゃないですか!

 ずっと、二つの組織の足止めばかり考えていました。ですが、このように横から介入されるのは全くの予想外。部隊編成から安全ルートでの移動を考え、増援は間に合わないと高を括っていました。

 何者かに急かされたんです。決まっています! ベリアル卿の仕業ですよ!


「私の妨害行為を無視し、別の手段で引っ掻き回してきましたか……ご主人様の言うように、どうしても私たちとぶつかりたくないようですね」

「しかし、理に叶った手段だ。ここに居ない増援部隊に対する妨害手段はない。巻き込まれた彼らからすれば、たまったものではないがな」


 現状、聖剣隊がゲリラ組織の集会場に殴りこめない理由として、正確な位置を掴んでいないのと人数が足りていないことがあります。

 ですが、増援が来れば一斉捜査に踏み切れる……集会場の場所は掴まれ、戦力差で一網打尽。何人もの人が殺されてしまいます!

 不味い……不味いってレベルじゃない!

 唯一の救いは王都からここまで距離があること、準備を踏まえても一日そこらは掛かります。神様の悪戯でしょうか、ちょうど魔法時計の完成時間と一斉捜査の時間は重なるぐらいですね。


 不安そうな目で私を見るジェイさん。そうですよね……私だって不安ですよ……


「お姉ちゃん。ジル先生、間に合うよね……?」

「微妙です。人員補充によって、手をこまねく理由もなくなるでしょう。教会を守らなければならないという枷も、増援によって解決してしまいます」


 人数さえ増えてしまえば、手分けして子供たちを守れます。私の行った作戦も、これで効力を失ってしまいますね。

 言葉で掌握するのも限界です。大人数になり、リーダーであるロッセルさんの気も引き締まるはず。私の言葉に耳を傾ける理由がありません。

 目の前に見えるのはベリアル卿の幻影。まるで、彼はこう言っているようでした。


『転生者はチートである。転生者は最強である。そのような周知の事実に対し、私が真正面から敵対関係を望むと思いますか? 冗談ではありません。このまま、敵であるかどうか不確定な存在を貫き、正面衝突を避けつつ立ち回りたいと思います』


 私の妄想が生んだ悪霊。それは本人そっくりの薄ら笑いを受けべ、本人そっくりの思想を語ります。


『悪行は働きません。他愛もない会話で人を歪め、それによって間接的な混沌を呼びます。私はですね。安全圏から貴方がたの抗う姿を見たいのですよ。結果、齎せるものが平和であろうと崩壊であろうと、どちらも私にとっては素晴らしい演劇。だからこそですよ。これ以上、リスクのある手出しは行いたくないのです』


 根拠はありませんが何となく分かりました。これがベリアル卿のやり方なんだって……

 ずるい……ずるいずるいずるい! これでは強行策以外の対処方法がありません!

 いえ……強行策も望ましくない。彼は聖国の大臣。自分の危機がトリガーとなって、周囲に混沌を呼ぶように対処しているに決まっています!


 野望を止める方法は一つ。

 人々の意識を変え、争いをやめる空気を作り上げるしかありません。


 そんなこと、個人の力では絶対に不可能でしょう。あまりにも規模が大きな話でした。

 まあ、今はこの国の行く末は考えないことにします。それよりも、目の前に迫る街の危機を対処しないといけません。

 言葉ではどうにも出来ませんね。必要なのは特別に特別なチート……


『人はそれを大義名分という。さあ、その能力チート。上手く使いこなせよ』


 ピーターさんの言葉です。誰かを助けるためなら、私は自分のチートを愛せるかもしれない。

 また、ご主人様の力が必要になりますが……


「テトラよ。お前が諧謔を齎すのならば、私はいつでも力を貸そう」

「ありがとうございます。頑張りましたが、結局最後は力技になっちゃいましたね」


 はい、いろいろ考えた結果。物理的に止めることになりました。

 行き当たりばったりではありませんよ。私の計算が正しければ、増援の到着まで最低でも一日は掛かると思います。

 となれば残り半日……いえ、場合によっては数時間粘ることで魔法時計は完成するはず。悪い悪い道化師、流星のコッペリアで聖剣隊全員を相手する以外にありません!


 モーノさんも合流すると思いますが、できれば彼を悪人にしたくない……

 汚れ役は私一人で十分ですから。










 再び深夜、私はゲリラ組織の集会場にしれっと戻ります。

 聖剣隊に見つからないよう、部屋は薄暗くて不気味。いよいよ本格的な悪魔信仰ですが、捧げられている物が自転車や羅針盤なのでちょっと違いました。

 そんな謎組織に対し、最初は文句を言っていたバアルさま。ですが、悪魔として崇められるのも満更ではないようですね。彼女は上機嫌で信者たちに語っていました。


「わしは砂漠にあるカナンの神なのじゃ。真の名はバアル・シェヘラザード! じゃが、今はハイドと名乗っておる! 雨乞いならば、いつでも駆けつけるのじゃ!」

「おおー! やはり、ハイド様は神でしたか!」


 組織の半分は聖国の革命を望む若者。残りの半分は本気で悪魔信仰者となった信者です。理想は違いますが目的は同じ、両方は完全な一枚岩となっていました。

 彼らから見限られるのが一番怖い。甘いキャンディーを与えてでも、私たちは認められる必要があります。

 だからこそ、私はジルさんの作った銃器を数個配りました。

 分かってますよ。分かってますとも……これは大きな賭けです。私の渡した武器が、誰かを殺すかもしれない……

 だけどそれはさせない。絶対にさせない!


 その前に、私たち自身が与えた武器を破壊します。


「お姉たん怖〜い」

「お姉たん性格悪〜い」


 ハンスさんとマルガさんにボロクソ言われますが、何とでも言えって感じです。綺麗ごとなんかで不殺の意思を貫けるとは思っていませんから。

 増援がこちらに向かっている以上、もう戦闘は避けられません。そうなる事が分かっていれば、武器を渡すなんてリスクの高いことは……

 いえ、後悔先に立たずです。たらればの話なんて何の意味もありません。

 それより、今出来ることをやる! それだけです!


「ハンスさん、マルガさん。他人事ではありませんよ。貴方たちに武器の回収を任せたいんです。キャンディーとチョコレートの能力は傷つけたくない人への拘束に有用ですから」

「おけおけ、ご主人たまもキルキルきら〜い」

「ご主人たまはお姉たまの味方だよ?」


 やべー不思議ちゃんと思っていましたが、話してみると素直な良い子です。本当にジルさんのことを信頼しているんですね。

 私はそんな二人の命も背負っています。生産チートが作ったホムンクルスですが、相手は王都最強の聖剣隊。過信は禁物でしょう。

 特に隊長のロッセルさんとエースのシャルルさん。この二人の相手はさせたくない……


 そうなれば、私が王都最強と武器を交えることに……


 街で丈夫そうなナイフを買いました。カシムさんのナイフと違って加護は期待できませんが、今は女神本人が付いています。

 力を失った彼女でも、信者の皆さんを止めることは出来るでしょう。それぐらいは期待して良いはずです。


 残りの問題はベリアル卿。今、彼にはトマスさんを見張りとして付けています。

 彼は私と同じく口達者で要領が良い。ベリアル卿と仲良くなり、着実にその距離を縮めていました。

 トマスさん、責任重大ですよー。たぶん、その人が一番厄介なラスボスでしょうから。作戦成功は貴方に掛かってます。


 いえ、彼だけではありませんね。

 それぞれに役割があるんです。誰一人、失敗は許されません。


 材料の調達失敗でアウト、製作失敗でアウト、聖剣隊の足止め失敗でアウト、ゲリラ組織の拘束失敗でアウト……


 あれ? なんで私笑ってるんだろ?

 命がかかってるのに……街の危機なのに……状況は良くないのに……



 この混沌が……楽しい!




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